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2002/09/07 (Sat) 世界は広まっていく…あるいは、閉じていく?

 目覚めると、涙を流していたことに気付いた。眠りながら泣いていたのだろうか。
 いつもどおり眠っていただけなのに、妙に身体が思い。上体を起こすと、間接がパキパキ鳴った。伸びをして、腰を回す。ボキボキと骨が鳴る。その音と感触を心地よいと思った。
 ふと違和感を感じた。右手だ。しっかりと何かを握り締めている。
 そっと開くと、小さな種が1つ。
 清々しい朝だった。気分がよい私は、その種を小さな植木鉢に入れ、コップに残っていた水をかけた。昨夜飲んだ酒に入れていた氷が溶けた水だった。

 仕事から帰ってきたときには、鉢から小さな芽が出ていた。小学校のとき育てたカイワレを思い出した。これも、ほんの数日で育つ植物なのだろうか。

 一週間後、小さな花が咲いた。タンポポのような形で、花弁は紅に染まっている。こんな花は見たことがない。しかも花は指先ほどの大きさしかない。細い茎が懸命に支えている花を覗き込むように見ていると、不意に花がドクン、と大きく動いた気がした。
 いや、錯覚ではない。この花は、動いている。たった今、動き出した。
 花の頭がゆらゆらと揺れる。まるでメトロノームのように規則正しく、ゆっくりと左右に揺れている。これは一体、何だろう?

 さらに一週間後。その間も花はずっと揺れ続けていた。仕事から帰ってくると、植木鉢の周りに何かが転々と落ちている。拾い上げてみると、ゴマみたいな何かだ。それが何であるかは一瞬で分かった。
 ──種だ。
 この種をベランダの鉢植えに植えてみることを考えた。一週間後、ベランダはゆらゆらと揺れる小さく美しい花でいっぱいになるだろう。適度な水を与えていればすくすくと育つ花だ。それは視覚的にも面白いかもしれない。

 一週間後、予想通りにたくさんの花が咲いた。しかし今度は紅の花ではない。赤、黄、ピンク、青、紫、黒や緑など、ありえないような色の花弁まである。それらが規則正しく、小さく揺れている。
 花の色によって鉢植えを変えてみた。私はそのときの気分によって部屋の中に一色だけを入れ、心の内を独り言のように花にぶつけた。花は変わらず、ゆっくりと揺れていた。それを見ていると、そのとき抱えていた胸のしこりが消えていく気がした。
 どこかの詩人が、花は「神が姿を変えたもの」だと表現した。物言わぬ静物だからこそ、心に直接的なメッセージを与える……それを私は感じていた。

 いつしか、それは私の日課になっていた。各色の花にどんな悩みを打ち明けるのかはは決まっていた。花はやはり揺れ続け、一週間後には種をばら撒いた。あんまり沢山の種ができるので、フリーマーケットで売ってみることにした。
 花の名称も分からないので、私は、種に勝手に名前を付けることにした。
 「悩みの種」「話の種」「笑いの種」「安らぎの種」「幸せの種」「愛の種」などと。
 一袋に5個ほど種を入れ、ひとつ100円で並べてみた。朝から出して、昼過ぎには完売してしまった。袋には私のメールアドレスを入れておいた。もっと欲しい方はこちらまで、と添えて。

 10日ほど経って、続々とメールが届いた。どのメールも件名はこぞって「ありがとうございました」だった。悩みの種を植えた人は悩みが解決し、話の種を植えた人は話題に溢れ人付き合いが改善され、笑いの種を植えた人は毎日笑みの耐えない日常が続くようになり、安らぎの種を植えた人は安眠できるようになり、幸せの種を植えた人は望んでいた奇跡が起こり、愛の種を植えた人には恋人ができたとか結婚しましたとか、朗報ばかりだった。
 さらに数日して、また続々とメールが届いた。花はいつしか揺れが収まり、しぼんで枯れてしまったので、また新しい種を売って欲しいとのことだった。私の部屋にある花はというと、最初の紅の花もまだ揺れ続け、どんどん新しい種を生みつづけている。それどころか、一本として枯れた花はない。種を植えていないので増えてはいないが、減ってもいないのだった。
 なぜか、この花は私の部屋でしか種を撒かないらしい。
 私は2週間に一度、フリーマーケットで少しずつ種を売って小遣いを稼いだ。

 数ヵ月後、最初の紅の花がしぼんでしまった。休日の私は、花が枯れていく様を一日じゅう部屋で見ていた。最期を看取らなければいけない気がしていた。
 最初の花は、最後に一粒だけ種を落とした。今までにない、真っ白い種だった。わたしはその植木鉢に、すかさず白い種を植えた。
 一週間で予定通りに花が咲いた。今度は、真っ白い茎に真っ白い葉と真っ白い花弁を持つ、真っ白な花だった。その花は他の花と同調することなく、奇妙で不規則な揺れ方をしていた。
 その白さが私の毒を吸い取ってくれると思ったのか、私は仕事の愚痴や同僚の悪口を、ずっと、その白い花にぶつけていた。種はまた、真っ白だった。
 ここ最近、私の周りでは悪いことばかりが続いていた。人間関係が上手くいかなかったり、恋愛でも、健康でも、ギャンブルでも、まったく良いことが起こらなかった。常連となったフリーマーケットでもまったく他の種が売れない日々が続いた。毎日毎日ストレスが溜まるだけで、まるでその花が災いを呼んでいるかのようで──
 そのとき、私は気付いた。
 この種に、名前を付けよう。この種の名は、「災いの種」だ。
 そう思ってすぐ、私はグニグニと揺れ動く、あまりにも可愛らしいその白い花の茎をハサミでちょん切った。切り口から、まるで血のように……いや、何よりも赤く鮮やかな、奇妙な紅の液体が流れ出た。
 それは恐怖だったけれど、それ以来、特に何も災いは起こらなくなった。各色の種もまた売れるようになった。私は興味本位から、白い種を並べてみた。これだけは一粒1000円と値を付けた。

 私の作る奇跡の種は、今日も売れ続けている。買ってくれた誰かが大学の研究室に持って行って繁殖を試みたようだが、無理だったらしい。ただ、白い種を除いては。
 災いは、増殖し続ける。私が売った、ほんの10粒は、きっと、世界で……この国でも、この町でも、真っ白な花が揺れるのと同じリズムで増え続ける。どこまでも、どこまでも。
 私はその災いを食い止めるために、各色の種を、今日も、売る。そして集まったお金で、土地を買うのだ。
 幸せと微笑みに満ちた色の花が揺れ続ける花畑を作るために。争いと災いに、人々が涙を流さないように。


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