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2002/10/22 (Tue) 緋の鳥 飛翔編

 2003年の最後の一ヶ月で、世界は突如現れた宇宙人に征服されてしまった。世界各国の首脳は国際会議を開き、最初は話し合いで解決しようとしたのに結局は民間人を巻き込んでの核戦争となってしまい、小さな都市は次々と犠牲になっていった。
 侵略の手は東京にも及んだ。
 宇宙人は空を飛ぶ円盤で上空を飛びまわっていた。東京ドームほどの巨大な円盤だ。地上からの攻撃は無意味だった。円盤はどんな武器も通さない。そして底面から出るレーザーで地上の人を次々と吸い込み、円盤内部に飲み込んでいった。
 そこで僕は、最愛の恋人と離れ離れになってしまった。
 最後の瞬間、恋人は僕を思い切り突き飛ばした。僕が地下鉄の階段を転がっているうちに、恋人はレーザーの中、何かを叫びながら空中へと浮かび上がって、そして、消えてしまった。
 階段をなんとか上がってきた僕が見たのは、ただ広がる青い空だけだった。

 地下に潜った人だけが助かった。地上にいた人は皆、吸い込まれて消えてしまった。
 やがて、ピカピカのスーツを着込んだ宇宙人が降りてきて、光線銃で生き残った人を次々と撃っていった。銃は円盤から出るのと同じレーザーを出し、それを受けた人は光に包まれて消えてしまうのだった。

 恋人の分も僕が生き残らなきゃいけない。僕は、悲しんでいる間もなかった。使命感に突き動かされ、復讐のチャンスを待ち、生き残りたちと供にひたすら潜伏していた。

 年の瀬を飾った街並みは暗く静まり返ったまま、クリスマスが過ぎた。生き残りメンバーは僕を含めて14人しかいなかった。皆、若者だった。一昨日までは19人いたが、5人はどこかへ行ってしまった。
「世界がもうすぐ終わるんだぞ! 死ぬのを待つなんて無駄だ! せめて楽しまなきゃ意味ねぇだろ! 死んじまった奴らのためにもな!」
そんなことを言い残して彼らは消えた。その5人は、20歳前後の男が3人に女が2人。「死んだ奴のためにも自分は生きなければいけない」それは卑怯な言い訳だ。しかし、この状況ではそれに反論できる言葉はなかった。きっとホテルか、食事ができるところか、とにかく温かいところへ行ったことだろう。彼らは光線銃で撃たれるまできっとセックスを続けるに違いない。それもまぁ、ありだと思う。生きていることを実感する、分かりやすい方法だ。残った14人の中、女性は4人だった。

 次の日、集団から少し離れたところで僕が目を覚ますと、2人の女性が死んでいた。傍らに男が1人、死んでいた。3人とも裸だった。女は自殺、男は殺されたようだった。2人の女性が昨夜、どんな仕打ちを受けたのかを想像し、悲しくなった。この男はきっと、罪を着せられて殺されたのだろう。何食わぬ顔で食料を分け合っている10人を、絞め殺してやりたくなった。
 人と一緒にいることは希望に見えたけれど、本当は絶望そのものだった。
 人に絶望してしまった僕は、生き残りの地下キャンプをあとにした。

 高いビルに登った。円盤は見えない。そこから地下キャンプがある場所を眺めると、ピカピカの宇宙人がその周辺に集まっていた。きっと10人はすでに撃たれた後だろう。
 もしかしたら、この街で生き残ったのは僕だけかもしれない。そう思うと、全てがどうでもよくなった。
 最後の数日間、生き残ったメンバーは「生きていることの実感」とか「いましかできないこと」とか「他の人の分までやらなきゃ」とか、馬鹿なことばかり言っていた。十代後半の少年達だったから、考え方が拙いのは仕方ない。けれど、最後にすることと言ってどうしてセックスとか恋愛ごっことか腹いっぱい食べたりとか物を壊したりとか、そんな欲望しかなかったんだ。
 人は結局、暴力を内包した欲望を満たすことでしか、生きていけないのか?

