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2004/02/27 (Fri) だれかのための歌

 メジャーデビューという夢があった。それが叶ってからも、生活にあまり変化はなかった。毎日ダラダラした生活を続ける中、気が向いたら小型のレコーダーに思いついたメロディを吹き込む。ある程度それが溜まったら五線譜に書き下ろす。予定がある日は事務所へ行ったり、CDショップへ行ったり。インストアライブをしても路上で弾き語りをしても、誰も僕の歌なんて聞いてないのはすぐに分かった。本物のミュージシャンが唄ってる、それだけだった。ケイタイを向けてフラッシュを焚くだけ。僕の歌は誰にも届かない。ライブの後でサインをねだる人はあっても、CDを買ってくれる人なんていなかった。
 オフの日は朝からぬるい風呂に浸かった。天井をぼんやり見上げる。僕がしたかったことって、こんなことだったのかな…。僕の夢は叶ったはずなのに、何一つ掴めていない気がするのはどうしてだろう…。
 風呂から上がり、また曲を書いた。これが仕事でお金も貰っているのだから文句は言えない。けれど、こんなんじゃアマチュアでも同じじゃないか。せめてバンドでも組んでいれば、こんな不安をぶち壊すだけのパワーをくれる奴が一人くらいはいたかもしれない。でも、僕の歌はいつもギター一本で奏でるから、あんまりやかましいメンバーはいらない。やかましいオーディエンスもいらない。でも、曲が売れないことには僕の生活もままならないから、誰の耳にも優しい無難なメロディに無難な歌詞を載せて、また唄う。
 未発表の曲も、もちろんある。スタジオを使わせてもらって録音したデモテープもある。好きなことをやっているはずなのに、好きな歌を唄えない僕は結局、何もしていないのと同じだ。サラリーマンと同じだ。全ては、お金のため。
 僕がまだアマチュアだった頃に作った自主制作のCDを持ってきて、その中でも未発表の曲ばかり集めた「マニアクスコレクション」と銘打った一枚をかけてみた。夢を唄い、愛を求め、自分の在り方にこだわった馬鹿な男の歌。僕の声とギターと右手で世界を少しでも優しい音に染められたら、そう願って叫んだ歌。
 本当はいけないことだけど、これはミュージシャンにだけは許された歌だ。これが哲学者や小説家や画家や数学者や写真家だったら、こうはいかなかった。歌を唄う人にだけ許された内容の、小さな物語だ。
 自分のことを自分のために歌った唄。僕が生きるために、皆から元気を貰うための唄。
 そうして貰った元気でもって僕はまた、皆のための唄を少しずつ綴ることができる。そうだ、僕は、前から変わっていない。まだ届かない夢を見て、視界を曇らせている。唄うこと以外に何もできない僕が、唄うこともろくにできないけれど、祈りにも似た物語を叫ぶことだけは、人並みにできる。もう一度だけやってみよう。ダメだったら僕はそこまでの人だったってこと、それだけ。毎週毎週、言っている。もう一度だけ、もう一度だけ、頑張ってみよう。

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2004/02/25 (Wed) クッキン・ハート

「今日の御題は、ハンバーグランチだ」
 伝説のシェフの言葉に、見習いたちは戦慄する。次第にざわめき始めた。まさか…あの恐怖のハンバーグか…! シェフの後ろに並ぶ素材人たちの顔色が一気に青ざめた。あれは諦めと絶望の表情だ。
「まず始めに、タマネギだ」
 シェフは素材人を一人選び、パラパラとカルテを見てほくそ笑んだ。そしてマイクを持って素材人の秘密を次々と暴露していく。生い立ち、幼少、成長過程、思春期、初体験、そして今も思う人のことを。素材人のこころがどんどん剥がれていく。
「これが皮むきだ」
 次に、素材人の恋人を壇上に上げ、その人に向けて素材人についてあることないことを次々に暴露していく。素材人は泣き崩れた。壇上の人はやりきれない顔で引っ込んでいった。
「これがみじん切りだ」
 シェフは淡々と進める。次に選んだのは赤い顔をしたニンジン素材だった。同様に皮剥きでこころのガードをはがし、無防備になったところで「今度はすりおろしだ」と言い放った。シェフはカルテを一枚めくり、壇上に素材人の知人たちを上げた。知人たちもまた青ざめた顔をしている。しかし『言わなければ自分が素材人にされてしまう』かのような恐怖のもと、次々に素材人を裏切る言葉を浴びせていった。お前と一緒にいて損をした。時間の無駄だった。騙された。死ね。最低のクズ人間。素材人のこころはぼろぼろになり、その場に崩れた。
「さて次はひき肉だな」
 シェフは次の素材人を選び、壇上に上げた。そしていきなり場にいた全員で彼を指差し、笑い出す。素材人は何がなにやらわからない表情だったけれど、やがて泣き出した。けれど嘲笑と罵声はやまなかった。やがて彼のこころは見事なミンチになった。
「これらを混ぜ合わせ、塩コショウを加える。あとはパン粉だ」
 シェフが適当にとどめとなる言葉を一振り二振りし、彼らのこころを全力で練り合わせた。さらに壇上に現れたもう一人のシェフに向けてこの塊を一握り投げつける。もう一人はそれを見事にキャッチし、投げ返す。
「キャッチボールで空気を抜き、形を整える」
 いい感じに混ざったところで素材を中火で焼き始める。生ぬるい視線と言葉でさらに追い討ちだ。両面を焼いた後は弱火でじっくりと火を通す。もはや素材人のこころのうまみは完全に封じ込められていた。
 フライパンに残った残り汁でソースを作り、見事ハンバーグは完成した。シェフは見習いの一人にあごで指図した。「おい、その残りかすを捨てて来い」
 見習いは抜け殻になってしまった素材人たちを抱えて焼却炉へ向かった。
「さて、出来上がったハンバーグにライスを添えて完成だ」
 ライスになる素材人のこころは純白で純潔だった。見習いたちはこのハートのレシピで作られる料理を美味しいと感じたことはない。けれどこのシェフが王国第一級料理人なのは、彼が作る料理が国王や皇族にとってはたまらないほどの美味を生み出すからに他ならない。
 庶民のこころをこねくり回して作るハートの料理。さて、どんな味がするのかな?

