--/--/-- (--) スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

スポンサー広告 |


2002/09/14 (Sat) 魔女だって大変

 休日。耳掻きをしてもらっているとき、彼女はふと「あたしね、魔女なの」と呟いた。じゃあ魔法でも使ってみせてよ、と言うと「もう使ってる」と答えた。
「どんな魔法を使えるんだい?」身体を起こし、2回キスしてから反対側を向いてまた彼女の膝に頭を乗せた。
「恋の魔法」一言だけ答えて、彼女はまた鼻歌まじりに耳掻きを続けた。

 彼女は、僕の自慢だった。容姿も性格も申し分ない。料理も上手で、人望も厚い。無駄遣いはしないし我が侭も言わない。おまけに床上手とくれば、僕には勿体ないほど完璧な女性だった。ある夜、疲れ果てて服も着ないままにまどろみに落ちていく中、彼女は呟いた。
「いつか魔法が切れちゃったらごめんね」
よく覚えていないけれど、そう言った気がした。寝返りを打つふりをして彼女を抱きしめ、変な体勢のまま眠った。
 翌朝、目を覚ました頃には彼女の姿はなかった。テーブルの上には朝食が作られてラップがかけてある。ノートの切れ端に「先に出ます。ごめんね」と書いてあった。そんなことは気にも留めず、僕はパンをかじった。

 次の日の夜、彼女が大怪我をしたと連絡があり、病院へ向かった。手術は終わっていて、集中治療室からも出た後だったらしい。個室のベッドで死んだように眠っている彼女は、全身ほとんど包帯で、点滴やら何やら色々なコードが付いている。顔まで包帯をしているので、確認できるのは目と口の形くらいだった。
 病院の話では、高所から落下して怪我をしたということだった。怪我をしたのは昨日……僕がのんきに彼女が作ってくれた食事をとっていたときだった。彼女がどこへ行こうとしていたのか、それは僕には分からなかった。けれどそんなことはどうでもいい。パイプベッドにしがみつき、僕は祈った。神様に、祈った。

 2日後の朝、ようやく彼女は意識を取り戻した。開口一番、僕に「こんな姿見られたくないから帰って」と告げた。弱弱しいその口調に、僕は首を振った。すると彼女は少し黙り込み、涙を一粒零して「ごめんね」と呟いた。

 全治3ヶ月と言われた大怪我のはずが、たった1週間で完治した。病院関係者は皆、僕が毎晩祈っていたために起きた奇跡だと言った。
 包帯を外した彼女の顔は、僕の知っている人ではなかった。
 髪型が、声が、体つきがほとんど同じだけど、それは別人だった。その人は「ごめんね」と呟いた。退院する直前、個室で2人きりのときにその人は僕を真っ直ぐに見て、告白した。
「あの日、ホウキに乗って本当は魔女の国に帰るはずだったの。この世界を勉強する期間が終わったから。だから、貴方から見れば突然いなくなったように思えても、不自然じゃないように魔法をかけておいたの。だんだんあたしのことを忘れていく魔法。だけど、帰りの空の上でふと貴方を思い出したら何だか涙が出てきちゃって、バランスを崩して……落ちちゃったの。あたしがいつも貴方よりも後に眠って貴方よりも先に目を覚ます理由、知ってる? あたし、眠らなくてもいい身体なの。あたしの意識が途切れた時に魔法は切れちゃうから、あたしはいつも眠ったふりをするだけだった。夜中ずっと貴方を見て、このまま時間が止まればいい、なんて毎晩考えてたりしたのよ。でも、怪我して気を失っちゃってから、魔法が切れちゃった。はっきり言います。あたしは、あなたに魔法をかけていました。あたしに恋をするように、他の女の人に興味をなくすように、あたしの姿をあなたの理想そのものに見えるように、料理を世界一美味しいものと感じるように、お金だって魔法で作り出したし、知らない人だって友達にしてあなたに紹介したりした。あなたの仕事が順調に行くようにサポートもした。だけど、全部嘘。全部魔法で作ってた幻想なのよ」
 僕はそれを、目を閉じて聴いていた。思い浮かぶ彼女の顔は、目だけがどうしてもイメージできなかった。そのとき、僕は自分が夢を見ていただけなのだと、心で理解した。知らず、涙が流れた。そして心の中の、今までの彼女との想い出を思い出し、僕が彼女を本当に愛していたことを再確認した。
 目を開けた。そこには、驚くほどストレートな長い黒髪の、10代半ばの少女がいるだけだった。傍から見れば、いや……医者や看護士なんかは彼女のことを僕の妹か、(ちょっと無理があるが)娘か何かだと思っていたはずだ。恋人です、なんて言ったらほとんど犯罪になるような少女が、悲しそうな目で僕を見ていた。

「もう一回、魔法はかけられないかな」
「ごめんなさい。もう無理です。魔女の試験期間は終わっちゃったし、一昨日までに魔女の国に帰れなかったからもう、あたしは魔法を使えないんです。何もできない、ただの嘘つきなんです」
 強く、彼女を抱きしめた。目を閉じると浮かぶ、顔のない理想の彼女が僕に笑いかける。優しい言葉を掛けてくれる。魔法は解けたっていうんなら、どうしてこんなに焦がれるんだろう。
「嘘でもいい。魔法なんていらない。帰れないなら、一緒に暮らそう」
「でも、あたし、貴方よりずっと年上ですよ」
「構わない」
「見た目、子供ですよ」
「構わない」
「料理もへたくそですし、エッチだってうまくないですよ」
「構わない」
「お金も持ってないし、そもそもこの世界の常識も知らないですよ」
「構わない」
「名前もないし、服も靴もないですよ」
「構わない」
「泣き虫ですし、馬鹿ですし、何もない所で転んだりしますよ」
「構わない」
「アイスクリーム落としたり、コーヒーを掛けたりしますよ」
「構わない」
「ムカデとかナメクジとか好きですよ」
「それはちょっと勘弁してくれ」
「貴方が思っているのは、自分の中の理想の彼女像ですよ。それはあたしじゃなくて、魔法にかかった貴方自身のアニマを投影してるだけですよ」
「うるさいな! いいか、僕と一緒にいたかったら、この世界にいたかったら、そんな御託はいらないんだ。だから、1つだけ約束しろ」
「何ですか?」
「もう二度と、嘘はつくな」
「二度とは無理です」
「じゃあ冗談以外に嘘はつくな」
「やってみます」

 そうして、僕らは手を繋いで帰った。彼女の魔女名はもうなくなったから、僕が名前を考えてあげた。年齢も、見た目から想像して教えてあげた。部屋につくと、押入れの中の札束が葉っぱに変わっていた。カレーが作ってあった鍋には変な黒いドロドロが入っていただけだった。
「やれやれ」僕は呟き、両手を腰に当てた。
「じゃあ、まず、部屋の掃除から始めようか」
「はい!」
「あ、あと1つ」
「何ですか」
「もう僕に、敬語を使うのはやめてくれ」
彼女は泣きながら、微笑んだ。

スポンサーサイト

読みきり | trackback(0) | comment(0) |


<<長い上に意味がないので読むだけ無駄です | TOP | サラ時間>>

comment











管理人のみ閲覧OK


trackback

trackback_url
http://sweetstorylatte.blog35.fc2.com/tb.php/156-70e99d64

| TOP |

プロフィール

ryow

Author:ryow

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。