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2004/03/31 (Wed) 書いてていい加減イヤになってきた

 原初、人間が一人も存在せず、また動植物も石も山も存在しなかった頃(といっても陸地すら存在せず、世界はただの海だった頃…あるいは水しか存在しなかった頃)には、空を舞う神が3柱だけが存在していた。彼らは自身を神だと認識していただろうか…という疑問は置いといて、とにかくその神たちは、つまらない世界をどうにか面白いものに変えてやろうと思い立った。
 1人目の神は海の上に陸地を作った。陸地はやがて海の深くに根を張り、陸は浮いているものではなくて地球の芯から繋がる部分となった。
 2人目の神は地上に生き物を作った。動物と植物。海中にも魚を作ったし、空を飛ぶ鳥も作った。誰の目にも見えないような小ささの虫や微生物も作ったし、星よりも大きな石を作り、空に浮かべた。大きな石はやがて宇宙の果てへと飛んでいった。
 3人目の神は、そのときは何もしなかった。動植物が殺し合いをしながらも平和に生きているのを見ては、これでは何かが足りないと考えた。そこで、動物が出来てから果てしない時間が経った頃、「こころ」を作った。それは神自身が思うような世界の認識だった。やがて生まれた人間に、神は「こころ」を与えた。
 最初の人間は自分を「カトル」だと名乗った。カトルは全てを知っていた。生まれたときから神と同じような手足の長さを持っていたし、成人の体躯だった。空を見上げたカトルは、なぜ金星がこの星とは逆向きに自転しているのかに着目した。
 カトルはやがて、空の彼方に大きな石が浮かんでいるのに気付いた。自分がその石ほどの大きさならば金星にたどり着くことも出来るだろうと思った。しかし、星を抜け出すことが不可能であることはとうに知っていた。
 そこでカトルは、神に与えられた自分の「こころ」に手を加えた。「こころ」はひとつで完全だったけれど、それを分裂可能な存在にしたのだ。
 そして、カトルは神の知識によって人間を生み出した。生み出した人間はカトルから与えられた「分裂するこころ」を持っていた。カトルは人間たちから離れ、空を見上げた。
 人間が増え始めてきた頃、カトルは自分に残った神の「こころ」を、空へ飛ばすことにした。いつか地上に溢れた人間が「こころ」を合わせたときに完全な「こころ」が完成すればカトルと同じ完璧な人間が1人増えることになる。それを願った。
 「こころ」だけとなったカトルは空を飛び、金星に向かった。
 金星に向かう途中、大きな石にカトルの「こころ」は入った。石となったカトルはやがて、地上にいた沢山の人間にも発見された。人間たちは誰からともなく、その大きな石…あるいは星、を「ケツアルカトル」と呼び始めた。
 それは、いつか完成するこころのありかを夢見た言葉だった。

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2004/03/27 (Sat) メロディ

 一日中部屋にいるのに、壁掛けの時計を見るのは1回か2回だ。基本的に時間など関係ない生活を続けているけれど、やっぱり時計を見たくないと思うのはそこに焦りがあるからだろう。
 目覚めると午前11時。もうすぐ昼。だからいつも朝食や昼食ではなくてブランチだ。最初に口にするのはテーブルの上に置いてあった昨夜の飲みかけのコーヒー。冷たい一口が胃に染みる。
 テレビは滅多につけない。起きている間はほとんど一日中パソコンの前に鎮座だ。壊れかけのスチールラックで作ったパソコン台は、キータイプするたびにぐらぐらと揺れておぼつかない。
 ネットに繋いで最初に表示されるポータルサイトのピックアップニュースを斜め読みして世間を知った気になったら、いつものお気に入りサイトを巡回する。どれもこれも下らない、どうしようもない日記や音楽の話題ばかりだった。けれど、それを見ている間はなぜだろう、連帯感を感じる。一人きりのクズな自分を、もしかして認めてくれているのか、なんて思えたりする。
 一人を望むのに、目の前にいない人に共通項を見つけては一喜一憂する。鳴らない携帯を開いて迷惑メールを全削除してから着信履歴を眺めた。友達と最後に話したのは何ヶ月前だろう。あいつらが元気でやってるのか、それすら知らない。
 例えば一年後、自分はどこでどう生きているんだろうとふと考える。このままの生活じゃきっと家賃すら払えずにどこかで野垂れ死んでいくのは確実だ。窓の外から下を眺め、笑いながら歩いていく学生服たちを見て溜息をついた。仕事でも趣味でもなんでもいい。こんな自分を認め、求めてくれる人はいるのだろうか。
 日に一度は出かけなきゃ引き篭りだ、という信念のもとで出かけた。結局コンビニで立ち読みをして帰ってくるだけだから引き篭りと同じなのだけれど。立ち読みだけじゃアレだから、なんて理由で申し訳なさそうにパックのコーヒーと食べきりのクッキーを一袋。
 いつの間にか陽がオレンジ色になっていた。けれどまだ温かい。春が近づいてきているんだろう。どうしようもないクズでも冬を越えることはできたよ。
 公園内の池まで歩いてきて、さっき買ったクッキーを叩き壊して少し投げた。カモが欠片を奪い合った。一袋全部を与えてから、鳥になりたいかと自分に問うた。鳥は自由かもしれないし、生きていくことは遥かに楽かもしれない。
 別に、楽じゃなくてもいいよ。
 照れたように笑った。
 痛いくらいに温かく優しい夕日の中、いつも前向きなチカラを貰う。帰ったら何かしよう。そうだ、もうずいぶん停滞しているままの曲に、続きの歌を。
 明日からは違った日を送りたい。そう思うから、この夕日にメロディをあげよう。ギターを取りに帰ったら夕日は沈んでいるだろうか。そうならそうで構わない、夜のための歌を。

