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2001/10/31 (Wed) ぼくたちは、恋していく。

もしも二人が絶体絶命のピンチに陥ったら、
僕はあなたのために死ぬことさえ構わないけれど、
あなたは僕を盾にして生き延びるだろう。

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2001/10/30 (Tue) そんな、深夜。

 深夜コンビニへ行こうと歩いていると、ガードレールに生首が二つ。
 顔は血だらけで、二つとも道路を見ながら何か話していた。僕が近づいても振り向く様子もなく、恐らくはカップルだろう、その生首は、愛を囁きあっていた。
 不憫に思った僕は、首を互いの顔を見れるように向かい合わせにしてあげた。女の方の首が、もっと近づけてくださいと頼むから、口づけするくらいまで近づけた。
 生首はガードレールの上で口づけを交わしていた。

 コンビニからの帰り、僕がまた通りかかると、窒息したのか、首は変な色になって苦しそうな表情で転がっていた。不憫に思った僕は、また首を道路の方へ向けて並べてあげた。

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2001/10/29 (Mon) トライアド

 西暦2034年、人類の歴史は、終わった。
 2033年、人間の五感に新たな感覚、「霊感」が加わった。「霊感」の存在が証明されたのが2015年、そして「霊感」の特徴が検出されたのが2022年、それから11年間はひたすら研究が進み、ついに人類は「霊感」を手に入れたのだった。
 「霊感」は全世紀に盛んだった研究「超ひも理論」の延長にあり、素粒子のひとつ「霊子」の運動によって、それまでの五感を超える能力、今までは「超能力」と呼ばれていたものが誰にでも使えるようになったのだった。
 「霊感」の最大の特徴は「意思」を形にできることだった。それは今までは幽霊や霊体などと呼ばれていたものだったが、自在に霊体を肉体から離脱することが可能となったことが、これまである意味でタブーとされていた「死後の世界」を知ることができるということに繋がり、全世界的に「霊界ブーム」が巻き起こったのだった…

 今、子供たちの間で人気なのは「臨死体験ごっこ」だ。死後の世界にどの程度まで踏み込めるか、というゲームで、霊界にいくつかある「扉」をどれだけ超えられるか、その数を競うのだった。
「今日は4枚行ったぜ!」
「俺も!」
「俺もー!」
仲間外れにされるのは3枚以下しか扉を超えられない子供。噂によると、ある扉を超えると二度と霊体が戻ってこれないらしい。今日もそんな「霊的いじめられっこ」達が放課後の校舎で話をしていた。
「だってさ。あの4枚目の扉は絶対やばそうじゃん!」
「たしかにな。気持ちいいっていうか、眠くなるっていうか、扉を超えるたびにそういうのがあるよな」
「帰ってこれなかったらどうすんだよ!」
「そうだ。こういうのはどう?」
「ん?」
「誰かが扉を超えまくるんだよ!で、寝ちゃったら後ろからついてった奴が連れ戻すの。そうすれば一気に5枚、6枚くらい行けるんじゃないか!?」
「うーん…でも怖いなぁ…」
「行こうぜ!じゃあみんなで行こう!」


・・・・・・
『なあ、今何枚超えた?』
『うーんと、8枚だよ。みんなで行けば大丈夫だね』
『おい!次は3枚並んでるぞ!』
『どれにする?真ん中?右?左?』
『えーっと…。ジャンケンしようぜ』
『あっ!向こうから開くよ!?』
『開くなんて…聞いたことないぞ!』
『右と左…両方開く!!』
『何か来るみたいだよ!』
『逃げようよ!』
「ククク…」
『笑ってるよ!ねえ、逃げよう!』
『何が来るんだろう…』
『天使だ!かっけー!初めて見たよ!』
『天使か…すげーな…』
『あっ!』
『どうした!?』
『悪魔だ!』
『左からは悪魔が出てきたよ!!』
『こっち来るよ!逃げようよ!』
『だって…。今までの扉、全部開いたままだよ…!?この扉って、向こうからは開かないけど、こっちからは開けられるんだって。わかる!?』
『じゃ、じゃあ…』
『来ちゃうじゃん!!』
『最近、悪魔とかが増えたのってこういう理由だったんだ!』

 それは前世紀、サバトと言われた悪魔召還法。そして西暦2034年、人類の歴史は、終わった…かに見えた。しかし、人類は既に「第七感」の証明と検出に成功していた。それが異世界の勢力に対抗する唯一の手段だとわかるのに、時間はかからなかった。
 ここに、人間界、天界、魔界を巻き込んだ大戦争が、幕を開けた。

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2001/10/27 (Sat) 馬鹿げた話には乗らない

