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2001/11/23 (Fri) 不思議駅前通り商店街

 駅前の広場に、なぜかメリーゴーランドが設置されていました。ゲーセンのアトラクションではなく、どこかの遊園地から持ってきたのをそのまま置いたような感じでした。風景にはまるで合っておらず、妙に不気味で、滑稽で、お金をとるでもなく、特典があるでもなく、無人のままに白馬やかぼちゃの馬車が、楽しげな音楽と共に回り続けていました。
 乗った人は恥さらしであるとでも言いたげに、駅前の人たちは誰も皆メリーゴーランドに乗ろうとしません。好奇心旺盛な高校生たちですら、なぜか乗ろうとしませんでした。そして誰一人乗らぬままに1週間がたち、それは新しい待ち合わせの場所として人気がでました。しかし、いつしか噂が立ちました。そのメリーゴーランドは、呪われているんだ。
 赤いフードの少女もまた、その噂を聞きつけてやってきました。待ち合わせの新名所として華やいだその場所で一人。少女は周りの目など気にせずに、目の前をゆっくりと回っている白馬に乗り込みました。
 一周。また一周。少女は不思議な表情で回りました。周りの人たちは全員が少女を見ています。少女が降りるとそこへ、青いキャップの少女がやってきました。彼女は駅前でいつも弾き語りをしています。二人は顔を見合わせるとニヤリと笑い、歌を、歌い始めました。
 同じところで回り続けるけど
 前へ向かって回り続けるから
 先へ進めなくてもいいじゃない
 そんな、やる気がなくなるようなダルくてベタな歌詞でした。歌が終わると二人は雑踏の中に消えていきました。二人の姿が見えなくなった頃、一人二人と、メリーゴーランドに乗る人が現れました。
 物珍しそうに見る人を尻目に、メリーゴーランドから降りた人たちは皆幸せそうな表情を浮かべていました。待ち合わせがあるのかないのかはわかりませんが、降りた人たちは雑踏の中へゆっくりと、しかししっかりと、歩いていくのでした。

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2001/11/23 (Fri) マフラー

 一本の糸を紡いで、また紡いで。彼女はマフラーを編んでいました。彼と出逢ったときは背筋に衝撃は走りませんでした。だから彼は運命の人ではないかもしれません。いつか切れる縁なのかもしれません。だけど彼女は赤い糸を編み続けます。一本の糸を絡ませて、ほどけないように絡ませて。鼻歌を歌いながら、それが決められた運命ではないことを知りながらも、これからも幸せでいられるように、小指に巻きついたその赤い糸を、長く長く編んでいきます。

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2001/11/22 (Thu) 幸福屋セールスマン2

 人は、自分が幸せであることに気付こうとしない。それどころか、今以上を求め続ける。そこそこの幸せを知ること、それが至福に繋がるはずだ。
 だから俺は、人の幸せを壊す。
 そうしてやることで人に今の幸せを気付かせるのだ。その上で幸福を売る。これが関西系幸福屋のやり方だ。腹いっぱいになるだけで至福になれる、それだけは昔から変わらないけれど、果てしない欲望は、あるいはこの時代は、幸せであることを認めようとしない。

 さて。誰をターゲットにしてやろうか。
「待てっ!」
むう。誰だ。しかしこの声は…
「久しぶりだな。幸福屋を名乗る貴様が人の幸福を壊そうとは片腹痛い!」
「お、お前は…!」
 そこにいたのは見覚えのある顔。というか俺をいつも邪魔してやまない男。奴は、俺の一代前の『セールスマン』だ。一時代に一人。それが『セールスマン』の掟。
「若造が!お前では無理だと何度言ったらわかるんだ!」
「うるせぇ!」
 たこ焼きを投げつけるも、奴はヒラリとかわす。むう。さすがだ。
「今日こそ真の『セールスマン』にふさわしいのがどちらかを決定しようじゃないか!」
「…マスターは俺を選んだんだ。てめぇはひっこんでろ!」
「はっ!関西弁も使えない関西系に用はない!お前がひっこめ!」
 …むう。なんて大人気ない勝負だ。と思ったそのとき、
ジリリリリン…ジリリリリリン…!!
「若造。ちょっと待て」
奴のケイタイが鳴った。黒電話の着信音とは、やるじゃないか。

 ひとしきり電話した後、奴はいきなりフハハハハと笑い出す。
「若造、今日はこれまでにしてやろう!さらばだ!」
そして行ってしまった。

 俺は今日も同じように街へ繰り出す。

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2001/11/21 (Wed) 向日葵

 会社を定年で辞めてから、時間が出来た。
 あと10年か20年か、嫌になるくらいの時間を、この家で一人で過ごしていくのだと考えることは、私にとって酷く辛いことだと思えた。
 老後をどう過ごすか…それは、仕事をしていたときには漠然としか考えていなかった。まだまだ若い、まだまだいける、そう思うことによって実際に若さを保つことができていたのだと思う。
 貯えはある。慎ましく生活していく分くらいは用意してある。家族もいる。この家ではないにしろ、私を頼りにして…いや、私が頼りにしている息子夫婦もいる。土地もある。馬鹿みたいに安くなった土地を友人の不動産屋に買わされた土地だ。電車で1時間半か、それ以上のところにある広い土地だ。そこに畑を作るのもいいかもしれない。
 ノルマをこなすだけで生きてこれた。そこそこの幸せは手に入れた。そして今、ここでこうして茶をすすって時間が経つことだけを望むことが、一体何になるのだろう。
 妻の言葉を思い出した。
 畑はやめだ。駐車場もやめよう。あの土地を使うのだ。そう。花を植えよう。時間が経つことを願いながら、花を。無為に続いていきそうな時間に意味を刻み、太陽を見つめる花を植えよう。いつまでも続く暇を割ってくれるだろうと願って、大きく育つ花を。

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2001/11/20 (Tue) ジャンQ

 それは、ある雨の日。男はコインロッカーで偶然赤ん坊を見つけてしまう。彼は2年前に離婚した30歳の会社員。そしてその子を自分の子として育て続け、10年。ある日、唐突に鳴る電話。離婚した元妻からだった。実の娘が不治の病だという。治療には移植手術しか手段がない。しかしそのとき、義理の娘もまた、同じ病に苦しんでいた。
 育ての子か、実の子か。男はそこで、非情なまでの選択をすることになる。


 そして10年。成人になった娘は、父を尋ね、病院へ。それは果たして義理の父を求めてなのか、それとも実の父親を探してなのか。ただ一つ、娘は父を憎んでいた。
 そこで始めて語られる、10年前の臓器移植劇。父の心に残るもう一人の娘のこと。そして2年前に消息を絶った母親のこと。病弱な父のため、自分のため、『姉』のため。

