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2002/08/31 (Sat) family away

 それは、退屈で平凡な毎日を送る高校生の物語。
 ある日、父親がリストラにあった。すぐに再就職に走るかと思いきや、「俺には夢があるんだ」などと言い出して毎日部屋に篭って何かをしている様子。もう2週間もだ。家庭内の不安はどんどん高まる。
「だってオヤジが働かなきゃ俺たち生活できねぇじゃんかよ!」
憤りをぶつける息子。疲れた様子の父はフッと力なく笑い、再び部屋へと篭ってしまった。どうやら小説か何かを書いている様子。母の話によれば、若い頃は小説家を目指していたものの目が出ず、自分を殺して家族のためにサラリーマンを続けていたのだそうだ。
 父にも夢があるんだ……息子はその事実をなかなか理解できずにいた。息子の世界においては、両親は自分を育てることに手一杯で、同じような毎日をただ繰り返しているだけだと思っていた。父は仕事が何よりも大切だろうと思っていたし、母は近所のババアとの下らない話のネタを探すことと毎日の夕飯の献立を考えることだけが生きがいだと決め付けていた。教師は生徒に対して何かを言うだけの存在で、教師がアパートに暮らしていて、まして自分と同じような日常を持っているということが想像できなかったし、大学に行けば彼女もできるだろうし夢も叶うだろうし理想とする毎日が訪れるものだと漠然と考えていた。
 何日かして、母がいきなり「遊びに行こう」と言い出した。
 息子は学校を休まされ、なぜかディズニーランドに連れて行かれた。半ば強引だった。父の運転する車で母が楽しそうに鼻歌をうたい、息子はふてくされた様子で後部座席でケイタイを弄っていた。どうして17になってまで親といっしょに遊園地なんか……そんな恥ずかしさが込み上げ、息子は両親とは別のアトラクションを回った。
 開園直後から入ったせいか、午後2時を回った頃には両親は疲れ果てていた。たまたま通りかかった息子は、ベンチで手を繋いで眠る両親を見つけた。
「何やってんだよ。遊ばないんなら帰ろうぜ」
息子は父の足を軽く蹴り、父を起こし、さっさと帰ろうとせかした。そうだな、と呟いた父は、なぜか妙にスッキリした顔だった。母も母で、また来ようね、とか楽しかったね、とか言ってはしゃいでいる。息子は帰りの車の中でも、そんなことはどうでもいいんだよ、とンディーズバンドのCDを買うことばかり考えていた。
 恥ずかしくて死にそうだった。いや、もし知り合いがディズニーにいたら、きっと自分は死んでいただろう。高校生の息子には、17歳の自分が両親と遊園地にいる、という時間がたまらなかった。
 ……だけど、こんな嬉しそうな2人は、初めて見たかもしれない。そう思うと、自分が許せなくなってきた。