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2004/03/21 (Sun) 古代文明

 太古、そりゃもう気が遠くなるくらいはるか昔の物語。
 森と山に囲まれた、崖の下にある部落。海抜は低く、気圧は高い。そんな場所で暮らしていた古代人は、歴史に名を残すことなくある日突然消えてしまった。その原因は問題ではなくて、きっと自然とともに生きていたであろうことから自然の変化とともに消えていったのだろうが、やはりそんな辺鄙な世界に住むわずかな人の間にも、神話というのは存在した。
 崖の下にあったその世界には、鳥がいなかった。獣や虫はいたけれど、ただ鳥だけがいなかった。だからだろう、人の思いは空へと向かった。見渡せば果てがある世界、その果てとは大きな崖だ。空というのは、見上げてみればわかるけれど遠くに小さく縁取られた崖の上にある何かで、それが何かは疑問にすらならなかった。
 朝になれば崖の中に日が差す。夜になれば崖は真っ暗になるから眠る。そんな生活を続けていた。大雨が振り続いた時は底に水が溜まって、空が少しだけ近づいた。

 その世界の神話は、神や悪魔についてではなかった。
「かつて、空から人が降りてきた。その人はとても美しかった」
というだけのものだった。それは天使の記述だった。彼らにとって天使は、羽の生えた人間ではなくて、空から降りてきて普通に生活をする人間、なのだ。そう、天使は飛ぶのではなく、降りてくる。それが語り継がれてきた神話だった。
 ある日降りてきた人間は、崖の底にいた人々と同じように振る舞い、同じように生活した。そして同じように死んでいったのだろう。けれど、考古学者でパンクロッカーのある男が、今世紀初頭になってこんなことを歌った。

 マピルマチカンの神話は、きっと人間の根底に受け継がれている。見た目には普通の人と同じである天使たちが、今の時代、少しずつ降りてきて普通の暮らしの中でちょっとずつ世界を良くしているのだ、と。

 その歌は、今、少しずつ広がりを見せながら歌われ始めている。もしも自分の隣にいる人が降りてきた人だったとしたら、そんな素敵なことはないだろう? なんてことを呟きあいながら。羽がないからきっと上の世界へは帰れないのだろうけれど、あるいは。
 降りてきたのではなくて、帰ってきたのだとしたら。それはそれで、素敵な神話。

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2004/03/20 (Sat) バレンタイン

 街角にある、占いの小部屋。それはプレハブ造りの簡素なものだ。外見は真っ黒に塗られ、ドアは濃い紫なのでうっかりすると入り口が分からない。けれどそこは、よく当たると評判だ。当たる、というのは占いではけっこう重要な要素で、訪ねてきた人の名前が当たること、誕生日が当たること、仕事が当たること、悩みが当たることがまず「凄い占い師」の最低条件だ。この店の主、マリークラリネット和田(年齢不詳・女)は当然のようにこれらをこなす。けれど、自分の名前を当てられたからといってその占い師が言うことが全部真実であるとは限らない。往々にして占いの小部屋に訪れる客は人生相談を始める。結果として明確な答えは、彼らは必要としていない。彼らが欲するのは「黙って自分の話を聞いて頷いてくれる人」であり、「意見の賛同者」なのだ。つまり、占い師はハイハイと頷いていればほとんどの場合の人生相談において、相手に不快な思いをさせることなく仕事を終えられる。相談というのは、客が相談してくることが多い。というわけで人生相談というのはただの愚痴の吐き所でしかないのがほとんどだった。
 今日もまた、一人の女学生がマリークラリネット和田のもとを訪れていた。