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2004/02/13 (Fri) 忍者ハッタリ君

 山を越え 谷を越え 僕らの町へやってきたー
 ハッタリくんが やってきたー

 ブロロロロン! ガオン! ドババババババ……
 その音が響き渡り、町中の兵(つわもの)が振り返る! あれはカワサキの誇るGPZ900R・初期型A1! フルパワー115psを手曲げワンオフのマフラーに通して地鳴りのような爆音を巻き上げる! そしてそのニンジャにまたがる男こそ、前世紀最後のSINOBIと呼ばれた伝説のペテン師だ! その嘘は世界を騙し、ときにパイロット、ときに弁護士、ときに医者、ときに海賊と実に様々な職を転々とするがその正体は誰も知らない……
「ニンジャ(に乗って)、ハッタリカンゾウ、ただいま参上!」

 カロロン、と黒く重い扉が開く。カウンターには数人がいるだけで、店の中はどんよりと重い空気が漂っている。カンゾウはカウンター奥のダーツの的をめがけ、胸ポケットから取り出した手裏剣を投げつける!
 パスッ
 ほとんど音もなく、手裏剣はダーツの真ん中に刺さった。そして手裏剣に括り付けられていた小さな巻物をバーテンが開き、そこに書いてあったオーダーを受ける。
「投ーげる手裏剣、ストライク……」
カンゾウはボソッと呟き、一番奥の席へと入っていく。
 しばらくするとウェイトレスがカクテルを持ってきた。なぜかジョッキだ。それを手渡しで受け取った瞬間に一気で飲み干し、カンゾウはカッと目を見開いた。
「忍法! 金縛りの術ッッ」
ウェイトレスが硬直し、その隙にカンゾウは扉へと一目散に走っていく!
「ニンニンニンニンニーン!」

 飲酒運転で爆音を轟かすニンジャが一台、この町を去っていく……
 経歴を偽り、世界を騙しつづける男、ハッタリカンゾウ。できるもんなら、捕まえてみやがれ!

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2004/02/10 (Tue) 宝石箱

 わたしの部屋には宝石箱が飾ってある。由緒ある骨董品らしく、先祖代々受け継がれてきた一品だ。ただし箱には鍵がかかっており、その鍵の在り処をわたしは知らないので中身が何なのかは知らない。子供の頃によく「開けちゃだめですよ」と言い聞かされていたから、相当大事なものなのだろう。それなら金庫にでもしまえばいいのに。
 キラキラと輝く飾りがとても綺麗な箱。箱だけでも相当の価値があると思う。質屋に持っていったらいくらになるだろうと考え出したのは、わたしが大人になった証拠だろうか。大人は汚いと思う。

 そういえば、子供のころのわたしは大事なものをいつもお気に入りのジャンパーのポケットに詰め込んでいた記憶がある。こうして箱か何かに収めておけばいいのに、毎日着るジャンパーにビー玉とかお菓子とかてんとう虫を詰め込んで、ポケットをパンパンにしていた。そのポケットにはファスナーがあって、わたしは大事なものを入れて閉めることはあっても中身を確認するために開けることはなかった。だから中に何が入っているんだっけと思ったりしながらも開けなかった。
 そのジャンパーは、次の春に洗濯されるときにポケットの中身も全部捨てられた。そのときわたしは泣いたんだと思う。けど、今度は赤いスカートのポケットに色んなものを入れる癖があったからあんまり悲しくなかったのかもしれない。よく思い出せない。忘れた。