 休日。祖父母が遊びに来た。祖父は当たり前のように息子にお小遣いを渡した。いつも思っていた。どうしてこんなクシャクシャな千円札を何枚もくれるんだろう。銀行に行けば一万円(マンケン)のピン札と交換してくれるのに。
 そうして、やっつけ仕事のように金を受け取った息子は、札を裏返しにしてみた。予想通り、鶴の下の方に「がんばれ しょうすけ」と書いてあった。やりきれない……正直そう思った。頑張れなんてアンタに言われたかないんだよ。それよりなんでたった8千円なんだ。あと2万2千円は足りないじゃないか。これじゃCD買って適当にメシを食ったらなくなっちまうじゃねぇか。いまどきの高校生をナメてんのか、おじいちゃん。
 祖父母が帰った後、母から「しようつけ君」と書かかれたB6くらいの白い封筒を受け取った。「お婆ちゃんからよ」と渡され、乱暴に封筒を破って開けてみた。中には息子が好きなインディーズバンドの、最新曲から1つ古い、CDが入っていた。ああ、おばあちゃん、やっちゃったよ。このCDさ、もう2ヶ月も前に買ったんだよね。こんなもんいらないからさ、CD買う金ちょうだいよ……そう思ってから、封筒の中にまだ何かあることに気付いた。それは綺麗な折り紙に挟まれた和紙だった。何が書いてあるのかわからないけれど、達者な字で何か書かれている。きっとことわざか何かだろう、と思い、息子はそれらを封筒ごと机の三番目の引き出しに入れた。その引き出しは基本的にいらないけれど捨てられないものを入れる棚だった。
 さて、父がプーになってから1ヶ月が経った。
 息子は久しぶりに部屋の掃除を試みた。雑誌で埋もれている。自分では若者らしくていいと思っていたが、せめてフローリングくらいは見えていたほうがいい。少なくともドアからベッドまではの道は作ろう。
 ……掃除を始めると、意外とやる気が出てきた。あれもこれも整理したくなる。息子はそこで、机の整理も始めた。まずは散らかっているノートを綺麗に積み上げ、引き出しの中のいらないものもどんどん捨てていくことにした。
 机の3段目の引き出しに差し掛かった。ああ、これは全部いらないだろう、そう思ったが、やはり中身をひとつひとつ確認したくなった。
 小学校のときの作文やテスト、そして今では疎遠になった友人たちから届いた年賀状が入っていた。ああ、こりゃまたやっちゃったよ。そうは思いながら、息子はその作文を読み返してみた。タイトルは「10年ごのぼくへ」とある。
 21才になったぼく、元気ですか。ぼくは元気です。いまはたぶん大学生ですね。勉強もスポーツもがんばってますか? なやみがあったら友だちやお父さんお母さんにそうだんすればいいと思います。僕もたくさん勉強して、人の役にたつ、かっこいい大人になりたいです。
 ……かっこいい大人なんて、ミュージシャンか弁護士しかいない。なぁ、11歳の俺。オマエはあれからたった6年でこんな高校生になるんだよ。でも、間違っても俺みたいになっちゃダメだよ。もっとしっかり頑張るんだ。親も期待してるんだから――
 作文に対してそう思ったとき、不意に両親のことを思った。そうだ。俺は両親に期待されていた一人っ子だ。好きなことをさせてもらってたし、金にも服にも食い物にも困らなかった。小学校の頃、そういえば極貧生活をしてる両親を持った子はいじめられていたっけ。あいつはカップのアイスを地面に落とした時、誰も見ていないだろうと周りをキョロキョロ確認してから、またアイスをカップにもどしたんだっけ。それから砂のついたうわっつらをスプーンで削って、前と同じように舐めていた。それを見てたのは俺だけだったから、俺はあいつに対してそのとき、なぜか酷く優越感を感じていたんだ。