 男が、彼女の肩を抱く。ニヤニヤと、笑って。僕はただ、何も言えずに立ち尽くす。彼女は少し困った顔で。息が止まるくらい冷たい視線と、変な微笑みを僕に向ける。
「嘘だと言ってくれ」
何を期待したんだろう。落ち着いていると思っていた僕は、今思えば馬鹿みたいにパニックになっていて。平行線を辿る言葉の果てに、そう呟いた。
「嘘よ。全部嘘。あなたといた時間以外全部」
 全部、嘘。何度も囁いた言葉も、永遠を誓った朝も、虚ろな心も。そう、彼女は言った。ゆっくりと男が近づいてきて、ケイタイを取り出す。
「リアル教えてやるよ」
 声を出そうとしても喉の奥に重い何かが引っかかってる感じがして。
「事実は小説より奇なんだって。よく言ってたじゃない。その通りだったのかもね。悪い人じゃなかったけど、なんか、違うんだよねー」
悪びれた様子もなく彼女は笑い、僕と男を残して歩き出す。
「(てかお前、キャラ違くないか…?)」
 言葉を飲み込む僕に見せ付けるように、男のケイタイの画面にはいくつかの写真が。
「見ろよ」
 目を背けたかった。事実から。現実から。
「心なんていらねぇんだよ」
 どうすればいいか分からなかった。
「女なんてこんなモンだぜ。お前だって顔いいんだから、理想ばっか言ってねぇでリアル見ろよ。どうよ。これがアイツの望んだことだ」
「うそだ」
「嘘じゃねぇ」
「うそだろ」
「嘘じゃねぇ」
「う…」
不覚にも、涙が出た。
「リアルなんてこんなもんだ。要はやったもん勝ちなんだよ」
 なんで僕がこんな目に遭わなきゃいけないんだ。
「愛なんてねぇんだよ」
 写真に写る彼女は。ベッドで僕に見せた表情とは違くて。
「アイツ、エロいからなぁ~」
 男はケラケラと笑い、ケイタイをポケットにしまって歩き出す。ブン殴りたかった。でも、この男を、あなたが認めたのなら、僕にこいつを殴る権利なんてないと思って。だけど。
「…待てよ」
 そして僕は、男の肩を掴む。全部、嘘。ただそれだけが僕の頭の中を埋め尽くしていく。全部嘘。騙された方が悪い。僕が、悪い。こんなときにもサイトのことを考えてしまう自分がとてつもなく嫌になって。
 僕はただ、幸せを望んだだけだった。ハッピーエンドを書くんだ。そう思って今日もお話を綴ってく。それ以上の意味をもたせないように注意しながら。

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2001/10/26 (Fri) ソレヲ操ル煩悩ニナリ下ガリタクハナイカラ動ク動ク

 6畳ほどの沼は変な柵に囲まれて、看板には「入ってはいけません」と書かれていた。僕らはそこに、巨大魚がいると信じてた。隣のクラスの女子が、それを見たんだって。3つ上の兄ちゃんの友達の親戚がその魚に食われたんだって。ある日気が付くと、看板にスプレーで変な模様が描かれていた。4年生だった僕らはそのマークの意味が分からなくて、6年生に聞いた。そいつは、「お母さんに聞いてみな」と言った。僕がそのマークの意味を知ったのは、中学1年の頃だった。
 僕らが集まる公園の裏の土管には猫がいた。僕らはそこでビックリマンのお菓子を猫に与えた。シールを抜き取ったらチョコなんてどうでもよかった。猫は白いのと黒いのがいて、いつもフラフラしていた。いつしか猫はいなくなった。土管は3本あり、土管と土管の間のヘンテコな隙間にはエロ本が隠してあった。本を触った奴の手はまるでバイキン扱いで、そのバイキンの擦り付けから、いつも鬼ごっこが始まった。
 町の公民館の裏にはなぜかギターが置いてあり、公園で夕日を眺めながらギターをかき鳴らした。弦の調整なんて知らなくて、適当にネジをしめてピンと張っておけばいいと思ってた。

 そんなゴミが、ゴミみたいな日々がやけに輝いて見えたから、今書いてるこのゴミ文も、いつか輝いて見えるのだろうか。

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2001/10/24 (Wed) 駆け上がる恐怖

 高校生の頃、足が太いことがコンプレックスだった。
 大学生の頃、腹が出てきたことが悩みになった。
 社会人になって、顔を整形しようかと思い始めた。
 今は、髪を気にしている。

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2001/10/23 (Tue) ザ・ショート・ショート

インターネットを始めた。
チャットに参加してみた。
オークションに入札した。
ブロードバンドを体験した。
エロサイトを見た。
ブラクラに引っかかった。
自分の名前で検索してみた。

「殺すリスト」サイトに載ってた。

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2001/10/22 (Mon) コトバトル

 深夜のファミレス。俺と悪友は、とりあえず腹を満たしてからドリンクバーで繋ぎつつ、ターゲットを待った。午前3時。客は少ないが、寝ている男、勉強をしている学生風の男、見ている方をイラつかせようとしてるとしか思えないカップル。しきりにケイタイを弄る女。無言で下を向いている男女、などなど、実に様々だ。
 店にカップルが入って来た。金髪の女とチャラい男だ。俺たちはギラリと目を光らせ、にらみ合う。
「開戦だ」
「よし。タブーを決めろ」
「俺は…『私とナントカ、どっちが大事なの!?』だ」
「じゃあ俺は…『お前だって浮気してんだろ!』だ」
「く…っ、なかなか鋭いところをつくな」
「よし…。黙って勝負と行こうぜ」

