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2001/09/23 (Sun) シェリフアンドガール

「火打石を買ってください。火打石を」
 クリスマスの夜、赤いフードをかぶった少女は、街角で火打石の売り子をしていました。しかし例によって、降り積もる雪よりも冷たいこの街の人たちは、石など買ってくれません。
「こんなことならライターでも売ってりゃよかったわ。もう、こんな石なんていらないわ。どうせ川辺で拾ってきたものだし(それは火打石とは言いません)。もしかしてバレてるのかしら?」
 少女は鞄から石を2個だけ残して全て取り出し地面に積み、わざわざガソリンスタンドまで行って灯油とハイオクを買ってきて石にかけ、ライターで火をつけました。石自体は燃えませんが、炎は凄い勢いで踊り狂っていました。
「ああ、暖かいわ…。でも何か足りない気がする。何だろう?そういえば今夜は聖なる夜ね…。ただの炎じゃ聖夜を彩れないわ」
 少女は薬屋へ行き、マグネシウムの粉末を買ってきました。そしておもむろに炎の中に投げ入れます。炎は目に突き刺さるような凄い光を発しました。
「ああ、美しいわ。この火は芸術…。今年最後の芸術よ!この街の人の心より温かく、この街の人の心より美しく、そして…」
 少女がちょっとヤバげな表情で炎を眺めているところへ、街のシェリフがやってきました。
「おいお嬢ちゃん、何してるんだい」
少女は軽く振り向き、「焼き芋よ。ほっといてちょうだい」と言って、また炎を眺めていました。シェリフは何か言いかけましたが、少し咳払いをした後、無言で炎を眺めていました。
 やがて火も消え、残ったのは少し焦げた石だけでした。シェリフはおもむろにその石をヴィヤベースの中に放り込みました。
「…どっから持ってきたの?」
怪しんでいる少女の肩をポンと叩き、鍋を地面に置いて、シェリフはポケットからスプーンを取り出し、ヴィヤベースを食べ始めました。
「おお、こりゃ上手いぞ!今までにない温かさだ!いや、熱い!これは熱いぜ!ハフーハフー」
 試しに少女も食べてみました。火傷するような熱さが、魚介類のうまみをひきたてます。しかし、なぜか、こみ上げるものがありました。お腹が一杯になる以上に、胸が一杯になり、涙がこぼれました。

「うまかっただろ。お嬢ちゃん」
「ええ。ありがとう。商売あがったりだけど、いい思い出になったわ」
シェリフはニヤリと笑い、鍋を持ったまま歩き出しました。
「それじゃな。メリークリスマス」
「メリー…、ちょ、ちょっと待って」
 少女は鞄に残っていた石を取り出しサインペンで何か書き、それをシェリフに渡し、
「メリークリスマス」
そう言って、走り去っていきました。
 シェリフが手にした石には、(^v^)←こんな顔が描かれていました。

 後に、スープを温める焼き石がこの街の名物になりました。

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2001/09/22 (Sat) 夢遊病の果て

 朝、目が覚めると、背中に羽が生えていた。Tシャツにも全然隠れるくらいの、ちょうど手の平みたいな大きさの羽が。寝返りをうちながら感じていた妙な違和感は、このせいだったのだ。起き上がって鏡を見て最初に僕が言ったのは、
「やっべー。俺、イカロス?」
だった。

 小さい羽では飛ぶことなんてできなくて、それでも神経は通ってるみたいで、手や足を動かすように羽を動かすことは出来た。服を着るときは背中にぴたりとくっつけて、背中が盛り上がらないようにしておく。リュックでも背負えば全然わからない。
 いつものように学校へ向かう途中のバスに、車椅子のお婆さんが乗ろうとしていた。あいにく、この辺を走るバスはバリアフリーどころではなく、昇降時の段差は激しい。しかたなく車椅子を持ち上げてバスに乗せてあげて、何を思ったか、自分が降りるはずのバス停が過ぎてもお婆さんが降りるところまで付き合って、降りるのを手伝う。完璧に遅刻だ。まあいいや。なぜか気持ちが晴れ晴れしてたから。なんだか背中が疼いた。
 僕もそこで降りて、学校までバス停3つ分、歩くことにした。今度は、書類を地面に散らかしたサラリーマンを見つけた。やれやれと思いながらも手伝ってあげる。いや、僕は本当はこんなことしたくないんだ。僕は自分がいい人だなんて思わない。いい人じゃなくて構わない。偽善的行為だってことは分かってる。でも、なぜか放っておけないんだ。そう思っていても、また背中が疼く。

