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2002/09/10 (Tue) サラ時間

 駅前通りは、通称「ビラ配り通り」だ。
 サラ金、コンタクトレンズ、飲み屋、バー、美容室、漫画喫茶など様々なショップがそれぞれのチラシを配っている。それに加え、ティッシュ配りもいるので、通りの最初から最後までを全て律儀に貰って歩けば両手に一杯、色んなものが手に入る。
 ティッシュが3個、チラシが12枚、うちわ1枚、小冊子1冊、飴が1個、シャンプーの試供品が1個。今日はそれらに加え、1枚の真っ黒なチラシが印象的だった。なんとなくもらったものだから、どんな人が配っていたかもよく覚えていない。チラシにはただ一言、「時間貸します」とだけ書かれている。下のほうに小さく電話番号がある。しかも携帯だ。サラ金か何かだろうか。
 案ずるよりナントカという諺があるが、今日は僕もそれに従った。まず、電話を掛けた。コール3回で出た。僕がもしもしと言うよりも早く、「こちらからおかけ直しいたしますっ」と言われ、電話は切れた。直後、また掛かってきた。うっかり、通知設定をそのままで掛けてしまったようだ。怪しい番号には非通知で……が基本なのに。
「もしもし」
「お電話ありがとうございますっ。○○○○ですっ(早口すぎてなんという会社なのか分からなかった)。ご利用でしょうかー?」
「いや、ちょっとチラシが気になったんで電話したんですけど」
「はい。当社は、お客様にお時間をお貸しいたしますっ。お客様は後日、利息をつけてお時間をお返しになるというシステムですっ」
「時間って?」
「お時間です。時間。タイム。タイムイズマネーですよっ、お客様」
「何言ってんだ。切るよ」
「ただいま、お試し期間と致しまして、無利子でお貸し致しておりますが、お試しになられてはいかがでしょうか?」
「うーん……無利子?」
「そうです」
 せっかくなので、借りてみることにした。というか電話だけで済むのだろうか……と思っていると、いつの間にか目の前に黒いスーツの女の人が立っていた。
「お電話ありがとうございますっ」
喋り方がさっきの電話の人だった。契約書に簡単にサインをして、僕は「2時間」を借りた。返却は1週間後らしい。
 現在、午後5時。彼女と待ち合わせの時間だ……が、一向に彼女は現れない。駅前通り最大のモニュメント「犬タワー(柴犬がピラミッドを作っている銅像)」の前で突っ立ったまま、僕は途方に暮れてしまった。待てど暮らせど、彼女は来なかった。
 2時間後。午後7時。やっと彼女が到着した。2時間も待つ僕も凄いと思う。
「ごめーん。もう来てた?」
すっとぼけたことを言うので、路地裏に入って即行でセクハラでもしてやろうかと思ったが温和に「今来たトコ」と答えた。ちらり、時計を見るとまだ午後5時だった。
「あれ、今って5時?」
「そうだよ。5時に約束したじゃん」
「おかしいな。さっきも5時だった気がする……今って7時だよね」
「何言ってんの。5時だよ。じゃあ何処行こっか」
腕を組んでくる彼女に仕方ねぇなと思い、僕らはそのまま夕暮れの街に消えた。

 1週間後、また待ち合わせをした。先週はデート、食事、で帰ってしまったので、今日こそはバッチリ決めてやるという決意のもとでのプランだった。ホテルにゴムは2枚あるとして、予備でさらに2枚持ってきたのだ。完璧だ(そういう下準備が既にヤバい)。
 ……と思って午後4時50分には犬タワーの前に来たはずだったのに、彼女はプンスカ怒っていた。しかも、びんたを一発喰らってしまった。
「何で殴んだよ!」
「2時間も遅れといてよく言うわよ!」
時計を確認した。午後6時50分……7時前、だ。ちょっと待て。僕が到着したのは確かに5時前だったはずだ。一瞬で僕は2時間を失ってしまったというのか。
 そのとき、あの黒いチラシを思い出した。すかさず電話を掛ける。発信履歴にまだ残っていた。ワンギリすると、掛けなおして来た。
「もしもし! ちょっと、僕の時間を返してくださいよ!」
「当社が返していただいたのです。契約通りに」
「何言ってんだ! 聞いてねぇぞ!」
「ご利用ありがとうございます。追加でお借り入れされる場合は、年24.9%の利率が付きます」
「だから契約なんてしねぇって言ってんだろ! ぶっ殺すぞ!」
「またご利用したい場合はご連絡ください。なお、お借り入れはお金を借りる感覚でどうぞ。ただし、お金は一切いりません。全ては時間で支払っていただきますから。人に与えられた時間は誰もが平等に1日24時間。それをどう使うかはお客様次第でございますっ」
 電話はそこで切れた。僕もキレていた。彼女もちょっとキレかけだった。
 居酒屋で夕食を食べ、ブランドのショップを冷やかして、ゲームセンターでぬいぐるみを取ってあげてから、ホテルへ行った。