~カップルの会話~
「ねぇ…」
「あん?」
「アタシさぁ、実はアンタのケイタイ見ちゃったんだけどさぁ」
「なんだよ。(店員さんを呼んで)あ、ドリンクバーふたつね」
「ちょっと聞いてんの!?」
「(わざとらしい仕草でタバコに火を点け)ああ、聞いてるよ(煙を吐き出す)」
「あんた、浮気してるでしょ」
「してねぇよ」
 これは俺達のゲーム。会話の中に“タブー”を決め、自分の用意したタブーが出たら食事代を相手に払わせるというゲームだ。しかし、今回は…、まさかいきなり修羅場とは。面白くなってきやがった…
「(女、ジャラジャラとストラップを弄りながら)ちゃんと聞いてよ」
「聞いてますー」
「じゃあ、これは何よ!(自分のケイタイから、とある番号を見せる)」
「なんだそれ」
「ケイコって誰よ」
「知らねぇよ。俺じゃねぇよ」
「あんたのケイタイに入ってたんじゃん!何考えてんの!?」
「知らねぇってば(アイスコーヒーを一気に4分の3程度飲む)」
「それに、これと、これと、これ!アンタ、何なの!?」
「(男、顔が赤くなってくる。ニヤリと笑い、ドリンクバーコーナーへ行く)」
「ちょっと待てよ!(ケイタイをテーブルに叩きつける。プラスチックの花みたいなのが俺たちのところまで飛んできた)」
 男は飲み物を選ぶのに時間をかけている。俺たちは楽しみながらも「あーあ」とか思っていた。それから数分後、奴らはまた席に着いた。
「(女、足を組んで)…で?」
「(男、テーブルに額をつけるように)ゴメン!」
「ゴメンで済むと思ってんの?」
「ゴメン!」
「じゃあこのメモリ消してよ。ここで」
「…はい(男、ケイタイを操作)」
「もうしないって誓って」
「…もうしません」
「ふうん。当然だけど、奢りよね」
「…はい」
「あと、ちょっと欲しいものがあるんだけどさ」
「(男、頭を下げたまま顔を上げ)…ていうかよぉ…」
「はい?」
「お前だって浮気してんじゃねーか!」

 カンカンカン…
 試合終了だ。あのカップルの勝敗などどうでもいい。とりあえず、今夜は俺の勝利だ。これ以上ないくらいに虚しい勝利だ。しかし、俺たちはこの戦いをやめないだろう。朝日がまぶしすぎて、惨めな俺たちを馬鹿にしているかのようだ。

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2001/10/21 (Sun) over the textsite

 自分の限界を感じるんです。創作系や小説系や日記系、そのどれにも属していないと思ってるんです。半端なんです。もっと面白いお話を書ける奴は沢山いるんです。彼らは趣味でお話を書いてるわけじゃないんです。近い将来、文章でメシを食っていこうと思ってる奴らなんです。勝てるわけがないんです。甘いものや恋の話や人の不幸をおもしろおかしく語って女性の心を掴もうと思ってるような内容じゃないんです。巧みな言い回しとか文学の才能とか表現の方法とか空間を文字として切り取る能力とか、言ってしまえば持っているモノ自体が全然違うんです。サイトをリニュすれば何とかなるかと思ったりしたのに、自分よりずっとずっと年下のクソガキの書いたお話の方が面白いんです。それに気付いたとき、認めざるを得ないとき、また違う価値観を探してしまうんです。かつて歌うことをやめてお話を書こうと思ったときは、不確かながらも希望みたいなのがありました。しかし今の自分には面白いお話を書ける自信がありません。ないのです。こんな自分には価値がないんじゃないのか、そう思ってしまうことも多々あります。確かに価値なんてありません。しかし女性はお金を出して自分を買ってくれます。自分はその金額に見合うだけの時間は与えることができません。その逆をすれば犯罪になります。自分も犯罪者みたいなものです。結局、人が見るのは自分の顔だけです。自分が見るのは人の持つ金だけです。そうして得た金は結局路上の夢追い人に向かって投げつけるだけという無意味さに、もう、生きている意味すらないのではないか、と思ってしまったりします。それなら創作ではなくリアールな夜の体験を文章にした方がいいんじゃないか、なんて思うこともありますがそのたびに自らを傷つけてしまいます。両手は既に傷だらけです。特注の逆回転する腕時計を付けた左腕は、いささか傷の治りが遅い気がします。汚いことをして得た金を綺麗なモノを見るために使う無為な日々、そんな毎日から抜け出したくて、あの裏通りにある閉ざされたドアを叩くのです。隙間から覗く光は、まるで自分をシャドーと決め付けて下へ追いやろうとする巨大な力そのものであるとでも言いたげに自分を嘲り笑っているようです。気分が乗らないからとすぐに薬に頼るのはもうやめようと思います。さようなら。●(無意味な血判)
 という嘘か本当か分からない上に訳がわからない内容で始めてみました。目的はお客様の大切な時間を奪うことです。ケケケ。それにしても…正式なサイトオープンはいつになるんだろう。追伸。旧サイトの過去ログを読み漁ると、結構面白かったです。いずれ公開します。スランプ気味なので近いうちにまたリンクを弄ろうと思います。

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2001/10/20 (Sat) Stop! in the name of text

