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2002/11/06 (Wed) ハードワーカー

「今度ね、この人と遊びに行くの」
 そう言って妹がパソコンに向かう。かっこよくて優しくて話も合うし頼れる男の人。僕より年上の男らしい。らしいというか、年上だ。
「お前、大丈夫かよ」
 妹の背中の後方50センチの位置からモニタを眺める。これ以上近づくと「あんまり見ないでよ」、と邪険な態度で返されるのでこれが精一杯だった。どうやらチャットをしているらしい。相手の男には、実は僕は覚えがあった。
 確かにそいつはかっこよくて頼れる年上の男だろう。しかも金持ちだ。けれど、お前が知らないことが一つだけ、あるんだ。
 ──そいつは、遊び人だよ。
 彼についての悪い噂を知っている。噂の中身も、実は僕は知っている。彼は僕の知り合いだ。だから、女の子を上手い言葉で騙して遊んで捨てるという彼の「やっつけ仕事」の内容も、僕は知っている。そうやって騙される女の数を数えてまるで勲章のように記録しておくのが彼の趣味だ。きっと、数日後には妹もころりと騙されるのだろう。
 ──そいつの言うことは全部嘘だよ。そいつの優しい言葉は全部嘘なんだ。お前を手玉にとって適当に上手く進めてセックスを数回したら関係は一方的に断ち切られるんだよ。数週間後にはそいつのケイタイは繋がらなくなってる。何台かケイタイを持ってるんだ。お前に教えるのは遊び用の番号だよ。
 そう、言おうかと思った。
 流行なのか、最近の女子校生の髪型は重力に従順にひたすら真っ直ぐ垂れる黒髪が多い。妹もそうだった。後姿は僕からすればやっぱり子供で、だけど世の男にすれば女子校生というブランドの一部で。
 ──悪い男に騙され、お前は傷つくかもしれないんだ。
 だから先に言おうかと、思っていた。けれど、言えなかった。どうしてかは、上手くは表現できなかった。ただ、長い人生においてそういう経験は、結果的にプラスに働くという確信があった。人に騙され、裏切られ、傷つけられ、あるいは嘘をつかれるという経験……それは、受けた直後では赤く疼くだけかもしれない。けれど、時間が経てばその傷を克服できる。人とはそういうものだ。
 現に僕も、同じような傷を負った経験がある。深く考えることで次第に視野が広がる。傷の治療法は、傷だけを眺めていても始まらないのだ。
 ──だからって、目の前で妹が傷ついていくのを傍観していろって?
 それは違う。僕の人生は傷だらけだった。自分でそう思うし、他人もそう言うだろう。だけど僕は自分の傷を他人にも味合わせてやろうなんて思わない。これを享受し、そして深く考えた。その結果、他の人が同じような傷を受けないようにしてあげたいと思うようになった。それはきっと、ヤサシサだと思う。僕のヤサシサは傷跡から生まれたものだ。
 だから僕は、実験を試みる。
 ヤサシサの中で育った人は、ヤサシサを持つことができるのだろうか。それを確かめたいのだ。過剰なくらいに保護して加護して妹を──当然、血の繋がった肉親として──愛しているから、その周りを舞う害虫は駆除しなきゃいけない。今までもそうやってきた。
 ──だからさ、また僕が守ってあげるよ。
 僕のヤサシサを一杯に受けて育ってごらん。きっと、ヤサシい人間になれるから。

 世の中、汚いことなど何も知らずに育てば幸せだろう? そうやって僕はまた、机の中からナイフを取り出し、そして夜の街へ繰り出す。愛すべき妹が眠っている間に。


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