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2002/12/31 (Tue) アイ ウイッシュ

 12月31日、23時40分。
「今年もあと20分で終わっちまうなぁ」
「そうねー。色々あったよね」
揃いのセーターを着て、年越し蕎麦を食べ終え、蜜柑をやっつけながら二人は今年を思い出していました。
「あっという間の1年だったな」
「それ、去年も言ってたわよ」
「そうだっけ?」
「そうよ。覚えてるもん」
彼は彼女に頬を突付かれ、やれやれと苦笑しました。彼女は小さなことばかり、よくもまあ覚えているものです。冗談半分で言った約束事なんかもしっかり覚えていて、忘れていた彼にいきなり怒ったりするくせに、大事な用事だとか毎朝乗らなきゃいけないバスの時間なんかはほとんど覚えてはいません。そんな彼女にときどき愛想をつかしながらも、こうして二人で寄り添っているとき、彼は満たされるのでした。
 外は風が吹きすさび、体感気温は氷点下かもしれません。それなのに、暖かくて綺麗に掃除された部屋でテレビをつけながら蜜柑と紅茶をいただいているという状況を思い浮かべ、そんな、かつての自分には想像も出来なかったような幸せの中にいる自分を確かめ、そして「今、自分は確かに幸せの中にいるんだ」と思いなおすことで、彼の中にどうしようもないほど大きくて柔らかで穏やかな気持ちが満ちてきます。
「ほーら、また一人で空想の世界に飛んでる。帰ってこーい」
彼女はふにふにと彼の頬を突付きます。彼が気付いた時には、もう今年はあと10分を切っていました。
「蜜柑、あと1個になっちゃったよ」
「そうだな。食べていいよ」
「えー? やったぁ」
彼女は蜜柑を綺麗に剥きます。白い筋に栄養があるんだ、なんてことを彼が言ってもお構いなしに筋を剥ぎ取っていきます。
 綺麗に蜜柑が剥きあげてから、彼女は半分を彼に差し出しました。
「半分こ、しよう」
彼は軽く笑って、半分の蜜柑に一気にかぶりつきました。
「ぬわ! 酸っぺぇ!」
 最後の蜜柑は、グレープフルーツか渋柿か、ってくらいに酸っぱい味でした。
 彼女はそれでも口を尖らせながら蜜柑を食べ切り、言いました。
「これが今年の締めくくりの味ね」
「酸っぱさで終わるのかよ」
「酸っぱい1年だったってことじゃないの?」
彼女はクスクスと笑いました。そのまま酸っぱい口でキスをして、テレビのカウントダウンを待ちます。あと1分ほどです。2人は目を閉じ、過ぎ去ろうとしている1年に思いを馳せました。
「思えば、色々あったなぁ」
「あんたの浮気とかねー……」
「それを言うならお前もだろ……」
「それはあんたが浮気したから、つい、ね……」
「でも俺が浮気やめてもお前は浮気相手と繋がってたしなぁ……」
「もう終わったことよ……」
「ちょっと許せねぇんだけどな……」
「なによ!」
彼女はいきなり立ち上がりました。
「もとはと言えばあんたがしょーもないことばっかりしてるからでしょ! 好きで浮気してたんじゃないのよ! ただあんたに心配とかやきもちとかしてほしかっただけなのに! それでもあたしの方が悪いって言うの!? あんた自分が何やってたか分かってんの!」
「ちょ、ちょっと……」
「この際だからハッキリ言っとくわ!」
 ポーン、ポーン、ポーン……
 口論の途中で、年が明けてしまいました。呆気に取られた彼女は、喝采の上がるテレビ画面を見ながら力なく拍手をしました。
「……で? ハッキリ、何を言うって?」
彼は呆れたように彼女を見上げました。
「だから、その……」
「何?」
「……何だっけ?」
「馬鹿だな」
「馬鹿ぁ!?」
再び怒りかけた彼女を見て、彼はまた、フッと笑いました。
「今年のお前の目標は、そのキレやすい性格をどうにかすることだな」
「キレやすいって何よ!」
「何よって、それよ」
 彼女は恥ずかしそうに、ぺたりと座りました。
「ほーらな。たった30秒前まで去年だったのに、今はもう次の年なんだぜ。しかも、去年と繋がったままで今年を迎えちまったじゃないか」
「ごめんなさい」
「今言うべきは、ごめんじゃないわな」
「……うん」
 外の通りに、人が出てきました。寒空の中、少しずつ賑わいが増えていきます。元旦未明の眠らない夜、誰にともなく、人々は言います。それがまるで、お目出度い自分に言っているかのようで、滑稽で。

