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2002/10/20 (Sun) とうめいなくれよん

 100円均一の雑貨屋、1000円均一の洋服屋、10000円均一の貴金属屋ときて、この街に第三弾の均一ショップができた。
 10万円均一の冠婚葬祭屋はおいておいて、もうひとつ10万円均一のショップができたのだ。それはなんと、文具店(!)。
 よっしゃと腰を上げて店内に潜伏。そこは一見、普通の文具店に見えた。しかし、シャーペンとか消しゴムが一個10万円というボッタクリなのか大真面目なのか分からない値段がついていて、手に取る人も不思議そうに眺めている。シャーペンもプラスチックで出来ているし、消しゴムなんてキン消しやガン消しみたいな硬さで、本当に字が消えるのかどうなのか分からない。おまけに店員は「え、ちょっとマジかよ」と唸ってしまうような女の子と、うっかり古時計と一緒に止まってしまいそうなお爺さん……というか長老みたいな……だった。
 そこで、女の子に「この店のオススメは何ですか」と聞くと「あなたは何を買いに来たんですか」と逆に返されてしまった。「なんとなく」と答えると「またですか」と言われた。
「……このお店にある文具は、使ううちに馴染んできて、一生使えるものばかりです。だからこの値段でも決して高くはありません」
そんなことまで言われてしまうと、なるほど、確かに使いやすそうな斬新なデザインのペンなんかがずらりと並んでいる。
「インク切れとかシャーペンの芯切れなんかはありません」女の子はニッコリ笑ってくれた。
 じゃあまた来ます、と愛想笑いで出て行こうとした僕をお爺さんが捕まえて、「今なら特別価格じゃ」と一本のクレヨンをポケットから出した。
「クレヨン……ですか」
「1000円でいいぞ」
「高いじゃないですか」
「よこせ!」
 妙に機敏なお爺さんにお金を奪われ、クレヨンを渡された。しかしそれは、手に持つ部分に紙が巻かれてはいるけれど、本体の色がいまいちよく分からない。微妙、としか表現できない。
「それはな、『こころ』色のクレヨンじゃ。そもそもクレヨンとは、『肌』色に始まり、『髪』色を表現するために黄色や黒や赤が生まれ、『目』を表現するために青や茶色が生まれた。そんな風にして人体の色を12に分けたものが現在のクレヨンの祖。そして最近になってようやく、人を構成する13番目の色、『こころ』が出来たのじゃ」
「心?」
「ハートです」女の子が胸に手を当てた。
 僕はよく分からないまま、帰路についた。

 次の日。いつも通る路地裏のガード(グラフィティアートの溜まり場とされている壁がある)に、そのクレヨンを塗りたくってみた。
 ……あれ。何も映らない。
 まるで透明な油を塗っているかのように、壁には何も色が映らない。これは詐欺だ! と思いながらも、やけになって塗りたくっても全然減る様子がないクレヨンに感心したので、黙っていることにした。
 買い物に行った帰りに再びそこを通っても、やっぱり何も映っていなかった。

 その次の日……というか今日……は雨だった。雨のせいで友達との約束がキャンセルになってしまった。日曜だっていうのに、僕は部屋で一人、ゲームをやっつけたり、残ったレポートをやっつけたり、ときどきポカンと口を開けて天井を見上げてみたりしながら、暇を持て余していた。
 なんとなく外に出た。ガード下にはギターを抱えた青年が一人で歌っていた。僕が一昨日つけたクレヨンは……なんか、青っぽくなっていた。
 青か! と思ったとき、それは薄っすら赤くなった。正確に言えば、そのときの青は「碧」とか「藍」とか、はたまた「緑」とか「瑠璃」とか「群青」とか「空」とか「海」とか「川」とか、そういうイメージを伴った複雑な「青っぽい色」だった。簡単に言うとブルーだった。ついでに後者の赤も、「紅」なのか「朱」なのか「茜」なのか「陽」なのか「夕」なのか、そんな微妙なレッドだった。ピンクだったかもしれない。
 リトマス紙なんかじゃない。僕がその色に疑問を持ったとき、それはグレーっぽい何かに変化した。そのとき、確信した。これは僕の『こころ』を投影した色だ、と。

 謎の10万円文具店に走った。刻々と変わる色を固定したいんだ、と女の子に告げた。女の子は「こちらをクレヨンの上からお塗りください」と、「透明」なクレヨンを差し出した。
「10万円になります☆」
100万ドル積んでも見れないようなその笑顔には、勝てなかった。

 100均で画用紙を買い、帰ってから絵を描いた。心にあるイメージの全てをキャンバスにぶつけた。少しして、キャンバスは色んな色で溢れた。たったひとつの『こころ』色のクレヨンは、沢山の数え切れない色になって僕の心象風景を表現してくれた。すかさず透明なクレヨンを塗る。これでこの絵は消えない。右下に小さく今日の日付と僕の名を刻んだ。
 さぁ、この絵を持って、告白しに行こう。
 もどかしくて苦しかった心象風景、その全てが目の前に、リアルで痛いくらい如実に現れている。キミを思うたびに僕の『こころ』はこんな風に揺れるんだよ、そう言いに行くため、僕は雨の中、丸めた絵を持って部屋を出た。
 キャンセルになった約束をもういちど取り付け、僕はその子との待ち合わせ場所に急いだ。今、僕がこのクレヨンを使ったならきっと、ほんわかしてちょっと焦ったような色が浮かぶはずだ。

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