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2002/04/20 (Sat) それぞれの(1-6)

 眠っているキミのその愛らしい頬にそっとキスをして、行って来るよと呟く。
 何を思い出せないのかはわからないけど、それでもまぁいいさ。僕は…そう、ボクは。大切なキミと一緒にいられるだけで、他の何を失っても、忘れ去っても、大丈夫なんだよ。

 そういえば昨夜、何かを悩んでいた気がする。
 それは何だっけ? キーワードがあるはずだ…。何かを忘れたときはキーワードを思い出せれば、それを得ることができれば連鎖的に思い出すはず。
 大学について、とりあえず研究室に向かう。まだ誰も来ていないようだ。ボクはIDカードをカードリーダーに通し、ロックを解除する。これはいつもボクの仕事だ。
 …ID?
 そうだ。IDだ。たぶんキーワードはID。ID…自分であること? 自己証明? 自分? ボク? ぼく…僕。おれ。俺。オレ?
 それと…確か。僕は何かを得た。もうひとつのキーワードだ。そう、それは僕だ。僕の重なりだ。空間的…じゃなくて、時間的な。互いに平行に存在する…あるいは直線上の、その2つの点と点を重ね合わせるんだ。同じものであるはずなのに、それが重なった瞬間に…そう、瞬間に、だ。ゼロに限りなく近づくその瞬間に、僕は何かを得たはず。
 …虚。
 虚だ。虚数。I の2乗はマイナス1だ。ボクはそのマイナス1に何を見た? 何を得た?
 まぁいい。きっと何かを得たんだろう。それだけで十分だ。

 先生。先生が考える超高次元の何かに、ボクは近づけた気がします。
 きっとそれを証明してみせる。「虚」、つまり「存在しない何か」。あるいは「無」。だけどそれはゼロじゃあない。虚を実に変えた(はずの)ボクなら、それに近づけますよ? きっとね。

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2002/04/15 (Mon) それぞれの(1-5)

 目覚めると、いつもの布団の上だった。
 隣には彼女も寝ている。あれ、僕は…夢を見ていたのか? どんな夢だっただろう。何かを思い出せそうだけれど…うん、重要なことを忘れている気がする。何を忘れているのだろう?
 僕が夢の何かを忘れてしまったこと、これについて深く考えたいところだが…今日はTAの授業がある。馬鹿大学生と研究一本のアホ教授の間で僕はなんちゃって講師をしなければいけない。まぁ、いっつも講義から話が逸れたまま授業は終わってしまうのだが。
 ところで僕は何を思い出そうとしていたんだっけ? 何か忘れてたことがあったんだっけ? あれ? 何を忘れたのか、を、忘れているぞ?
 くそっ。これが夢の悪いところだ。重要なメッセージを秘めているはずのそれが、重要な部分が、目が覚めると同時に消えていく。記憶の中から消えていくんだ。どうして消える? どうして僕はそれを記憶に刻めない? 脳細胞の奥底に…! ほんの小さな電気を流せばいいだけのことなのに、どうして僕のクソ脳はそれを行わない? どうして忘れていく?

 隣で寝ている彼女が寝返りを打った。僕に背を向けて気持ちよさそうに眠っている。
 そういえば、キミと出逢ったのはもう何年も前のことなんだよな。それはまるで昨日のことのように思い出せるのにね。

 静かに着替え、用意されていたサラダを少しだけつまみ、パンをかじって生ぬるいコーヒーで流し込む。愛しいキミと会話もできないまま、今日の僕は大学へ向かうよ? キミは今日は遅番だと言っていたから寝かしておいてあげるよ。そういえば、昨夜キミが何時に帰ってきたのかも僕は知らない。僕が知らない間に帰ってきて、眠っている僕の側にいつものように寄り添ってくれたの?


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2002/04/12 (Fri) それぞれの(1-4)

 待てよ。
 僕に会うのではなくて、彼女に会ったらどうだろう。
 「ボク」と彼女は出逢って恋をした。それは通過したことだ。しかし、「俺」と出逢った彼女は、そして2人は、付き合うことができるだろうか?