 その後も、迷子を交番に届けたり、街角でライターを売っている女の子から“大人買い”で買ってあげたり、ダンボールの子犬に餌をあげたりした。そのたびに背中が疼く。学校に着いたのは、11時だった。
 なぜか校門に竹刀を持った先生がいたが、叱られるなら仕方ないと思い堂々と入っていく。先生は「来るな!」とか言う始末。なんで?と思っていると、コンタクトを落としたらしい。僕はこれも手伝ってあげた。教室に着いたのは昼休みだった。

 リュックを机に置くと、隣の席の友達が「何仕込んでんだよ!」と言って背中を叩いた。自分のことだから気付かなかったが、羽が、異常に、大きくなっていた。
 大急ぎで保健室へかけこみ、服を脱ぐ。羽は最早、翼といってもいいくらいの大きさで、両腕を広げたくらいのサイズになっていた。肩を包めるくらいの大きさだ。
 でも、僕は、普通の、高校生なんだ。こんな派手なモノ持ってたら、何て言われるかわからないよ。羽なんていらないよ。特別なんていらない。普通でいいんだ。助けて。助けてよ!

 思いきり羽ばたいてみる。………、体が浮きそうだ。窓から空を眺めた。
 『 飛 び た い 』
 ふと、そう思ってしまった。そう思ってしまった瞬間、僕は2階の窓から飛び立っていた。よくよく見ると、純白の美しい翼だ。羽ばたくたびに一つ二つ、羽根が取れる。ああ、気持ちいい。僕はもう普通じゃない。天使だ。仕方ない。これが運命なら。天使でいいや。これが僕なら。

 後に、僕の羽根に触れた人の背中に、手の平サイズの羽が生えたという話を聞いた。僕たちの羽は、蝋で固めた鳥の羽根じゃない。太陽へ向かって、飛んでいける。

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2001/09/22 (Sat) 伝説の質屋

 いつもの駅裏の通りに、新たな店が出来た。黒っぽい色の看板に、これまた黒いペンキか何かで色々書いてあるけど、読めない。僕は例によって終電を逃し、公園で口をゆすいでから、興味本位でその店に入ってみた。この通りにある店はどれも不思議な商品を扱っている。以前行った「幸福屋」には今もときどき通っている。この通りの店は、夜になると営業を始め朝が来ると店を閉める。この新しい店も、そうだった。

「いらっしゃいませ…」
 予想通り、客は一人もいない。店の中はガランとしていて、というか何もなく、目の前に店員さん(普通のオッサン)がいるカウンターがあるだけだった。
「あの、この店は…何を扱ってるんですか?」
無礼な質問だったかもしれない。まあいい。僕は酔っ払いだ。
「ここは質屋でございます。ただし、扱うのは普通のモノではございません…」
「…っていうと?」
「心の質屋でございます」
「心?」
「そう。いいことも、悪いことも、あらゆる記憶を取り扱います。また、例外的にモノも扱いますが…、これは、体の一部を。健康な臓器から、ガン細胞、火傷の跡や、余分な脂肪までも」
 意味がわからなかった。
「記憶?じゃあ、僕の嫌な記憶を買い取ってくれたりするの?」
「ええ。どうぞ」
 店員はそう言うとヘッドホンみたいなのを取り出した。
「これをつけて、お売りになりたい記憶を思い浮かべてください…」
「じゃあ、ためしに」
 僕は何の疑いもなく、ヘッドホンをつけた。まぁ、ちょっとくらい騙されてもいいかな、ってなモンで、子供の頃のいじめられていたことを思い出した。当時のことがやけにリアルに浮かび、不覚にも涙が出た。

