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2004/01/15 (Thu) くだらない歌

 19や20で名誉ある賞を取った将来有望な若者の著が山積みにされているのを見て、自分のこれまでの努力は無駄だったのかと涙を流したくなった。
 高校を出て目的も無く上京、坂の上の安アパートで一人暮らしを始めてもう十年が過ぎようとしている。季節が変わるたびに希望を背負った若者がアパートに越してきて、そしていくつかの季節が過ぎると出て行く。それを何度も何度も見てきた。もう人生を何回か終えてしまった老人のような気分になった。人の成長を見ることが、自分の停滞を見せ付けられるようで怖かった。いつも口ずさんでいた歌も、何度かの季節を経て色あせてしまった。同じ時期に上京してきたかつての友人が書いた、夢と希望に溢れたくだらない歌。当時はそれが自分たちの活力を生みさえするものだと信じきっていた。
 今までの人生は、何だったのだろう。最近、何度も自問する。
 就職が決まらないまま数年を過ごし、ここ2、3年でやっと土木の作業員として職を得たはいいけれど、そんなところにいると本当に自分が腐ってしまいそうだ。そして疲れて帰ってきた自分を癒すものが冷蔵庫一杯の缶ビールだったりするから本当に死にたくなる。手ごろな縄があるといつも輪っかを作ってしまう。
 それでも、そんな社会の底辺の泥まみれの中年に差し掛かったとりえの無い男にも、ひとつだけ譲れないものがある。あるはずだ。かつての情熱はどこかへ行ってしまったけれど、不意にそいつがひょっこり顔を出しては背を押す。上京する前からずっと続けていることだ。安アパートで今もまだ、書き続けている。落選した作品のコピーは部屋の一角に山積みになっている。自分にしか書けない最高の物語があるはずだと信じきって、少しずつ、書く。ただ書く。それしかないから、書く。
 けれど、現実はその全てが、誰にも認められないまま消えていくだけで。
 若い実力者へのバトンタッチは、あまりにも大きな舞台で行われた。それを見た自分はもう、この道を行くのはやめようと思った。
 工事現場でモルタル練ってるオヤジでも、小説くらい読むんだぜ。それが矜持だったはずだけれど、いつのまにか夢も泥まみれになって心のゴミ捨て場に打ち捨てられてしまっているようだ。
 偏屈扱いされて孤独と戦い、辛い作業ばかり任されてそろそろ身体もいかれてきてるけれど、まだ諦め切れなかったのは自分を信じたいからだった。先日、背骨が軋む音を聞いた。それはあまりにも低く鈍い音だった。どうしてこんなことをやってるんだろう、友達もいない、恋人もいない、すがるものも何もないのに、どうしてまだ書いているんだろう。

 休日、たまたま歩いていた土手に、綺麗に磨かれたナイフが落ちていた。刃渡りは20センチ以上、サバイバルナイフというやつだ。それをジャンパーに隠して持ち帰り眺めた。こいつの切れ味はどんなものだろう。いつも現場で使っているカッターなんかとは段違いだ、それだけは分かる。たとえば、腹を刺したら。首を切ったら。
 人が一瞬で楽になれるほどの切れ味を、こいつは秘めているのだろうか。
 迷いながら、刃を自分に向けた。思い切って突き立ててみたい。楽になりたい。こんな世界、自分一人がいなくなったって同じだった。首に刃を当て、滑らせてみた。痛みは、なかった。鏡を見ると首から真っ直ぐに血が流れた。もう少し力を込めたら、きっと、楽になれる。
 もういい。もうやめたい。楽になりたい。
 最後に誰かに謝りたい気持ちになったけれど、誰の顔も浮かばなかった。

 俺は、いま、死ぬ。
 大きく振りかぶって、目の前でナイフを光らせた。このまま、全力で喉元に突き立てるだけだ。それだけで俺は楽になれる!
 目は見開いたまま、ナイフを、思い切り突き立てた。ふと視界に入ったのは、部屋の隅にもう30センチも積んである原稿用紙の上にあったペンだった。そのペンが、心の中で呟く。

 ──御話が、好きなんだろう? まだ、書き足りないんだろう?

 鈍い音と感触が手に響いた。刃はギラリと光ってその存在を主張したけれど、30センチの原稿用紙の半分にも届かなかった。
 ほらみろ、てめえ。
 知らず、涙をこぼしていた。ナイフじゃ、御話ひとつも殺せやしない。人を一瞬で殺せるとしても、人の思いは切り裂くことなんて出来やしない。即座に畳の上に転がったペンを握り締めた。すでに色褪せている皺の入った原稿用紙を乱暴に伸ばし、震える手で文字を刻む。それはまるで、凶器で切り刻むかのような鮮やかな感触で。涙で歪む視界も、濡れて破れた用紙も関係なかった。ただ、まだ、いける。それだけあれば十分だった。

 相棒、まだ、書かせてくれるのかい?

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