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2002/08/20 (Tue) 新薬エコノミスト(上)

 「これを飲むと1週間だけ透明人間になれまーす」
先生がそんなバカなことを言って、ヤクルトみたいな小さい飲み物をクラスのみんなに配った。それは社会の授業の最中だったのだが、6日目になってようやくその意味がわかってきた。
 担任の先生だった彼は、ホームルームにでも配ることはできたはずだ。それがどうして、わざわざ授業を1時間潰してまであんな薬をくれたのか。それはつまり、彼が授業では教えられないことを授業中に教えようと悩んだ末に出した答えなんだろう、僕はそう解釈した。
 そしてその日の夕方に薬を飲んで、もう6日目。飲んだ日を1日目と数えるらしいので(しかも1日の概念は時計のそれではなく、身体の調子によるものらしい。つまり、眠ればその日のカウントが終わるのだ)今日が6日目という具合だ。
 透明人間同士はなんとなく、わかる。そこに誰かがいるな、という妙な感じを受けるのだ。でも、マジで普通の人には僕らの姿は見えないらしい。
 僕の友達のグループ、マサシとリュウタとモンちゃんは僕と同じ時間に飲んだ。携帯で話したところ、マサシは強盗を繰り返しているらしい。リュウタは女の子の部屋を覗いたり触ったりしているみたいだし、モンちゃんは「飲む前に考えればよかった」と言ったまま、何もしていないらしい。とりあえず食べ物をそこらへんから調達してきては生活しているようだ。当然というか、家にも帰れない。だって僕らは透明人間だ。服を着ていても透明になるのはありがたかった。
 僕はといえば、自分が透明になってはじめて、社会というものを知ったのだった。
 簡単に言えば、つまりこういうことだ。みんな、それとなくこのことを考えてはいただろうけど、現実に起こるのと机上で考えるのとでは全然違う。いや…ある意味では予想通りだった。悲しいくらいに、予想通りだった。少なくとも、僕が体験したこの6日ないし5日では。

 僕がいなくても、世界は変わることなく動いていく。

 家族も友達も、街も人も学校も、僕が消えたことになんて気付いてさえ、いない。それはつまり、僕が影響を与えていた「僕の社会」にとって僕はその程度だったってことだ。僕がいなくても全ては同じだったんだ。先生が言いたかったのは、そういうことだったんだ。皮肉だけど、やっとわかった。
 子供だけじゃ生きていけない、ってこと。
 奪うことしかできないんだ…人から。大人は自分で作り出せる。アイデアを作り、工場を作り、食べ物を作り、流行を作り、システムを作る。縛られていた僕らはそれを窮屈だと感じていた。いつか抜け出してやろうと。
 念願が叶ったあの日、僕は自由になって、そして全てを失った気がした。

 人通りが多すぎるいつもの渋谷駅前で、誰にも見えない姿で、そこにいる全員に聞こえるように僕は、大声で、泣いた。
 泣いていた。

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