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2002/10/28 (Mon) あいがよぶほうへ

 夢か現か分からないけれど、そのとき、わたしはカミサマに出逢った。

「人生を2回だけやり直すチャンスをやろう」
カミサマはそう言った。後光のせいで顔かたちは見えない。けれどそのたたずまいと、不思議な光に包まれた空間はまるで天国にいるみたいに思えた。
「あの、どういうことですか?」
「おまえは」わたしの問いかけに、カミサマは答えてくれた。「死んだのだ」

 話によると、わたしはどうやら事故で死んだらしい。そこでカミサマは、わたしを過去のある場面からやり直すチャンスをくれると言った。しかし、やり直すのは今の「わたし」ではなくて、過去の「わたし」だ。つまり、今の「わたし」が過去を俯瞰で見て、人生の選択肢を迫られる場面で今の「わたし」が選ばなかった選択の先を見てもいいよ、ということだった。そのチャンスは2回。わたしはこれまでの人生で、大きな転機を2回経験していたということだ。


 いきなり周りの景色が変わった。そこは大学受験の場面だった。自分の部屋の机に向かい、2つの願書を交互に見比べては考えている「わたし」がいた。今の「わたし」は部屋の上の方からその「わたし」を眺めていた。
 ひとつは本命の志望校、もうひとつは第二志望。ともに私大で、家庭の事情からわたしは一校しかテストを受けることが出来なかった。
 今のわたしは結局、本命の志望校を受験して、そして落ちた。その後はアルバイトをしながら2年ほど過ごし、なんとか販売の仕事に就職を決めた。でも、やっぱり大学に行きたかったという思いは消えることは無かった。
 机の小さなライトだけをつけて願書を見比べる「わたし」に、そっと耳打ちした。
 ──第二志望にしなよ──

 彼女……というかわたし……は、第二志望の大学を選び、受験した。結果は合格。もともと、第一志望はギリギリのラインだったが、第二志望はなんとかなったのだ。ふと考えたが、第一志望のテストを俯瞰して答えを耳打ちするのは……やっぱりよくないか。それはわたしの実力じゃない。とにかく、こうして目の前のわたしは、第二志望の大学に合格した。
 しかし、晴れて大学生となったわたしは合コンやバイトに励み、ブランド物のカバンや財布なんかに気を取られ、下らない男に騙され、そして結局、今の「わたし」と同じ職場に就職した。大学の4年間でわたしに残ったものは、ほとんど何もなかった。ただ「大卒」という肩書きだけだった。
 俯瞰してみて、分かった。「わたし」は、正解を選んでいたと。


 また、急に場面が変わった。大学に落ちてアルバイトを続けていて、やっと出来た念願の彼氏との喧嘩の場面だった。
 いや、それは別れの場面だった。
 思い出した。それはわたしがハタチの頃。付き合っていた彼氏と、ちょっとしたことで口論になった。誰にでも優しい彼は、同じ大学のゼミの子と仲良くなって、勉強の教え合いなんかをよくするようになった。その子には彼氏がいたし、わたしにも紹介してくれたから信用はしていたけれど、勉強会が増えるにつれ、アルバイトで彼と会う暇があまり作れなかったわたしは、わたしよりもその子と会う回数の方が多くなることに嫉妬し、彼に言ったのだ。すると彼は「勉強なんだから仕方ないだろ」と返した。わたしには彼の行動が浮気願望に見えて仕方がなかった。彼が本当に勉強会だけをしていたのかは分からない。ファミレスで勉強していたらしいけれど、本当の所は知らないし、メールにはすぐに反応してくれるけど素っ気ない返事しか来ないことが余計に不安にさせた。
 そしてわたしは自分から別れを切り出した。もしも浮気だったら、と思うとやりきれなくて、傷つく前に彼に告げた。もうイヤ、もういらない、と。
 どうやらこれが、「わたし」の人生に影響を与える第二の転機だったらしい。