「…ありがとうございます」
「………。えっと、僕は何をしてたんでしたっけ?」
「過去の記憶を、お売りになられたのでございます」
店員は小さな瓶を取り出した。中に入っていたのは、透明な液体だった。それは油のようで、サラサラとしている割に粘性がありそうな、そして光に当たると変な色に反射して。
「…僕は何の記憶を?」
「子供の頃の…思い出したくない、過去ですね」
「そうですか」
僕がいじめられてたって?そんなこと…。嘘だろう?全然記憶にな…、って、これか。これが効果か。
「御代でございます」
店員はテーブルの下から2000円を取り出し、僕に渡した。この記憶が2000円か。

「さっき、体の一部とか言ってましたよね。普通、整形したら…、例えば火傷とか脂肪とかを取るのにお金払うじゃないですか。それを、買い取ってくれるって?すごいじゃないですか」
「ええ。必要とされるお客様もいらっしゃいますし」
「…火傷や脂肪を?」
「当店では、全ての商品をこの瓶に封入いたします。記憶も、火傷も。この瓶の中身を飲んだ人には、その記憶ないし火傷が、再現されるというわけです」
「それって得があるの?」
「ご利用法次第でございます」
「例えば、どんな利用法があるんですか?」
「……。都合のよい記憶だけを再現させれば、あるいは洗脳…といったようなことも可能ですし、女性の方でしたら、嫌いな方をガンにしたり火傷にしたり脂肪をつけさせたり、などと…。いわゆる、復讐…に使われる方が多いですね」
「そんな無茶な」
「まあ、多少、お値段は張りますが…」
「じゃ、じゃあ。例えば、僕の人生の記憶を全て売るとすれば、いくらくらいになるんですか?」
「そうですね…。1億5000万程度、でしょうか」
「それを買い戻すとしたら?」
「約4億5000万というところでしょうか」
「ガン細胞の値段は?」
「初期ならば100万程度。末期ならば1000万程度でしょうか」
「でも、でも、ですよ?ガンを取り除けるんなら、そっちの方がお金になるんじゃないですか?不治の病だって、取り除けるんでしょ?」
 店員は恐ろしいほどにニッコリと微笑んだ。
「…需要と供給でございます」

 店を出ると、夜明け前だった。肌寒い季節になってきたものだ。店の看板を見ると、よく質屋にあるような、丸の中に質、と書いてあった。来るときは気がつかなかったが、隣にもテナントを作っている途中だった。次は何の店が出来るんだろう。いつかここは、不思議通りとでも呼ばれるようになるんだろうか。
 まあいい。コンビニで食べるものでも買って、公園へ行って猫に餌をあげよう。

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2001/09/20 (Thu) 初めての秋

 幼い頃、覚えたての自転車で、コスモス畑を駆け抜けた。それが私の心の原風景となったのだろう。終わりゆく夏に少し寂しさを感じながら、それでも迎える次の季節への期待と、何より、忘れている何かを思い出せそうな感覚を、私は感じていた。
 「夏がく~れば思い出す~」とか歌っていた童謡があった気がするが、私は秋が来るたびに何かを思い出しそうになる。何を、だろう。私にはかつて、何があったんだろう。
 川。
 コスモス畑。
 白い服を着たお姉さん。
 …それって、まさか。あの夢の?今でもときどき見るあの夢の風景?白い服を着た黒い髪の少女…あの子が、私の原風景の中にいるお姉さんなの?
 確かめる手段はある。もう一度あの夢を見ればいいだけ。きっと願えば見れるだろう。でも、それはあまりに恐ろしすぎた。私は今や、色々なことを知っている。世の中のことも、大人の社会も。
 そして私は全てを思い出した。幼い頃にあった、悲しい少女の物語を。だけどそれを受け止めるには、当時の私にはあまりにも辛すぎて。

 だからまた私は、それを心に封印してしまう。残るのはかすかな“秋の匂い”。その匂いを感じたら、それを思い出しそうになって、何かいいことがありそうな期待と勘違いしてしまうのだけれど、全てを受け止めるにはもうちょっと時間が掛かりそうだから。