 どうでもよくなってから数時間が経ち、僕はピカピカの奴らに囲まれていた。銃を構えられている。すぐに撃つんだろうと思っていたが、なぜか、なかなか撃たれなかった。
「どうした? 撃てよ。殺すんだろう? やれよ!」
叫ぶ僕を前に、ピカピカのひとりがヘルメットを外した。出てきたのは、僕の恋人だった。
「……生き残ってたんだね」
恋人は相変わらずな口調で、微笑んだ。
「どうして……」
僕は呆気にとられ、何も言えずに立ち尽くした。
 十秒ほどの静寂の後、恋人は僕に銃を構えた。
「撃つよ」
「……ああ」僕は力なく両手を上げた。

 青い空の下、リリリと光線銃の音が静かにとどろいた。


 気が付くとそこは、不思議な場所だった。ふわふわした虹色の景色で、温かく、気持ちよく心地いい空間だった。目の前には恋人が、裸で立っていた。
「……どうして? 僕は撃たれたんだろう?」
「そうよ。そして、ここに来た。一番最後に来た人よ」
「ここはどこだ? 天国か?」
「天国──とはちょっと違うけどね」恋人は溜息をついて、続けた。「この街はまだマシだった。他の街じゃ、生き残った人は奪い合いと殺し合いをして、必死に抵抗を続けてる……今も」
「あの銃は何だったんだい?」
「あれはね、人を……というか生き物を『次』へ連れて行くものなの。物と欲望が交錯する時代はもう、終わったの。これからは永遠に近いほどの調和が続いていくわ」
「どういうことだ?」
「レーザーに包まれた人は、人間の価値観では分からない高次元へ連れて来られたの。だから傍目には消えたようにしか見えない。ここは高次元空間ってわけ。ここでは、穏やかにいられる。生きることも死ぬことも、奪うことも悲しむことも何もないの。与えられることもないし、考えることもないけど、皆が幸せだけは実感できる。どう? いま、欲しいものって何か、ある?」
僕は少し考えた。
「……ない、な」
「そうでしょ?」
 そう言うと恋人はふわふわな空間に溶けて消えてしまった。けれど僕は動揺さえしなかった。目を閉じ、同じように空間と一体化することを考えた。次の瞬間、僕の身体は柔らかくなり、そして溶けていった。

 僕が「僕」でなく、全ての一部でありそして全てになったとき──つまり空間の一部に溶け込んだとき──僕は全てを理解した。いや、空間は理解していたから、僕はそれを改めて確認しただけかもしれない。とにかく、いまや「僕」はなくなり、「全て」が残った。
 全ては永遠に続いていく。途切れることは無い。かつて僕だったものも恋人だったものも、老人も子供も動物も、生きていた全てが一体化して一つの意思の元に統一された。

 ふと、イメージを浮かべた。地上に残った低次元の存在たちは、この幸福を……全てと供にある幸福を心の奥底で望んでいるくせに、銃に撃たれるという目の前の過程だけを苦痛と断じて抵抗を続けている。殺し合いを迫ってくる。どうしてだ。「全て」はただ、永遠を与えたいだけなのに。
 「全て」の一部は低次元でも存在できるようにピカピカのスーツを着込み、分離して地上に降りていった。生き残ってしまった不幸な存在を飲み込むため、銃を持って。

 かつて「僕」だった者も分離して、地上に降り立った。生き残った人や動物を見つけては銃で撃つ。何か言うことがあるが、低次元の悲しいうわごとを聞いている暇はない。「僕」は皆に幸せを与えたいだけだから、こうしてキミたちを連れて行こうとしているのに。
 泣きながら必死に逃げ惑う子供や弱い人を、ひたすら撃っていく。その表情に「僕」はもう、何も感じなかった。

 自由も意思も自己も他人も、幸福という概念すらいらない。「全て」と一緒になろうよ。どうして抵抗するの? どうしてそんなに「自分」が重要なの? 押し付けられた幸福はいらない? それは低次元の夢なんだよ。「全て」の一部になることは必然なんだ。西暦も日付も言葉も、時間も空間も「わたし」も、喜怒哀楽も思い出も、感情も何もいらない。ただ、「全て」だけがある。それで十分じゃないか。

 助けてくださいおねがいします何でもします命だけは助けてください
 わたしはいいからこの子だけは撃たないでください
 金ならいくらでも出すどうか助けてくれ私だけは助けてくれやめてくれ

 意味の分からない言葉を吐き出す低次元に、「僕」も低次元のレベルで答えてやった。
 顔を涙や何かでくしゃくしゃにして命乞いをする低次元たちに、僕は微笑を浮かべて、そして、容赦も何もないままに引き金を引いた。低次元からすればそれは不思議に思えただろう。命乞いをする弱者に向け、嬉々として銃器を向けているように見えただろう。でも、そんなことはどうでもいいんだよ。

 ねえ、どうして、怖がるの?

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