 …生き残ったのはどちらの娘なのか。そして、彼女の人生はこれからどうなっていくのか…

(続かない)

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2001/11/20 (Tue) 幸福屋セールスマン

 玄関のチャイムが鳴った。どうせ新聞屋の勧誘かどっかの宗教だろう。俺は部屋の受話器を取りダルい声で言う。
「はーい」
それでも取ってやるだけマシだろう。しかし日曜の午後にマラソンを見てポテチを食って寝ようとしている俺は一体何なんだ。くそが。
『幸せの押し売りに来ましたー』
「ああ!?」
『ちょっとお話だけでも聞いてくださいよー』
「(ウゼェな…)はいはい。切ります。結構ですから」
『待ってくださいよ!ノルマあるんですよー』
「はいはい。何ですか?高い物なら買いませんよ」
『あなた、今、幸せですか!?』
「なんだ…宗教関係かよ…ダリぃんだよ…」
『お金は結構ですから!とりあえず受け取ってくださいよ!』
「…何を?」
『幸せです!』
「帰れ!」
『帰りません!』
「なんでだよ!」
『あなたでノルマが最後だからです!』
「何を受けとりゃいいんだよ!」
『幸せです!』
「アホ!」
 俺は受話器を置き、冷蔵庫からペットボトルを取り出し3口だけ飲み、またベッドに倒れこんだ。眠れそうだ。どんな夢を見るだろう…そう思ったとき、俺の頭に浮かんだのは、なぜか悲しい出来事ばかりだった。そのとき、ケイタイが鳴った。知らない番号だ。
「もしもし?」
『幸せ、いりませんか?』
「…話だけ聞くよ」

 電話の途中で俺は眠ってしまったらしい。気がつけばもう午後7時だ。起き上がると軽く腹が鳴った。コンビニでも行こうかな?そういえば、奴は何の話をしてたんだろう?
 玄関を開けると、茶色いロングコートを着たシルクハットの男が立っていた。
「…こんばんわ」
俺はなぜか妙に可笑しくなった。
「まだ押し売りが足りないんですか?」
そういえば、今日は今はじめて笑ったかもしれない。
「幸せ、いりませんか?」
「…一番安いのをもらうよ」
男は歯を見せないようにニッコリ笑って、「どうぞ」と言ってケイタイを差し出した。いつのまに奪ったのか、それは俺のケイタイだった。俺がそれを手にした瞬間、ケイタイは震えだした。なぜかマナーモードになっているようだ。着信は公衆電話。
 俺は男に背を向けて電話に出た。懐かしい声が聞こえた。そのとき感じたのは幸せとは違う感覚だったが、あるいはそれも『幸せ』の一部なのかもしれない。

 電話が終わったとき、もう男はいなかった。マンションの下の道路を見回すと、変なシルクハットが歩いている。奴だ。呼び止めようと思ったとき奴はこちらを向き、ハットの端をクイと持ち上げてニッコリ笑った。
 日曜の夜。俺はまたギターを抱えて、街へ繰り出す。このハッピーが届きますようにと願いながら歌を唄うために。奴の帽子がタイトルの曲を。

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2001/11/19 (Mon) dara dara

 今日は何か大切な日だったはずだが、すっかり忘れてしまった。何の日なのか思い出せない。平日…平日だ。俺にだけ意味をなす、大切な日だったはず。記念日?何の?誕生日?誰の?笑わせる…記念日を祝うことが俺にとってどれほどの意味を持つ?刹那の喜びか?それとも、それがこれから先の俺にとって必要なのか?
 くだらねえ。
 上がらない瞼をむりやりこじ開け、目薬を溢れるほどそそいでは自我を保つ。コーヒーを飲めばリラックスして眠くなってしまう。外は雨で、気分転換にもなりゃしない。隣の部屋からかすかに聞こえる男と女の笑い声はさらにムカつく要因になり、ケイタイを探すも、次の瞬間、自分で投げ捨てたことを思い出しまたムカつく。
 思考が一点に定まらない。俺が今すべきこと、それだけが重要なことで、後は全て同じなのだ。飯を食うこともサッカーを見ることも髪を整えることも服を着ることさえ(!)も山積みになった資料を読むことも足元のナイフを拾うことも誰かのことを思うことも、全ては後回しにして、今俺に課せられた命題をこなすことを考える。
 そしてようやく思い出した。クソみてぇな俺の日々の中では、どの日が大切で記念すべきなのではなく、全ての日を、時を、大切にしなきゃいけないということ。今日の意味は分からないから、今日は“明日記念日”にでもしておこう。

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2001/11/19 (Mon) めっきは剥げ落ちた

 あの頃の仲間を思い出してみる。モニタの前の君もやってみるといい。遠く離れたかつての仲間達のことを。俺のイメージでは、みんな、何故か笑顔なんだ。
 思い出はいつも綺麗とはよく言ったもので、俺も誰も、その中では屈託ない笑顔で仲間達の「今」を謳歌していたんだ。
 そう考えるたびに俺は溜息をつく。言葉にすれば下らなくて反吐が出そうになるから、溜息をついてテールランプの行列を眺めるんだ。

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2001/11/18 (Sun) それでも

 かくれんぼが好きだった。友達が考えも及ばないような場所に隠れ、息を殺し、スリルの中で“見つかる”ことを望んだ。そのギリギリさが好きだった。
 隠れることが上手くなった少年はいつしか隠すことを覚え、物を、金を、心を、隠すようになった。次第に隠し場所が増え、それらを何処に置いたのかを忘れてしまった。
 そして少年が大人になったある日、ふとした偶然から、かつて自分が隠したモノを見つけてしまった。その瞬間、少年は当時を取り戻し、今日まで続く日々の中で“見つけられずにいた”モノを得た。全てはもう取り返しのつかない所まで来ていたことはわかっていた。
 少年は酒を飲めるようになっていた。金を稼げるようになっていた。苦しみと悲しみと快楽を知っていた。何故かピカピカのままで残っていた“それ”は、少年には何の役にも立たなくなっていた。そんなものより、酒や、仕事や、女のことを考えることの方がよっぽど自分らしいと思った。
 それでも、そのガラクタを見つけることが出来て幸せだと思った。

