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2002/11/20 (Wed) ストリート・ライフ

「俺はこの仕事のために全てを捨ててきたんだ!」
 なーんてすっとぼけたことを言ってかっこつける野郎が沢山いるけれど、僕は今まさに、そういう状況下にいた。
 何かひとつを成し遂げるために何かを捨てなければ……あるいは失わなければならない、という状況だ。今になって、かつて彼女に「仕事と私、どっちが大事なの!?」と迫られた時に真っ先に「仕事」と答えた自分を恨んだ。けれど、逆に考えよう。何か一つを捨てればもう一方が手に入るとするならば、たとえ大切なものだとしても、それを捨てる価値はないだろうか。
 つまり、情と金と夢、だ。

 定職にも就かずに夢を追いかけ、その場しのぎのアルバイトを繰り返しては日銭を稼ぎ、そして夢を語って自分の足元を見ないで危うい橋を歩き続ける、という人生。ときどき、神を恨んだ。どうして神は僕に選択肢すら与えてくれないんだ、と。
 だから昨日の夜は、本当に感謝した。
 夢枕に神さまか何かが立ったのだ。
「三十路前にして未だ夢を諦めきれずにヒモのような生活をしている失格者であるお前に選択肢をやろう」神は言った。ちょっと耳が痛かった。「三日の猶予を与える。選択肢は三つだ。ひとつめは、今の彼女との幸せな未来。その代わり、そこそこの稼ぎはあるが絶対に成功しない仕事を一生続けることになるし、夢も捨てなければいけない。ふたつめは、嫌々に続ける仕事が大成して大金持ちになれるが一生結婚できず、夢も叶わない未来。みっつめは、夢は叶うが一生結婚できず彼女もできず、常に生活がギリギリの程度の金しか稼げない未来だ」
まさに究極の選択だった。僕は、嬉しさと同時に恐怖を感じていた。目覚めた時に変な汗をたっぷりかいていたことから、夢の中の僕がどれほど動揺していたかが手に取るように分かった。

 けれど、いや、だから。
 人間は、汚いんだ。

 3つの中からひとつだけを選べるという未来の選択肢。どれか2つを捨てれば、残りのひとつは確実に手に入る。少なくとも僕が選ぶ「幸せ」のひとつは、手に入るということだ。だけどここで、僕は自分がどれほど欲深いかを思い知った。ひとつは保証されている、しかも確実に、だ。だというのに、僕の心は、ひとつも捨てたくはないと思った。
 真に強い人間とは「捨てられる人間」だそうだ。そんな話を昔、聞いたことがある。ゴミもそうだし、思い出もそうだし、未来もそうだ。消去法で選択肢を選んでもいい。とにかく、捨てることができることが心の強さだと聞いたことがある。だから、なにひとつ捨てられずに燻らせている僕は、弱い人間だ。弱く汚い。何もかもを捨てられずにいるということがつまり、全てを同時に手に入れたいと願うことにほかならないからだ。
 けれど、もしも、だ。
 このみっつの選択肢を全て断れば、みっつのうちどれか二つないし三つ全部を手に入れることができる未来にたどり着けるかもしれない。だから僕は、こんな冴えない人生でも、頑張ろうと……頑張れる、と、そう思えるのだ。

