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2004/03/17 (Wed) くだらない歌

 例えば、30歳。
 幼馴染みの彼らは、小学校の同窓会が催されているその日に3人だけで居酒屋に向かった。約20年ぶりのクラスメイトのことや、かつて小さく焦がれた少女のことよりも大切なことがあると信じることができた。中学までは3人とも同じ学校で、高校からは別になり、今日まで会うことはなかった。
 仲間と呼んでいた親友たちに会うことに、一つも後ろめたいことはなかった。会ったその瞬間、肩の高さで手の平を叩き合ってあの頃を取り戻した。忘れていた20年前の全てが一瞬で戻ってくる。離れていても連絡をしなくなっていても、再会するというだけで全ての時間は埋まる。3人とも、それを信じていた。

「20年になるのか、早いな」
「そういうオヤジじみた台詞を聞きたいわけじゃないぞ」
「そうそう、かといって思い出話に花を咲かせたいわけでもない」
 3人はニヤリと笑い合った。
「じゃあ、俺から話そうか」
 カウンター席の右端に座った男が話し始めた。彼は中学卒業後、普通のレベルの高校そして普通のレベルの大学を経て国家公務員Ⅱ種に合格、今は公務員として平凡な日々を送っている。けれど決して仕事が退屈なわけではなく、それなりにやりがいと生きがいを見つけていた。結婚もして、子供もいた。あとの2人は子供がいないと言うと、彼は意味深に笑った。それから遠くを見つめるような目でしばらく黙っていたけれど、二杯目のウィスキーを頼んで話を次に振った。
 カウンターの真ん中に座った男は、高校を出た後はバイトを続けてカメラマンになるために勉強をし、写真を撮り続けた。けれど30になった去年、長年続けた夢は叶わないものだと悟り、けれどそれまでの日々を無為なものとは思わずに「よい経験だった」と言い放った。そして今は小さな工場で働いているという。その表情を見て、左に座った男が苦笑いを浮かべて、話し始めた。
 彼はミュージシャンになるために、今日まで定職にも就かずにひたすら夢を追い続けていた。その点においては真ん中の男と同じだったけれど、30を過ぎてもまだ彼は諦めることはなかった。実際、もう戻れないという恐怖もあった。世間知らずなままにこの分岐点のような年を迎えてしまった恐怖。何度も組んだバンドは次々に解散し、かつてのメンバーも今ではそれぞれに仕事をしている。彼だけが、まだ、夢の中だった。
 だから彼は、付き合っていた彼女に別れを告げた。長年住んでいた部屋も出て、携帯の番号も変えた。一人身であることだけが強みの、捨てるもののないドリーマー。妥協しない人生を生きることが目標である彼はそこだけは誇れたけれど、収入も生活レベルも隣の2人とは比べ物にならないほど低い。もっとも、3人中2人が「低ランク」な生活にとどまっているところを見ると、この3人にはどうもオンリーワンな才能というのがなさそうだった。
 左の男が眼鏡を外した。2人はギョッとしてそれを手に取った。見たことも無いような分厚いレンズ。かけると一瞬で頭痛にやられそうなほどの度が入っていた。
「お前、こんなに目が悪くなったのか」
「それで楽譜とか読めんのかよ」
 左の男は、今日始めて笑った。
「子供がゲームしたり漫画読んだりするのと同じだよ」右の男に向かってくい、と顎をしゃくった。「夢の見すぎで悪くなった」

 例えば、30歳。それは、もう戻ることが許されない年齢。あるいは、立ち止まることさえ余裕がないのかもしれない。例えば、25歳。それは、振り返りすぎるあまり立ち止まって、迷いに悩む年齢。例えば、23歳。それは、新たな始まりと秩序を手にしなければいけない年齢。けれど、立ち止まることも迷うこともまだ、許されている。例えば、20歳。それは、逆走さえ許される奔放な年齢。例えば、18歳。それは、まだまだ何も知らない卵のような、けれど一人で歩ける小鳥のような、ともすれば飛び立つことさえ出来る年齢。
 そして例えば、今のあなたの。

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