 さてここで問題です。
 僕自身に会い、話をすることができたなら、それはもしかして「今」を手に入れることになるかもしれない。「今」とはゼロと呼ばれる刹那にも似た時間、無限小かもしれない。だが本当は、数え切れない程の時間、無限大かもしれない。「今」を手に入れることへの僕の純粋な学術的興味…その好奇心! 興奮!
 …落ち着け。その興奮を取るか、彼女と出会って未だ見ぬ「未来」に向かって進むか。
 どちらが僕が進むべき道なのだろう?
 くそったれ! 数式で表現してみろ(やばい、こう考えるのは僕の悪い癖だ…混乱している証拠だ)! でもこれは虚数の謎を解明できるかもしれないぞ。2人の僕が出会うこと、僕はつまりアイ=I、だ。I が2人、I の2乗…マイナス1?
 そうか、僕が2人出会うことは、マイナス1になるのか! これで虚数が果てしなく現実的になったぞ! 虚が実になる瞬間、それはマイナス1なのか!
 つまりは「今」とは虚なのか! だとすれば、それが存在する瞬間は…時間的には無限小なのに、それが存在する確率は限りなく1に近づくということか…!

 よし、会うまでもなく「ボク」と出会った場合のシミュレートは終了だ!
 残るはひとつ…! 彼女と出逢った場合のシミュレートだ!

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2002/04/10 (Wed) それぞれの(1-3)

 そして「今日」は、僕が彼女と出逢うその日だ。
 今日初めて2人は出逢い、そして何度かのすれ違いの後、もう一度デートして…ってそんなことはどうでもいい。さて、どうする? 僕はいまここにいるわけだが、今から行けば間に合うかもしれない…というか、悩むまでもない。もういちど、彼女と出逢おう。あの日をもう一度やり直す。まぁ、やり直す必要なんてないわけだけど。あの頃が「今」になるだろうか? 彼女のことをほとんど知り尽くした僕が、僕のことを何も知らない彼女と出逢えば、もっと2人は早く親密になっていくかもしれない。未来は変わるかもしれない。
 過去と未来の間に「今」があるなら、それは瞬間かもしれないけれど…、僕はそれを見つけたい。

 というわけで街に出た。僕のバイト先のコーヒー屋に彼女は訪れる。そして僕にぶつかる。僕はコーヒーまみれだ。よし…大丈夫。数年前のことなのにこんなにはっきり覚えている。最近のこと…彼女との会話…はあんまり覚えていなくてよく怒られるけど、なぜかこの頃の記憶は鮮明だ。最近は海馬だけで会話をしていて脳の記憶装置にまで言葉が浸透していないのだろうか? このままじゃ脳が腐る。まぁいい。コーヒー屋だ。
 と思ってバイト先に来てみたものの…、おいおい、ガラス越しに見えるあれは、僕じゃないか! どういうことだ! この時代に僕が2人いるというのか?
 僕の存在は世界においてイレギュラーなのか?

 …それもまぁいい。楽観的でポジティブなパーソナリティ。それが僕だ。もしかすると、この頃の僕と会話ができるかもしれない。現在…あえて今とは言わない…の僕が失った何かを、この頃の僕は、持っているかもしれない。
 何か見つかるかもしれない!

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2002/04/07 (Sun) それぞれの(1-2)

 目が覚めると、そこは懐かしい部屋だった。
 去年まで僕が住んでいた部屋だ。妙に片付いたテレビ周りと、やたらに物が多い机の上。ノートパソコンの横にはコンビニ払いの払込票が何枚か置いてあり、壁際にある電源が入れっぱなしになったコンポはなぜかチカチカと青白く光っている。
 でもカレンダーがない。
 それは僕の部屋の特徴だった。「今日」を知ることはテレビをつけるかパソコンを開くか、とにかく何かしなければいけない。ところで、僕はどうして過去にいるのだろう?
 …6月18日。だけど2001年。おいおい、これは夢か? 自覚した夢だとすれば、あの頃をもう一度楽しむことくらいはできるかもしれない。僕は大学生。気楽に生きていられる身分だ。人生を楽しんでいた頃、そう、それは青春だ。これが夢だとすれば、僕の願望だとすれば、僕は青春時代に戻りたいと願っていたのだろうか?
 それとも、これは…
 と、そこまで考えて僕は昨夜布団の中で考えていたことを思い出した。そう、「今」はたしか僕が「ボク」だった頃。少年だった頃だ。
 「俺」のルーツを探して、自分探しの旅に出よう。
 僕はひとつの悩みを…、未来から連れてきた悩みを抱えたまま、そのしみったれな旅に出ることにした。ちなみに悩みとはこの旅のテーマとは全然関係ない。
 「未来」から来た僕になら、もしかするとその悩みも解決できるかもしれない。
 現在は大学院でその研究をしているけれど、一向に進まない。もともと僕のような凡人が扱ってはいけないテーマだったのかもしれない。