 せっかく願った神さまだけれど、次に出逢ったときは、選択肢をつき返そうと思う。きっとそんとき、こっぴどく説教をくらうんだろうな。

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2002/11/13 (Wed) 雪虫

 クリスマスが近づいてきたその初冬のある日は、よく晴れていて……どうしようもないほど、寒かった。風は冷たく吹きすさび、手を温めようとする缶コーヒーを吹き飛ばそうとしているみたいに、身体に突き刺さった。
 気温が下がれば動物の行動は鈍り、やがて動かなくなってしまう。だから生き物は冬眠をするのだけれど、ヒトはそういうわけにはいかない。寒くても暑くても、どうにかして身体を温めながら仕事を続けなければ春は来ない。動物にとって春は待つものだけれど、僕らヒトにとってはそうではないのだ。
 ようやく身体が温まってきた昼休み、今日3本目の缶コーヒーを飲みながら屋上で風に吹かれているところへ、誰かがやって来た。振り返った僕の眼鏡は風にあおられて4メートルほどぶっ飛んだ。あたふたしているところへ、その人はいきなり始めた。
「白鳥はどうして寒いところへ来るのかな」
はるかシベリアから来る白鳥。ロシアよりは幾分ましな日本の冬だけれど、外で寝起きできるほど暖かくも無い。そもそも、動物が生き延びられるような気温じゃない。
「鳥ですから……あんまり深い理由はないんじゃないですか」
眼鏡をかけなおした僕は適当に答えておいた。
「冬が来るのを楽しみにしてる動物がいるってことです」
その人は、年齢がよく分からない、妙な雰囲気を纏った女性だった。
「人も?」
「ええ。スキーだ温泉だとはしゃぐでしょう」
「でもそれは、寒い冬をどうにかして楽しまなきゃやってられないからじゃないですか?」
「そうかもしれませんね」
書類か何かをびりびりと破いて風に乗せて飛ばし、その人はまた降りていった。
 夕方、また残業になりそうだったので休憩もかねて今日4本目のコーヒーを持って屋上へ上がった。ふと見ると、昼休みに見かけた彼女がいた。僕は小さく頭を下げ、コーヒーを一口飲んだ。いいかげん、甘すぎるコーヒーに飽き始めていた。
「いいところに来ましたね」
彼女は僕の方を向いた。逆光だったけれど、そのときの彼女の口元は……そう、確実に。
 笑っていた。
「トドノネオオワタムシ」
彼女は言った。僕は頭の上にハテナマークを浮かべた。
「しろばんば、と言ったほうが分かりやすいですか」
また、ビルの下に向き直って彼女は続けた。
「夏のアブラムシと冬のアブラムシはこんなにも違う。冬のそれは、歓迎さえされるんです」
僕は何も言わずに聞いているつもりだった。けれど、一言。
「……冬を、待っていると?」
「待つ待たないは知りませんし、その人の勝手です。けれど──」
「けれど?」
「ろいろ、です」
「ろいろ?」
彼女はクスッと笑って、それ以上は何も言わないままに降りていった。
 そういえば、彼女は会社で見たことのない人だった。どこの部署の人だろう。少し気になったけれど、吹きすさぶ風と迫り来る納期に頭が一杯になって、それ以上は考えるのをやめた。


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2002/11/10 (Sun) タイムカプセル

「想像してみるんです。そういう場面を……ときどきではなくて、よく、です。よくある。つまらない仕事をこなしているときとか、電車に揺られているときとか、トイレや風呂で長く息を吐いているときとかにね。あるいは、隣に恋人がいるときでも、恋人を抱いているときでも、食事のときも……こう言うと、まるで四六時中それを考えてるみたいに思われるかもしれませんがね。
 ええ、そうです。わたしは、絶望を望んでいる。いや、欲しいものが何かはもう、分からない。もしかすると濁点なのかもしれない。絶望を切望しているんです。あるいはそれを希望している。変な話ですがね。
 その想像とは何かって? ええ、そうでしょうね。そこが知りたいわけだ。みんなね。けれど、それを言ったらみんな、聞かなきゃよかったって思うんですよ。後悔です。そして軽蔑する。わたしをね。そしてわたしの思想を弾圧する。それが人類誕生から続いている歴史であることを知りながらね。なぜって、理性がそう呼ぶからですよ。
 では言いますよ。そう、わたしは、あらゆる形の絶望を望んでいるんです。最愛の人の死かもしれないし、自分の四肢を切断されることかもしれないし、世界でたった一人生き残ることかもしれないし、誰も自分を見てくれなくなることかもしれない。あるいは、恋人の浮気かもしれない。とにかく、そういう心を扇動させる何かを、です。なぜって、それは、普通のことにはもう、心が揺れないからですよ。それを人は強くなったと言うんでしょうけれどね。確かに、わたしの心は常人よりも強いと思います。ええ、そうですよ。ショックなんてもう何年も感じていない。ドキドキすることなんてないんです。だから絶望を求める。あるいは、恐怖を。
 なぜって、それを失いたくないからです。あるいは……それを失うことを想像して、後悔する自分を俯瞰して、それから後悔するため、です。
 わたしがどうしてこんなににこやかに絶望を望んでいるかって? そりゃ簡単ですよ、あなた。笑顔は得意です。ニコニコしていればとりあえずの和平は望める。つまり、自分を常に絶望の中に追いやることができるというわけです。
 ところで、知っていますか? 笑顔というのは、肉体生理学的には……筋肉の動き、という面から見れば、ですがね。かなり闘争に近いものがあるんですよ。わかりますか? 人はつまり、笑いながら争いに身を投じることができる存在なんです。
 だからヒトは、特別な動物なんでしょうね」

