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2002/11/08 (Fri) ペットボトルリバー

 サンタの格好をして、駅前でチラシを配る。朝8時から夜8時までだ。その日は何やら特別らしい。12時間も立ち続けるのだから、あんまり朝のうちからテンションを上げていては身体が持たない。彼は気だるい感じにチラシ配りを続けていた。
 朝は駅に向かう人が多く、チラシを手に取ってくれる人は少ない。皆急ぎ足で、見るからに余裕が無い。時間との戦いなんだよとでも言わんばかりに、赤い衣装の彼をどついては駅へ急ぐ。まるでそれにより、“仕事へ行く自分”を偉いだろうと言わんばかりに。
 昼前になり、主婦やら子供連れが目立ってきた。彼が気だるくチラシを持って突っ立っているだけで、子供の方から「サンタさん」と言いながら近づいてくる。子供に渡すようなチラシではないのだが、子供たちはやたらに欲しがるので大量にチラシをあげた。
 昼過ぎになると、なぜか若い女の子が増えてきた。駅前で待ち合わせをしているらしい。チラシを渡そうとしても無駄なのは知っていた。ただ、「すみません」とか「ごめんなさい」と言ったり、あるいは苦笑や微笑を浮かべるような“返事”があると、サンタは嬉しかった。普通のチラシ配りではない。サンタがいるのに全くの無視を決め込む少女もいた。
 夕方前になると、学生がだんだん駅から出てくるようになった。派手な色のチラシを珍しそうに手に取る。そうでなくても、サンタだ、などと言って彼を指差して笑ったり、そこそこの反応は示してくれた。すでに足が痛かった彼は、なぜか少し回復した。
 6時を回ると、スーツ姿も目立つようになった。大人たちはサンタを見てへっへっへと軽く会釈をしてくれる場合が多い。チラシはまだノルマまで配れていないけれど、もうどうでもよかった。

 そして8時。やっと仕事が終わった。駅前は飲み会に行くのか、あるいは帰るのか分からないけれど沢山のグループで賑わっていた。公衆トイレでそそくさと衣装を着替え、彼は帰路につくことにした。もう足がパンパンだ。早く帰って寝たい。いいかげん思考回路もうまく働かなくなってきていた。
 彼が駅に入ろうとしたとき、後ろのグループの中で騒がしい男が叫んだ。
「おつかれ! サンタさん! メリクリー!」
 彼は軽く頭を下げた。どの男が言ったのかは分からなかった。グループは彼を見ていた。笑っている奴もいた。きっと今頃、尽き始めた会話のネタにされているに違いなかった。けれど、彼にはどうでもよかった。
 少し、痛みが引いた。今のうちに帰ろう。
 自分にご褒美を買おうと財布から小銭を取り出した。548円。この一握りの小銭で、どんな幸せが買えるだろう。けれど、彼はそれで満足できるはずだった。そんな確信があった。
 電車を下りて、空を見上げた。星の無い空に少しかけた月が浮かんでいた。頬が張るような冷たい空気。排気や雑踏で汚れているかもしれない、けれど、彼はそれを胸いっぱい吸い込んだ。
 冬の味がした。

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