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2002/09/20 (Fri) 長い上に意味がないので読むだけ無駄です

 ハタチで友人の借金に「協力するよ」なんて言ってしまったものだから、それからの僕の人生は借金との戦いだった。
 友人は、取立て屋とグルだった。当時、僕は多少の貯金があったものだからそこに目を付けられたのだろう。いつのまにか名義も僕となり、僕は何もしてないのに借金を返し続けなければならなくなった。消費者センターなんかに行ってもすでに手が回っており、僕の話を聞いた人は債権屋が用意した男だった。
 それから5年。なんとか返済を終え、気づいてみると僕は空っぽな野郎になっていた。
 就職も出来ずにずっとバイトで稼いだ自分は少しだけ誇らしいと思う。けれど、彼女もいない、貯金もない、職もない、そんな僕はもう、人を信じれなくなっていて。
 冬の初めのある寒い夜、僕は、橋の上で風に当たりながら感覚がなくなっていく手を見ていた。かじかんで次第に動かなくなっていく。意識も朦朧としてくる。人は、寒すぎると眠ってしまうものらしい。このまま眠ったら楽になれるだろうか……
 誰も通らないので、僕はそのままベンチに横たわって眠ることにした。風は寒い。けれど、もうどうでもよかった。
「これ、そこの御方」
目を瞑っていると、声が聞こえた。目を開く気にはなれなかった。
「一時停止したビデオがここにある。キミならどうする?」
それがどんな声だったかは、よく思い出せない。男のような、女のような。老人のような、若者のような……とかくアンニュイな印象だった。しかもいきなり意味不明な質問を繰り出すところが恐ろしいと思った。「撒き戻す」と答えたかったが、もっとアッパー気味な答えの方が面白いと思った。
「……入力切替ボタンを押すね」
か細い声でそう言った。確かに、言った。

 気付くと僕は部屋で眠っていた。それがどこの部屋かは分からない。少し前まで僕が住んでいた部屋とは違う、ベッドルームだった。そう、8畳ほどの部屋はベッドだけが置いてあった。どんな高級ホテルだよ、と突っ込んでから目覚めた。
 そこは3LDKほどのマンションだった。なぜこんなところで目が覚めるかは分からなかった。隣の部屋を覗くと、美人がすやすやと寝ていた。
 これはどうしたことだ。
 僕が頭の上に「?」を並べていると、美人は目を覚ました。
「おはよう、早いのね」
当たり前のように彼女は僕に言った。
「どういうことだ? ここはどこだ? キミは? どうして僕はここにいる?」
彼女は口を押さえて「あらまあ」と言った。「記憶喪失? 大丈夫? しんちゃん」
 ──しんちゃん、という名前は少なくとも僕のものではなかった。
「教えてくれ。どうして僕はここにいるんだ」
彼女は心配そうな顔で僕を覗き込んだ。シルクのパジャマ(?)から胸元が見えた。
「わかったわ。何から話せばいいかしら?」
話し方から、彼女の育ちのよさがうかがえた。

 話によると、僕は某暴力団の取締役らしい。組長とはちょっと違うポジションで、裏のナンバーワンというわけだ。組員からは「長(ちょう)」と呼ばれている。大卒のインテリで関東・東北・東海・北陸などの組を監査しているということらしい。実質、東日本の組の総締めということだ。それが今夜、西の総締めと話し合いをするらしい。この国のナンバーワンを決めて、取締法やら何やらに対応していく新時代対応型の組織を構築するつもりだったらしい。で、彼女は妻のパシフォニー。なぜ名前がカタカナなのかは知らないが、どこをどう見ても日本人だ。
「ああ、可哀想なしんちゃん。緊張のあまり気が動転してるのね」
彼女の胸に抱かれ、温かいベッドでまた一眠りした。