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2001/09/18 (Tue) 取材帰り

 トラック野郎なんてのは、デコレーションに命をかけて、わざわざ高速を使わずにデカい図体をさらしながら狭い道を走るような、嫌な奴ばっかりだろうと思っていた。少なくとも僕には、僕の人生には、絶対に交差することのない人たちだろうと思っていた。
 ここ数日の旅は、ヒッチハイクで移動した。若いトラック野郎、ベテラントラック野郎、乗用車のおばさん、デカいバンに乗った同年代のチャラい奴ら。
 …なんだ、みんないい奴じゃないか。それぞれに今日までの人生を生きてきて、それぞれの考え方のもとで行動して。通り過ぎるだけの人たちにも、ちゃんとそれぞれの人生があること。そんな当たり前のことすら忘れかけて、自分だけ、自分のことだけを考えていた。

 車を降りるときに、ノートを差し出して、何か一言書いてもらう。ベテラントラック野郎おじさんは「この国の将来はお前にかかっているぞ、若者よ!」と書いてくれたし、乗用車のおばさんは「よい思い出を。頑張ってください」なんてどっちつかずなことを書いてくれたし、若者は何故かよくわからない絵を描いてくれた。
 僕は夢見る十代じゃないし、恋に焦がれる妄想野郎でもない。一人で充分に強い。それでも不意に、まったく違う環境で違う空の下に生きる恋人のことを思う、曇り空の毎日。

 金も言葉も心も通じる。この国もまだまだ捨てたモンじゃない。
 また旅に出ようと思う。ノートだけを持って道路で親指を立てている黒髪の少年を見つけたら、それはきっと僕です。適当な距離でいいので、乗せてくださいね。

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2001/09/17 (Mon) テキス塔

 そこは通称“テキス塔”。天高くそびえ立つ塔の各階にテキスト自慢が君臨し、彼らを倒して頂上へ辿り着くことでチャンプを名乗れる、テキスト野郎の夢の塔だった。
 今日もまた、明日のテキストチャンプを目指して一人の若者が挑んでいた…

「さて…この塔唯一のルール、“F・M・T”…ファイブ・ミニッツ・テキスト。最初の敵はお前のようだな」
「5分間でどれ程興味深いテキストを書けるかを競う勝負…テキストバトルの進化形。まさか今どきここへ来る奴がいるとはな」
「説明台詞ありがとう。では勝負といこうか」
「お前程度では俺には勝てん」
「なんだと?」
「ここでのもう一つのルールを知らないようだな…」
「もう一つのルール?」
「そう。それこそ“タブーテキスト”!タブーとなるキーワードをテキスト内に書いてしまったとき、お前のサイトは即閉鎖となり、お前のアクセスは全ていただく」
「ふふん…面白い。で、キーワードは?」
「キーワードは1文字。しかし、1階ごとに増えていく。最初が“あ”。その次が“い”。次第に使える文字が減っていく中でテキストを書いて勝負しようじゃないか」

審判「ではテーマを発表する……」

「…ゴクリ」
「Gokuri(゚Д゚)ウマー」

審判「ずばり『日記』!レッツプレイ・テキストバトゥ!」

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2001/09/12 (Wed) 片道切符

 部屋に帰ると、人のよさそうなオッサンが座っていた。
「よう。おかえり。しばらく世話になるぞ」
僕は表札を何度も確認し、部屋の中をチラチラと見て、そこが自分の部屋であることを確認してから、いきなりキレてみせた。
「てめぇ、人の部屋でくつろいでんじゃねーよ!さっさと帰れ!警察呼ばれるかブン殴られるか金置いて帰るかどれか選べ!ボケぇ!」
 オッサンはよいしょと立ち上がり、ヘッヘッへと笑って、こう言った。
「まあまあ。自己紹介しとくわ。俺、貧乏神な。ああ、俺のこと、お前にしか見えてないから。さぁさ、入ってくれ。俺はメシも風呂もいらないから、いつもどおり過ごしてくれ」
「…はぁ?」
あまりに拍子抜けしたオッサンの台詞に、僕は恐怖を感じた。オッサンに触るのはイヤだったが肩をちょっと叩く。幽霊…じゃない。ちゃんと実体がある。
「言っとくけどな。俺は低級霊じゃねぇから、ちゃんと体あるんだよ。こっちでしっかり修行して、立派な死神にならなきゃダメなんだ。俺ん家にゃ嫁さんとガキもいるしな。仕事して出世しなきゃ、このご時世…おまんま食い上げなんだよ」
 こうして、妙に俗っぽい貧乏神との同居が始まった。