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2001/11/17 (Sat) チョーク

 そんな、少しセンチな夜は、涙を流してみると救われた気がする。けれど、涙を流すことなんて出来なくて、結局俺はいつものようにネットにあるチンケな小説を斜め読みしては深く溜息をつき、そして明日やるべきことを考える。
 読みかけの本は、3週間も前から同じページにしおり代わりのレシートが挟んであり、それを開いて少し読み進めては眠くなり、コーヒーを飲もうかと思っている間に、またセンチな気分になる。
 部屋の白い壁にチョークで落書きをしたら、俺は救われるのだろうか。きっと掃除が大変で、明日以降の俺は後悔するだけだろう。
 ガキの頃、黒板の隅に青いチョークで太陽を描いた。一番後ろの俺の席からはそれは見えなくて、おそらく前の席の奴らにも見えなくて、誰にも気付かれることの無いまま掃除の時間に消されたのだろう。それがどうしたって…?
 ただ、そんなことがあったような気がしただけの、センチな日曜の夜だった。

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2001/11/16 (Fri) 少年

 子供の頃、町の公民館みたいな所の裏の草むらの中に、土管が数本、横になってた。俺達はそこを隠れ家と呼んで、晴れた日はよくそこへ集った。
 その土管の中に猫がいたことがあった。俺達は当時流行っていたビックリマンチョコを持ち寄り、どうせ捨てるならと菓子の方を餌として与えた。
 蟻の行列をじっと見つめたり、時にそれを踏みにじったり水をかけたり、逆に菓子を行列の中に落としたりした。
 子供の頃の隠れ家は、いつだって漠然とした未来への希望に溢れてた。

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2001/11/15 (Thu) 奪われるばかりの日々でも力強く

 世は『癒し新時代』。激動の昭和を生き抜いた僕らの1つ上の世代は今、守るべきもののために日々を生きている。そして僕らといえば、失うものもないくせに守りに入ってたり、逆に時間を無駄にすることを至上とするかのごとく喪失を求めてる。
 その先にあるのは、癒しそのもの。

 汗をかくことで体を癒した'90年代前半。べそをかくことで心を癒した'90年代後半。そして新たな世紀を迎えた僕らは今、新たな癒しに辿り着いた。
 それは以前から語られてた、人の在り方そのもののはずなのに、誰もが認めたがらなかった。何故なら、それは特別だから。言うなれば背徳の安息。逆説の治癒。
 人は人を映す鏡。それを皆が認め始めた。そう、人に見られることで自分を癒す、快楽にも似た癒しの形。『自分探し』と云う名の現実逃避を重ねてた人々は、ある意味、そこへ辿り着いた。

 つまりは『排泄』にも似た快楽。リアルでは言えぬことを大声で叫べる奈落の落とし穴。王様の耳は、何だった?
 汗を、涙を、体液を、排泄する代わりに言葉を排泄することで得られる癒し…そして他人の叫びに対する共感と憧憬により得られる癒し。それは、こんな時代だからこそ生まれ認められそして広がっているのかもしれない。こんな時代だからこそ、テキストサイトは必要なのかもしれない。

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2001/11/14 (Wed) 今日がとても楽しいと明日もきっと楽しくて

 それは、とある面接の場でのお話。私は淡々と面接官の繰り出すアッパー気味な質問に答え続けていたのでございます。

面「では…そうですね、あなたのPRポイントはどんなところですか?」
僕「はい。ええと…」
 そのときでございました。急にトゥルルルル…と、何処かで電話が鳴ったのでございます。
僕「トゥルルルル…トゥルルルル…」
面「どうしました?」
僕「い、いえ。携帯の電源を切ってなかったのかもしれません…すいません。トゥルルルル…」
 しかし、何処をどう探しても携帯電話は見つからないのでございました。それもそのはず、その日、私は携帯電話を家に忘れてきたのでございます。
僕「トゥルルルル…」
 しかし鳴り響く電話音。後で知ったことでしたが、それは私が口で言っていたのでございました。
 私はなんとかこの場を凌ごうと携帯電話を探しました。そして一本のタバコ型携帯電話を見つけたのでございます。
僕「こんなところにケイタイが…ついてるぜェ~。最近のは小型軽量化が進んでいるからなぁ~」
 そして電話を取りました。
僕「こんなときにかけてくるんじゃあねーぜこの塩ブタがぁぁ!バレちまってもいいのかぁぁぁあ」
 電話の向こうの相手はこう言ったのでございます。
声「落ち着け…ドッピオ」
 私は決してドッピオという名ではございません。
声「お前には私の能力の一部を与えている…それを使うのだ。未来を見ることが出来る能力を…」

 そして電話が終わると、私には面接官が次にどんな質問をしてくるかが分かったのでございます。しかし、質問を分かったところで上手く答えられるものでもございません。面接という修羅においては、数秒先の未来を見通すことが出来たとしても無意味なのでございました。
 結局私は不合格の知らせを受けたのでございます。少しだけ暑い、4月のある日のことでございました。

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2001/11/13 (Tue) 笑顔屋

 ピエロは今日も、駅前でパントマイムを続け、赤いフードの少女は今日も、街角でアクセサリを並べ、ケイタイとにらめっこを続ける人は無表情で、電話をしている人はひきつった笑顔で、威勢のいい八百屋の青年は笑っているのかさえ問題ではなく、この街で本当に笑っている人は誰なのか、あるいはそれもまた問題ではなくて。
 “不思議通り”にまた店ができました。今回の店は“笑顔屋”です。