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2002/11/08 (Fri) ペットボトルリバー

 サンタの格好をして、駅前でチラシを配る。朝8時から夜8時までだ。その日は何やら特別らしい。12時間も立ち続けるのだから、あんまり朝のうちからテンションを上げていては身体が持たない。彼は気だるい感じにチラシ配りを続けていた。
 朝は駅に向かう人が多く、チラシを手に取ってくれる人は少ない。皆急ぎ足で、見るからに余裕が無い。時間との戦いなんだよとでも言わんばかりに、赤い衣装の彼をどついては駅へ急ぐ。まるでそれにより、“仕事へ行く自分”を偉いだろうと言わんばかりに。
 昼前になり、主婦やら子供連れが目立ってきた。彼が気だるくチラシを持って突っ立っているだけで、子供の方から「サンタさん」と言いながら近づいてくる。子供に渡すようなチラシではないのだが、子供たちはやたらに欲しがるので大量にチラシをあげた。
 昼過ぎになると、なぜか若い女の子が増えてきた。駅前で待ち合わせをしているらしい。チラシを渡そうとしても無駄なのは知っていた。ただ、「すみません」とか「ごめんなさい」と言ったり、あるいは苦笑や微笑を浮かべるような“返事”があると、サンタは嬉しかった。普通のチラシ配りではない。サンタがいるのに全くの無視を決め込む少女もいた。
 夕方前になると、学生がだんだん駅から出てくるようになった。派手な色のチラシを珍しそうに手に取る。そうでなくても、サンタだ、などと言って彼を指差して笑ったり、そこそこの反応は示してくれた。すでに足が痛かった彼は、なぜか少し回復した。
 6時を回ると、スーツ姿も目立つようになった。大人たちはサンタを見てへっへっへと軽く会釈をしてくれる場合が多い。チラシはまだノルマまで配れていないけれど、もうどうでもよかった。

 そして8時。やっと仕事が終わった。駅前は飲み会に行くのか、あるいは帰るのか分からないけれど沢山のグループで賑わっていた。公衆トイレでそそくさと衣装を着替え、彼は帰路につくことにした。もう足がパンパンだ。早く帰って寝たい。いいかげん思考回路もうまく働かなくなってきていた。
 彼が駅に入ろうとしたとき、後ろのグループの中で騒がしい男が叫んだ。
「おつかれ! サンタさん! メリクリー!」
 彼は軽く頭を下げた。どの男が言ったのかは分からなかった。グループは彼を見ていた。笑っている奴もいた。きっと今頃、尽き始めた会話のネタにされているに違いなかった。けれど、彼にはどうでもよかった。
 少し、痛みが引いた。今のうちに帰ろう。
 自分にご褒美を買おうと財布から小銭を取り出した。548円。この一握りの小銭で、どんな幸せが買えるだろう。けれど、彼はそれで満足できるはずだった。そんな確信があった。
 電車を下りて、空を見上げた。星の無い空に少しかけた月が浮かんでいた。頬が張るような冷たい空気。排気や雑踏で汚れているかもしれない、けれど、彼はそれを胸いっぱい吸い込んだ。
 冬の味がした。