 僕は貧乏神を勘違いしていたようだ。奴ら(沢山いるらしい)はだれかれ構わず人を不幸にしていくものだと思い込んでいたが、ターゲットになるのは、心の汚れた人間だけらしい。僕は普通レベルだそうで、ターゲットにはされなかった。オッサンは毎日、朝早く部屋を出て行っては夕方帰ってくる。朝はカラだった鞄が、夕方にはパンパンになっていた(次の朝にはまたカラに戻っていた)。僕はその中身を見ることはなかった。
 そして約2週間。ある朝、目が覚めると、オッサンはいつもの…競馬で負けたような…薄汚れた服装ではなくて、黒いスーツを着ていた。
「よう。おはよう。今まで世話になったな。今までの礼として、コイツをやろう。じゃあ、またいつか会おうな」
 僕が言葉を発する間を与えぬまま、オッサンは部屋を出て行った。そしてそれっきり、戻ってくることはなかった。オッサンが残していったのはチンケな紙切れ。そこにはこう書かれていた。

死神フリーパス券
名前:_____ 期限:2029/12/31

裏の説明書きを読んだ。名を書かれた人を心臓麻痺で殺すことが出来るのだそうだ。なんて危ないチケットだ。まさに死への片道切符。僕はこれを使う日が来るのだろうか。

 たった2週間の、しかも汚いオッサンとの同居生活だったけど、毎晩下らない話をしたり、互いの悩みを語ったり、酒を飲んだり、女の話をしたり、天国と地獄の話をしたり、そんな時間がやけに懐かしくて、早くいなくなってくれと思っていたはずなのに、僕は少し寂しくなった。
 昨夜のオッサンの言葉が、僕の中に残った。
「貧乏神が死神になってな、ちゃんと仕事してたら、今度は福の神になれるんだよ。そうなれたら、また来るから」

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2001/09/11 (Tue) The 5th survivor

 モンスターがそんなに強いのかが疑問だった。青春真っ只中17歳の勇者が、レベル1だなんて、信じられなかった。確かに魔法は使えないし、布の服だし、棍棒だ。でも、HPは、たった10程度なのか?モンスターの攻撃は、人をほんの数発で死に追いやるほど痛いのか?じゃあレベルが上がるって何だ?レベルって何だ?人を殺し動物を殺しモンスターを殺し続ければ強くなれるのか?“殺しの経験”を積めば積むほど、強くなれるのか?
 じゃあ、殺してやるよ。強くなるために。
 …そんな世界が嫌いだった。自分を鍛えることが他人を傷つけることなら、そんな世界で勇者と呼ばれたくはなかった。だから僕は、ペンを持った。僕が書く物語は、誰も皆弱くて、それでも血が流れることはなくて、最後には皆、笑って。
 僕自身、HP1みたいな状態は経験したことがあった。口論の末、刺されたとき。何度も何度も刺され、もうダメだと思った。或いは、車に撥ね飛ばされ、身動きが取れなくなったこともあった。でも僕のHPは0にはならなかった。そうやって持ち直すたびに僕はレベルが上がっていることに気付いた。
 僕はサイヤ人だけど、ペンを持つ以外に、戦い方を知らないから。

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2001/09/10 (Mon) 女性が煙草の煙を僕にふきかける。