 だからほら、新しい1年は、おめでとうで始まるんだよ。
 ありがとうって、誰か、冗談でも、言ってあげなよ。

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2002/12/18 (Wed) メッセージ

 どこから持ってきたのか、彼はラジカセを前に鎮座した。
 人差し指と中指をつんと立て、躊躇うことなく「再生」と「録音」ボタンを押す。ごく小さくノイズが流れた。テープが回っている証拠だ。
「あー……これを、この録音を、未来へ残すことにする。かつて、そう戦後まもなくから実に八十年代の後半まで、地中にガラクタを埋めるという方法でタイムカプセルと呼ばれる未来へのメッセージが残されてきた。もちろん、それらは一定期間後に掘り起こされたのだけれど、それはお世辞にも良い方法であるとはいえなかった。埋めた正確な場所が分からなければ、思い出の品はただのガラクタのままで地中に残ることになる。それは無為だ。文字通り、本人には何も残らないのだから。しかし九十年代になって、タイムカプセルはこのように録音の方法を取られるようになった。それはテープだったりディスクだったりするけれど、本人の声を残す、という方法が主流となった。保存は公的な場所に限られ、一定期間後にこのテープは再生されることとなる。もちろん、保管場所にはテープを再生するハードがあるわけだから、未来にどのような録音の技術が主流になっていようと平気だ。そのとき、テープは文字通り再生……リバース、することになる」
 一旦テープを止め、彼はコホンと小さく咳払いをしてから続けた。
「そして九十年代後半から二十一世紀初頭においてはホームページを作りそれをディスクに保存あるいはネット上に……主に信頼出来るサーバにだが……思い出を残すようになった。それは本人も気付いていないだろうけれど、全てのホームページ、つまりサイトはタイムカプセルの役割を果たす。それにいち早く気付いたインターネットライブラリは世界中のほぼ全てのサイトのデータを保管している。全ての出版物を保存している国立国会図書館のようなものだ。だから本人がいつかサイトを思い出して見返したとき、それがタイムカプセルの役割を果たしていることに気付くはずだ。
 よって私はここに私の声を残そうと思う。私の声をデータとしてサイト上にアップロードする。その際に使用するサーバはタイムカプセルを埋めるべき場所、つまりアンダーグラウンドだ。そこは機密保持性にすぐれているはずなのに機密を漏洩させる技術を日々研究している場所だ。いわば戦争における軍隊のようなものだ。最前線で平和を守る技術と争いを起こす技術を同時に研究している、という意味でね。
 私が残そうと思うメッセージは、今の私の苦悩だ。私は日々、自分の『心』がガラガラと崩れていくのを感じている。音が聞こえるんだよ。だから私は物語を紡ぐことによって心を探そうとした。人が人を思うこと、あるいは動物や植物に向けられる感情かもしれないが、とにかく『優しく美しくあろうとしたもの、または矜持にあふれた存在』を求めたのだよ。どうして私の心が壊れていくのか、その原因は既に知っている。しかしそれは止めようがない。私はただ、人間らしくありたいだけなのだ。だから私の思うところを物語という形でホームページに収めているのだが、次第に考えるという行為そのものが困難になってきた。しかし死が近いとは到底思えない。私は人間性と思慮深さを日々欠如していくという病に侵されてしまった。
 最近、私が思う物語は、ある意味で心の問題の終着点なのかもしれない。私は、物語という形で歴史を紡ごうとした。それは世界史に見られるような文化と戦争の繰り返しではない。一人の人間から始まる、一族の歴史だ。その一族がどのように生まれ、育ち、恋をしてやがて結婚し、子を授かりそして親として生き、年老いて死んでいく……というような、ほぼ無限に繰り返されるかもしれない平凡な人々の歴史を紡ぎたいと思うようになった。平凡な人々が祈る平凡な幸せ、そこにつまり心における大切なものがあるような気がするんだよ」
 彼は大きく息を吐き、テープを止めた。20分テープのちょうど片面が終わりかけていた。裏面には彼のお気に入りの曲が二曲、すでに録音されている。
 彼はそのテープをデータに落とし、アンダーグラウンドにアップした。
 下に上げる、というその表現がおかしいと感じたが、彼はそれを面白いと判断しただけだった。笑う、という行為がどのような心の扇動から始まるかが分からなくなっていた。
 彼はそんな自分の、痙攣にも似た頬の筋肉の動きを作ってみてから、はははと抑揚の無い声を上げた。泣いているみたいだ、と判断できた。