 目覚めると夕方だった。言われるままにスーツを着込み、軽くコーヒーを飲んでから、僕はマンションを出た。階下には組員らしき男達が並んでいた。
「いよいよですね、長!」
口々にがんばれだの楽勝だの、無責任な言葉を放っている。
「うるせぇぞ! 殴り合いしか出来ない奴らは今後は切っていく! 俺の応援をしてる暇があったらパソコンのいじくり方の1つも覚えてきやがれ!」
キッとメンチを切ると、組員どもは震え上がった。
 黒い車に乗り込んだ。隣にはナンバー2の、オールバックで黒いサングラスの男が乗った。
「いよいよですね、長」
「お前もそれか。他に言うことはないのか?」
「フフフ。勝利は我々にあります……東日本でよかったと思います。テレビ、ラジオ、新聞、その他マスコミにIT関連、商社、官公庁に至るまで……必要なコマは揃いました。あとはその並べ方です。長のね」
「ドミノ倒しでもしてやろうか」
僕の意思とは無関係に、勝手に身体が動いた。勝手に喋っている。
「行くぞ、タケナカ」
「はい、長」

 銀座の料亭。静かなその場で、西と東の幹部が集まった。しかし全ては、僕と西の長・オサモリの会話1つだった。オサモリは対峙したときからテンパっていた。
「……コンゴウさんの話を聞きたいですね」
どうやらコンゴウというのは僕のことらしい。僕はまた身体が勝手に動くのを待った。
「……コンゴウさん?」
が、身体は動かなかった。意識も全て、僕のそれだった。とりあえず料理を口にしながら、何か考えている振りをした。
「コンゴウさんの言い分を聞かねばなりません」
何を言っていいか分からない。部屋にいる数人が全員、僕の動きを監視しているようだ。
「……では」意を決して口を開いた。もう、なんでもいい。適当に何か言ってやる。ダメだったらどうせこの場で射殺されるんだろう。もういいや!
「統治、関係、他業種との付き合い方はこれまで通りでいきたいですね。ただ、その全権は我々、東にお任せいただきたい」
「……今、何と?」
「この国の全権を私に委ねていただきたい。もう、殴る蹴るが強いガキ大将が生き残れる時代ではないでしょう? 少なくとも国の中心と基盤が東……東京にある以上、我々が統治することに──」「コンゴウさん、それは本気ですか」
 オサモリの目がわきの男に移った。男は少し前屈みになった。いつでも僕を殺れるぞと示しているつもりだろうか。
「……株だ」僕は続けた。
「何?」
「あと数年……少し前に選挙がありましたでしょ。国会がこの面子で動いている間に、株の高騰が起こる。そのとき、踊り出たあの政党を使って、我々は金を得ます」
「……何の話ですかな」
「これからは殺さないものが勝つ時代だ。あなたは殺しすぎた……そうじゃないですか? オサモリさん」
「それは必要だからだ。兵隊は死ぬために存在する」
「そうではありません……力の意味合いが違ってくる」
「アイテーだとかパソコンだとかで世界が動かせるとでも?」
「その通り。あなたは古すぎる……そうでしょう」
「何を言っているのか」
「タケナカ」
 その瞬間、タケナカは懐から取り出した銃でオサモリ以外の西陣営を射殺した。
「西の統治はタケナカが行います」
「な、何を……コンゴウ! 貴様っ」
「あなたの人生はここ止まりです。停止だっ」
 ──不意に、目の前が真っ暗になった。

 気付くと、あの橋の上のベンチだった。
 夢を見ていたのか……と頭を掻きながら身体を起こした。夜明け前だった。凍えるほどの寒さの中、どうやら僕は生き残ってしまったらしい。
 胸のポケットに違和感を覚えた。見てみると、ビデオ用のリモコンが入っていた。
 僕は、「撒き戻し」のボタンを、押した。