 だいたい展開が想像できるので中身を省略します。


 とにかく、この街にも笑顔が。そして今年初めての、雪が。

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2001/11/12 (Mon) 緋の鳥

 今日は試験日だ。大丈夫。免許を取るために教習所にも通ったんだ。一発テストで合格できる奴なんて滅多にいない。問題集もやり遂げた。そう、大丈夫。大丈夫なんだ。
 2108年、前世紀に統合されたこの世界は、それぞれの文化としての言葉や慣習を残しつつ、統一価値観として色々なものの免許制が始まった。車、資格、言葉、生活エリア、旅行範囲、そして、恋愛まで。
 今日は月に一度の恋愛免許の試験日だ。僕が受けるのは一般的日本人クラスだから問題もそんなに難しくはない。遠距離問題やジェンダー問題は選択しないつもりだ。国際結婚クラスの免許(一般にはゴールド)を持ってる人はマジで凄いと思う。
 おっと。考え事をしているうちに試験場に着いたぞ。年齢制限は結婚年齢と同じだ…とはいえ、やっぱり若い人が多いな。僕みたいに試験に落ちまくってる人は結婚できないんだ。ただ恋愛するだけなら免許なしでもいいんだけど…、ホテルに行くにも免許が必要だからね。大人の男として、持っておいて当然なんだ。
 さて。試験が始まるぞ(テスト問題がモニタに表示される)。
 問題の内容は一般常識とかモラルみたいなものだ。しかし問い方の角度が鋭いから、僕はいつも引っ掛け問題にうまく引っかかってしまうんだ。例えばこれ、『互いに性転換手術をしたカップルの夫婦としての役割はどのようなものか』って、どのようなものって言われてもしらねぇよって言いたくなるような内容だ。ペッ!じゃあほら、これ。『満員電車内で愛を囁き合う二人に対して、その二人となりにいたあなたのとるべき行動を述べよ』…述べよじゃねぇっつうの。おっと。ダメダメ。マニュアルどおりに答えなきゃな。【小声で注意する】だな。おっと、満員電車っていうのはキーだな…もしかして【免許の有無を問う】だっけか?それとも…
 この問題は面白いよ。『恋愛にセオリーはあるか否か』『中絶について思うところを述べよ』誰が問題作ってるんだって感じだよね。世界政府もクソだな。人口過密を抑制するための政策か知らないけど、こんなんでマニュアル通りの恋愛人間を作ったって(凄く偏ってるけど)何にもならないのにね。
 それでも自由な生き方を選んだらいつ射殺されてもおかしくないんだ。まあいいや。自己採点では合格のはずだ。来週に控えた性格免許試験と性別免許試験の勉強をしなきゃな。
 …自由か…

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2001/11/11 (Sun) ラブドラゴンクエスト

「やれやれ…この街も久しぶりだな」
「ああ。当時はレベルが低かったからな」
「そして成長した我々が、当時は開かなかったドアを開けるために再び戻る。これぞクエストの醍醐味というもの」
「どうした?気が乗らないのか?」
「いや…。行こう」

 勇者、戦士、魔法使い、僧侶というパーティ。彼らは幾多の修羅場と経験を積み、成長して戻ってきた。攻撃力は高いが防御力がイマイチの勇者。一撃必殺かミスかどちらかの攻撃しか出来ない戦士。小技ばかり使って相手を困らせる魔法使い。そしてチームの紅一点、癒し系の僧侶。というかパーティにとっては伴侶だ。
 そう。彼らの使命は巨悪を滅ぼすこと。しかし、殺し合いはしたりしない。そんな時代は終わったのだ。彼らの戦いは、通称“ラブゲーム”。防御力が低い勇者は打たれ弱く、僧侶の癒しがなければ生きていけない。しかし次から次へと標的を見つけてはアタックを繰り返す、その名の通り、勇気ある者だった。戦士のアタックはいきなりの「第一印象から決めてました!付き合ってください!」という中学生でもやらない告白攻撃だ。もちろん、ミスする確率はハンパではない。魔法使いはイヤミな魔法を使い、標的を精神的に追い詰めてからアタックする。僧侶は傷ついた愛のパーティを癒す女神そのものだった。
 そして今日、ついに彼らはこの大陸の最後のドアを開くクエストに来たのだった。もちろん旅の扉などというクズいものではない。この大陸最後の美女の心のドアを開けるのだ。
 ちなみに、このクエストは、愛の大魔王を倒すことに何の関係もない。しかし、クリアすれば確実にレベルが上がるだろう。これまで数々の経験を乗り越えてたくましくなった一行は、ついにここに戻ってきたのだ。パーティの心には伝説の大勇者、アーバンの言葉が刻まれている。『全ての戦いを勇者のためにせよ』と。
 彼らはこのクエストを乗り越えることが出来るのだろうか!?

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2001/11/10 (Sat) 欲望の神龍

 その日、雨宿りのために一人の若者が洞穴に入りました。外は土砂降りの大雨です。若者は背に担いだ薪や草やキノコを下ろし、大きくため息をつきます。ふと奥を見ると、遠くに光が見えたような気がしました。洞穴かと思ったら出口があるのでしょうか。
 とりあえず奥へ進むことにします。小さな光は確かに見えますが、そこまでどれくらい離れているのかもわかりません。ずっとずっと歩き、ひたすらまっすぐに歩き、疲れさえ忘れるほどの距離を歩いた頃、ようやく光が大きくなってきました。振り返ると、入り口はどこにも見えませんでした。
「だ、誰かおるんかいっ!」
 若者は光の方へ向かって叫びました。その声は自分でもわかるほど震えていました。
「…よくここまで来たな」
老人の声です。若者はゆっくりと近づきました。光に見えたのは、大きな蛇…もとい、龍でした。龍の体が、うろこが、光を放っていたのでした。
「ああっ!バケモンじゃ!食わんとってくれ!勘弁してけろ!」
若者は恐ろしくなり、土下座しました。足が動かないことを既に知っていたのです。龍はにゅっと首を伸ばし、若者の周囲を取り囲んでから、顔を近づけました。
「怖がらなくてもよい。ここまで来た勇気ある者よ」
「ほえ?殺さんのけ?すまんのう。ありがたやありがたや」
「今から言う七つの心のうち、一つだけを満たしてやろう。さあ、選ぶがいい」
 龍はゆっくりと七つの言葉を言いました。どれも若者には難しい言葉でした。
「…それってつまり。願いをかなえてくれるっちゅうことかいのう」
「お前の望みはどれだ?」

 気が付くと若者は洞穴の前にいました。雨は上がっています。振り向いても洞穴はすぐ行き止まりになっています。先ほどのことは夢だったのでしょうか。
 しかし若者が村へ帰ると、若者を取り巻く環境が変わっていることに気付きました。望みがかなっていたのです。若者はそれから、幸せな日々を暮らしました。しかし…

「七つの心のうち、一つだけを満たしてやろう。しかし、他の六つは一生満たされることはない。それでもいいのなら、選ぶがいい」
 使い切れないほどの金か、最高の食事か、永遠の快楽か、果てしない権力か、あるいは眠らずに済む体か、人に愛されたいと願う心か、一生を穏やかに生きられる未来か。

 …しかし若者は、満たされることを知ってしまったことで、満たされない悲しさを痛感しました。同時に他の欲求が肥大していくのを感じます。そこに残るのは全てを手に入れたいと思う欲望と、いっそ全てを捨ててしまおうという欲望だけで、そこそこの幸福を願うことなど最早出来なくなっていたのです。

「たとえ六つを…いや、全てを満たしたとしても、俺は、いや、人は!幸せになることはできんのじゃ!あの龍は悪鬼そのものじゃ!俺に光を与える振りをして全てを奪ったんじゃ!キー!」
 若者は自らその命を断ちました。