 それは口論の最中だった。
「だからもう、勉強なら自分でも出来るじゃない! 男友達とでもすればいいでしょ? どうしてあの子となの!?」
「だから言ってるだろ! ゼミで仲いいのはアイツしかいないんだから! アイツにも彼氏はいるし、ただの勉強会だって言ってるだろ! 酒も飲まないし、私語もしないし、手も握らないよ! 浮気じゃねぇんだよ! 何を馬鹿なこと言ってるんだ、単位がやばいんだよ! 浮気どころじゃねぇんだよ!」
「だって、前にメールしたら深夜2時だったじゃない! そんな時間までファミレスで勉強するの?」
「そうだよ! ドリンクバーだけで勉強漬けだよ! 大学生のテストってのは想像以上にヤバいんだよ!」
「そんなの、言い訳いらないよ! どうして本当のこと言わないの? 1人でも勉強できるでしょ? 受験も他の人と一緒に受けたの? ねえ、1人じゃ何も出来ないの?」
「うるせぇな! とにかく、余計なことばっかり言ってるんじゃねぇよ! 何もないって言ってるだろ!」
「ムキになるところが怪しいの! イヤなの!」
「ムキになってんのはお前だろ!」

 すこし上から2人を眺めていた「わたし」は、その次の言葉を考えた。このままでは「もういらない、もうイヤ!」と言って彼をビンタして駆け出してしまう。もし、そうなってしまったら、雨の中をずぶ濡れで走るわたしは転んで泥とかが服について、もうどうしようもなくなって、駅裏の路地で派手にすっ転んで財布を落として人のことを信用できなくなって仕事も手につかなくなって入院して、全てを失うんだ。そして後日、彼のことを思っても結局連絡できないまま、ずっと1人のままで仕事を続けるしかない。3年ほどして、やっと次の彼氏が出来るけれど……その人とは結婚も考えるようになり……わたしのこの絶望の思いはやっと晴れるけれど、でも。
 ……そんな未来、もう、たくさんだ。
 「わたし」は目の前のわたしにそっと耳打ちした。
 ──彼を許してあげて──

 目の前のわたしが目に涙をためたまま口をつぐんでいると、彼はそっとわたしの頭を撫でた。
「もう勉強会はやめるよ。自分でなんとかテストも頑張るさ。ちゃんと講義に出ないでバイトなんか入れてたのがダメだったんだな。これからはお前のことをもっと大切にするよ」
彼は微笑み、わたしを抱き締めてくれた。
 けれど。
 それから2ヶ月後、バイトだと言っていた彼が向かったのがその女の子の部屋だったことが分かり、わたしは彼から別れを告げられていた。アイツの方が好きなのだと、電話でひとこと言われて終わった関係。わたしは絶望し、そして赤信号の交差点に飛び込んだ。
 命はなんとか助かった。そして彼は謝罪しに戻ってきた。それからわたしたちはよりを戻し、数年後、結婚した。そのさらに数年後、離婚したけれど。


 ふと気が付くと、光に包まれた穏やかな場所だった。後光をいっぱいに背負ってカミサマらしき人がわたしの前にいた。
「……どうする?」カミサマは静かに尋ねた。
 知らず、わたしは涙を流していた。
「どうするって言っても……」色んな思いが無茶苦茶なスピードで駆け回り、答えるどころじゃなかった。「こんな人生なら、わたし、生きてる意味もなかった……」
 カミサマは何も言ってくれなかった。
「この2つの人生の選択肢のうち、どれか一つをやり直せる。どうする?」
そして、すごく冷たい声で、そう言った。
「わたしは」涙をこらえた。「今のままでいい。いいことなんて何もなかったけど。大学も落ちたし彼も失ったし事故で死んだり、最悪な人生だったけど。でも……」
 カミサマは、わたしが何を言うかまるで知っているようだった。
 少し、笑ったように見えた。
「でも、わたし、生きてる意味はなかったけど、生きてた意味はあったのかも」わたしは顔を上げた。「わたしが彼と別れず、結婚して……あれは離婚しちゃったけど、その理由はやっぱり、わたしがいつまでも変わらなかったからなのかも。今のわたしは死んじゃったけど、死ぬ直前までは幸せだった。生きててよかったって思えてた。きっと、旦那も泣いてくれる。そりゃ死んじゃったのは悔しいけど……」
カミサマは少しずつ、遠ざかっていった。
「絶望を知ってよかったとは思わないけど、知らないよりは強くなれたから」

 多分、どの「わたし」も同時に存在しているんだろう。どこか違う世界で。でも、わたしは今の「わたし」が一番好きだ。傷つかずに生きていける人生もあったかもしれない。けれど、その人生じゃこんなにも、自分に素直に、他人に優しくは出来ないと思う。


 ……と、そんな夢を見て目が覚めた。そして僕は辺りを確認する。いつもの、僕の部屋だった。午前五時半、まだ街は真っ暗だった。

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