--/--/-- (--) スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

スポンサー広告 |


2005/09/01 (Thu) 生きている意味が、生きていく意味になる

「神様は俺を助けてくれると思うか」
 彼は僕に尋ねた。午後9時、男が二人。風は強いが言葉はちゃんと耳に届いた。
 地上18階の屋上で。

「助けてくれるよ! だからはやまるなって!」
「じゃあこっから飛んでも奇跡を起こして五体の無事を保障してくれんだな?」
 彼は柵に片足をかけた。
「や、やめろって! そうじゃなくて、死なないで頑張ればいいことあるよってことだよ!」
「いいこと? じゃあ聞くが。お前はいいことあったのか? 警備員」
「あ、あったに決まってる!」

…わからなかった。いいことなんて僕の人生にあっただろうか? 咄嗟に出た自分の言葉に、僕は困惑した。

「そうか。じゃあ神様はオマエにはいいことを使っちゃったんだなぁ。でもなぁ、これから先、オマエの人生でいいことなんて起こらないかもしんねぇぞ? 一緒に飛ぶか?」男は笑った。
「ば、馬鹿言うな!」死ぬのは怖い。僕が今日ここで落ちて死んでも、誰も悲しまない。バイトの警備会社に迷惑がかかるだけだ。悲しんでくれる人がいないなら、僕は死ねない。



「神は俺を助けないんだ。何があっても」
 彼は言った。いつのまにか柵の上に立っている。
「俺は誰も助けたことがない気がする」彼の顔は見えない。「だから神は俺を助けない」






 少し、沈黙が流れた。彼は2、3度僕を見たが、僕は何も言えなかった。言葉は喉元まで来ていたけれど、何も言えなかった。





僕はうなだれたまま言った。
「いや」5分くらい経ったろうか。もしかしたら彼はもう落ちたかもしれなかった。言葉が届くとも限らなかった。
「神様は助けてくれると思う」








 また、沈黙が流れた。
 返事はない。僕は顔を上げない。
「神様は助けてくれるんだ。でも、誰でもいいわけじゃない。あんたは言ったろ。俺は誰も助けてない…じゃあ、誰か助ければいい。そしたらその恩返しに誰かがあんたを助けてくれるかもしれない。僕はいま、あんたを助けようとしてる。それはなぜだ? 警備員だからか。違う。あんたに助けが必要だからか? 違う。理由なんてない…わからない」
 返事はない。僕は顔を上げる。男はまだ、柵の上にいた。


 わからない、と僕は言った。
 その瞬間、僕には分かった。
「やっぱ違う。神様は助けてくれる」
 自信がある。僕には、分かったんだ。

「神様は僕らを助ける義務も責任もない。でも、助けてくれる。絶対にだ」
「絶対に?」彼は柵から降りた。「なぜだ」
「僕らが神様を助けてるんだ」
「何だと?」
「神様っていう一段上の次元にいる誰かは、その下の次元の僕らの有り様を見ては全知全能のパワーで助けてくれる。じゃあその神様を助けるのは誰だ? 神様の上の次元の神様か。違う。僕らだ」
「何を言ってる」
「僕らの生き方が、神様を助ける力になる」
「何だと?」
「僕らが小説を読んで元気を貰うのと同じように、助けられるのと同じように、神様は僕たちの人生を気まぐれに読んでは元気を貰ってるんだ。だから、神様は僕らを助ける」
「そんなこと――」
「証明してみせようか」

 僕は、あまり深く考えずに柵を飛び越えた。
 両手を広げ、地上18階からダイブした。
 男が何か言っていたかもしれない。でもそれは、最早関係なかった。
 理解した僕には、僕と神と世界が、全てだった。





 さて、僕は落ちて死ぬだけだろうか?
 羽が生えるかもしれない。地面がなぜか着地の瞬間クッションになるかもしれない。
 僕がどう映るかは、いま僕を読んでいる”僕の一段上”の誰かに任せよう。


 僕は少なくとも今、飛んでいる。もしかしたらこの「今」は永遠に続くかもしれない。



スポンサーサイト

エピローグ | trackback(0) | comment(0) |


| TOP |

プロフィール

Author:ryow

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。