 僕が席につくなり、目の前のバーテンがカクテルを作り始めた。
「どうぞ…」
出されたのはいつも僕が頼むカクテルだった。白と青をイメージした、この店オリジナルのカクテル。でもネーミングセンスはないらしい。
「まだ頼んでないんだけどな…」
僕がダルそうにそう言うと、バーテンはサービスです、と言った。それから二つ左の席にいつも座っている女性をチラリと見た。女性も僕を見て、ニコリと微笑む。僕はいつも、この店の中では時間が流れていないように感じていた。名前も知らない二人だけど、それでもいいと思っていた。
 女性がタバコの煙を僕に吹きかける。これがちょっと話そう、の合図だった。ちょっと迷惑な合図だ。灰皿を見ると、すでに4本も吸った後だった。いつもは1本か2本なのに。
「…今日は多いですね」
「タバコや酒…しか、ないからね…」
 女性とはいつも何気ないことしか話してなかった。30代前半だろうか。色っぽい割にいつも不幸そうな、儚げな雰囲気が好きだった。でも、ここでちょっと話すだけの関係で充分とも思っていた。はっきり言うと、僕では手に負えないレベルの女性なのだった。
「男はいいわよ…」
女性がふと呟く。バーテンを探したが、カウンター内にはいなかった。
「どうしたんですか?なんか変ですよ」
「男は30でも40でもチャンスはあるじゃない?でも、女は年くうほどチャンスは減るのよ…君はまだ20代でしょ。何でも出来るわよねぇ」
 不倫に疲れた、という感じでもなかった。僕はとりあえず聞き役に徹することにした。
「ねえ、強いの作ってくれる?あと、そっちにも同じのを」
いつの間にか戻っていたバーテンに、女性が注文する。僕は酒は強くないのだが。
「おごるから。ちょっと付き合ってくれない?」
 よく見ると、今日はタバコだけではないようで、既に酒も相当入っているようだった。そして初めて、女性は席をひとつ移動した。僕の、隣へ。僕はなぜかひどく落ち着いていて、女性が語る男の話とか人生の話とか仕事の話とかを半分上の空で聞いていた。
 ふと考えた。僕にも経験があるように、“そんな傷”を癒すには、繰り返すしか、ないのかもしれない。いや…、だから僕は繰り返しているのか。

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2001/09/06 (Thu) 夢追い人~4

 恋愛モノを書こうと思っていた。モチーフになるのは都内在住で世間一般の、特にモテない大学生、舞台は飲み会のカットから始まり、次の日にコンビニのバイトで「二日酔いだ~」とか言いながら仕事をこなし、帰りの電車の中で偶然古い友人に出会ってしまいまた飲みに出かけ、店を出る頃にはベロベロになってしまった友人に肩を貸しながら「泣きてーのはこっちだよ」と言いつつ歩いて、挙句終電を逃して「こいつ殺してぇ」と思い駅の裏の公園で口をゆすいでからベンチで男二人ぼーっとしながら漠然と「なんだかな…」と呟いたところで場面は変わり、駅前で弾き語りをしている男に拍手をしてギターケースに200円を入れて立ち上がりフウッと溜息をつき含みのある苦笑いをするショートカットの女が歩き出し、不意に呟く台詞「なんかイイことないかな…」が、月を見上げていた主人公がこぼした台詞とリンクする、そして人が少ない始発電車の同じ車両に偶然乗り合わせた二人が織り成す、夏の終わりの一場面から始まる期限付きのラブストーリーを。
 あるいは、夏休みを利用して東京へ遊びに来ていた少女と、ダルい毎日を過ごす主人公が羽田空港内の人ごみでぶつかって、落としたケイタイが偶然同じ機種(二人ともストラップはつけない主義)で間違えて持っていってしまったことから始まる東京―福岡間のトラブルだらけのぎこちない遠距離恋愛を。
 あるいは小説家を目指し大学を辞めた主人公が出逢い系で知り合った中国人留学生が語った小説より奇妙な夜の街での生き方と、彼女に次第に惹かれていく自分に戸惑いながら夜遊びにハマっていく、かけひきだらけの大人の物語を。