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2001/11/09 (Fri) 気志団先生

 中学生を相手に、社会を教えるという職業。しかし俺は、教科書通りの授業なんてやらねぇぜ。なぜなら俺は気志団先生だからな!
 俺の授業中は基本的にまばたき禁止だ。尾崎も禁止。バイク盗難は犯罪です。
 蛍光灯を最強の明るさのスポットライトに変えて、光の渦の中で突っ走るぜ。ついて来れない奴は置いていく。なぜなら俺は気志団先生だからだ。
 今日の授業は「自殺しちゃいけません」だ。喧嘩は華があるからよし。でも、殺しちゃダメだ。適度に殴り殴られるのが華がある喧嘩だ。まぁ喧嘩は措いといて、どうして自殺しちゃいけねぇのかを考えるのが普通の授業だが……気志団先生は違うぜ。そもそも、ダメと言われたことはやりたがるのが人間の性(サガ)だ。だから、死にたい気持ちは分からんでもない。
 どうして自殺がダメなのか、多感な中学生に教えるには「他の人が悲しむから」とか「いままでお前を育てるためにいくらかかったと思ってるんだ!」とか言っても無意味だ。俺ならこう言う。
 死んだら笑いものになるんだぞ!
 そして自殺者の写真を見せる。今日の資料は首吊りだ。
 ちなみにこいつは資料作成のために俺が吊ったんだが、まぁ、関係ない。死因は「向こう側に行きたいから」でいいじゃないか。a-ho! a-ho!
 まぁ、俺の授業を受けたい奴はいつでもクラスに紛れ込んでくれ。寂しがり屋たちの伝説さ。ちなみに俺は相手が中学生だろうが何だろうが構わず、こう言うのさ。
「俺んとこ 来ないか?」

チャッチャッチャッチャー チャララチャッチャッチャー a-ho!
チャッチャッチャッチャー チャララチャッチャッチャー a-ho!
One night carnival 胸の奥……(フェードアウト)

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2001/11/08 (Thu) ためになる国語 ~間違えやすい言葉

 2ちゃんで今、一番熱いスレ(視聴率0.000000002%)から、役に立つ言葉を紹介するコーナーです(唐突に)。きっとこのサイトを見てる誰もが知らない、けれど知ったら得をするという、トリビアーなワードを紹介していきます。
 ではいきます。


【愛想を振りまく】
「愛想」と「愛嬌」を混同した表現。それぞれ「愛想がいい」と「愛嬌を振りまく」が正しい使い方であり、「愛想を振りまく」「愛嬌がいい」という表現は、本来の正しい使い方ではない。


【汚名挽回】
「汚名返上」と「名誉挽回」を混同した表現。「汚名を返上する」「名誉を挽回する」というように、文章の形にして覚えると間違いにくいかも。


【的を得る】
正しくは「的を射る」か「当を得る」であるが、「的を得る」もあながち間違いではないという意見もある。


【みぞれまじりの雨が降る】
そもそも「みぞれ」が、雨と雪が混ざって降る状態を表す言葉なので「みぞれが降る」「雪まじりの雨が降る」と書くのが正しく、上記の使い方では、「頭痛が痛い」なんかと同じ、二重表現になってしまう。書くとアホの烙印を押される。


【失笑】
笑ってはいけない場面で笑ってしまうこと。これを笑いが消えると勘違いしてる奴が多い。


【気が置けない仲】
とても気の合う間柄のこと。気遣いする必要がない。遠慮がない様。


【気が置ける】
緊張したり遠慮したりして、打ち解けることができない。ほっとできない、という意。反対の意味で使われることが多いのは、「気が置かれる」から変化したもの。


【役不足】
その人の能力に対して与えられた任務が簡単すぎること。もとは役者に与えられた「役」語源となっている。


【法外の幸せ】
「望外の幸せ」が正しい。望んでいた以上にすばらしい結果が得られた、という意味。


【戸惑う】
受動限定の表現。まず相手側からのアクションがあって、それに対するリアクションを決めかねている状態。


【躊躇】
能動・受動両方ありな表現で、状況としては二者択一。「やるかやらないか」であって、「どれにしようかな」ではない。


【逡巡】
能動・受動両方ありな表現で、二者択一以外の状況での使用もOK。


【すべからく】
「すべて」の意味で使うのは間違い。「当然」「ぜひとも」の意味で使うのが正しい。「すべからく~すべし」という表現でよく使う。


【なおざり】
何かをある状態のまま放っておく。漢字では等閑。


【おざなり】
座ったまま適当にあしらう様。漢字ではお座成り。

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2001/11/07 (Wed) タワーオブバベル

 マンション「バベル」。そこは各階に部屋がひとつしかない、やたら高いマンションだ。部屋は各階とも同じ構造。2DKでトイレ風呂は別れている。防音は完璧。駅からも道路からも、あらゆる幹線から遠いものの、駐車場完備で45階建てという、なかば無理矢理な造りが受け、入居者が殺到、部屋は最低3ヶ月以上のキャンセル待ちという具合だ。ちなみに賃貸マンションだが、希望により分譲することも可能だという。1階は駐車場、2階は管理員の住み込み部屋、マンションは3階からとなっている。3階の家賃が4万で、あとは1階上がるごとに3000円ずつ高くなっていく。
 通称「タワー」。確かにひょろりと高いそのマンションは、一見、塔のようにも見える。
 そのタワーの32、33階は、宗教法人「救世主創出委員会」が借りている。他の部屋の入居者たちも、どうしてあんな変な集団に部屋を貸しているのか、不動産屋の気が知れない。しかもその2部屋はやたらに人の出入りが多い。