 それなのに今の俺は、両親の期待を裏切ってばっかりだ。何か与えられるだろう、何かくれるだろう、困ったら助けてくれるし、金も出してくれる。親は俺のために働くのが当然で、俺は元気な姿を見せることで親孝行を果たしているつもりになっていた。
 母の手はまるで夜なべをして手袋を編んでくれていたかのように皺が多くてひび割れているところもあるし、あかぎれもある。いつも力なく笑っているけど、そういえばディズニーに行く前の夜、お袋は白髪を染めていた。俺はあの日まで、お袋が白髪だらけだったことも知らなかった。オヤジは1ヶ月間ずっと小説を書き続けているけど、なぜかあの背中には活力が漲ってる。もしかして、喧嘩したら俺、負けちまうんじゃねぇかってくらいだ。小説を書きたいなんて思う奴の心境は知れないし、きっと金儲けしか考えてないんだろうけど……、あれは夢を追う男の背中だ。俺、絶対に追いつけないよ。勝てないよ、あの人には。それに、じいちゃんとばあちゃんだ。いつも俺に何かしてくれる。叱られた記憶なんてひとつもない。俺は作り笑顔と巧みな話術でお小遣いをせびってただけだ。
 そこで息子は気付いた。自分の気持ちは、きっと、彼らには見透かされていたんだ。
 俺がすねて恥ずかしがってかっこつけて強がっていきがってそっぽ向いてることを知ってて、その上であの人たちは俺に施してくれた。俺がイヤだと言っても、迷惑だと言っても、いつも笑って俺に援助してくれた。どうしてみんな、そんなことができる? どうして俺にばかり構うんだ? この気持ちは何て表現すればいい?
 誰か教えてくれ。いまかかってるCDは愛と夢が全てでキミを守り抜くことがなんとかって言ってるけど、そんなことじゃ俺の気持ちは表せないよ。友だちや、好きな子や、先輩や、部活の顧問と、同じレベルで俺は家族を……家族に、感謝してる。
 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。それしか言えない。だって俺は、何一つ期待にこたえてない。金を使うことばっかり考えて、遊ぶことばっかり考えて、いつか家を出てやるって思ってた。家を出てもきっと仕送りはしてくれるだろう、ぐらいのモンだった。
 そもそも、金は、働いてるから入るんだ。いまこの家の中で働いてるのは、誰もいない。ケイタイ代さえ、俺は両親に……いや、オヤジに頼ってるんだ。俺の金だ、なんて言ってる通帳も、俺名義の通帳も、その中身はオヤジの稼いだ金だ。
 ごめんなさい以外になんて言えばいいかわかんねぇ。俺、正直不安だよ。大学に行けるアタマはないけど行こうって気はあるし、頑張ればきっと何とかなるだろうけど、きっとまた楽な方へ逃げるんだ。
 ……だけどなんて言えばいいかわかんねぇよ。分かったとしても俺はまた突っぱねてそれを言えなくなるんだろ? そんなこと分かってるよ。ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、あと、ひとつだけ。一個だけ。ありがとう、みんな。
 じいちゃん、千円札、あと1枚しかないけど、ここに書いてあること、俺、やってみるよ。
 頑張ってみるよ。
 バイトして、勉強して、あと4年以内に、クソガキだった頃の俺に誇れるような、かっこいい大人になってみせるから。両親に誇りにされたいとは思わないけど、俺は両親を、家族を誇りに思うよ。それから、同じクラスの、俺が大好きなあの子。あの子にも、もっと近づきたいよ。
 この気持ちを愛と呼んでいいかなぁ、こんなバカな少年が。
 17歳、汚い部屋の汚い壁に、インディーズのポスターを取り払って一枚の画用紙を貼ります。真っ白で大きな画用紙……これを地図にしよう。くそう。この決意。絶対、忘れねぇ。
 ダメでいいから頑張らせてくれ。だから世間よ、今まで楽してた俺に、その分もひっくるめて試練を与えてくれ。
 ダメもとでやってみるよ。でもダメだったら、誰か、近くの人に相談するよ。