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2002/11/06 (Wed) ハードワーカー

「今度ね、この人と遊びに行くの」
 そう言って妹がパソコンに向かう。かっこよくて優しくて話も合うし頼れる男の人。僕より年上の男らしい。らしいというか、年上だ。
「お前、大丈夫かよ」
 妹の背中の後方50センチの位置からモニタを眺める。これ以上近づくと「あんまり見ないでよ」、と邪険な態度で返されるのでこれが精一杯だった。どうやらチャットをしているらしい。相手の男には、実は僕は覚えがあった。
 確かにそいつはかっこよくて頼れる年上の男だろう。しかも金持ちだ。けれど、お前が知らないことが一つだけ、あるんだ。
 ──そいつは、遊び人だよ。
 彼についての悪い噂を知っている。噂の中身も、実は僕は知っている。彼は僕の知り合いだ。だから、女の子を上手い言葉で騙して遊んで捨てるという彼の「やっつけ仕事」の内容も、僕は知っている。そうやって騙される女の数を数えてまるで勲章のように記録しておくのが彼の趣味だ。きっと、数日後には妹もころりと騙されるのだろう。
 ──そいつの言うことは全部嘘だよ。そいつの優しい言葉は全部嘘なんだ。お前を手玉にとって適当に上手く進めてセックスを数回したら関係は一方的に断ち切られるんだよ。数週間後にはそいつのケイタイは繋がらなくなってる。何台かケイタイを持ってるんだ。お前に教えるのは遊び用の番号だよ。
 そう、言おうかと思った。
 流行なのか、最近の女子校生の髪型は重力に従順にひたすら真っ直ぐ垂れる黒髪が多い。妹もそうだった。後姿は僕からすればやっぱり子供で、だけど世の男にすれば女子校生というブランドの一部で。
 ──悪い男に騙され、お前は傷つくかもしれないんだ。
 だから先に言おうかと、思っていた。けれど、言えなかった。どうしてかは、上手くは表現できなかった。ただ、長い人生においてそういう経験は、結果的にプラスに働くという確信があった。人に騙され、裏切られ、傷つけられ、あるいは嘘をつかれるという経験……それは、受けた直後では赤く疼くだけかもしれない。けれど、時間が経てばその傷を克服できる。人とはそういうものだ。
 現に僕も、同じような傷を負った経験がある。深く考えることで次第に視野が広がる。傷の治療法は、傷だけを眺めていても始まらないのだ。
 ──だからって、目の前で妹が傷ついていくのを傍観していろって?
 それは違う。僕の人生は傷だらけだった。自分でそう思うし、他人もそう言うだろう。だけど僕は自分の傷を他人にも味合わせてやろうなんて思わない。これを享受し、そして深く考えた。その結果、他の人が同じような傷を受けないようにしてあげたいと思うようになった。それはきっと、ヤサシサだと思う。僕のヤサシサは傷跡から生まれたものだ。
 だから僕は、実験を試みる。
 ヤサシサの中で育った人は、ヤサシサを持つことができるのだろうか。それを確かめたいのだ。過剰なくらいに保護して加護して妹を──当然、血の繋がった肉親として──愛しているから、その周りを舞う害虫は駆除しなきゃいけない。今までもそうやってきた。
 ──だからさ、また僕が守ってあげるよ。
 僕のヤサシサを一杯に受けて育ってごらん。きっと、ヤサシい人間になれるから。

 世の中、汚いことなど何も知らずに育てば幸せだろう? そうやって僕はまた、机の中からナイフを取り出し、そして夜の街へ繰り出す。愛すべき妹が眠っている間に。


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