 この国から飛行機でほんの数時間のところに、世界中のどの国からも脅威とされている社会主義戦闘国家があります。民衆は飢餓と貧困に苦しみながらも独裁者(表向きは国の代表者)のために生きるようにコントロールされ、なけなしの食料や金品を軍部に差し出すことを至上の喜びとしています。
 物価はこの国より遥かに低く、ブランドどころか家電製品すらろくに売っていないその国に、実は毎年たくさんの観光客が行っていることを、ご存知ですか?
 僕はつい最近、久しぶりに、そう、子供の頃、親に連れて行ってもらって以来ですが、1人でその国へ行ってきました。税関のチェックは数時間かかります。持ち物は全て監査機関に提出しなければいけません。その国にいる間は、独裁者の顔が描かれたバッヂを胸に付けてないと射殺されます。
 そんな危険極まる国ですが、唯一の観光スポットがあるのです。あらゆる報道、カメラ、録音装置、クチコミでさえ禁止された観光スポット。まさに知る人ぞ知るところです。その名も、「しあわせ動物園」。ただの動物園じゃないことは想像できると思いますが、何がいると思いますか?
 あ、行く方法はたった一つ。午前3時に空港に着くバスに乗ること。そのバスの終点で次の日の午前3時まで待つこと。そうすると、その動物園行きのバスが来ます。ちなみに、バス代は片道分でこの国を往復できる飛行機代と同じくらいです。
 あそこへ行った人は皆、“生きていてよかった。平和でよかった”と思えるのです。だって、扱ってるのは人間なのですから。しかも、亜細亜人だけじゃないんですよ。ワールドワイドな顔ぶれの人間たちが、人工の自然の中で裸で生活しているのです。広い広い自然の中で。ドーム何十杯分もの広さです。人間の姿をした動物たちの、自然な生活。それはまるで原始時代そのものです。そして、人間の欲望そのもの。奪い合い殺し合い与え合い愛し合い、それでも共同で生きていく姿に、僕ら見物人は、心底自分の幸せを感じられるんです。
 そして…本当は書いちゃ駄目なことなんですけど敢えて書きます。バレたら僕も動物園行きでしょうか。それとも即、射殺?…その奪い殺すという点において、その国は、その動物園で、それを、実践してみせるんです。軍人が入ってきて、適当な女性を見つけては、犯して殺すんです。なぶるように。なぶるように。笑いながら。助けを請うその人を、僕らは防弾ガラスの向こうで、ただ、見てるしかないんです。その目が、忘れられないんです。
 水族館ならイルカのショーがあるように、ここでは欲望のショーがあるんです。それを高みから見物する僕らも、最低だと思いました。胸に付けたバッヂと同じように、くそったれだと思いました。しかし、そのターゲットが自分ではないというだけで、僕らは、言葉に出来ない“生への幸福”を感じられるんです。死を前にしないと感じられないなんて、現代人は危機感が足りないのでしょうか。
 あの、僕は、最低ですか?お金を払ってまで殺人劇を見に行く僕は。
 その国は狂ってるんです。その国にいる人は全員コントロールされて狂ってしまうんです。今、その国についてニュースが騒いでますけど、そんなことはちっぽけなことでしかないんだと、きっと、わかるはずです。
 だけど、文化を持たない動物生活をしてる人間たちの姿を、僕は、見てしまったんです。そのショーで殺された女の人を土に埋め、花を添えた人間たちを。そのとき、僕は、声を上げて泣いてしまいました。僕とこの人たちは、何が違ったんだろう。生きること、死ぬこと、何が大切で、何が無意味なのか。
 僕の持つ揺るぎない“生きる意志”は、誰にも折ることなんてできません。最低でも、くそったれでも、僕は生きるんだと、誰にともなく誓ったんです。もしも、生きることについて、自分の人生について、それが淀み濁ってると思うのなら、あの動物園へ行くことをお勧めします。
 だから僕は今日も、生きている証を文書にするんです。