 星や月、太陽でさえ、「今」の僕が見ているのは「過去」の映像なのだ。光が届くまでに時間がかかることから起こる現象…ごく当たり前のことだ。だから僕が見ているのは全て「過去」でしかない。目の前にある物や人を見ることにもまた、極小の遅れが生じている。無限小の遅れは「ゼロ」といえるだろうけれど、僕は、我が侭でしかないのだけれど…
 「今」の世界を見てみたいと願う。

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2002/04/04 (Thu) それぞれの(1-1)

 「キミとボク」だった世界は、いつしか「俺とお前」に変わってしまっていた。僕は本当はそれに気付いていた。僕が「ボク」でいられたのは、彼女に出会う前だった。僕は彼女と出会い、話し、その価値観に触れ、その存在感を感じ、そして世間を知っていった。
 雑誌の紹介文でしかなかった外の世界は、あまりにも眩しくて美しくて、それまでの自分ではその変化についていけなかった。沢山の人、モノ、金、情報、そして意思が交錯するその世界は、あまりにも魅力的だった。
 それは快楽だった。欲望だった。喜びだった。破壊だった。

 僕は変わっていく自分を感じながら、それでもいいと思っていた。
 変化に順応することが、歴史上必要だったことはすでに証明されている。弱小な意思はやがて、ただの我が侭と言われてしまう。それなら僕は変化を自ら手に収め、自らの意思でそれを吸収していこうと思う。
 だから弱いままの「ボク」ではいられない。僕は強くなるため、「俺」へと変身した。

 いつかその変化が終わったときに、「俺」は「僕」を見つけ、さらに「ボク」に戻ることができるだろうか? あるいはその必要が、いや、必然性があるのだろうか?
 例えば今、今日、こんにちこのとき、彼女の目の前で、「俺」が「ボク」になったとして、それを彼女はどう受け止めるだろう?
 もう、どちらが本当の「僕」なのかも、わからなくなってきている。

 だから僕は、流されるままに「僕」を変化させ続ける。

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2002/04/01 (Mon) Into the blue