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2002/12/10 (Tue) 帰ってきた幸福屋

 駅前でティッシュを配っていた男が、わたしの前に来てハンカチを出した。妙にニコニコしていた顔がムカついた。ハンカチも配っているのだろうか。
「泣きべそかいてちゃ、可愛い顔が台無しですよ!」
男はそう言ってにこやかにその場を後にして、また持ち場に戻ってティッシュを配り始めた。

 夕方、待ち合わせに来ない彼に愛想をつかしてとぼとぼ歩いていたわたしの前に、昼間の男がにこやかにやってきた。今度はカイロをくれた。
「手がかじかんでちゃ、綺麗な手先が台無しですよ!」
男はそう言ってくるりと華麗なターンで後ろを向き、また駅前に戻っていった。

 帰ったわたしはコーヒーを淹れ、一息ついた。テレビのリモコンを探そうとテーブルの上のチラシをがさがさやっているとコップが倒れ、コーヒーがカーペットにこぼれた。あわてたわたしはズボンの後ろポケットに入っていたティッシュを全部出し、ぺしぺしとカーペットを叩いて吸い込ませた。
「カーペットが汚れてちゃ、小奇麗な部屋が台無しだなあ」
呟いたわたしは、一緒にポケットから出したハンカチもカーペットに当てた。どうせ路上で配っていたものだ、使い捨てでもいいだろう。
 広げたハンカチは、駅ビルのカフェを宣伝していた。
 明日は、美味しいコーヒーでも飲みに行こう。策略にはまった自分を軽く笑い飛ばし、わたしは懲りもせずに二杯目のコーヒーを淹れた。とびきり甘い、ミルクコーヒー。

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2002/12/01 (Sun) ピアスマン

 昔々、アダムとイブの直系の子孫で、人類の祖の一人である、こんな男がおったそうな。
 彼の名前はピアスマン。彼の名は表の歴史には残ってはおらん。
 ピアスマンは鋼のような筋肉を纏い、いつもニカニカと笑い、そして誰にでも優しかったのだそうな。当然、女性にもモテモテだった。けれどピアスマンは、どんな美女とも、決して付き合うことはなかったのだそうな。
「おれの気持ちはみんなにあげたいんだ。だから誰かひとりを選ぶなんて出来ないんだ」
そんな感じの言葉を、ピアスマンはいつもいつも言っていたのだそうな。

 ピアスマンは頑丈だ。
 川で溺れる人を助け、動物を助け、山では落石から助け、海では溺れている者を助けた。彼はまさに、正義のヒーローだった。彼のおかげで、皆が無傷ですんだのだ。

 ピアスマンは慈悲深い。
 罪を犯してしまった自分の祖先を許し、同じ過ちを繰り返さないように他の者に分かりやすく説いてまわった。動物にも、植物にも。だから世界は平和だった。

 ピアスマンは強い。
 それでもやっぱり争いは起こるが、ピアスマンは涙を流しながら両方を成敗した。結果、勝敗はなく、また平和が続くのだった。

 それでもある日、ピアスマンにも寿命が訪れた。それは全能なる神が与えた死期だった。本来ならば無敵であるはずのピアスマンは不老不死で、次の神候補として将来を期待されていた。けれど彼は、ある条件とともに、自らの命を絶つことに決めた。
 彼は神に、こう言った。
「不老不死で無敵なおれの意思を、後世にまで伝えて欲しい」
そこで神は、彼がいつも耳につけていた飾りを手にとった。その頃、人の耳は、とくに耳たぶには大脳から直接繋がる重要な組織が入っており、そこを傷つけることは即、死に繋がるものだった。ピアスマンは無敵ゆえに、耳飾りという画期的な飾りをつけることができていたのだ。
 ピアスマンの命と引き換えに、全ての人類の耳から重要な組織は取り除かれ、脳の一部に組み込まれた。そして、耳たぶに痛覚はなくなったのだった。さらに、いつも冷静沈着だったピアスマンの意志を継ぐために、耳たぶは常に冷たくなったのだ。

 いつからか、人は耳に穴をあけるようになった。そこにつける飾りを「ピアス」と呼ぶようになったのは、実は偉大な男を忘れないためなのだ。しかし、発展を続ける人類は、「ピアス」を耳だけではなく、全身に施すようになった。けれど、忘れてはいけない。「ピアス」をつけても痛くないのは、耳だけなのだ。

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