 以前のアパートで、目が覚めた。今日はいつだ? このアパートはもう引き払ったはずだったのに。
 新聞でもあれば日付が簡単に分かるのだが、と思いながらタバコを口にした。カレンダーに目が止まった。6年前の……12月。何日かは分からないが、僕はそのカレンダーを信じると、急いで街へ出ることにした。
 走りながら、テレビでもつければ今日がいつだったか分かるのに、と少し後悔した。
 駅についた。心臓が高鳴っていたのは、走ってきたからではない。
 ──今も後悔していた。6年前の12月……今日と同じようによく晴れた、寒い日だった。僕は駅ビルのパン屋へ向かった。そしてレジを打っている一人の女の子に目が止まる。心臓がドクンドクンと、以前にもまして大きく打っている。
 もう、同じ過ちは犯さない──そう胸に誓い、僕は彼女に近づいた。彼女は「いらっしゃいませ」と応対するまで僕に気付かなかった。
「キョウコちゃん」
「あれ、タツヤくん。どうしたの」
「逃げよう」
レジのわきに置いてあった小さな日めくりカレンダーが目に止まった。
 12月19日……そうだ、あの日だ。
 テロが起こった日、だった。6年前の今日、駅ビルの地下で毒物が巻かれ、当時の彼女だったキョウコも犠牲者の1人に数えられていたのだ。
「タツヤくん? でもわたし、バイトあるし……」
「いいから!」
手を引っ張って店から連れ出した。壁の大時計を見た。13:30と表示している。確か……もうすぐ、のはずだ。
 階段を駆け上がって、駅前広場まで出た。うっかり人にぶつかった。
「何処見とんじゃこのクソガキャ!」チンピラだった。でも僕はその男に見覚えがあった。
「……タケナカ」
「何? なんでワシを知っとんねん! しばくぞコラァ!」
「逃げた方がいい。もうすぐ毒ガスが駅地下に充満する」
「……お前、なんでそれを?」
 立ち尽くすタケナカを尻目に、僕とキョウコは逃げるようにその場を後にした。

 その日の夕方、確かに事件は起こった。駅地下にいた人、数百人が被害者となった。パン屋にいた人はほとんどが亡くなったらしい。僕たちは僕のアパートでテレビを見ながら、呆然としていた。
「タツヤくん、どうして分かったの? 事件が起こるって」
「……ちょっとね」
 次の日の朝、ニュースで事件の犯人が捕まっていた。そういえば、かつてのこの事件は実行犯は謎のテロ組織だろうという断定のもとで、捕まりはしなかった。
 犯人は都内在住のタケナカナオキ容疑者、22歳。
 テレビを見ている僕に、キョウコは後ろから抱き付いてきた。「あー、昨日の犯人かぁ」どうやら昨日ぶつかった男だとは気付いていないようだった。「テレビ回していい?」「いいけど、どこも同じことばっかり言ってるよ」
 キョウコは寝ぼけ眼をこすりながら、リモコンのスイッチを押した。「あっ、これ、ビデオのスイッチだった?」
 ──僕が最後に聞いたキョウコの声は、そんな感じだった。

 キョウコが押したボタンは多分、早送りだったんだろう。気付けば僕は、また布団の上だった。しかもそこはどうやら、和室だ。畳の上に布団だけが敷いてある。よいせと起き上がった僕は自分の身体が動きにくいことに気付いた。
 手鏡が置いてあったので覗き見た。そこには今にもヤバそうなおじいさんが。
「おじいさん、朝ですよ」
 障子を開けて部屋に入ってきたお婆さんは、僕の知らない人だった。そのとき、僕はほとんど全てを理解した。知らず、涙がこぼれた。
 ──目の前にいる人は、僕が生涯を賭して供に生きていこうと誓ったキョウコじゃない──