 次の朝。というか昼前。チェックアウトした僕らは、互いに昼から用事があったので駅で別れることにした。僕は真っ直ぐ家へ帰った。彼女をつれて帰れないのは厳格な両親や祖父母がいるからだ。実家暮らしは辛い。かといって彼女は部屋に上げてくれないし。まぁ仕方ない……と思ってテレビを見ると、どうやら電車が止まっているようだった。復旧の見込みはないらしい。そんな速報を上部に映しながら、お昼のニュースが始まった。
 駅前通りが映し出され、そこから駅の方へ中継が回った。テロップには、「白昼の通り魔 6人が重軽傷」とあった。なんと、さっきまで僕らがいたあの駅前で、通り魔が次々と無差別に包丁で切りかかったらしいのだ。
 被害者が映し出された。モザイクが掛かっているが、僕にははっきりと分かった。
 彼女だった。
 電車が止まっていたせいで、彼女が帰れなかった。そんな偶然が邪魔をしたせいで彼女は、被害者6名の中に数えられてしまっていたのだ。咄嗟に彼女に電話を掛けた。出ない。3回掛けて、ようやく出た。
「もしもし! 大丈夫か!?」
「お知り合いの方ですか」男が出た。「ちょっと代わりにお電話に出たのですが」
「いいから! 彼女は大丈夫なんですか!?」
「いま、救急車で運ばれています。都立○×病院へ行くそうです。彼女さんですか、背中を切られ、振り向いたところを胸も刺されたみたいです……血がすごいです」
「あんた誰だよ」
「通りすがりですが、あの犯人から凶器を取り上げた者です。状況を話しに警察へ行くか、一番重症なこの人の付き添いとして病院へ行くかで、病院を選んだのです」
「変なことすんなよ!」
「……失礼ですが、私にはこの人と同じ年頃の娘がいます。人命救助のため、失礼ながらこの方のお電話を借りているのです。できれば、あなたも病院へ来たほうがいい」
「わかりました! 電話は持っていてください! こちらからまた連絡しますっ」

 原付をぶっ飛ばし、病院へ向かった。彼女の電話に掛けると、さっきの男が出た。
「緊急で手術をするそうです。いま運ばれました」
手術室まで走った。緑色のランプが赤く点灯していた。ベンチに初老の男性が座っていた。彼女の携帯がわきに置かれている。
「あの、彼女は……」僕が息を切らしながら尋ねると、彼は手術室を指差した。
「失礼ですが私は外せない用事がございますので、これで。彼女さんのことは心より心配しております。どうかお大事に」
 僕に携帯を渡すと、彼は足早に去って行った。
 手術が成功し、その日の夜。
 個室で眠っている彼女は、まるで作り話のように「今夜が峠です」らしい。医者は当たり前みたいな顔をしてそう言い切った。僕はなんとなく自分の携帯をいじりながら、彼女のベッドの横に座っていた。ふと、あの時間サラ金屋の番号が目に止まった。
 お金と同じように、僕が借り入れして彼女に時間を与えたら、彼女が助かる可能性は高まるだろうか……
 そんなことが頭をよぎった。お金を借りて他人に渡すのと同じ感覚だ。僕はすかさず電話を掛けた。今度ばっかりは一度切って掛けなおすのを待つなんてできなかった。
「時間を貸してくれ! 今すぐだっ」
「ありがとうございますっ。すぐお伺い致しますっ。ご利用はどれほどでしょうか?」
「半年ほどくれ!」
「分かりましたー」
 ほんの数秒で、病室がノックされた。真っ黒なスーツの女性が音もなく入ってくる。小声で「ありがとうございますっ」と呟いた。
「半年分の時間を、今夜、彼女に与えてくれ」
「承知しました。ご契約者はお客様でよろしいでしょうか? 彼女様でしょうか?」
「僕だ。僕の時間をやる」
「ありがとうございます。お支払い方法はいかが致しましょう?」
「分割で……そうだな、1日のうち、午前1時から4時までで頼む」
「承知しました。ちなみに、その時間は、もし眠っていたとしても身体は時間をカウントしませんので、例えば1時から6時までお眠りになったとしても実質2時間分の睡眠しか取れません。よろしいでしょうか?」
「大丈夫だ」
「では1日3時間ですね。半年分ですから4年間になります。その間、24.9%の利率が付きますので4年と363日の間、お支払い続けるということになります。よろしいですか?」
「大丈夫だって言ってるだろ!」
「ありがとうございますっ。では、ここにサインを」
 汚い字でサインをすると、女はスッと立ち上がり、音もなく病室から出た。

 次の朝、目覚めた彼女は傷もすっかり癒えていた。
「なんか、すごく沢山寝てた気がするの。変な夢も見てたみたいに思うし……」
僕は笑って見せるだけだった。
 あれから、僕は毎日ほとんど睡眠不足だ。昼間、すごく眠い。慣れてきたとはいっても朝起きるのが辛いこと辛いこと。まだ数ヶ月しか経っていない。僕は睡眠不足がたまったせいで身体がボロボロであることを感じていた。けれど、元気な彼女を見るたびに、眠れなくても元気になれるのだ。
 僕らは自然と、結婚を考えるようになった。けれど、毎日午前1時から4時まで僕は時間を失う。もしその間に夫婦として大切な時間があったとしたら……そう思うと、なかなか決断できない。最近では休日は18時間ほど返済に充てているから、あと1300日ほどで返済は完了する。有給を取って、1日眠って返済する。眠っていても僕の身体は1時間ほどしか休まらないのだけれど。でも、その先にある幸せのため、僕は睡眠を削り、食事を削り、生活を切り刻み、少しずつ時間を返済している。
 この借時がなくなったら、プロポーズするつもりだ。それは最速でも2年半後になるけれど。
 ああ、2年半経ったら、思い切り眠るぞ。それまで、どうか、僕に元気をくれ。ほとんど24時間闘う僕に、キミの笑顔をくれ。それだけでまた、頑張れるから。

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