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2002/08/31 (Sat) family away

 それは、退屈で平凡な毎日を送る高校生の物語。
 ある日、父親がリストラにあった。すぐに再就職に走るかと思いきや、「俺には夢があるんだ」などと言い出して毎日部屋に篭って何かをしている様子。もう2週間もだ。家庭内の不安はどんどん高まる。
「だってオヤジが働かなきゃ俺たち生活できねぇじゃんかよ!」
憤りをぶつける息子。疲れた様子の父はフッと力なく笑い、再び部屋へと篭ってしまった。どうやら小説か何かを書いている様子。母の話によれば、若い頃は小説家を目指していたものの目が出ず、自分を殺して家族のためにサラリーマンを続けていたのだそうだ。
 父にも夢があるんだ……息子はその事実をなかなか理解できずにいた。息子の世界においては、両親は自分を育てることに手一杯で、同じような毎日をただ繰り返しているだけだと思っていた。父は仕事が何よりも大切だろうと思っていたし、母は近所のババアとの下らない話のネタを探すことと毎日の夕飯の献立を考えることだけが生きがいだと決め付けていた。教師は生徒に対して何かを言うだけの存在で、教師がアパートに暮らしていて、まして自分と同じような日常を持っているということが想像できなかったし、大学に行けば彼女もできるだろうし夢も叶うだろうし理想とする毎日が訪れるものだと漠然と考えていた。
 何日かして、母がいきなり「遊びに行こう」と言い出した。
 息子は学校を休まされ、なぜかディズニーランドに連れて行かれた。半ば強引だった。父の運転する車で母が楽しそうに鼻歌をうたい、息子はふてくされた様子で後部座席でケイタイを弄っていた。どうして17になってまで親といっしょに遊園地なんか……そんな恥ずかしさが込み上げ、息子は両親とは別のアトラクションを回った。
 開園直後から入ったせいか、午後2時を回った頃には両親は疲れ果てていた。たまたま通りかかった息子は、ベンチで手を繋いで眠る両親を見つけた。
「何やってんだよ。遊ばないんなら帰ろうぜ」
息子は父の足を軽く蹴り、父を起こし、さっさと帰ろうとせかした。そうだな、と呟いた父は、なぜか妙にスッキリした顔だった。母も母で、また来ようね、とか楽しかったね、とか言ってはしゃいでいる。息子は帰りの車の中でも、そんなことはどうでもいいんだよ、とンディーズバンドのCDを買うことばかり考えていた。
 恥ずかしくて死にそうだった。いや、もし知り合いがディズニーにいたら、きっと自分は死んでいただろう。高校生の息子には、17歳の自分が両親と遊園地にいる、という時間がたまらなかった。
 ……だけど、こんな嬉しそうな2人は、初めて見たかもしれない。そう思うと、自分が許せなくなってきた。