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2002/08/25 (Sun) A4の上の永遠

 授業がかったるくて A4ノートの上 いつも思いつくことばかり 書いていた
 悩み 夢 不安 笑い話 ふと浮かんだ食べ物
 だけどいつも それは キミのことへと 変わっていく
 A4ノート 時がとまったまま キミとの思い出 それは永遠



「…やはり最後の『時がとまったまま』というフレーズがキーらしいな」
「そうですねぇ…ポエマーであることは否定しませんが、記憶喪失だなんて」
「ああ、しかも学生当時の記憶が顕在してしまっている。やっかいだな」
「いっそ、あのノートを取り上げますか?」
「いや、やめておこう。以前、そうしたことがあったんだが」
「はい」
「そうすると記憶がさらに遡るんだ。学生ならまだ話がわかる。いい方だろう」
「…他の患者さんに比べても、ですか」
「ああ。きっと彼は、当時の記憶の中に、何か大切なものを置き忘れてきたんだろうな」
「そうですね。記憶の城に閉じこもったおじいちゃん、ですね」
「はっ! キミ、今、なんてった?」
「え? そういえば先生こそ…」
「ま、まさか!」
「この症状…患者さんたちと同じ!? ポエマー病! ああっ! 先生、私…」
「大丈夫だ 僕とキミの 関係は そんなことじゃ 壊れやしな…ってヤバいぞ! さあ、気をしっかり保つんだ!」
「まさか空気感染…?」
「かもしれん」
 ウー ウー ウー
「あ、あのサイレンは?」
「バイオハザード発生時のものだ…レベル4の合図! 2次、3次感染防止のために病棟を封鎖するのか…」
「先生…」
「ああ。言わなくてもいい。頭の中で言葉たちがガラガラと音を立ててくずれていくのが分かるよ。きっと今に、我々も記憶が錯乱してポエムしか書けなくなるんだ」
「しかしここのポエムがミリオンセラーの曲の歌詞になっているんですから、皮肉ですよね」
「その売り上げでこの病棟の予算が立っているようなものだからな」
「私のポエムも売れるでしょうか…」
「ああ、デュエットでも作ろうか」
「そうですね あなたと一緒に…」
「手をとって いこう ほら未来は こんなにも」


 それは西暦2013年。職業病が空気感染する時代のこと。

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2002/08/22 (Thu) 新薬エコノミスト(下)

 10日ほど経ったけれど、僕の身体には色が付かなかった。僕の存在というものは、どこにも、なかった。
 声は誰かに届いたかもしれない。けれどそれは、通行人にとってはただの気味悪い幻聴でしかなかった。助けてと叫べば叫ぶほどにかすれていく声は、まるで幽霊さながらだった。
 知らず、僕は人ごみを避けるようになっていた。

 家族はようやく捜索願を出してくれたみたいだった。だけど当然ながら捜査は進展しない。
 街には原因不明の撲殺死体が転がっていた。イラだった透明人間が暴徒となったのだ。
 透明人間レイプ魔となったかつての友人は僕に電話を掛けながら飛び降り、地上60階からのダイブを中継ながら死んでいった。
 金が役に立たないと知ったかつての友人は、消えてしまった。つながらない携帯はつまり、その存在を消してしまうのと同じ意味だった。
 何より、この原因を作った担任の先生は、実は、僕らに薬を配った次の日に、失踪していた。
 この事実を知ったのはつい2日前…8日目のことだった。そんな中、僕の不安はどんどん現実味を帯びてきていた。
 透明人間の声が、普通の人たちに聞こえなくなっているようだった。そして透明人間同士もその存在を感じることが出来なくなっていった。
 世界…いや、社会は、僕らをどんどん孤独にしていったのだった。

 14日目、モンちゃんから電話があった。僕はどうにかして携帯の充電だけは欠かさないようにしていた。僕の生きる意味は携帯電話をなくさないことになっていた。
「もし…し? 聞こえ… 俺は …だから… わかっ… んだよ… なぁ… ……聞いてるか? じゃあ、そういうことだ。どうにかしてオマエも戻ってこいよ!」
「もしもし? モンちゃん? 聞こえねーよ!?」
 電話は一方的に切れた。
 しかし僕にはわかっていた。モンちゃんは普通に戻る方法を見つけたのだ。僕らに色を与える方法を…、つまりは僕らを縛るルールを見つけたのだ。わかりやすく言うと、自分の存在を社会の中に生み出したんだ。
 そうか。透明になった僕らは今は一個の歯車だ。なんとなく、そんな臭いフレーズが浮かんだ。だけどそうかもしれない。社会の歯車という言葉が連想されて、それが人の存在理由へと遷移していった。
 僕が社会の中に溶け込もうとすれば、そして、僕が社会の一員になれば、つまりはルールを守れば、社会は僕を認めてくれる、というのか?
 ふと、社会というものが巨大な意思ではないかと思いついた。
 かつてどこぞの学者は、地球自体が意思をもつ存在だと規定した。そして人も動物も植物も、全てがその存在の構成要素であり、必要なものなのだと主張した。
 ――ガイア主義。
 だとすれば、実体のない「社会」というものは実は、巨大なベクトルなんじゃないか、と僕は考えた。新大久保の駅前で1人きりで考えた。そして出した結論は、ひどく単純だった。
 人はやっぱ、1人じゃ生きていけない。
 ヒトリという語感がなんとなく火の鳥、という漫画を連想させて、僕は苦笑した。思いついたのは未来編だった。ああ、ヒトリきりである僕は神と同じような存在でありながら、虫けら以下の存在価値しか持たないんだなぁ。