 元教団幹部の証言ビデオが出てきた。流出元は知らない。暗い部屋で、スーツを着た男の首から下だけが映っている。音声は変えてあるのだろう、妙に甲高い声になっている。男は淡々と教団の事実を喋り始めた。
「いやね、宗教法人は金になるじゃないですか(親指と人差し指で円を作る)。それで最初は山梨で始めたんだけどね、これがイヤに受けちゃって。いえね、もちろん我々が宗教団体だなんて言いませんよ。適当に名乗った医学研究組織だっていうことにして、優秀な人物の遺伝子を後世に残す研究をしてるんだって言ってお客に近づくんですよ。いえね、もちろん“表”は使いません。我々、出会い系サイトもいくつか運営してるんですけどね、そこでサクラの女の子を使って男を集めて、逆にサクラの男を使って女の子を集めたりしてね、それでパーティーを開くんですよ。深夜のパーティーです。飲み物には教団独自のルートで仕込んだ“薬”を入れて前後不覚にしてね、いえ、そんな売春行為とかはしてませんよ(人差し指を立てて左右に振る)。頭をちょっとボヤけさせて、教団のそのポリシーを仕込むんですよ。遺伝子治療の最先端だ、ってね。それで後日、数人を呼び出して……これもサクラを使ってですけど、それであのマンションに連れて行くんです。最初は32階。そこでテストをするんですよ。知能テストです(両手を閉じたり開いたり意味不明な動作)。もちろん、最初に出会い系サイトの登録情報から職業とか年齢を知るわけですが、まぁ、ほとんどが嘘ですね。男の方は嘘ですよ。女はけっこう本当の職業を書くんですけど、男は受けを狙ってるのか、社会的地位の高い職を書くわけです。そこで本当かどうかテストをするんです。簡単なテストですが、すぐにIQは出ますね。それで優秀な人だけをまた後日集めて33階へ行かせるんです。そこは教団の巣になってまして……いえ、本山といいますか。そこで救世主を作るという真実を叩き込むわけです。まぁ、彼らには寄付をしてもらうだけなんですけどね、いえ、ちょっとまぁ(照れ笑い)、彼らに稼いでもらって……ね(手をパッと広げる意味不明な動作)。で、教団がやってることと言えば、あれはもう、トチ狂ってますね。ほら、マンションは2部屋あるじゃないですか。その1室では、日夜、それはもう朝も夜もなく“聖交”が行われてるんです。ベッドが2つありましてね、優秀な遺伝子を持った人間同士が……まぁ、やりまくってるわけです。しかしそれは不貞ではない。いえ、野菜や動物の品種改良と同じですよ。優秀な人材同士の交配で、より優秀な素材を作る。そうして日々、より優秀な人間を……“新人類”を作ろうと、躍起になってるわけです。
 (コップの水を一気飲みして)で、そうやって優秀な人材を作り上げたあとは、タワーとは他の場所で教育します。それで救世主を作ろうってんだからね、アンタ、こりゃもう狂ってるとしか思えない。しかも救世主になれなかった、選ばれなかった子達はもう用なしだってんで野に放すわけですよ。まぁ、誰かが見つけて施設とかに入れてくれるんでしょうけど、あんなことやって何の意味があるのか……そう思ってたんです。しかし、私が教団を抜けたのは、教祖が私に話したことのせいなんです。教祖はね、そうやって優秀な肉体と頭脳を持った人間……救世主ができたら、今度は自分の脳を移植しようってハラなんですよ。ありゃあ許せなかった。倫理的にね。だから私は彼を殺してこうしてビデオに真実を残し逃亡する決意を固めたんですけどね、聞いた話によると、教祖が自身のコピーを試した結果が、まだまだいるらしいんです。脳や遺伝子を、細胞をね、教祖のそれと置き換えるように遺伝子操作された人たちですよ。何十人っていったかな。もう世の中、教祖だらけですよ。私はこうしてひとりでその教祖コピーたちを暗殺してるんですけどね、教団の勢いは止まらない。いまや私の存在もバレて、命を狙われてる始末です。でね、最近、気付いたんですよ。そんな悪の教団を倒すために日々闘っている私こそが、もしかしたら人類にとっての救世主じゃないかってね。だから私はあの教団を今度は買収することに決めたんです。なぜって? ハハハ、決まってるじゃないですか。救世主である私の優秀な遺伝子と細胞を後世に伝え遺すためですよ。優秀な私をコピーして、人類を新たな舞台に立たせてあげようってわけです。新たな舞台に立つのは私の部隊、なんてね。ハハハハハハハ……」

 ビデオはそこで終わっていた。巻き戻してみてみると、なぜか古い火サスのラストシーンが映っていた。崖で犯人が捕まって全てを告白、そしてスタッフロールとともにエンディングテーマ「マドンナたちのララバイ」が流れる。
 遣る瀬無い気持ちで一杯になった。

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2001/11/07 (Wed) ぼくのなまえは スーパーまりお

「よう、マリオ。今日は弟は一緒じゃないのかい?」
「ふん。うるせぇな。ほらよっ」
マリオは後ろを向いて男のポケットに金貨を入れた。
「よし。じゃあ今日は渋谷駅のコインロッカー。618号だ」
「ちっ。またうるさいところに入れやがって」
「まぁな。じゃあまた頼むよ。お前が持ってきてくれるコインは上等なんだよ」
「あたりまえだろ」
「なぁ、長い付き合いじゃないか。教えてくれ。あんな純金はどっから持ってくるんだい? あれを売ればケチな売人なんか辞められる。足を洗えるんだよ」
「うるせぇな。コインを取るためにオマエが必要なんだよ。俺たち兄弟はな!」
「ちっ……典型的なジャンキーだよ。じゃあ、今度こそ教えてくれよ」
「ああ。またな」
「オマエ、震えてるぞ」
「早く……あれが欲しくてな」
「わかった。じゃあな、ほら、キーだ」
そう言って男はコインロッカーのキーをマリオのポケットに忍ばせた。

 ロッカーを開けるとそこには紙袋が。その中にはビニール袋が何重にも包んである。
「ほほう……さすがはこの街最狂の売人、クッパだ。今回も大量だな」
袋の中には見たこともないキノコが。

 部屋に帰ったマリオはキノコを一本、生のまま飲み込んだ。その瞬間、彼の身体はムクムクとふくらみ、ダブルベッドいっぱいのサイズになった。
「来た来た……いい夢を見れそうだ……」
そうしてマリオは今夜も眠りに付く。目覚めた時にはなぜかコインが大量にベッドのわきに積んであった。

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2001/11/06 (Tue) over the rainbow

