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2002/12/18 (Wed) メッセージ

 どこから持ってきたのか、彼はラジカセを前に鎮座した。
 人差し指と中指をつんと立て、躊躇うことなく「再生」と「録音」ボタンを押す。ごく小さくノイズが流れた。テープが回っている証拠だ。
「あー……これを、この録音を、未来へ残すことにする。かつて、そう戦後まもなくから実に八十年代の後半まで、地中にガラクタを埋めるという方法でタイムカプセルと呼ばれる未来へのメッセージが残されてきた。もちろん、それらは一定期間後に掘り起こされたのだけれど、それはお世辞にも良い方法であるとはいえなかった。埋めた正確な場所が分からなければ、思い出の品はただのガラクタのままで地中に残ることになる。それは無為だ。文字通り、本人には何も残らないのだから。しかし九十年代になって、タイムカプセルはこのように録音の方法を取られるようになった。それはテープだったりディスクだったりするけれど、本人の声を残す、という方法が主流となった。保存は公的な場所に限られ、一定期間後にこのテープは再生されることとなる。もちろん、保管場所にはテープを再生するハードがあるわけだから、未来にどのような録音の技術が主流になっていようと平気だ。そのとき、テープは文字通り再生……リバース、することになる」
 一旦テープを止め、彼はコホンと小さく咳払いをしてから続けた。
「そして九十年代後半から二十一世紀初頭においてはホームページを作りそれをディスクに保存あるいはネット上に……主に信頼出来るサーバにだが……思い出を残すようになった。それは本人も気付いていないだろうけれど、全てのホームページ、つまりサイトはタイムカプセルの役割を果たす。それにいち早く気付いたインターネットライブラリは世界中のほぼ全てのサイトのデータを保管している。全ての出版物を保存している国立国会図書館のようなものだ。だから本人がいつかサイトを思い出して見返したとき、それがタイムカプセルの役割を果たしていることに気付くはずだ。
 よって私はここに私の声を残そうと思う。私の声をデータとしてサイト上にアップロードする。その際に使用するサーバはタイムカプセルを埋めるべき場所、つまりアンダーグラウンドだ。そこは機密保持性にすぐれているはずなのに機密を漏洩させる技術を日々研究している場所だ。いわば戦争における軍隊のようなものだ。最前線で平和を守る技術と争いを起こす技術を同時に研究している、という意味でね。
 私が残そうと思うメッセージは、今の私の苦悩だ。私は日々、自分の『心』がガラガラと崩れていくのを感じている。音が聞こえるんだよ。だから私は物語を紡ぐことによって心を探そうとした。人が人を思うこと、あるいは動物や植物に向けられる感情かもしれないが、とにかく『優しく美しくあろうとしたもの、または矜持にあふれた存在』を求めたのだよ。どうして私の心が壊れていくのか、その原因は既に知っている。しかしそれは止めようがない。私はただ、人間らしくありたいだけなのだ。だから私の思うところを物語という形でホームページに収めているのだが、次第に考えるという行為そのものが困難になってきた。しかし死が近いとは到底思えない。私は人間性と思慮深さを日々欠如していくという病に侵されてしまった。
 最近、私が思う物語は、ある意味で心の問題の終着点なのかもしれない。私は、物語という形で歴史を紡ごうとした。それは世界史に見られるような文化と戦争の繰り返しではない。一人の人間から始まる、一族の歴史だ。その一族がどのように生まれ、育ち、恋をしてやがて結婚し、子を授かりそして親として生き、年老いて死んでいく……というような、ほぼ無限に繰り返されるかもしれない平凡な人々の歴史を紡ぎたいと思うようになった。平凡な人々が祈る平凡な幸せ、そこにつまり心における大切なものがあるような気がするんだよ」
 彼は大きく息を吐き、テープを止めた。20分テープのちょうど片面が終わりかけていた。裏面には彼のお気に入りの曲が二曲、すでに録音されている。
 彼はそのテープをデータに落とし、アンダーグラウンドにアップした。
 下に上げる、というその表現がおかしいと感じたが、彼はそれを面白いと判断しただけだった。笑う、という行為がどのような心の扇動から始まるかが分からなくなっていた。
 彼はそんな自分の、痙攣にも似た頬の筋肉の動きを作ってみてから、はははと抑揚の無い声を上げた。泣いているみたいだ、と判断できた。

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