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2002/01/10 (Thu) マトリクス

 それを与えること、遣うこと、配ること、あるいは奪うこと。そのどれもが簡単で、誰もそれについて考えようとはしなかった。それの存在が科学で証明されてからは、それの大切さを誰もが忘れてしまっていた。
 当たり前すぎたそれを、いつしか人は失ってしまった。もちろん、なくしたわけではなく、厳密に言えばそれの一部を、失ってしまったのだった。しかし人はそれを形にする術を持っていたから、動物やブリキのおもちゃやぬいぐるみや壊れた家電製品や観葉植物にもそれを与えていった。そうして世界にはそれが溢れていった。一部をなくしたままのそれが。

 それは、遠い未来のお話。世界は平和そのもので、仕事をするロボットとロボットを操る人々は、来る日も来る日も同じように穏やかに過ごしていた。
 そんなある日、王様が突然こんなことを言い出した。
「本当の心を持って来い!」
 人々は戸惑った。本当の心とは何だ?それが何の役に立つんだ?
 偉い学者達は、古い文献を持ってきては王様に読んで聞かせた。しかし、読んでいる方も聞いている方も、その物語が何を言いたいのかがわからなかった。王様は言った。その様な類の文献など、全て捨ててしまえ。
 数日後、王様は自分が欲している心を何と呼ぶかに気付いた。その時代にはなくなっていた言葉だった。思いやりや感動など、何の意味があるのかわからなかった。

 世界中からたくさんの人々が集まり、王様の心を動かそうと必死になっていた頃、一体のロボットがそれに混じって宮殿で順番待ちをしていた。古い型のロボットだった。今では標準仕様のはずのそれを持っていなかったそのロボットは、かつて自分が与えられたのと同じように、心を王様に与えようとしていたのだった。
 ロボットに順番が回ってきたときも人々は王様を感動させることができず、王様自身もあきらめかけていた。王様はロボットの番が来たことを知ると、目障りだと言って側近にロボットを破壊させた。
 次の日も、人々は宮殿の前に長い列を作っていた。王様も律儀に一人一人に会ってはそのパフォームを眺めた。
 次の日も、そのまた次の日も。

 いつしか王様は感動を求めることに疲れてしまった。ある夜ベッドで眠りにつくとき、幼かった頃のことを少しだけ思い出した。それは古い思い出。町に連れて行ってもらったときに買った、古い型のロボット。王様は自身で心をそのロボットに与えたのだった。胸の小窓に丁寧にそれを入れていく。ああ、そんなこともあったなぁ。あれには本当にドキドキしたものだ。あのロボットは今も元気に稼動しているだろうか。
 そういえば、あの会見にもロボットが来ていたな。古い型のロボットだった。そう、ちょうどあのときのロボットのような…
 そのとき、王様は思い出した。良く似たロボットのことを。あれを壊すように言ったのは早計だったな。そうだ、まだゴミ置き場にあるだろうか。暇だから、ちょっと探してみよう。

 王様は側近が止めるのも聞かずに真夜中のゴミ置き場を探して歩いた。ガラクタばかりが転がっていた。数日後には、全てが溶かされ単なる鉄の塊になってしまうだろう。その前に、探さなければいけない。気になる。気になる。なぜだ。そんなことをして何の役に立つ?何の意味がある?


 ゴミの回収業者がやってきた。王様は今日もロボットを探していた。前に見たところももう一度見ては、その部品が落ちてないかを確認していく。
 側近や大臣や業者も王様を手伝った。宮殿の全員がガラクタ置き場に集い、ロボットのカケラを探し始めた。そうしてしばらくして、王様はついに見つけた。
 そうだ、これだ。あのときのロボットだ。一体どんなパフォームで感動を与えようとしてくれていたんだろう。

 そう思いながら、王様は胸の小窓を開いた。らしくもなくドキドキしている自分に気付く。そして、
小窓に書かれていた、
幼い自分のサインに気付いて、
言葉も無く、
涙を流した。

 側近達は意味がわからず、しかし嬉しそうに、同じように。それはただの達成感ではなくて、きっと言葉にすれば陳腐なもので、古い言葉での表現しかできないけれど、きっとかつての人はそれを、そう呼んでいたのだろう。
 それは王様の探していたものとは少しちがうのだろうけれど。

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