 クラス全員の顔と名前を思い浮かべてみた。
 ムカつくことばかりだった学校生活。40人全員を胸の中で再確認したとき、なぜか僕の頬と口元は引きつっていた。
 他人が見たらそれは笑顔に見えただろう。
 そのとき、僕は自分が学ランを着ていることに気付いた。ああ、学ランの黒さが集団を象徴する。そして目の前の人たちの喧騒が、駅前のざわめきが、全て明日への希望を語っているようにさえ思える。
 ビューティフルドリーマー。ふと、そんな言葉を思い出した。
 大人になれない子供たち。夢を見続け、答えを先延ばしし続ける青年たち…。
 社会の授業、それが暗記だけじゃないってことが、よくわかった。

 次のテストは、やっぱり平均点だった。

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2002/08/20 (Tue) 新薬エコノミスト(上)

 「これを飲むと1週間だけ透明人間になれまーす」
先生がそんなバカなことを言って、ヤクルトみたいな小さい飲み物をクラスのみんなに配った。それは社会の授業の最中だったのだが、6日目になってようやくその意味がわかってきた。
 担任の先生だった彼は、ホームルームにでも配ることはできたはずだ。それがどうして、わざわざ授業を1時間潰してまであんな薬をくれたのか。それはつまり、彼が授業では教えられないことを授業中に教えようと悩んだ末に出した答えなんだろう、僕はそう解釈した。
 そしてその日の夕方に薬を飲んで、もう6日目。飲んだ日を1日目と数えるらしいので(しかも1日の概念は時計のそれではなく、身体の調子によるものらしい。つまり、眠ればその日のカウントが終わるのだ)今日が6日目という具合だ。
 透明人間同士はなんとなく、わかる。そこに誰かがいるな、という妙な感じを受けるのだ。でも、マジで普通の人には僕らの姿は見えないらしい。
 僕の友達のグループ、マサシとリュウタとモンちゃんは僕と同じ時間に飲んだ。携帯で話したところ、マサシは強盗を繰り返しているらしい。リュウタは女の子の部屋を覗いたり触ったりしているみたいだし、モンちゃんは「飲む前に考えればよかった」と言ったまま、何もしていないらしい。とりあえず食べ物をそこらへんから調達してきては生活しているようだ。当然というか、家にも帰れない。だって僕らは透明人間だ。服を着ていても透明になるのはありがたかった。
 僕はといえば、自分が透明になってはじめて、社会というものを知ったのだった。
 簡単に言えば、つまりこういうことだ。みんな、それとなくこのことを考えてはいただろうけど、現実に起こるのと机上で考えるのとでは全然違う。いや…ある意味では予想通りだった。悲しいくらいに、予想通りだった。少なくとも、僕が体験したこの6日ないし5日では。

 僕がいなくても、世界は変わることなく動いていく。

 家族も友達も、街も人も学校も、僕が消えたことになんて気付いてさえ、いない。それはつまり、僕が影響を与えていた「僕の社会」にとって僕はその程度だったってことだ。僕がいなくても全ては同じだったんだ。先生が言いたかったのは、そういうことだったんだ。皮肉だけど、やっとわかった。
 子供だけじゃ生きていけない、ってこと。
 奪うことしかできないんだ…人から。大人は自分で作り出せる。アイデアを作り、工場を作り、食べ物を作り、流行を作り、システムを作る。縛られていた僕らはそれを窮屈だと感じていた。いつか抜け出してやろうと。
 念願が叶ったあの日、僕は自由になって、そして全てを失った気がした。