 ふうっと大きく息を吐き、僕は枕の下にあったリモコンを取り出した。
「おじいさん! 何を……」
「苦労を、かけたな」
 僕はまた、停止のボタンを、押した。

 気付くとまた、あのベンチで寝ていた。目の前には黒い背広を着た老紳士が。
「今、キミの人生は停止した。このまま『電源』をオフにするかね」
僕はしばし考え、身体を起こした。
「ひとつ、聞いてもいいですか」
「何かね」
「僕の人生は、どう転んでもキョウコと一緒になることはできないんですか」
「そうではない」
「じゃあどうして」
「全ては選択次第。その場その場における、ね。キミが思う彼女と供に生きる未来もあった。そうではない未来もあった。それだけだ」
「じゃあ、あのヤクザの体験は」
「他人の人生だ」
「僕はどうすればいいんですか」
「それは自身で考えることだな」
「酷じゃないですか」
「では、選択肢を与えよう。制限時間は2分だ。いいかね」
「……はい」
「ひとつは、このままキミの『電源』を、つまり人生をオフにして、死んだ後に新たな命として生き直す。記憶も魂も思いも全ては消去される。テープは巻き戻され、新たな命が上書きされる」
「もうひとつは」
「このまま再生する。このままね。アパートも貯金も彼女も何もないこのままだ。25歳にして職なし、何も持たないキミは友人の借金を返し終わり、今まさに死のうとしていた。この続きを生きることだ」
「それがイヤだからこうして寝ていたんじゃないですか」
「そうか。では前者でよいかね」
「……いや、でも」
「あと1分ほどだ」
「その選択肢、両方とも『再生』ボタンですよね」
「そうだ」
「新たに生まれる命……再び、生きる。そしてもうひとつは僕がこのまま生き直すこと……」
「逆境からの再生。しかしそれには過剰なまでに労力が必要だ。キミも知っているはず。しかしそれができないからここに寝ていたのではないかね」
「僕……」
「時間だ。決めてもらおう」
「僕、このままやり直します」
「そうかね」
「キョウコは6年前に事件で死んだ。タケナカは今頃ヤクザのナンバー2になってる。でも僕はあいつを許せない……。タケナカに、罪を償わせるまでは僕は、まだ死ねない」
老人はふむ、と頷くと足早に歩いて行ってしまった。ふと見た彼の影は、背広を着た男の形なんかじゃなかった。
 ローブをまとい、大きな鎌を持った髭の生えた男。僕にはそう見えた。

 時は流れ、10年後。
「タツよ……そろそろお前も杯を受けてみんか」
「お言葉ですが、長。私の望みは杯でも組でもありません」
「ではなんだ」
「タケナカの居場所を、教えてください」
「……奴はもうこの国にはおらん。今頃、どこか金と欲望の渦巻くところでまた勝負しているだろう」
「知らないんですか」
「知ってはおるが……なぜだ」
「16年ほど前の、駅地下の毒ガス事件です。私はあのとき、恋人を殺されました」
「それを未だに恨んでいるのか」
「ええ。この年まで妻もとらないのは、全て彼女のためです」
「きっと彼女はそんな恨みは望んでいないだろうがな」
「デジタル思考の長の言葉とは思えませんね」
「……タイペイだ」
「え」
「わしが言えるのはそれだけだ。タケナカには礼になっておる……今度ばかりはどちらの味方にもなれんな」
「十分です、長」
「行くのか」
「ええ。お世話になりました」
「わしの娘がな」
「はい?」
「お前にほれとるようだ。生きて帰ってこれたら、貰ってやってくれんか」
「……フッ。本当に、長らしくない」
「行ってこい」
「行って、“来る”かは分かりません。ですが、行きます」
「ああ。達者でな」
「長も」

 タイペイ、シャンハイ、ホンコン、そしてトウキョウ、フクオカ、ミラノ、ロンドン、ロス。色々な街でタケナカを追い詰め、そしてその度、逃してしまった。俺が奴を追い始めてからもう4年。俺は再び、日本へ帰ってきていた。
 20年前に住んでいたアパートは、高層マンションへと変貌していた。
 禁止されているタバコに火をつけ、大きく吸い込んだ。
 あの事件の日と同じような、よく晴れた寒い日だった。

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