 同じような、ちょっと違うけど同じような「せつない」記憶がある。彼氏と別れたとき、正確には彼が海外へ行ってしまうから待っていてくれと言われたとき、わたしは正直、待てる自信がなかった。彼が最後に渡してくれた紙切れには短いメールアドレスが。一年半で帰ってくると彼は言ったけれど、二年経っても彼は帰ってこなかった。正確には彼からの連絡が、なかった。
 わたしは何に意地を張っていたんだろう。アドレスがあるんだからときどきないし毎日でもメールを交わせばよかっただけのことなのに、若かったわたしはこの二年間で新しい彼氏を作っていた。すぐに別れたけれど、それはわたしの胸の中にまだ彼がいたからだった。それに気付いて、ようやくメールを出してみることにした。二年ぶりのメール。まだ、元気でいるかな? わたしのことを思っててくれるかな?
 少しでも優しい言葉が返ってきますように、なんて思っていた。
 返ってきたのはあて先不明で戻ってきたリターンドメールだった。

 目の前にある綺麗な宝石箱。装飾が煌びやかだから重くて中身が何なのかは全然分からないけれど、わたしが思うにきっと中身は空なんじゃないだろうか。まるでそう、メールアドレスのように。
 鍵がないというのもおかしな話だった。だけど逆に、もしも鍵を見つけさえすれば中に収まった金銀財宝や輝かしい記憶を手にすることができるのだろうか。
 鍵を探しに先祖代々のゆかりの地を探しに行くと家を出た父親。あなたは今、どこで何をしてますか? 鍵を見つけて帰ってきたとき、中身を手にしたらこの十数年が埋まるとでも思っているのですか? それとも、夢を追うことだけが目標になって鍵などどうでもよくなってませんか?

 大人になっていくことを、わたしは、この開かない箱から教えられたように思う。

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2004/02/06 (Fri) ライラック

 恋人であるキミに距離を感じるのは、いつもベッドの中だ。
 大好きなキミを抱けるというのに、僕はいつも震えている。過去にキミが経験した数え切れないほどの男達に嫉妬しているんじゃない。その経験がキミの人生観すら染めてしまっていたということにだ。知っているかい? キミを喜ばせるため、僕はキミとベッドに潜るときはいつも神経をすり減らしながら必死になって全身で表現するんだ。
 恋人に求める要素の第一位を「セックスの相性」と臆面もなく言い切るキミがどうして僕みたいな冴えない男を選んだのかは未だに分からない。僕の求めるそれは「心の繋がり」で、キミにしてみればこれは第五位までに入らないんだから。当然、僕はセックスも下手くそだ。愛し合えれば、心が繋がれば、身体はたとえ満足しなくても(そこそこあれば十分だろう?)それでいいと思っている。今でも思っているんだよ。
 けれど現実は、いつもキミを選ぶ。キミが選ぶ洋服の色に流行が合わせるし、キミが好きなランチが雑誌で紹介されるし、大多数の恋人たちがセックスの相性を心の繋がりや安心感なんかよりも遥かに重要視しているように。だから僕は、そういう現実についていけないから、昨日、全てを捨てたんだ。こんな病んだ僕の心を救ってくれる人、つまり僕の心に繋がってくれる人に出会うために。
 自分が男である証を、昨日、僕の体から切り離したんだ。

 膨大な時間が流れた。あの選択肢が正解だったかどうかは今だに分からない。僕がセックスできない体だと知ると、親しかった女性はみんな僕から離れていった。だからといって僕が男色家になったというわけではない。僕はいつも探している。求めている。たとえばキスや抱擁では、満足できないだろうか。どうして人の心がこうして際限ない「愛」を求めるのか、それが僕には分からないんだ。
 そんな僕に、先日、愛を誓える人、恋人と呼べる人がついにできた。回り道ばっかりして流行遅れで世間知らずで我が侭な僕を「自分を持った人」だなんて呼んでくれる、できすぎた人だ。実は僕の身体は男に戻ることができる。切除したのは性器じゃなくて、その中身だ。
 だけどときどき、僕もふいに寂しくなる。抱擁じゃ全然足りない寂しさや孤独を埋めるには、やっぱり物理的な安心感が必要なのだ。物理的な繋がりが。そこに心が同調すればそれを愛と呼べるだろうけれど、今では何がアイなのか僕には判断がつかないよ。
 たとえばリラの香りを嗅ぐたびに僕はかつての恋人を思いだす。何も持っていなかった冴えない僕に、セックスのテクも何も無かった僕に、それでも温かい潮流をくれた人。香水はいつもリラの香りで、そういえば好きな色が白や紫だった。今になって心の中のキミに問う。もしかしてキミは、何も持っていない僕が唯一カケラだけは持っていた「こころ」ってやつの匂いに誘われてやってきたのか? だとすれば僕は、唯一の理解者を……
 ハート型の葉っぱ。木のクローバーなんて呼んでいただろう? 普段は四枚の葉に、ときどき五枚の葉がある花がある。そいつを見つけたら幸せになれるなんて、下らないことを。
 次にリラが咲く頃、僕はきっと僕なりの答えでもって幸せになってるはずだよ。だからどうかキミも、選択肢を間違わないでいてくれ。間違いだらけの僕の代わりに、正解だけの道を。

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