 人通りが多すぎるいつもの渋谷駅前で、誰にも見えない姿で、そこにいる全員に聞こえるように僕は、大声で、泣いた。
 泣いていた。

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2002/08/16 (Fri) ビーアールツー

 新世紀のはじめ、ひとつの国が壊れた。
 完全失業率15%、不登校児100万人、年間自殺者10万人、消費税率20%。絶望した政治家達はこの国の改革に、ついにひとつのことを決定した。
 憲法第九条撤廃。
 これに続き、失業率を改善するために徴兵制を強行、不登校児用のフリースクールは事実上の少年院とし、自殺傾向のある鬱病者は向精神薬投与の上、人体実験用のドナーとして強制登録。一説によれば脳手術の上、軍隊の一部隊として強制的に戦場へ駆り出されるという。さらに消費税の撤廃、土地と株の価格操作。これにより新たなバブル時代が訪れた。
 そして3年の時が経った……

 バイオレンス国家となっていたその国は、完璧なまでにオートメーション化が進んでいた。個人主義政策の一環として、プライバシーの尊重を第一と云う国家主席の旗のもと、最新技術によるバリアーが全国民に渡されていた。リモコン操作でオンオフ切り替えをするそのバリアーは当人しか適用されず、人はまるで服を着る感覚でバリアーをまとうのだった。そして他人がリモコンで抵触権を得ない限りは他人に触る事すら許されなかった。
 すなわち、他人のバリアー範囲に不用意に入れば、強烈な火傷を負うことになるのだ。
 よって人は、人と人のつながりをインターネッツ略して“インター”の中に求めた。
 徴兵制により、人は15歳から25歳までの間に3年間、軍隊に拘束される。男ならば戦士として、女ならば事務職あるいは特別職として、とにかく若者は全員軍隊経験を持たなければいけないのだ。
 しかし、人の心は政策には負けなかった。
 軍隊生活の中、毎日数分間だけインターに繋げる少年達。それは主に世情を知るためのニュースを見るための時間なのだが、なぜかフィルタリングが施されていない軍隊のインターの中、ほんの数分間の間だけ外世界に繋がることができる。
 数分間で、革命を起こす……!
 これは、国家と闘うことを決意した少年達の記録である。

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2002/08/10 (Sat) 受験生は頑張るな

 理科の先生が言った。世界の構成要素は悲劇だと。
 国語の先生が言った。世界は悲劇と喜劇が争っていると。
 数学の先生が言った。悲劇と喜劇の割合は黄金比だと。
 英語の先生が言った。シェイクスピアは(うざいので聞かなかった)。
 社会の先生が言った。人類の歴史は悲劇を笑い飛ばして喜劇に変えてきた証だと。

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2002/08/08 (Thu) それぞれの(4-4)

 キミを愛さなければ殺される。キミに尽くさなければ殺される。だから尽くしてきた。ぼくは心が壊れたことを自覚しているけれど、それでもキミに尽くそうと思う。じゃないと、死ぬから。ぼくが死ななければキミが死ぬって言うだろう。だからぼくはキミが不自由しないくらいのお金を与えて、好きなことをさせる。好きなものを食べさせる。好きな場所へ行けばいい。ぼくはその間に仕事をして、もっとお金を稼ぐから。もっと稼げるようになるから。でもね、どうしてだろう。最近は凄く眩暈がするんだ。吐き気がとまらないし、常に頭が痛いし、足がフラフラするし、手がしびれてるし、食欲もないし、眠れないし、セックスもあまりしたくなくなった。
 ねぇ、誰か、助けてくれよ。
 そう言いたかった。というか言いたい。でも言っても誰も僕を助けることはできないし、誰も助けてはくれないし、助けようとも思わないだろう。だからぼくは、ぼくが死んでしまうまでに…それはきっともうすぐなのだろうけれど…1人でも多くの人に笑顔を与えたいんだ。
 ぼくが死んだ後でいいから、ぼくがここにいて、みんなのために何かをしたんだってことを知ってくれるかなぁ。次に生まれ変わったら、誰か、愛してくれるかなぁ。そもそも愛って何なのかわからないけれど、まぁ、べつにいいや。
 だからぼくは今日も明日も頑張るよ! 愚痴はこぼさないし、(具体的な)悩み事も少ないよ! ちょっとフラフラするけど身体も頑丈だよ! ね、だからみんな、ぼくを、認めて?