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2001/09/04 (Tue) あるTSOの人生~エンドレス・ペイン

「ホトケの身元は割れたのか」
「はい。指紋照合、DNA鑑定、その他…確認しました。ガイシャはテキヤマテキオ、ハンドルネームはテキーラ。ププッ。…失礼。24歳無職。住所はさいたまです。右手人差し指、爪の内出血と、ガイシャの部屋にあった点けっぱなしのパソコンのマウスの壊れ方から、例の…最近多い、オーバークリックシンドロームによる突然死だと鑑定されましたが、他殺でないとも言い切れないなぁ~…失礼しました。コホン。また、ガイシャのブックマークから、テキストドランカーであったことも確認されています。毎日、ほぼ一日中パソコンと向き合っていた生活のようですね。しかし…何故か左薬指が切断されており、それは原因不明ですが」
「ネット廃人って奴か。一体どうなってるんだ」
「しかし面白いことが…、あ、いえ。ガイシャには失礼ですけど、ガイシャのパソコンでネットに接続したとき、最初に開かれるページが…ちょっと…」
「なんだ?自分のサイトだったって言うんだろ。珍しくも無いさ」
「いえ。そうではなくて、恐らくはお気に入りだったんでしょう、ある女性管理人のテキストサイトだったんです。履歴を確認したところ、日に十数回も訪れている。しかし掲示板への書き込みは一切無く、それでもメールは送っていたようです」
「なるほどな…ネットストーカーという奴か。悪いが、頃されたとしても同情できないな」
「しかし、不可思議なことが起こってるんです。ガイシャのホームページは見るにたえない日常日記系サイトなんですが、死後1ヶ月を経過しているというのに今日まで毎日更新を続けてるんですよ。しかも…名前は伏せていますが、恐らくはあの女性TSOの。日に日にエスカレートしていくストーカー日記です。オカルトでしょうか…」
「フン。馬鹿は死んでも治らないってことか。まあいい。ホトケのパソコンをフォーマットしろ。責任は俺が持つ」

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2001/09/02 (Sun) 金で口を塞げばいい。

「宝くじ当たっても半分以上貯金するって言ってる奴なんかに当たって欲しくないよね」
「そーそー。アタシなら3日で使い切るよ」
「ちょっとずつ使えば一生もつじゃん」
「スゲー経済的~!」
「遊んで暮らせるよ」
「キャハハハハー」
 仕事の帰りの電車の中で、女の子数人が話していた。僕は少し考えた。金で買えないのは何だろう。時間か、心か、そんな形無いもの。買えないものは、変えられないもの。例えば、過去。戻れなくていいから、過去を変える事は出来ないだろうか。君を失う少し前の時間を、変える事は出来ないだろうか。そんなことばかりを考えて、もう4年が経った。僕は当時大学生で、あの日は雨で、僕らはバイクで。
 事故の直前だけは明確に覚えているのに、この4年のことはほとんど覚えていない。いや、残っていないのだ。残っているのは左足の縫い跡だけ。
 夢でさえ、僕は君を助けることが出来なくて。スローモーションの中で何度も繰り返される悲劇。僕はもう、人生なんてどうでもよくなっていた。
 そんなある日、宝くじが当たった。3億円…!人生を変えることが出来る金。僕は迷わず、君との再会を望んだ。僕が持っていた君の欠片。大切に大切に保存しておいた君の遺伝子で、もう一度君を作り出す。人工授精。しかしこの場合は人間のクローンを作るということになるのだろうか。どうでもいいじゃないか、そんなこと。文句を言う奴は、金で口を塞げばいい。もうすぐ君に会えるね。今度は僕の娘として。

 5年後。僕は夢を見た。そのとき、僕には愛すべき妻と、4歳になる君が…娘がいたのに。僕は夢を見た。今、妻のお腹にいる子供が、君の生まれ変わりだと、光は言った。こうして僕は自らの罪を、自覚して。
 いや。娘の体に、君の魂を移植すれば。完璧な君が、現れるだろう。
 そして僕は過ちを繰り返す。左足の縫い跡が、少し疼いた。

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