「わたし、不安なんです。バレンタインが明後日に近づいているっていうのに、チョコも用意したのに、好きな人に渡していいものかどうか……」
「渡せばいいじゃありませんか」
「だって、もし振られたら、って思うと怖くて怖くて! それに、振られたとしたら気まずくてもう廊下とかですれ違うことも出来ないじゃないですかっ」
「では……どうします? 卒業式の日にでも告白して、運良くOKしてもらえたとしても、すぐに地元を離れて遠距離になってしまう、そういうケースは多々あります。それならば今のうちにダメモトででも言っておいた方が得でしょ」
「ダメモトとかじゃなくて! なんでそんな怖いこと言うんですかーうわーん」
「いいですか、バレンタインは、思いが成就する日。男の子もその日は特別に意識するんです。その日は告白成功率が69%だと統計が出ています」
「けっこう低いじゃないですか!」
「いいですか、その日は、その日だけは、恋がたとえ実らなかったとしても何ひとつ恥じることなんてないんです。社会的に認められてるんですよ。だってその日は『好きな人に声を大にして好きだと伝えていい日』なのですから。その権利は女の子だけしか持っていません」
「占い師さん……わたし、ちょっと元気でてきたわ! やってみる!」
「ええ、がんばって」
「ありがとう!」
「……ところで、今日は何の相談ですか?」
「え、だからバレンタインの……」
「ああ、そう。そうだったわね。ごめんなさい……チッ、くだらねぇ」
「何か?」
「いえ。お代は……そうね、あなたは可愛いから2000円におまけしておくわ」
「ありがとうございました!」
「じゃあ、頑張ってね」
「はい!」

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2004/03/17 (Wed) くだらない歌

 例えば、30歳。
 幼馴染みの彼らは、小学校の同窓会が催されているその日に3人だけで居酒屋に向かった。約20年ぶりのクラスメイトのことや、かつて小さく焦がれた少女のことよりも大切なことがあると信じることができた。中学までは3人とも同じ学校で、高校からは別になり、今日まで会うことはなかった。
 仲間と呼んでいた親友たちに会うことに、一つも後ろめたいことはなかった。会ったその瞬間、肩の高さで手の平を叩き合ってあの頃を取り戻した。忘れていた20年前の全てが一瞬で戻ってくる。離れていても連絡をしなくなっていても、再会するというだけで全ての時間は埋まる。3人とも、それを信じていた。

「20年になるのか、早いな」
「そういうオヤジじみた台詞を聞きたいわけじゃないぞ」
「そうそう、かといって思い出話に花を咲かせたいわけでもない」
 3人はニヤリと笑い合った。
「じゃあ、俺から話そうか」
 カウンター席の右端に座った男が話し始めた。彼は中学卒業後、普通のレベルの高校そして普通のレベルの大学を経て国家公務員Ⅱ種に合格、今は公務員として平凡な日々を送っている。けれど決して仕事が退屈なわけではなく、それなりにやりがいと生きがいを見つけていた。結婚もして、子供もいた。あとの2人は子供がいないと言うと、彼は意味深に笑った。それから遠くを見つめるような目でしばらく黙っていたけれど、二杯目のウィスキーを頼んで話を次に振った。
 カウンターの真ん中に座った男は、高校を出た後はバイトを続けてカメラマンになるために勉強をし、写真を撮り続けた。けれど30になった去年、長年続けた夢は叶わないものだと悟り、けれどそれまでの日々を無為なものとは思わずに「よい経験だった」と言い放った。そして今は小さな工場で働いているという。その表情を見て、左に座った男が苦笑いを浮かべて、話し始めた。
 彼はミュージシャンになるために、今日まで定職にも就かずにひたすら夢を追い続けていた。その点においては真ん中の男と同じだったけれど、30を過ぎてもまだ彼は諦めることはなかった。実際、もう戻れないという恐怖もあった。世間知らずなままにこの分岐点のような年を迎えてしまった恐怖。何度も組んだバンドは次々に解散し、かつてのメンバーも今ではそれぞれに仕事をしている。彼だけが、まだ、夢の中だった。
 だから彼は、付き合っていた彼女に別れを告げた。長年住んでいた部屋も出て、携帯の番号も変えた。一人身であることだけが強みの、捨てるもののないドリーマー。妥協しない人生を生きることが目標である彼はそこだけは誇れたけれど、収入も生活レベルも隣の2人とは比べ物にならないほど低い。もっとも、3人中2人が「低ランク」な生活にとどまっているところを見ると、この3人にはどうもオンリーワンな才能というのがなさそうだった。
 左の男が眼鏡を外した。2人はギョッとしてそれを手に取った。見たことも無いような分厚いレンズ。かけると一瞬で頭痛にやられそうなほどの度が入っていた。
「お前、こんなに目が悪くなったのか」
「それで楽譜とか読めんのかよ」
 左の男は、今日始めて笑った。
「子供がゲームしたり漫画読んだりするのと同じだよ」右の男に向かってくい、と顎をしゃくった。「夢の見すぎで悪くなった」