 休日。祖父母が遊びに来た。祖父は当たり前のように息子にお小遣いを渡した。いつも思っていた。どうしてこんなクシャクシャな千円札を何枚もくれるんだろう。銀行に行けば一万円(マンケン)のピン札と交換してくれるのに。
 そうして、やっつけ仕事のように金を受け取った息子は、札を裏返しにしてみた。予想通り、鶴の下の方に「がんばれ しょうすけ」と書いてあった。やりきれない……正直そう思った。頑張れなんてアンタに言われたかないんだよ。それよりなんでたった8千円なんだ。あと2万2千円は足りないじゃないか。これじゃCD買って適当にメシを食ったらなくなっちまうじゃねぇか。いまどきの高校生をナメてんのか、おじいちゃん。
 祖父母が帰った後、母から「しようつけ君」と書かかれたB6くらいの白い封筒を受け取った。「お婆ちゃんからよ」と渡され、乱暴に封筒を破って開けてみた。中には息子が好きなインディーズバンドの、最新曲から1つ古い、CDが入っていた。ああ、おばあちゃん、やっちゃったよ。このCDさ、もう2ヶ月も前に買ったんだよね。こんなもんいらないからさ、CD買う金ちょうだいよ……そう思ってから、封筒の中にまだ何かあることに気付いた。それは綺麗な折り紙に挟まれた和紙だった。何が書いてあるのかわからないけれど、達者な字で何か書かれている。きっとことわざか何かだろう、と思い、息子はそれらを封筒ごと机の三番目の引き出しに入れた。その引き出しは基本的にいらないけれど捨てられないものを入れる棚だった。
 さて、父がプーになってから1ヶ月が経った。
 息子は久しぶりに部屋の掃除を試みた。雑誌で埋もれている。自分では若者らしくていいと思っていたが、せめてフローリングくらいは見えていたほうがいい。少なくともドアからベッドまではの道は作ろう。
 ……掃除を始めると、意外とやる気が出てきた。あれもこれも整理したくなる。息子はそこで、机の整理も始めた。まずは散らかっているノートを綺麗に積み上げ、引き出しの中のいらないものもどんどん捨てていくことにした。
 机の3段目の引き出しに差し掛かった。ああ、これは全部いらないだろう、そう思ったが、やはり中身をひとつひとつ確認したくなった。
 小学校のときの作文やテスト、そして今では疎遠になった友人たちから届いた年賀状が入っていた。ああ、こりゃまたやっちゃったよ。そうは思いながら、息子はその作文を読み返してみた。タイトルは「10年ごのぼくへ」とある。
 21才になったぼく、元気ですか。ぼくは元気です。いまはたぶん大学生ですね。勉強もスポーツもがんばってますか? なやみがあったら友だちやお父さんお母さんにそうだんすればいいと思います。僕もたくさん勉強して、人の役にたつ、かっこいい大人になりたいです。
 ……かっこいい大人なんて、ミュージシャンか弁護士しかいない。なぁ、11歳の俺。オマエはあれからたった6年でこんな高校生になるんだよ。でも、間違っても俺みたいになっちゃダメだよ。もっとしっかり頑張るんだ。親も期待してるんだから――
 作文に対してそう思ったとき、不意に両親のことを思った。そうだ。俺は両親に期待されていた一人っ子だ。好きなことをさせてもらってたし、金にも服にも食い物にも困らなかった。小学校の頃、そういえば極貧生活をしてる両親を持った子はいじめられていたっけ。あいつはカップのアイスを地面に落とした時、誰も見ていないだろうと周りをキョロキョロ確認してから、またアイスをカップにもどしたんだっけ。それから砂のついたうわっつらをスプーンで削って、前と同じように舐めていた。それを見てたのは俺だけだったから、俺はあいつに対してそのとき、なぜか酷く優越感を感じていたんだ。
 それなのに今の俺は、両親の期待を裏切ってばっかりだ。何か与えられるだろう、何かくれるだろう、困ったら助けてくれるし、金も出してくれる。親は俺のために働くのが当然で、俺は元気な姿を見せることで親孝行を果たしているつもりになっていた。
 母の手はまるで夜なべをして手袋を編んでくれていたかのように皺が多くてひび割れているところもあるし、あかぎれもある。いつも力なく笑っているけど、そういえばディズニーに行く前の夜、お袋は白髪を染めていた。俺はあの日まで、お袋が白髪だらけだったことも知らなかった。オヤジは1ヶ月間ずっと小説を書き続けているけど、なぜかあの背中には活力が漲ってる。もしかして、喧嘩したら俺、負けちまうんじゃねぇかってくらいだ。小説を書きたいなんて思う奴の心境は知れないし、きっと金儲けしか考えてないんだろうけど……、あれは夢を追う男の背中だ。俺、絶対に追いつけないよ。勝てないよ、あの人には。それに、じいちゃんとばあちゃんだ。いつも俺に何かしてくれる。叱られた記憶なんてひとつもない。俺は作り笑顔と巧みな話術でお小遣いをせびってただけだ。
 そこで息子は気付いた。自分の気持ちは、きっと、彼らには見透かされていたんだ。
 俺がすねて恥ずかしがってかっこつけて強がっていきがってそっぽ向いてることを知ってて、その上であの人たちは俺に施してくれた。俺がイヤだと言っても、迷惑だと言っても、いつも笑って俺に援助してくれた。どうしてみんな、そんなことができる? どうして俺にばかり構うんだ? この気持ちは何て表現すればいい?
 誰か教えてくれ。いまかかってるCDは愛と夢が全てでキミを守り抜くことがなんとかって言ってるけど、そんなことじゃ俺の気持ちは表せないよ。友だちや、好きな子や、先輩や、部活の顧問と、同じレベルで俺は家族を……家族に、感謝してる。
 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。それしか言えない。だって俺は、何一つ期待にこたえてない。金を使うことばっかり考えて、遊ぶことばっかり考えて、いつか家を出てやるって思ってた。家を出てもきっと仕送りはしてくれるだろう、ぐらいのモンだった。
 そもそも、金は、働いてるから入るんだ。いまこの家の中で働いてるのは、誰もいない。ケイタイ代さえ、俺は両親に……いや、オヤジに頼ってるんだ。俺の金だ、なんて言ってる通帳も、俺名義の通帳も、その中身はオヤジの稼いだ金だ。
 ごめんなさい以外になんて言えばいいかわかんねぇ。俺、正直不安だよ。大学に行けるアタマはないけど行こうって気はあるし、頑張ればきっと何とかなるだろうけど、きっとまた楽な方へ逃げるんだ。
 ……だけどなんて言えばいいかわかんねぇよ。分かったとしても俺はまた突っぱねてそれを言えなくなるんだろ? そんなこと分かってるよ。ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、あと、ひとつだけ。一個だけ。ありがとう、みんな。
 じいちゃん、千円札、あと1枚しかないけど、ここに書いてあること、俺、やってみるよ。
 頑張ってみるよ。
 バイトして、勉強して、あと4年以内に、クソガキだった頃の俺に誇れるような、かっこいい大人になってみせるから。両親に誇りにされたいとは思わないけど、俺は両親を、家族を誇りに思うよ。それから、同じクラスの、俺が大好きなあの子。あの子にも、もっと近づきたいよ。
 この気持ちを愛と呼んでいいかなぁ、こんなバカな少年が。
 17歳、汚い部屋の汚い壁に、インディーズのポスターを取り払って一枚の画用紙を貼ります。真っ白で大きな画用紙……これを地図にしよう。くそう。この決意。絶対、忘れねぇ。
 ダメでいいから頑張らせてくれ。だから世間よ、今まで楽してた俺に、その分もひっくるめて試練を与えてくれ。
 ダメもとでやってみるよ。でもダメだったら、誰か、近くの人に相談するよ。

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