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2001/10/18 (Thu) garden

 あれは夢なのか幻なのか、それとも現実だったのか、不思議な体験をしました。当時僕は死んでもいいみたいな心境で、何日も何も食べることが出来ず、声を出すことすら出来ず、ただ涙を流すだけの日々を過ごしていました。
 小さな花が咲いた道を歩いていました。そのずっと先には大きな門があり、沢山の人が、入るか入らないかを、迷っていました。僕は1人のオッサンに声を掛けられました。
「なあ、あんた、この門をくぐるのかい」
穏やかで気持ちいいこの場所に、どうしてこんなオッサンがいるんだろうと思いました。でも僕はこの門のことを知らなかったので、オッサンに聞くことにしました。
「あの、この門をくぐったらどうなるんですか?」
 オッサンは驚いた顔で僕のことをまじまじと見ます。辺りを見ると、他の人も僕のことをチラチラ見ているようでした。まるで僕がよそ者であるかのように。すると、1人の若い女性が僕の肩を叩きました。
「この先へ行くとね、生まれ変わることが出来るって言われてるの」
女性は生気のない表情でそう言いました。
「生まれ変わる?じゃあ僕、死んだんですか?」
女性は小さく溜息をついて、やさしく微笑みながら頷きました。
「僕、死んだんですか…」
 僕が呆然としていると、オッサンが言いました。
「なあ兄ちゃん。なんでここにいる奴らがこんなに悩むかわかるかい」
女性はフラフラと歩いていってしまいました。オッサンは続けます。
「俺はな。会社のビルから飛び降りてやった。それこそ、次の人生を願いながらな。だからこの門の前に辿り着けたことは幸せだと思う。でもな。生まれ変わるってことは、そのまま幸せに繋がるわけじゃあねぇんだぜ」
「…どういうことですか?死んだんなら、生まれ変わった方がいいじゃないですか」
「違うな。どうやらアンタはまだ死に切れてないらしい。俺たちから見るとハッキリ見えるからな。あんたには俺たちが少しぼやけて見えるだろう?」
そういえば、確かにここの風景も人も花も、全てがぼやけて見えます。
「この門をくぐれば、確かに次の命を始められるだろうぜ。だがな。俺たちにそれは辛すぎるんだ。現世も辛かったが…その…」
オッサンは涙ぐみながら話を続けます。
「その…な…現世のな…思い出を全て忘れちまうんだぜ。魂をまっさらにされちまうんだ。当然だよな。現世の記憶を持ったまま次の人生を始めるなんて出来っこないからな。それがよう。悲しくてよう。だからみんな泣いてんだ。悩んでんだ」
 僕は門に近づきました。
「忘れる…。全て?」
「そう。全てだ」
「忘れたいですよ。苦しいことばかりだ。僕は生きてても意味がない。あの人は僕の全てだった。だけど僕は…」
「全て忘れる。苦しいことも、楽しいことも」
「楽しいことも」
「全てだ。だから辛いんだ。俺には現世への未練なんてありゃしないが、それでもそこそこ幸せだった。幸せな時もあった。アンタだってそうだろう」
 門をくぐるべきか、戻るべきか。でも僕はもう全てを捨ててもよかった。現世に戻ったとしても、忘れたいことばかりだ。その楽しかった思い出が僕を苦しめるんだから。
「あのね」
さっきの女性が僕の前に立ちました。
「生まれ変わるってことはね。次が…人間じゃなくなる可能性もあるのよ」
「え?」
「私は怖いの。自分が消えてしまうことが」
「………」
「現世に戻りたいなんて思わない、でもね…」
 僕らが黙り込んでいると、1人の老婆が門をくぐりました。そこにいる皆がそれを見ます。老婆は門を越えて歩いていきます。ずっとずっと遠くへ。そこは白い道。薄紫の空。変なもやがかかった風景。
 女性が僕の手を握って、言いました。
「あなたは戻った方がいい。まだ戻れるんだから、ね」
 オッサンが門の前に立って、言いました。
「いつかどっかでまた会おうな」
 ちょっと待ってくれ。あんたら、何を決心したかのような顔してんだ?待てよ。さんざん悩んでたじゃないか。自分が消えることを。自分の中の全てが消えることを。それを、なんだ?ババアが歩いてったのを見て決心したのか?馬鹿げてる!あんたの人生はあんた自身が決めなきゃ生きてる意味なんてないじゃないか。死んでまで流されるのか?周りに!自分の決意を人に委ねるのか?俺は違う。俺は違う。俺は違う!
「待ってくださいよ!二人とも、先へ行くんですか?どうして?悩んでたじゃないですかっ」
女性はにっこり微笑んで、何か呟いて、向こうへ歩いていきました。僕はそれをただ眺めているしかできなくて、いや、僕にはこの人たちを止めることなんてできなくて、そんな権利も資格も持ってなくて、でもどうしてこんなに胸が苦しくなるのか分からなくて。
「兄ちゃんよ。忘れられないから、生きてることに意味があるんじゃねぇかな」
「何を言ってんですか…」
 気が付くと他の人も次々と門をくぐり始めました。まるで向こうへ行くことが当然であるかのように。彼らを決心させたのは何なのだろう。このままここにいても仕方がないという諦観なのか、それとも現世への未練を全て捨て去ったからなのか。それとも来世への期待の方が強いのか。
「オッサンさあ。俺、そっち行けないわ。まだ、ここのみんなみたいな決心はできない」
「だろうな」
「忘れたいことばっかりだよね。戻っても」
「そうだろう。でも、忘れちゃあいけねぇコトもある」
「知ってるよ」
「俺なんてよぉ、自殺しちまったもんだから。きっと次は人間にゃなれねぇと思うんだ。残飯をあさって食らう畜生か何かになるんだろうな」
「………」
「でもよう。・・・・・・」
「え?ちょ、今、何て?」
「じゃあな」
 オッサンは何か呟いて、そのまま向こうへ行ってしまいました。
 もしかして、決心できない僕は、ただの臆病者なのでしょうか。でも、僕は。
 気付くと、そこは僕の部屋でした。2時間くらい眠っていたようです。異常に腹が減ってました。それこそ、お腹と背中がくっつくくらいに。僕は立ち上がり、カーテンを開けます。近くの国道はいつものように車が走り、少し形の悪い月はいつものように輝いて、忘れえぬ人を思って苦しむ僕はいつものように苦笑いで。
 ああ、早く全部ただの思い出になっちまえよ。天国も地獄も、全部この世界の中にあることなんだから、苦しいことがあれば悲しいこともある。当然じゃないか。ああ、変な夢を見た。
 朝かと思ったら、夜でした。昨日と今日は同じだけど、今日と明日は違ったものにしようと、なぜか、変な決意が起こりました。