 例えば、30歳。それは、もう戻ることが許されない年齢。あるいは、立ち止まることさえ余裕がないのかもしれない。例えば、25歳。それは、振り返りすぎるあまり立ち止まって、迷いに悩む年齢。例えば、23歳。それは、新たな始まりと秩序を手にしなければいけない年齢。けれど、立ち止まることも迷うこともまだ、許されている。例えば、20歳。それは、逆走さえ許される奔放な年齢。例えば、18歳。それは、まだまだ何も知らない卵のような、けれど一人で歩ける小鳥のような、ともすれば飛び立つことさえ出来る年齢。
 そして例えば、今のあなたの。

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2004/03/16 (Tue) ダメのプーさん

 僕はプー次郎。人は僕をプーさんと呼ぶ。僕は中卒でハタチまでヒキコモリを続けて、それから親に勘当されて22までアルバイトをしたけれど、漫画喫茶のバイトだったのでほとんど暇だったから社会勉強にはあんまりならなかった。今は一人暮らしで、定職にも就かず、バイトをしながらダラダラ暮らしている。税金は払っていないし、家賃も滞納している。
 僕の好物は蜂蜜だ。
 何はなくとも蜂蜜があれば僕は幸せだ。だからバイト代のほとんどは食費……主に蜂蜜に消える。近所のスーパーから蜂蜜が消えるのは僕のせいだと思ってもらって間違いない。
 ある晴れた初秋の日に、僕はスズメバチの巣を見つけた。なんと、僕のアパートの一番上の階の一番端の部屋の窓際にあったのだ。直径10センチほどの小さいものだけれど、その中でスズメバチが針を研いでいるのだと思うと背筋がぞくぞくしてたまらなかった。
 それが、始まりだった。
 それからはほとんど毎日、蜂を見かけた。スズメバチだけじゃない。ミツバチも、アシナガバチも。遠目にアパートを見ると、アパート全体に蜂がたかっていた。外に出るのが怖くなった僕は、ありったけの蜂蜜を買い込んで、部屋に篭った。
 冬になっても蜂は飛び続けた。アパートの住人はどんどん出て行って、僕だけになってしまった。これはもう、僕と蜂との根競べに他ならなかった。
 クリスマスが過ぎ、年が明け、受験シーズンが終わって、そして、春が来た。
 蜂は増え続けた。僕はいつのまにか眠っていた。目が覚めてテレビをつけたとき、もう4月になっていた。ふとんにくるまっていた僕はどうやら、冬眠をしていたらしい。喉が渇いたので水を飲もうとしたけれど、水道水というのはどうにも口に合わない。転がっていた蜂蜜のビンを舐めると、それはもうこの世のものとは思えないほどの美味さだった。
 窓を開けた。蜂は真っ暗だった。時計を見ると朝だったが、暗かった。手を伸ばすと、その闇が一気に晴れた。暗いのは蜂のせいだった。蜂が壁になって、アパート全体を包み込んでいたのだ。
 僕はまだ寝ぼけていたけれど、3階のこの部屋から飛んでみようと思い立った。ぶんぶんと唸る暗い壁に向かって飛び込んだ。
 どこまでも飛んでいける気がした。ふと思った。女王だ。女王を探さなければ。

 そうして、蜂の姿をした僕と、世界を埋め尽くすほどに増えた蜂との、静かな戦いが始まった。僕が先に女王を見つけて殺してしまえば人類の勝ち、蜂どもが女王を見つければ世界が蜂に支配されてしまう。ダメのプーさんは今日こうして、世界を救うべく旅に出たのだった。