 信じたくない出来事を、あなたはいつもどうやって乗り越えてきましたか?
 優しい嘘だけを見ていれば、何にも傷つくことなく生きていくことさえ可能だった。それだけに生きて、それだけを夢見て、そして他の誰かを、おそらくは全ての人を傷つけて、それでも真実に触れるよりはよっぽど幸せだろうと思った。知らず伸ばした両手は、優しい仮面を剥ぎ取って、ノイズがかった話し声の先にいるその人の真実を余すことなく見せつけ、それでもその嘘が助けを求めるサインであると信じて大切な人を傷つけながら愛とかいう泥まみれのそれのために希望に満ち溢れていたはずの純粋さを汚し、さらに自身の首をも絞めようとしてくるのだった。僕は何も言えず、ただうつむいて歩くことしかできなかった。この街にいる嘘と愛と真実、その誰にも会える気がしなかったから、僕はただうつむいて歩いて、血走った目だけをキョロキョロとこまめに動かしながら自身を恥じた。
 その感情を表現するなら、動揺と絶望と恥辱と嫉妬と軽蔑と自嘲と感謝と謝罪と後悔と、そして決定的で圧倒的で卒倒しそうなほどの「死にたさ」で、それはもう筆答するしかないくらいに自分の身体を蝕んでいた。
 身体は重く、地の底深くへ沈んでいくかのような圧迫感を感じているのに、心は全く逆で空へ駆け上がる気持ちを生み続けていた。現実逃避さえできない現実まみれのこの世界で、この国で、この街で、同じ駅で、僕はどうやって生きていけばいいのか、どうやって自分を恥じればいいのか、どうやって自分を表現すればいいのか、どうやってキミに謝ればいいのかを考え続けた。
 心を弄び身体を舐め回し滴り落ちる液体と波に全てを委ね、何よりも誰よりも「今」を感じようとすることが、誰もが通る何気ない日常の一ページが、毎日毎晩あらゆる場所で繰り返されるその行為がどうしてこんなにも心を壊すのかは筆舌に尽くし難く、百千万の言葉よりもただ一つのビジュアルで全てを語ることができるのならば、睨むような瞳と端を持ち上げた口から滴る液体だけが唯一の表現方法で、それが誰かが目指した「リアル」ならば、そんなのもんは僕にはいらない。
 かつてキミに言った言葉がある。だけどいつだって僕がそれを受けるだけで、僕は何一つ返すこともできないままだ。
 キミを、守る、と。
 夕方から降り続く雨が、やっと上がった。僕には見えないけれど、誰かには見えるだろうか。真っ暗な夜空に掛かっているという虹を。どんな目で見上げれば、それが見えるんだろうか。

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2001/11/05 (Mon) 東京都市民部清掃課特別捜査班事例ファイル

 僕の職業は、一言で言うと公務員だ。だけど一般的なイメージの公務員とはほど遠いものがある。肩書きだけなら「東京都市民部清掃課特別捜査班」と、パッと見では清掃課だからゴミ掃除でもしてるんだろうと思われがちだが、実際はそうじゃない。
 清掃課特別捜査班、通称「コインロッカー班」。
 主な仕事は、都内全域のコインロッカーを見て周ることだ。普通、コインロッカーを見ると注意書きとそれらしい業者の電話番号が書いてあるが、それは世を忍ぶ仮の姿だ(なぜこんなことをしているのかは清掃課のボスしか知らないらしい)。長期延滞、主に一週間以上の延滞があるコインロッカーをこじ開け、中身を預かり主に届けるのが仕事だ。もちろんその際にお金はいただく。
 客のパターンは3通り。旅行に来ていた地方の人や外国人の忘れ物か、死体か、銃やドラッグか、だ。どれにしてもなかなか面倒で、忘れ物程度なら通知すればいいだけなのだが…、死体も銃も薬も出所がハッキリしなければいけない。その際の調査もウチで行うから「特別捜査班」なのだ。

 それはいいとして、こんな噂を聞いたことがある。ボスから直接聞いた話だが、東京駅と新宿駅には秘密のロッカーがあるらしいのだ。そのロッカーは300円を入れても開閉しない代わりに、秘密のコインが必要らしい。しかも3枚。僕は実は、今までの仕事の中で2枚を見つけ出していた。コインロッカーの料金の中にときどき混ざっていることがあるのだ。100円玉の中に、大きさも重さも形状も同じような、でもデザインが違うコインだ。
 コインには裏に変な男の顔が描いてあり(中世ヨーロッパの貴族みたいなくるくる頭の男だ)、表には「邪馬台国」となぜか漢字で書かれている。イタズラみたいなコインだ。
 ボスによれば、その秘密のロッカーは「入り口」らしいのだ。
 限られた者だけが入ることが出来る、謎の入り口。ボスは言っていた。若い頃に一度だけ行ったことがあったが、あれはよかったぞ、と。妙にニヤニヤしているボスが印象的だった。
 …っと。ビデオを見るから今日はここまでだ。続きは後日…。でも情報を募集してます。

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2001/11/04 (Sun) 鬱

 雨の降る日曜日。傘を持たずに部屋を出て、コンビニの入り口に置いてあるビニール傘を当たり前のようにパクって歩き出す。
 休日だというのに制服でゲーセンにたむろする高校生を横目で見ながらトイレに入ると、学ランを着たピアスだらけのクソガキがカツアゲをしていた。される方は怯えながら財布を差し出している。高校生くらいだろうか。こいつらにとっては世界の全てが高校生なのだろう。大人とか子どもとか、外国とか世界とか、文学とか数学とか、もっと大きな視線で世界を見れないからこんなチンケな奴らに怯えて毎日を過ごしているんだ。
 俺はピアス野郎の耳を引っ張った。ビシ、と変な音がしてピアス野郎が顔をゆがめる。間髪いれず股間を蹴り上げ、顔の位置が下がってきたのでぶん殴って便器に埋めてやった。
 弱いものいじめ。暴力。発散。本能。快感。いろんな言葉が浮かんだ。俺を見て怯えているもう1人の学ランの腹を殴ってトイレから出る。用をたすのを忘れていたことに気付くが、再び入っていくのもダサいかもしれないのでやめておく。
 憂さ晴らしの手段は、本能に従うことだ……そんなことを言った馬鹿が昔いたような気がする。小動物を殺したり人を殴ったりメシをたらふく食ったり女を抱いたり思い切り寝たり物を壊したり人の幸せを壊したり人の心を壊すことが、一番簡単なストレス解消法なのだと。しかし、そんなことはネアンデルタールのやることじゃない。新人類と呼ばれた下衆のやることだ。そういえば俺もその新人類の末裔だ。ならばやはり、根幹にあるのは狂気や欲望か。
 だが、厄介なのは「慣れ」だ。犯罪も幸せも、狂気も殺しも全て慣れてしまえばなんてことはなくなる。虫を殺しても何も感じないように、気持ち悪いな、程度にしか感じられなくなってしまうことだ。だから人は絶えず刺激を求めるのだ。例えば女は、ドキドキした感覚を恋愛のそれと勘違いしてしまうことが多い。だから暴力的だったり危険だったりするヤンキーに憧れてしまうケースが多い。往々にして十代の小娘にその傾向が強いのは、感受性が豊かで常に刺激を求めるからだ。そして世間的に「ダメ男」に傾いていく。それもまた新人類の傾向だ。要するに、サルと同じということだ。
 ならば絶えず新鮮でありながら慣れることがないものとは何か。
 ずばり言おう。それは正義だ。
 正義こそが真に本能を満たす。柔らかで暖かな心の流動、それこそが暴力より犯罪より金より欲望より遺伝子よりハッキリした本能だ。
 慣れるのは簡単。やめるのは簡単。死ぬのも簡単だ。だが本当の満足は、それらの対角にあるものだ。そう思いながら、俺は雨の中を歩く。誰かの傘を持って、誰かの金を使って、誰かの喜びを奪って、俺の喜びを失いながら。