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2001/10/13 (Sat) ヒューマンレンジャー

 人の遺伝子は人だけでなく、いろんな命の記憶(というか記録)を持っているらしい。それこそ、この地球の数十億年分の記録を。ただ、それが表に出ることがないから、人は人でいられるんだろう。
 しかし僕は、原始の人間の記録を持っていることに気付いてしまった。人はそれをアダムと呼ぶのだろうか。いや、それ以前の。神って奴の分身である「人間」の記録。それがときどき発現しそうになって、わざわざ自分を抑える。あるいは、それが本当の自分なのかもしれないというのに。
 そして、僕はその原始の人間を「ヒューマン」と名付けた。
 ときどきいるんだ。僕のように、過去の記録が発現してしまう人間が。それも、動物の記録が!そしてその記録に人格が負けてしまうんだ。見た目も動物になってしまい、本能のままに生きようとするから、僕らヒューマンが彼らを退治する。
 僕ら、って言ったけど、覚醒(発現をそう呼ぶこともある)したヒューマンは今のところ10人くらいいて、みんな超能力を使えるんだけど、覚醒したアニマル(動物が発現した人)と戦うんだ。
 タチの悪いことに、覚醒をコントロールしている奴らがいるんだ。あいつらはヒューマン最大の敵…!人間の頭脳にアニマルのパワー!奴らを倒さねば人類の未来はない…!
 とか言いたいとこだけど。なんで倒さなきゃいけねぇんだよ。俺は共存したいんだよね。いつの日か、人が自分で理想の体を手にいれることが出来たら、それは楽園への近道じゃないかな。まあ、ボスの命令で戦うことになるんだけど(倒した後はアニマルが巨大化して僕らのロボと戦うんだけどね)。

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2001/10/12 (Fri) 宇治拾遺物語より一部抜粋

 昔々、ちょっと太ったお爺さんと、マジか!ってくらいに痩せたお爺さんがいました。二人のお爺さんは神様か何かにお祈りしました。
「どうかこのこぶがとれますように」
そう、二人のお爺さんは、共に顔にこぶがついていたのです。こぶです。こぶ。3回言いました。ほっぺたに、こぶがあったのです。二人はそれを凄いコンプレックスと感じていました。
 ある日、痩せたお爺さんが言いました。
「美容整形というもんがあるらしい。わしゃその本場、プチ整形のコリーアへ行ってくるぞなもし」
 太ったお爺さんはそんなことはヤメレと言いましたが、痩せたお爺さんは行ってしまいました。そして数日後の村祭りの夜、お爺さんの家に天狗みたいな鼻の集団が入ってきました。天狗は基本的に8体で行動するのです(金縛りと真空系の魔法を使ってきます)。
 天狗はお爺さんといっしょにダンスをしました。お爺さんはみかけによらずノリがよかったので、天狗はお爺さんのこぶをとってあげました。
 そこへ痩せたお爺さんがやってきました。1泊3日のコリーアプチ整形の旅から帰ってきたのです。痩せたお爺さんはこぶがなくなったどころか、10歳は若返っていました。天狗は痩せたお爺さんにダンスをするように言いました。痩せたお爺さんは断固として断りました。
 すると天狗は怒り猛って、手に持ったこぶを痩せたお爺さんにペタリとつけてしまいました。痩せたお爺さんにしてみればコリア損です。何ナメたことをしてくれるんだこの天狗野郎は、ってなもんです。当然トサカに来ます。しかし天狗はそそくさと帰ってしまいました。話は変わりますが天狗のお面がアメリカを襲撃するシュールなゲームがありました。ファミコンです。
 家に残ったのはこぶのとれた太ったお爺さんと、こぶがついた痩せたお爺さん。勘のいい読者ならすでにお気づきでしょうけど、こぶがとれたのに太っていたゆえに小太りと言われてしまう悲しいお爺さんの話ですよ、これは。古時計は出てきませんよ。
 そして次の朝、二人のお爺さんは背中を合わせて西部のガンマンみたいにお互いの顔を見ずに話をしました。そして、振り返らずに歩き出しました。これが、二人の別れでした。
 時は流れ、現代。運命的に出逢った二人。彼らは互いにお爺さんの血を引き、義兄弟の杯を交わしていました。彼らは今日もキノコとかを食べて火を吐いたり空を飛んだり恐竜を操ったりしています。世界広しといえども、兄弟を呼ぶのに“スーパー”な“ブラザーズ”と呼ばれるのは彼らだけでしょう。