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2004/03/12 (Fri) うらがえりさん

 彼は街の有名人。でも彼の名前は誰も知らない。みんなは彼を裏返りさんと呼ぶ。
 裏返りさんは服を裏返しに着ている。それだけならただのうっかりさんだけど、彼は帽子も裏返しにかぶっている。そこまでならただのおっちょこちょいさんだけど、彼は靴も裏返しに履いている。どうやったのかはわからないけれど(多分むりやりひっぺがえしたんだろう)。でもそこまでならただの変態だけど、地面に手を当て、両足をピンと空へ向けて立つ。それだけならただの逆立ち好きな変態だけど、彼は皮膚の代わりに骨と筋肉が見えている。それだけならただの怪我してるように見える逆立ち好きな変態だけど、彼は頑張って地面にしがみついている。両手で。
 ある日、彼が「疲れた」と言って両手を地面から離すと、ものすごい勢いで、空へと落ちて行った。

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2004/03/12 (Fri) あいこちゃん

 クラスに、アイコちゃんという、ちょっと内気な女の子がいる。アイコちゃんというのはニックネームで、本名は何だったか思い出せない。というか、分からない。
 終業式の日の夕方、なぜか教室に僕らだけが残ってしまった。僕は勉強をしていたし、アイコちゃんは本を読んでいた、と思う。
 午後六時を回って、先生が見回りに来た。もう帰りなさい、というようなことを言われた。僕はしぶしぶカバンにノートを押し込み、帰り支度をした。アイコちゃんは無言で立ち上がり、すぐに教室を出て行った。
 駅までの道は同じだったので、それとなく話しかけた。
「あのさぁ、キミ、何の本読んでるの?」
「陰陽師」
「ああ、流行ってるよね、そういうの。俺も知ってる」
「そう」
「で、安倍清明が好きなんだ?」
「好き嫌いで本を選んだりしない」
「そうか。そうだよねー。他にはどんな本読むの?」
「三島」
「ああ、ミシマ。知らないけど、名前は知ってる」
「そう」
「俺はさぁ、さっきまで勉強してたんだけどね。いや、教室は温かいじゃん? 塾とか行ってないからさ、家に帰ったら勉強する気にならないしさ、いつも残って一人で勉強してるんだけどさ」
「そう」
「世界史が苦手なんだよなあ。なんかこう、簡単に歴史を知ることは出来ないかなあ。タイムスリップとかで過去に行って体験すれば早いんだろうけどな」
「タイムスリップで過去には行けないわ。理論的に」
「え? なんで」
「相対性理論。知らないの? 未来へは行けるけど」
「そうかあ。そうだよなー。来年の今頃は、どこの大学に行ってるんだろうなあ、俺。想像もつかないよ」
「そう」
「キミはどこの大学行くつもりなの?」
「行かないつもり」
「そっかあ。人それぞれ、色々あるしね」

 他愛も無いことを話しているうちに、駅についた。ホームが違ったので改札で別れることにした。
「じゃあ俺、こっちだから。キミと話せて、ちょっとはキミのこと分かったよ。じゃあね」
「うん」
アイコちゃんはどこまでも愛想が悪く、ちょっとうつむいたままだった。
「俺、ちょっとキミのこと好きになったよ。キミみたいな人も悪くない」
 その言葉に、アイコちゃんはばっと顔を上げた。
「私はあんたみたいなウザい男は嫌い。何? 何なの? 人の話に共感してる振りして本当は何も知らないくせに。それで、自分が好きなものの話をして、それを押し付けるの? あれはいいよね、あれはあんまりよくないよねって。そんなこと知るかっての。あんたの勝手よ。それに、あんたの将来なんて私には全然関係ない。だから興味もない。相談に乗る気にもなれないし、まともに話をする気にもなれないわ。馬鹿じゃないの? 独り言を聞いて欲しかったら鳥にでも言ったら?」
アイコちゃんはそう言って、ぷいと顔をそむけて電車に乗り込んでいった。