「何か悩んでるの?」パソコンに向かう女と、女に背を向けてベッドに横たわる男。
「別に悩んでるわけじゃない」男はぬいぐるみを引っ張ったりして遊びながら曖昧に答える。
「じゃあ何か考え事?」
「考え事」男は即答する。
「そっか。聞いてもいいの?」
「そう言ってくれるのが有難い」ちらりと女の方を見る男。女はチャットをしているようだ。
「というか」男が続ける。「聞く前にそうやって聞いていいかって言ってくれることが有難い」言い直してぬいぐるみを抱きかかえる。
「何、考えてんの?」
「漠然としたこと」また男は即答する。
「どんな?」背を向けたまま女は尋ねる。
「現実について」
「へぇー」女は抑揚もなく相槌を打った。
「俺はね」男は目を瞑り、「いや、俺もね。そろそろ頑張らなきゃなぁって思ってさ」
「ふぅん。何を?」
「何もかもを、だ」女がろくに聞いてもいないことを知りながら男は続ける。「金を溜めて、キミに好きな物を買ってあげて、生活を潤すために」
「そっかぁ」
 俺にも欲しいものはあるんだけどね、と心の中で呟く。それから女の方を向き直った。
「仕事を頑張ることをさ」女はチャットに興じている。
「いい加減気付いたよ。ソレに対する感情もなくなってきた。受け止められるようになってきた。だから頑張るんだ。キミの言葉さ。“夢ばっか見てないで現実見てよ!”ってさ」
 やっと女は振り返り「ごめん」と呟く。男は口の端を少し持ち上げ、肩をすくめてみせた。
「いや、いいんだ。夢を見るのはタダだけど、夢を叶えるには金がかかる。そんなことより生活が第一だ。贅沢な暮らしなんかいらないけど、せめて来月の家賃くらいは払えるくらいの貯えがないと意味がない。そうだろ? 男として最低だ。キミを養ってさえいけない」
「あたしも仕事するよ」
 男は静かにため息をついた。それを全て吸い込みなおすように大きく息を吸う。
「うん。それはそれだ。頑張れる分だけ頑張ればいい」そう言いながらこれから買うべき物の値段を計算していく。2人の水着、交通費、食費、自転車、カバン、化粧品、牛乳に卵、そんな生活に欠かせない、けれどくだらない物たち。それらを羅列していくにつれ、そんな当たり前のものさえ買えない現状に泣きたくなりながらも、男は笑顔につとめた。
 いつか少し余裕が出来たら、俺の──……
 いや、俺のための物はいらない。俺が欲しいものなんて目の前の女にとってはゴミ以下でしかない。たとえそれが仕事に必要なものだとしても、彼女の興味にとって必要か否か、それだけが全てなのだ。また男は静かにため息をついた。俺が最後に自分の物を買ったのはいつだろう?
「どしたの?」女がパソコンに向かいながら尋ねた。男はそれを無視して考え続けた。
 カバンを買ったのは4年前、スーツを買ったのは3年前、靴は2年前、Tシャツは1年前だ。今年はそれらを新調したいけれど、そんな金もないだろうな……
 くたくたになったスニーカーを思い浮かべ、男は知らずに涙をこぼした。
 もしも欲しいものがあるとすれば、それは、新しいスニーカーだ。
 今のスニーカーは穴が空いていて役に立たなくなっている。走ると踵がガンガンと痛くなる。それを買うのが俺の夢だな、そう心の中で呟き、男はまた静かにため息を吐いた。
「でもさぁ」女が顔を半分だけ向けて言った。「そんなに肩肘張って頑張んなくてもいいよ」
「無理だ」男はまた即答した。「頑張らなきゃ金が貯まらないだろう」
「お金のことなんてそんなに心配することじゃない」何を根拠にそう言うのかは知らないが、女はそう言った。男は少し眠くなってきていた。
 何かが欲しいと言えば買ってもらえる立場のキミにはわからないよ、そう言いたかったが男は歯を食いしばり、「いいから。心配すんな。今の俺は頑張れるから。心配かけてごめんな」と笑ってみせた。なぜか涙が溢れてきた。それをこぼしてはいけない。ぐっとこらえた。
「それでも」そう言って声が震えていることに気付き、いや、と男は黙り込んだ。女はまたパソコンと睨めっこしていた。
 ──それでも俺には夢があるんだ。
 そう言いたかったが、言葉にならなかった。自分の“生”に何か意味があるとしたらそれだ、と男は信じていた。人に言っても大きすぎる夢だと笑われるだけだと思った。今までの人生でいくつも表現方法を変えてきたけれど、根底にある思いはひとつだった。男はかつて出会った“人生の先輩”のことを思い出した。彼は音楽でその思いを遂げるつもりだと語った。男は今になってその言葉の意味が分かってきた。
 ワンラブ。
 音楽で、絵画で、言葉で、行動で、色んな方法で、世界中の誰かがあるいは誰もがその思いのために今日も汗を流している。そう思えば、男には頑張る理由が生まれるかもしれない。大げさすぎるけれど、世界をひとつの思いで繋げること。それが叶ったとしても自分の人生に何の意味もないことは知っている。自分を認めて欲しいと思う、ただのエゴかもしれない。
「まずは金だ」男は大きなため息をつき、呟いた。女は眉間に皺をよせて男の方を見た。
「これはあたしが昔……小学生のときに言われたコトなんだけど」女はディスプレイの電源を切って男に寄り添うようにベッドに横たわった。

「目の前には真っ白でまっすぐなトンネルがあります。出口も見えないほど長いトンネルです。あなたはこの先へ行かなければいけません。さて、あなたはどうやって先を目指しますか?」

 男は思った。真っ白なトンネルなら、その壁の一面を俺の言葉で埋め尽くしてやる。
「その答えはね」女は続けた。「あの頃は子どもだったから分からなかったけど。今なら分かる気がするんだ。走ってくとかゆっくり歩いてくとかがほとんどで、進まないで寝るとか言う子もいたけどね」女はそこでクスクスと笑った。「壁いっぱいに絵を描くとか、道に花を植えてくとか、歌を歌いながら歩いてくとか、横に穴を開けるとかそんな子もいたんだ。そのときはその子たちは何それ、って言われてたけどね」
「それが、本当にしたいことなのかもな」男は目を瞑ったまま呟いた。
「流石に逆走してくって子はいなかったけどね」
「大人にはいそうだな」
 2人はクスクスと笑った。

 男はテレビを消し、女に軽くキスをして、ベッドから起き上がった。ただ、男にとっては、ぬいぐるみにする口付けも女に対するそれも、同じ感覚に思えた。

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