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2001/10/11 (Thu) 赤いフードの少女

 赤いフードの少女は、今日も街角で、元気に笑っていました。
 少女が持つ手提げかばんはいつもパンパンに膨れていて、街の人はその中に売れることの無いマッチが山ほど入ってるんだろうと思いながら、いつものように少女に軽く挨拶をして、駅へ向かうのでした。
 赤いフードの少女は、何度季節が巡っても、いつものその場所で、元気に笑っていました。街の誰もが少女を愛していました。お爺さんの、そのまたお爺さんから聞いた話。古い古い、お話。誰もが愛するその少女の名は、誰一人として知りません。それでも街の誰もが、いや、この国の誰もが少女のことを知っています。遠い昔、聖夜にマッチを売り続けようとして、孤独なままに永遠の眠りについてしまったこと。
 いつしか、少女の周りには、沢山の人が集まるようになりました。暗い表情の人、期待を隠しきれない人、パフォーマー、ケイタイで話す人、何気ない会話をする学生達、客引きをする怪しい大人たち。その誰もが少女の笑顔に、癒されたのでした。
 少女の乗る台には、色んなシールやプリクラが貼られ、幸せを願う小さな落書きが書かれています。誰もが少女を見上げ、今日を明日を、生きようと思うのでした。
 赤いフードの少女は、今日も街角で、元気に笑っています。街の名所、待ち合わせの銅像の少女は、今日も明日も、これからもずっと、皆に変わらぬ微笑みをくれるのでした。

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2001/10/08 (Mon) 記憶商人(4)

 彼が、交通事故で、亡くなった。
 今年の『あの日』、恐らくは『あの場所』へ行く途中で。そうとしか考えられない。会社を休んで旅行に行く途中に事故に遭った、という話ではない。彼がどこへ行こうとしていたのか、それが分かるのは私だけだ。私はあの日、あの場所で彼を待っていた。
 彼は、記憶を失ってもなお、心を保ち続けていた。なくなったはずの独りよがりの約束を果たすために、行って、そして、事故に遭って。

 人の記憶はどこに宿るのだろう。脳か、それとも、魂か。

 でも、約束は、果たすから、大丈夫よ。あなたの記憶を辿ったとき、私の中にもう一つの心が存在するようになったから。あなたは私の中で生きているから、私達が出会ったあの場所へ、一緒に、行きましょう。一緒に、生きていきましょう。

 いつかあなたのことを忘れてしまうかもしれない。人の記憶なんて脆いもの…。だけど、刻んだ過去や、思い出の品や、私の心は、なくならないから。

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2001/10/07 (Sun) 記憶商人(3)

 私は液体を一口で飲み干した。と同時に、まるで目の前のことのように、ある記憶が展開されていく。胸が締め付けられるような悲しみと、深い愛と、諦めが入り混じった感情に支配されていく…


 (手紙を書こうか、ワープロで書いてフロッピーにでも保存しておこうか、それともビデオで残そうか)
 (俺は記憶屋の奥の部屋にある記憶吸引装置を着け、深呼吸を繰り返す。ヘッドホンみたいなものにアイマスク。それだけ。右手に持った小さなスイッチを押せば、この記憶はなくなるのか)
 (一体、どういう具合でなくなるんだろう。もしかしたら、心の片隅には残るかもしれない。それに…、俺の、家族への想いだけを切り取ることなんて出来るのだろうか。謎だ。しかし…まあいい。意を決した俺は、あとは、ここに最後のメッセージを残すだけだ。いつか、いつの日か、君に届くように。或いは、ケンタに届くように。たとえ俺が街角で君とすれ違っても、きっと俺はもう、君の顔すら分からなくなっているんだろう。冷たく突き放すかもしれない。でも、俺はいつまでも、君と、息子を、想って、家族の幸せのために生きることを誓う。そのことだけは間違いない。育児ノイローゼと仕事と色んな人間関係に疲れた君には、俺の愛は届かないね。最近は掃除も洗濯も俺がやるようになった…フフ。笑えるな。人のために生きることをようやく知ったのに、それが遅すぎたなんて、な)
 (涙がこぼれる。恋人の別れよりむしろ。愛がなくなったわけでもない。それでも離婚しなきゃいけないなんて。全ては互いの幸せのため…、それはただの奇麗事か?)
 (思えば、君と出逢ったのは…大学の頃だっけ?たしか…)

 彼の赤裸々すぎる心が、私と息子への思いが、今では自分の記憶なのに、思い出しては涙がこぼれる。彼は、こんな苦しみを…。
 苦しみを捨てるため、記憶を売ったの?それとも…
 いえ、違う。この心には曇りは何一つなかった。記憶を売ったお金を、もう知らない人間であるところの私達に振り込んでくれるように店主さんに頼んだことも…

 (もう俺は覚えてないだろうけど、もし、この記憶を辿る人がいたら、俺が君と出逢ったあの場所へ行ってくれないか)
 (俺の頭はこの約束を忘れても、心に刻んでおくから。あの場所で、毎年あの日に、待ってるから。たとえ俺や君が他の誰かと家庭を持っても、俺が君を想うこと、想っていたことに変わりは無いから)

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2001/10/06 (Sat) 記憶商人(2)