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2004/03/10 (Wed) バルス

 ゴゴゴゴゴ……

 崩れ落ちる柱。天井は軋み、パラパラと欠片が落ちてくる。地面は揺れ動き、立っている事もままならない。その場所に辿りついた2人が、対峙していた。
「お、お前は一体、何者なんだ!」
少年は満身創痍で、肩の傷を押さえながら男を睨んだ。男は余裕の表情だ。
「わたしにも秘密の名前があってね……」ネクタイを締めなおし、男は続けた。「キミと同じように、王家の名を持っているんだよ。わたしの本当の名は、ロムスカ・ヴィッシェル・アロライン・キャシー・トリニアード・ニコラス・ハッジャ・ソイリッシュ・フィラデルフィア・カール・ムハマード・デウス・マキーナ・ブランコ・ディーン・ピエール・クラスター・アブルディナルセル・アン・ジョン・ベディー・ターボオプティマッドスペシャル・セシル・ジャンクロード・ミストレスフィリービア・ミシェール・パロ・ウル・パックマン・レフード・タントタント・マイノリティ・ジョージ・アライメント・ゾンビアーノ・テルフィレッチェレーノ・チョッチョリーナ・ウェブサイト・スズキ・ラルラウント・ゴールドセイント……ゴホッ! ゴホゴホ……。すまん、むせてしまった。もう一度、いいかな?」
「……どうぞ」
「わたしの本当の名は、ロムスカ・ヴィッシェル・アロライン・キャシー・トリニアード・ニコラス・ハッジャ・ソイリッシュ・フィラデルフィア・カール・ムハマード・デウス・マキーナ・ブランコ・ディーン・ピエール・クラスター・アブルディナルセル・アン・ジョン・ベディー・ターボオプティマッドスペシャル・セシル・ジャンクロード・ミストレスフィリービア・ミシェール・パロ・ウル・パックマン・レフード・タントタント・マイノリティ・ジョージ・アライメント・ゾンビアーノ・テルフィレッチェレーノ・チョッチョリーナ・ウェブサイト・スズキ・ラルラウント・ゴールドセイント・ティアノテヒアーノ・ペルージャ・ワン・オポチューニティ・トラディッショナル・インザカレンダー・インサイダー・アウトサイダー・ダウンタウン・メッセンジャー・ショット・アール・ノッキンオニャドーゥ・オレンジ・マッチョ・アムステルダム・ゴースト・パッション・ミセデュケイション・レアラロ──」
「あっ!」
「えっ?」
「……なんだ、違った。あ、どうぞ続けて」
「だから私の本当の名は!」
 ガシャーン
 ガシャーン
 ドドドドド……
「ヤバイ! ここは一時退散だっ!」
「私の本当の名はァァア! ロムスカ──」
 ガシャーン
「うあああ! 目がァ! 目がァァァ~!」

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2004/03/07 (Sun) 二重螺旋

 岡田間宮(オカダマミヤ)は、出席番号1番だ。
 始業式の日、教室で出席を取っていたときのことだった。
「岡田! あ? 間宮!」
「はい」「はい」
先生が、彼のファーストネームを苗字と間違えた。しかも、このクラスには間宮という苗字の女子もいる。席替えのとき、偶然か必然か、岡田と間宮は隣同士になってしまった。
 それが始まりだった。
 間宮の隣は七瀬だった。ちなみに間宮のフルネームは間宮七瀬(マミヤナナセ)だ。
 七瀬の隣は葵だった。ちなみに七瀬のフルネームは七瀬葵(ナナセアオイ)だ。
 葵の隣は瞳だった。ちなみに葵のフルネームは葵瞳(アオイヒトミ)だ。
 で、瞳の隣は廊下側の壁だった。ちなみに瞳のフルネームは瞳凛(ヒトミリン)だ。
 ということで、横一列に名前が並んだ。
 岡田間宮七瀬葵瞳凛。5人というのが都合が良かったのか、何かあるたびにこの5人がクラスの係をやっていた。

 そんなことはどうでもよくて、ある日、岡田の歯にマカダミアナッツが挟まった。舌でなんとか転がして出そうとしても、歯の奥に挟まるだけだった。それが気になった岡田はそれ以上ナッツを食うのをやめた。すると隣の席の間宮が一粒かじった。同じように歯に挟まった。そうやってナッツの箱を横に渡して行き、横一列全員の歯にナッツが挟まった。
 凛がつまようじでかけらを取ると、全員のかけらがポロリと取れた。
 それから、岡田も間宮も七瀬も葵も、凛には頭が上がらない。
 手を繋いでいると無敵になれた気がした中学校時代の思い出だった。

 それから20年。同窓会で会ったとき、もとの苗字を持っていたのは岡田だけだった。

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2004/03/05 (Fri) 王子

 その国の選挙は徹底して平等なので、王族が政治家になりたいと思っても選挙に出るしかありません。金を腐るほど持っていても、たとえそれを一般市民にばら撒いたとしても、やっぱり票は買えません。
 今日は各候補の演説がありました。王子、医者、宗教家、忍者、半魚人など、今回は候補者も多様です。

 医者の演説です。
「わたしは国民の病を治すために政治家になろうと立ち上がりました! わたしが当選したあかつきには保険料の負担額を減らすことを公約いたします!」

 宗教家の演説です。
「わたし以外の者に投票する奴は腹を切って死ぬべきだ! なぜならわたしこそが唯一、この国をそして世界を救える奇跡を起こせる偉人だからだ! いまやこの国は腐っている! わたしの手による徹底的な改造と、宗教の統一が必要なのだ!」

