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2002/03/01 (Fri) 新世紀桃太郎伝説

 厄介なウィルスメールが出回っていた。コードネーム『ONI』と呼ばれるそのメールは、どんなメールソフトを使っていようと関係なく、開いた(タイトルだけのプレビューでも同じ)瞬間に“CDドライブを物理的にクラッシュする”という被害を及ぼす。しかし、これ以外にもうひとつの能力を、このウィルスは持っていた。すなわち、“マスタ”と呼ばれるサーバにウィルス自身がいま存在するIPアドレス(v6対応)を記録する能力である。
 ちなみにIPv6とは現在使われているIPv4というプロトコルの次世代版で、現在は32bitしか保持できないIPアドレスに対しこれは128bit ものIPアドレスを保持できる。IPアドレスは世界中全てのコンピュータに一意に存在し、bit数が増えれば単純に2のべき乗でアドレス数が増えていくものである。
 さらに“マスタ”に保存されたIPにあるコンピュータに対しては、“マスタ”がもうひとつのウィルスを直接侵入させることができる。このウィルスは HDDの内部を監視し、512KB以下の容量のファイルを見つけると“ホスト”と呼ばれるマシンに送信し、また“ホスト”からファイルまたはデータを受信してしまう。さらにリモートコントロール用のプログラムを受信し、それはコンピュータが起動している状態ならば常に待機状態になり…しかもこの作業は外側からはまったくわからない仕組みになっている。ここでやりとりされるファイルとは主にコンピュータのパスワードやレジストリに関する部分である。
 というわけで一度『ONI』の被害に会うと、まずCDドライブが使えなくなり、知らない間にレジストリが書き換えられ、コンピュータをわけのわからないマシンに遠隔操作されてしまうのだった。これらの作業はひとつのウィルスだけによって引き起こされるものではないので、世間的には『ONI』はただCDドライブの読み取り用ドライバとBIOSを壊してCD読み取り用のレンズをコンピュータ自身の熱によって壊す、という作業を行うだけの厄介メールだと思われていた。

 実際には、CDドライブを壊すことなどどうでもよかった。それっぽい被害に目を向かせて本当の被害を隠蔽するための作業だった。
 現在、このウィルスに対応できるソフトはA社の「ターミネイター」だけだった。実は、このウィルスを開発したのが「ターミネイター」開発部のS氏だった。つまりはワクチンソフトを売るためだけに作られたウィルスだった。ウィルスもワクチンも出所は同じなのだけれど、戦争用の兵器を売ってはその国に戦争をけしかけるヤクザみたいな大国ばりの企業理念を持つA社のこと、これもまたいつもの自作自演営業で終わるはずだった。
 しかしS氏は、IPコピー以降の作業がこのウィルスにあることをA社にさえ告げてはいなかった。ちなみに“ホスト”および“マスタ”はS氏が使っているコンピュータである。
 S氏はここまでやって、我ながらやりすぎたと思っていた。100GBを用意したサーバ用コンピュータである“マスタ”が、いっぱいになってしまったのだ。“ホスト”に寄せられたIPの数も、v6プロトコル最大の2の128乗(340282366920938463463374607431768211456個)のうちの約250分の1に上ってしまった。これは簡単に言うと、全世界にあるコンピュータの40台に1台はS氏が管理できるということである。そして全てのコンピュータに『ONI』の効果が及ぶのも時間の問題だった。
 なぜ『ONI』が世界中に数限りなく存在するコンピュータに、ファイアウォールを通り抜けて侵入したのか、その秘密はS氏の経歴にある。S氏は某ISP から大学教授を経てインターネット警察に入庁、その後役員兼技術者としてA社に属していた。大学を去る際、S氏はひとつの論文を書き上げていた。それは未だ発表されてはいないが、ファイアウォールの存在そのものの欠陥についての論文だった。その理論によれば、ネットワークに存在する全てのコンピュータはファイアウォールに守られることなく一意のコンピュータの侵入…もとい管理を許してしまう。その理論の根底にあるのは善意そのもの…、“web of trust”だった。
 というわけでほぼ全てのコンピュータを自在に操ることができるようになったS氏は、やりすぎてしまった自分の遊び心と学術的研究心に対しての謝罪のため、ひとつのワクチンソフトを作り上げた。これは『ONI』とONI被害に対してのみ有効なワクチンだった。ある日、S氏はこれをメールで友人に送った。なぜ“マスタ”管理下にある世界中のマシンに直接送らないかは、まだS氏が『ONI』に自負心を持っていたからなのだが…、それから数日、S氏は自宅のマンションから飛び降りてしまった。そして“マスタ”管理下にあるパソコンが全世界同時多発的にクラッシュ。同じ時期、新しいOSを搭載した激安高性能パソコンが市場を占拠した。ユーザは仕方なく新しいパソコンを買い求めた。

 そんなことは誰も知らないまま、1年が経った。新しいOSには最初から“マスタ”とのやりとりを許可するプログラムが組み込まれていた。それを知るものは世界中にただ2人、OSの製作元、マックロソフト会長とS氏からワクチンソフトのメールを受け取ったM氏だけだった。
 M氏はこのワクチンを改良し、OS内の“マスタ”接続プログラムを破壊するウィルスを作り上げた。これにより『ONI』被害は完全に終わるはずだった… が、M氏もある日忽然と姿を消してしまう。行方不明者の捜索も約100日間ぶっ通しで行われたが、ひとつも有効な情報は見つからなかった。
 M氏の失踪から5ヶ月目のある日、行方不明のはずのM氏から一枚のDISCが息子のW宛てに送られてきた。それにはS氏とM氏が関わっていたマックロソフトの新型OSについての詳細が記されていた。DVD一枚をほとんど使った圧倒的な量のテキストファイル。Wは大学院での自分の研究に役立てようと解析をはじめ、そして(あるいはM氏の思惑通りに)マックロソフトの陰謀に気付いてしまう。その頃には世界中のほぼ全てのパソコンのOSはマックロソフト製品であったため(マックロソフトは市場シェア独占のために3パターンのOS…『ウインドルス』『マックロX』『リナックル』を作っていた)、世界中のほぼ全てのパソコンがマックロソフトの“マスタ”管理下に置かれていたという状況である、ということをWは知ってしまった。この支配から世界中のパソコンを解き放つためには2通りの方法が考えられた。ひとつは父やその友人がしたように、このOSの機能を削除するワクチン(あるいはウィルス)を世界中にばら撒くこと。もうひとつは、“マスタ”を破壊すること。
 その二つの両方を目的とし、Wを代表とする組織、『KIBI』が生まれた。『KIBI』のメンバーはたった3人。Wとその知人2人だけだ。とにかく、Wたちは世界のパソコンを救うために立ち上がったのだった。
 最初の『ONI』被害から2年半が経とうとしていた。Wは手始めに大学の研究室内にメールサーバを立て、ワクチンプログラムを組み込んだメールを世界中に送信しまくった。どうかこれが『ONI』を倒す勇者となるようにとの願を掛けて。

 さて、あなたのもとに、このアドレスからのメールは届いただろうか?

 momot@law

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