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2004/04/08 (Thu) テレフォンマン

 深夜、ケイタイが鳴った。相手は非通知。
 俺は友達も彼女もいないし、仕事の付き合いも悪い。だから俺のケイタイが鳴るのは実家からの小言か間違い電話か何かの勧誘だけだ。メールも同じようなもので。
 普通の人だったら非通知の相手はとらないかもしれない。でも、俺はそこに何かがあると思った。もしかしたら何か特別な出会いがあるかもしれない。そんな、一縷の希望みたいなものを一瞬で思い浮かべて通話ボタンを押す。
『……もしもし…』
 相手の声は、遠くくぐもっていてよく聞こえない。もしもし、と返してみた。
『もしもし…わたし…。もうすぐ…死ぬから…最後に話したいと思って…』
「はあ? 何言ってんだ! あんた誰だ?」
『だんだん…耳が遠くなってきたよ…ほら、血がいっぱい出てる…』
 こいつはサイコさんかと思った。それならば話している意味もない。さっさと切ってしまえばいいものを、なぜか俺は真剣に会話を続けた。
「あんた、今どこにいるんだ? 死にそうなのか? 救急車呼んでやるから場所を教えてくれ」
『あはは…目も…もう…あんまり…見えないよ……。外はきらきらしてるよ…きれー』
 時計を見た。深夜零時を回っている。この時間、街の方ならまだ明るいだろう。もっと詳しい状況が必要だ。
「それで? 何か建物は見えるか? というかそこの住所は? 教えてくれっ」
『……あなたの…』
「え?」
『あなたのこと、見てたよ…』
 彼女の声は、ともすれば恐怖のストーカー宣言になったかもしれない。しかし俺は冷静だった。俺の部屋には窓がひとつ。ベランダだけだ。ベランダに急いで出てみると、中野の街が見えた。この視界の中に電話の主がいるというのか?
『…わたしが…捨てた犬……えさをあげてくれたの…あなただけだったから…』
 思い出した。二ヶ月ほど前の会社帰り、道路に段ボール箱があった。その中には新聞紙が敷かれ、小さい仔犬が入っていたのだ。素通りした俺はコンビニまで行ったついでにペットフードを買ってそこへ戻り、えさをあげた。不憫に思い、物影からその犬が誰かに拾われるまで見ていたのだ。まさか、あのとき俺以外にあの犬を見ていた人がいたというのか?
「きみは、あの犬を捨てたのか?」
『……×××…』
 何か言っているが小さすぎてよく分からない。しかし、今の話が本当だとすればあれは中野駅からさほど遠くない場所だったはず。そこまでダンボールをかかえた女が歩いていけるとすれば、確かに女の場所はここからそう遠くない。まだ間に合う。
 俺は不覚にも目頭が熱くなってくるのを感じた。あのとき、仔犬は中学生くらいの女の子に抱き上げられて連れて行かれたのだ。あの後、犬は幸せになってくれただろうか。あのとき本当は、俺が連れて行きたかったのに。この安アパートでは犬は飼えない。そのことを後悔していたというのに。
「きみの居場所を教えてくれ! いますぐ、そっちに行く!」
『やっぱり…あなたは…やさしいね……でも、もう……×××…』
 だんだん声が遠くなっていく。
「待て! しっかりしろ! しっかりするんだ! 住所を言え! 早くっ」
 何かにすがりたいと思った彼女は、きっと俺に電話をよこしたのだろう。しかし、それはもしかすると俺も同じだったのかもしれない。慌てて部屋を出たが、外はしんと静まり返っているだけだった。
『ありがとう…ござ…』
 電話は通じたままだったが、そこで彼女の声は途切れた。
 それから後のことは、正直覚えていない。この都会で一人暮らしをしている若い女など、数えればきりがない。探しようがないのだ。
 朝までうろうろしていた俺は、気が付くとあの犬が捨てられていた電柱の下に来ていた。ここにずっと立っていたのかもしれないし、今さっき彷徨い着いたのかもしれなかった。
 もう静まり返ったケイタイを耳にあて、何も聞こえないのを確認してから、通話を切った。
 時計を見ると午前6時半。なんと徹夜してしまった。この歳になって徹夜すると、今日の昼ぐらいがきついのは分かっているが…

 とぼとぼ歩いて帰ろうとしていたとき、前から中学生くらいの少女が小さい犬を連れて散歩にやってきた。犬は俺の足元を少し嗅いだ後、そのままてけてけと歩いていった。
 水色に染まった空を見上げる。そろそろ初夏の匂いがした。
 俺は、部屋まで全力で走ることにした。あの電話の主から、何か大事なものをバトンタッチされたような気がして。

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