 忍者の演説です。
「時代の影に隠れて仕事を続けてきました! 思えば幼少の頃、手に火傷を負ってからいじめられ、苦学の末に入った大学でも遊びほうけて教授に媚を売る奴がいい成績を残して大企業へ就職しています! 自分は、自分はっ! 弱いものの見方であります! これまでに何人も悪徳なゴミくずのような政治家を暗殺してまいりました! 民民党のウザワ代表、自自民党のアーバン幹事長! どうですか! 自分こそが、差別と支配のない平等な国を作れる政治家になるべき男であります!」
 ……演説の後、殺人の容疑で逮捕されてしまいました。

 半漁人の演説です。
「いじめられ、とがめられ、やっとここまで来ました! 選挙活動費も両親が土地を売って身体を売って、鞭打って、やっと作ってくれたものであります! わたし自身、今回に政治生命の全てを賭けております! 当選のあかつきには、国民の皆様全員に海域の安全を約束いたします! 海は我々、魚人党におまかせください! 他国の侵略もありません! 海から他国をわが国の領土としていけばよいのです!」

 そして王子の演説です。
「えー、あー、なんだこれは? マイクは入っておるのか? うむ、平民どもよ。余は王子なるぞ。知っての通りだ。余はこれまで苦労というものをしたことがない。貧困にあえぐ平民のように、自分の利益のために生きようとは思わん。けんかもしたことはない。他人を羨むことはない。余が当選したあかつきには、国に余の小遣いを多少、分けてやろうと思う。金を撒くパレードじゃ。それを月に一回行う。ちなみに余の小遣いは毎月、400億万兆ほどじゃ。苦しゅうないぞ。余は貧困を経験したことはないから、人よりも上に立ちたいとは思わん。人を馬鹿にしたこともされたこともない。人の悪口も言わんし、人を陥れる気も無い。平和じゃ。余はいつも平和じゃ!」


 圧倒的な支持を得て、王子は当選しました。公約どおり金を撒くパレードが開かれ、この国の借金は一発で解消しました。それから王子はとんとん拍子で出世し、ついにこの国のトップに立ったのであります。そんなある日、
「余はそろそろ国家代表にも疲れたぞよ。父が代われと言うのでそろそろ王の座を継ごうと思う。ではさらばじゃ」
そんな簡単な言葉で政治をポイ捨てした王子は、国王となりました。
 王は独裁主義で無茶苦茶でしたが、政治に口を挟むようにもなりました。しかし、彼が即位している間はその国はずっと平和で豊かでした。


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2004/03/02 (Tue) 超精神科

 T大学病院の、地下4階の、一番奥のドア。それを開けるとそこは下り階段。そこを降りると地下5階全体に広がる巨大な研究室に出る。それが「超精神科」だ。
 ドクターは1人。研究員は138人。インターンは3人。患者は連日、どこからともなく噂を聞いて訪れる。ドクターの部屋に通されるのは事前の調査を経て「オペの必要あり」と判断された者だけだ。ちなみにこの科に通されるだけでも、普通ならほとんどサジを投げられるほどの重病を抱えた患者だ。
「こんにちは。今日はどうなされましたか?」
患者は答えない。何も答えない場合が多い。見た目は普通の人だ。外傷もなく、顔色も良い。しかし、服をめくるとへその上に大きな切り傷がある。
 ドクターの部屋は完全なる密室だ。オペに立ち会うインターンとはは10年以上の実務経験のある精神科医だ。10年一区切りということで、超精神科でインターンとしてさらに4年の経験を積む。今いる3人のインターンも、世間では名の通った、有名な医者だ。しかしその誰もが足元にも及ばないドクターが1人、それが超精神科医。全てのドクターの頂点に立つ男だ。
「オペ、開始」
 超精神科医が目を細める。患者はベッドに寝かされ、沢山の管が繋がれている。脳波や精神状況を3Dグラフで表現する巨大な機械がある。イメージを映像と文字で表現できるのだ。それにより意識、無意識を問わず患者の心の様子が丸見えとなる。超精神科医はこれを独自に開発した。精神観察システムのアルゴリズムを書いた彼は、同大学内の工学研究室でこれを実現したのだ。