 同僚のヨコシマ君の噂を聞いた。駅裏の公園、あのラブホテルが立ち並んでいる側にある公園で夜を明かしているところを何度も見かけたという。ヨコシマ君は仕事もちゃんとこなすし、あまり話したことはないけれど、話した感じでは悪い人という印象は持たなかった。そのヨコシマ君の噂というのは、あの公園の近くの“不思議通り”のお店に通っているということだった。男の人なんだから、そんな店に行くのも仕方ない部分もあるかもしれない、そう思っていたけど、 “不思議通り”のお店は、私が思っていたような風俗っぽい店ではなく、占い館みたいな、どちらかというと怪しい系のお店だった。
 そして今日の昼休み、ヨコシマ君から直接話を聞いた。彼は“不思議通り”のお店は全部行った事があるという。幸福屋、動物屋、神屋、人質屋、記憶屋、他にも色々…。でも私が興味を持ったのは、記憶屋という店だった。人の記憶を売り買いするお店らしいけど、にわかには信じられなかった。
 仕事が終わって、夜8時。“不思議通り”のお店は夜8時にならないと開かない。そして夜明けと共に閉まるという。ヨコシマ君に連れて来てもらったけど、彼は公園の猫に餌をやると言って行ってしまった。わけがわからない。
 店内に残ったのは私と店主だけ。店内は暗く、カウンターが一つだけ。店主側の壁には小瓶が並べられている。私は恐る恐るカウンターに向かった。
「いらっしゃいませ」
驚いたことに、黒っぽいヴェール、というかフード、を被った店主は若い女性のようだった。人気のない通りにある人気のないお店、しかも公園やホテル街は治安があまりよろしくないと聞いたこともある。私は一瞬、この色っぽい声の店主を心配してしまった、が、そんなことよりも私の話だ。
「主人…いえ、離婚した、元主人が、あの…記憶喪失というか、その…」
しどろもどろに説明した。先日、電車の中で偶然、元夫に会ったこと。彼は私のことをまるで赤の他人、いや、見ず知らずの異人のように見ていたこと。そして一つも顔色を変えずに去っていったこと。
 そんなことって、あるの?もしも彼がそこまでの人でなしだったら…あるいは、そうかもしれない。でも、離婚の原因となったのは私だった。彼はずっと私を愛してくれてたはず。離婚するときの彼の最後の言葉が今も残っている。

「その、元ご主人の…お名前は?」
 私は店主に元夫の名を告げる。かつて私も名乗っていた彼の苗字。少し、唇が震えた。
 店主は彼の名と写真とプロフィールが書かれた書類と小瓶を持ってきた。
「ここに、その元ご主人と同姓同名の方の記憶がございます」
「同姓同名?主人でしょ?」
「わかりかねます。この小瓶に入っている記憶は、この写真の方のものです。プライバシーの問題、とでも言いましょうか。人物を想定できても特定することはできません。プロフィール、名前、写真。これを見て、お客様は好きな人物の記憶を、つまりは体験を、自分のものとして体感することができるのです」
「買います。おいくらですか?」
 店主はフードからのぞくツヤツヤの赤い唇の端をニッと持ち上げて、当たり前のように300万円になります、と言い放つ。しかし、彼からもらった慰謝料は2000万円。それくらい、まだ余裕で残ってるはず。そう思った私は、即決した。

「お二人の幸せを…いえ、あなたの記憶の幸せを願って、特別に割引きいたしました」
 店主は色っぽい声でそう呟いた。乳酸菌飲料のようなサイズの小瓶に入っていた液体は、光を反射して変な色に輝いていた。

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2001/10/05 (Fri) 記憶商人(1)

 電車の中、いきなり女に声を掛けられた。痴漢と間違ったのかと一瞬ヒヤッとしたが、違うようだ。女は俺に「ひさしぶりね」と、少し悲しそうな顔で言うのだが…、はっきり言って、俺はこの女を知らない。
「人違いじゃないですか?」
爽やかにそう言い放つ。厄介ごとは御免だ。営業スマイルで軽くかわす。それともこれはナンパの手段だろうか?いや、セールスや何かのキャッチとも考えられる。いきなり話しかけてくる見ず知らずの女には気をつけろ。

 俺が電車を降りても、女は後をつけてきた。
「どうしたの!?怒ってるの?そりゃ確かに私も悪かった…、でもケンタも今はパパに会いたいって言ってるわ。もう私はいいから、大丈夫だから、会ってあげて」
驚いた。子供がいるというのか?俺とこの女の間に。ケンタ?知らないな。しかし女は執拗にたわ言を言い続けた。
 仕方なく喫茶店に入る。
「あの、失礼ですが…、人違いだと思いますよ。僕はあなたを知りませんし」
女は驚きと悲しみの入り混じった瞳で俺を見る。数秒見つめた後、手で口を隠して下を向く。コーヒーをかき回すスプーンを皿に乗せ、溜息をつく。俺はいい加減あきれてしまった。仕方ない。聞いてやるか。セールスには乗らないがな。
「あの、よかったら…、最初からお話願えませんか…?」

 女の話は、こうだった。俺はかつてこの女と離婚した。4歳になる息子がいるらしい。俺から慰謝料として数ヶ月前に莫大な金を振り込まれたおかげで生活できているらしい。そして、俺は大学時代からこの女と付き合っていたらしい。
 全て、記憶にない。この女の顔を見るのも初めてだ。俺は俺の心の中に、目の前で涙をこらえるこの女に対して、少しも情を見出すことができなかった。

「やっぱり人違いです。すみません、お時間遣わせてしまって」
 喫茶店の払いを済ませ、俺は店を出る。

 とんだ人違いもあったものだ…

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