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2002/11/13 (Wed) 雪虫

 クリスマスが近づいてきたその初冬のある日は、よく晴れていて……どうしようもないほど、寒かった。風は冷たく吹きすさび、手を温めようとする缶コーヒーを吹き飛ばそうとしているみたいに、身体に突き刺さった。
 気温が下がれば動物の行動は鈍り、やがて動かなくなってしまう。だから生き物は冬眠をするのだけれど、ヒトはそういうわけにはいかない。寒くても暑くても、どうにかして身体を温めながら仕事を続けなければ春は来ない。動物にとって春は待つものだけれど、僕らヒトにとってはそうではないのだ。
 ようやく身体が温まってきた昼休み、今日3本目の缶コーヒーを飲みながら屋上で風に吹かれているところへ、誰かがやって来た。振り返った僕の眼鏡は風にあおられて4メートルほどぶっ飛んだ。あたふたしているところへ、その人はいきなり始めた。
「白鳥はどうして寒いところへ来るのかな」
はるかシベリアから来る白鳥。ロシアよりは幾分ましな日本の冬だけれど、外で寝起きできるほど暖かくも無い。そもそも、動物が生き延びられるような気温じゃない。
「鳥ですから……あんまり深い理由はないんじゃないですか」
眼鏡をかけなおした僕は適当に答えておいた。
「冬が来るのを楽しみにしてる動物がいるってことです」
その人は、年齢がよく分からない、妙な雰囲気を纏った女性だった。
「人も?」
「ええ。スキーだ温泉だとはしゃぐでしょう」
「でもそれは、寒い冬をどうにかして楽しまなきゃやってられないからじゃないですか?」
「そうかもしれませんね」
書類か何かをびりびりと破いて風に乗せて飛ばし、その人はまた降りていった。
 夕方、また残業になりそうだったので休憩もかねて今日4本目のコーヒーを持って屋上へ上がった。ふと見ると、昼休みに見かけた彼女がいた。僕は小さく頭を下げ、コーヒーを一口飲んだ。いいかげん、甘すぎるコーヒーに飽き始めていた。
「いいところに来ましたね」
彼女は僕の方を向いた。逆光だったけれど、そのときの彼女の口元は……そう、確実に。
 笑っていた。
「トドノネオオワタムシ」
彼女は言った。僕は頭の上にハテナマークを浮かべた。
「しろばんば、と言ったほうが分かりやすいですか」
また、ビルの下に向き直って彼女は続けた。
「夏のアブラムシと冬のアブラムシはこんなにも違う。冬のそれは、歓迎さえされるんです」
僕は何も言わずに聞いているつもりだった。けれど、一言。
「……冬を、待っていると?」
「待つ待たないは知りませんし、その人の勝手です。けれど──」
「けれど?」
「ろいろ、です」
「ろいろ?」
彼女はクスッと笑って、それ以上は何も言わないままに降りていった。
 そういえば、彼女は会社で見たことのない人だった。どこの部署の人だろう。少し気になったけれど、吹きすさぶ風と迫り来る納期に頭が一杯になって、それ以上は考えるのをやめた。


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