 オペが始まった。超精神科医の額に付けられたコードが、患者の額のコードにリンクしている。彼が目を閉じると、画面に何かが映った。白い空間だった。その中心に、彼が映った。視点は患者のものと思われる。
 彼が近づいてくるたびに空間はゆがみ、そこから奇妙な手や巨大な壁が生えた。彼はそれをぶち壊し、患者に近づく。また空間がゆがむ。一瞬で患者の周りには大きな壁が現れた。彼はそれをも素手で壊す。空間全てが彼の敵となり、彼を拒む。彼はそれをなぎ倒していく。ついに患者の下に辿りついた彼は、何かを呟いた。
 途端、空間が色に染まっていく。平坦で真っ白な雪景色のような画面に、草や木や花、人、動物や空、存在する全てが描かれていく。患者はそれを拒もうとして空間をゆがませるが、彼は患者の手を握った瞬間、全てが固定された。
 場面が変わった。そこは暗い路地で、患者は複数の男に取り囲まれている。
 相手の顔を認識したとき、いきなり拳が飛んできた。殴られた。血が飛び散る。財布を奪われ、服を裂かれた。そこへ、彼がやってきた。男達を奇妙な光る棒で殴り倒していく。男達は地面に吸い込まれるように落ちて行った。

 彼と患者が目を開けた。画面は真っ暗で、何も映っていない。患者の腹の傷は消えていた。患者は一礼して部屋を出て行く。研究員に連れられ、地上へと戻っていく。その頃には、今自分がどこに来て何をしていたのかという記憶は消えていた。

 数人の男が運ばれてきた。意識不明の昏睡状態らしい。研究員たちはそれを解体し、業者へ売りつけた。臓器、脳、目、腕、性器など、売れるパーツは沢山在る。それが研究室の運営費であり、彼の報酬だ。
 彼は超精神科医。その存在はトップシークレット。心の傷を物理的に治療する男。

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2004/03/01 (Mon) アニマルズ・イン・ザ・ウォー

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 数億年前、一匹の白ヤギが、同胞の黒ヤギに手紙を送った。黒ヤギは空腹のあまり、その手紙を開く前に食してしまった。ハッとして黒ヤギは白ヤギに手紙を送った。先に来た手紙を紛失してしまった、その内容は何だったのか、と。
 しかし、それが白ヤギからの最後のメッセージだったと、黒ヤギが気付いた時には……遅すぎた。遅すぎたのだ。すでに白ヤギはこの世にいなかった。
 白ヤギから返事が来ないのを疑問に思った黒ヤギは、白ヤギのホームへ行くことにした。黒ヤギが目にしたのは、ライオンやハイエナに引き裂かれた、無残な姿だった。
 黒ヤギは、吠えた。3日間吠え続けた。声が枯れ、足がふらついてきた時、ふと周囲を見渡すと、彼はハイエナに囲まれていた。じきに日が暮れる。ランランと光る目だけが認識できる。いつ襲い掛かってくるかも分からない。ハイエナたちはジリジリと近づいてきていた。
 彼は最後に一吠えして、全力で走った。
 夜が明けるまで走り続け、彼は倒れた。雨が降ってきた。体温を奪われ、彼は死を決意した。全ては友である白ヤギを裏切ったせいだ……彼は死を受け入れた。
 しかし、目が覚めるとそこは、ヤギのホームだった。
 一回り小さい、美しいメスの黒ヤギが、彼に水と草と花を与えた。彼はなんとか回復した。しかし彼は孤独な黒ヤギ。旅立ちの朝、花を角にしばり、そしてまた、戦場へと帰っていった。彼の生きる場所は、友が倒れていった平原の中にしかないことは、誰もが知っていた。
────


 そういう伝説が、この世界にはある。それは古い童話であり、誰もが子供の頃に聞かされて育つ。かつてこの惑星(ほし)で隆盛を誇った、猿の後継であるヒトが滅んでから、何度かの世代交代が起こった。鳥が、熊が、ライオンが、微生物が、巨大竜が、いろいろな種類のアニマルズが知能を持ち、惑星(ほし)を支配し、そして、殺し合い、死んでいった。
 しかし、我々ヤギは違う。かつての教訓を生かすことが出来るのだ。数億年前から伝わる、届かなかったメッセージの伝説を聞いて育った我々は、決して同胞を殺すこともないし、裏切ることもない。真に平和な世界を作ることができるのだ。
 いまなら紙媒体のメッセージを食することもない。全ての意思は電子メールで送受信されるからだ。だから絶滅した白いヤギたちよ、もしもまたこの惑星(ほし)に現れることがあるのなら、遠慮せずに送ってほしい。キミからのメッセージを、待っている。

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