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2001/11/03 (Sat) インディゴ

「コンビニエンスストアは記号的だという考え方がある。それは個人の気持ちの問題ではなく、特に僕においては世界観というレベルにまで押し上げることが出来る考え方だった。商品、店内、店員、そして客さえも全てが統計的に効果的な記号で表され、意味を希薄させられて陳列される。しかも、陳列の方法も非常に効果的な判断により行われている。この判断もまた個人の気持ちではなく、記号として効果がある…つまりは金になる…との結果から得た処理だった。機械が制御するコンビニエンスストアは、それ自体が機械なのだ。機械の処理はどんなトランザクションを組もうと、究極的にはゼロかイチかの二択になってしまう。この世の全てをゼロかイチで判断してしまう。それはある意味で素晴らしい。人間は…ともすれば生存する全ての生物の中で唯一この種だけが…判断に意味を付加させるくせにその判断を誤り、さらには意味をも間違えてしまう。ただ、ひとつ幸いなことがある。判断を誤ってしまったとしても、それは「よかった」か「よくなかった」かのどちらか、二択で判断できるということだ。重要なのはAかBか、ではない。それが記号的な処理の救いだ。AかAではないか。集合という概念の中、AのバーおよびAで全てを包囲できるけれど、人はAのバーの中にBなどという事象を持ち出して意味を曖昧にさせていく。BがAのバーの中に含まれるのだから、究極的にはAかAではないか、という二択で全ては現されるだろう。しかし。駄菓子屋で先日、奇妙な商品を見つけた。「うまい」とだけ書かれた小さな袋だ。中身はどこにでもある菓子が入っているが、それもまた記号的に付加されただけの抽象的な、果てしなく意味と意思を持たず判断から逸脱したものであるはずなのに、その「うまい」の一言は人の判断をありえない重力…あるいは引力…でもって引き寄せてやまない。意思は、あるいは言葉は引力だ。自分の意思に対しての引力。心を揺さぶる言葉は、それ相応の質量を持った命題だったのだ。何気なく発した言葉が、判断によって重力をゆがませる力を持つことは想像に難くない。つまり今日は何が言いたかったかというと、この知性にも引力があるということの証明をしたかっただけだ。この言葉に反応する存在は引力に引き寄せられたと考えるべきだ、と」
 男は息継ぎする間もなく、圧倒的な活舌で一分も経たないうちにこれらの言葉を言い放った。しかし通り過ぎる人々は、選挙カーの上のこの男に一瞥もくれないままに行過ぎるのだった。

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2001/11/02 (Fri) バベル

 世界の真ん中に、空にまで届くほどの大きな塔が建っていました。
 その最上階では、各国の代表が会食をしていました。そこから見る景色はまるで神の視点です。地上はビルで多い尽くされているはずなのに、その形さえ見て取ることはできません。見えるのは灰色の地上と、陸の形。世界がどんな形をしているのかが、はっきりとわかります。
 世界で一番大きな国の代表者が言いました。
「ここから見える全部が自分のものになればいいのにな」
世界で一番平和な国の代表者が言いました。
「国境線など見えないのに、この地上は細かく切り分けられているんだな」
世界で一番寒い国の代表者が言いました。
「どうして我々だけがこの場所に立って見下ろしているんだろうな」
世界で一番人口が少ない国の代表者が言いました。
「我々がここから降りなければ世界の平和は訪れないんじゃないのか?」
隣の国の代表者が言いました。
「この塔が僕のものになったら、お父さんや綺麗なお姉さんは僕を褒めてくれるかなぁ」

 この国の代表者は下も見ずに各国の代表者の顔色を伺うだけで、何も言いませんでした。

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2001/11/01 (Thu) 自己相似は宇宙の基本

 中心にひとつ大きな○があって、その周囲をくるくると小さい○が周っている。しかも回りながら周っている。太陽があって、その周囲を惑星が周るように、地球があって、その周囲を月が周るように、原子の周囲を電子が周るように、「宇宙」はそんな自己相似の繰り返しによって構成されている。
 素粒子は空気よりも小さいから、素粒子と素粒子の間の極小には空気が存在しない。じゃあそれは「無」なのか、というと、その部分にも「何か」が満ちている、と考えたほうがわかりやすい。「無」の中を行き来できるのか、というと、実際は「できる」のだけれど。
 重力、電磁気力、素粒子の相互作用、という「段階」と質量、早さ、時間、という「段階」はマクロでみたときにひとつの○によって結びつけることができる。
 すなわち、「意思」。
 脳みそが感じる刺激というのは電気信号のやりとりという、一時的な、物理的な、コンピュータ的な、まるでパソコンのキーボードを押していくような、それはもう一時的な作業でしかなくて、そんな中で「わたし」という概念が生まれるのはどういうことなのだろうか。「意思」があることとないこととについて、どれほどの違いがあるというのか。
 惑星間の在り方が素粒子のそれと相似なのは、○と○の関係性がある基本に乗っ取って繰り返されているだけだからだ。それはもう、全てが。「全体像」から繰り返しの一部分をパターンとして切り取ること、それがミクロの在り方だ。
 だとすれば。「意思」もまた、「全体像」の一部分のパターンを切り取っただけなのだ。「個人」や「わたし」という概念は「意思の全体像」の一部を切り取ったものだと云える。

 何が云いたいかというと、その全ての「わたし」がひとつの○から生まれた、ということだ。そして「個人」として生きることが、考えることが、欲することが、過ちを犯すことが、その全てが「全体像としてのわたし」のパターンの繰り返しだからこそ、人類は同じように戦争を繰り返すのだ。どんなに時間が経っても戦争が終わらないのは、それが人間の…あるいは「わたし」の本能だからだ。そして「全体像としてのわたし」は戦争を好みながら世界を平和にしたいという矛盾を抱えていた。
 だから聖者も悪人も僕ら一般市民も、神様も英雄も奴隷も、教師も生徒もみんなも社長さんも、全部が同じパターンの繰り返しという人生を歩むだけだ。その、ある意味で決められたレール…「全体像としてのわたし」…から「わたし」だけを確立した上でレールから逸脱することが、いや、しようとすることが、「わたし」なのだ。

 それもまた、「全体像としてのわたし」の抱える矛盾にすぎないのだけれど。

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