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2002/08/05 (Mon) それぞれの(4-3)

 思い切り泣きたいと思った。そうすれば何かが変わるかもしれないと思えた。また新しい力を手に入れることができると信じていた。
 映画を、本を、テレビを、ネットを、全てを「泣き」に繋がるように仕組んだ。感動的なベタベタなストーリーを自分の中に持ち込んだ。失恋もいいと思った。なんでもよかった。涙を流せるなら何でもよかった。

 ストーリーは、全部が白黒で、何を言っているかわからなかった。

 異国だった。異常だった。ブラウン管の向こうで嘆いている人、人のために走る人、泣く人、人々の笑顔、子供、大人、老人、生と死、喜怒哀楽、そんなものが一体、何を意味しているのかが、ぼくには分からなかった。
 ただ全てが絶望に染まっていた。でも仕事をしなければ生きていけない。今月の家賃さえ払えなくなってしまう。いや、電話代も。食費も。光熱費も。明日の電車賃も。何もない。何もないんだ。全てを人のために使ってきた。そうすることが自分にいいと思っていた。
 いや、そうしなければ、ぼくは死んでいた。だから、そうしたんだ。

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2002/08/03 (Sat) それぞれの(4-2)

 プレッシャーに潰されそうで、でも潰れてちゃ生きていけなくて、夢を見たくて、でも現実を見てないと生活することができなくて、人のために苦労してお金を稼いで使って励まして頑張って、認められないことを知っていながら人を幸せにしたいがために困憊して、心にも身体にも無理をして精一杯働いてきて、貯金を全部使って誰かの借金を返して、拾っているお金を交番に届けて、困っているお年寄りや子供を助けて、いつでも笑みを絶やさずに素晴らしい自分を演じて、実際にそうなっていける自分が少しだけ誇らしくて、それが自分の矜持になっていることを分かっているからこそ頑張れたのに、でも、今のぼくは、頑張れない。
 もう何をやってもダメだと、思ってしまうんだ。
 ボランティアでいろいろなことをしてきた。人に尽くすことが自分の使命で、そのときの感謝の一言が、口元をほんのちょっとだけ引きつらせた笑顔が、生きていく意味だったのに、大きな壁にぶつかってからは全部を否定したい気持ちでいっぱいになってしまった。そう、ぼくがどんなに苦労しても、どんなに頑張っても、尽くしても、その人はぼくを認めてなんてくれなくて、こんなもんじゃ足りないなんて言ってぼくにさらに過酷な労働を課す。そのくせその人はぼくに何一つ与えてはくれない。

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2002/08/01 (Thu) それぞれの(4-1)

 ぼくはもう、何をやってもダメだ。
 死にたい。死にたい。でも痛いのはイヤだ。何か、楽に死ねる方法はないものだろうか? かといって死ぬ前に人に迷惑を掛けるのはもってのほかだ。死ぬなら、誰かに分かるようにメッセージを残しておくけれど、誰にも何も言わずに静かに死にたい。
 マイナス思考から離れられない。助けて欲しいのに、何をどう助けてもらえばいいか分からない。そもそも、ぼくがどうしてこんなに悩みこんでいるのかもわからないんだ。
 殴られたのか、溺れているのか、火傷したのか、切り傷がひどいのか、ぼくがいまどういう状態なのかもわからない。隣にキミがいるのに、何て言っていいかもわからない。ぼくはキミを助けなきゃダメだから、ぼくがしっかりしてなきゃダメなのに、ぼくはダメじゃないはずなのに、ぼくだけは何があっても大丈夫だったはずなのに…
 気付けば、ぶっ壊れてたのは、ぼくだった。

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