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2001/08/02 (Thu) 幸福屋

 駅の裏の人目につかないところに、新しく小さなお店が出来ていた。こちら側はラブホテルが乱立し、近くの公園には常に不良がたむろしているという危険地帯だったので、一般人は近寄らなかった。そのお店は占い館みたいに暗くて、看板も紺色に黒の字で何が書いてあるかは近寄らないと見えなくて、酔っぱらった僕が終電を逃してフラフラしていたときに、たまたま気付いたのだった。
 その看板にはこう書かれていた。「幸福屋」。
 深夜だというのに営業しているらしく、その暗い店内に入ってみる。客は一人もいなくて、店には何も置いてなかった。ただカウンターがあり、占いババみたいなローブを着た人が(水晶はなかったみたいだけど)座っていただけだった。
「いらっしゃい…」
声は意外にも若い女性のようだった。
「あの、このお店は何を売ってるんですか?」
女性は間髪入れず答えた。「幸福です」
「幸福?」
 いぶかしがる僕に、女性は(フードのせいで顔は見えなかったけど)聞くより試した方がいいと言い、僕に500円を払わせた。その程度なら、ということで僕は500円玉をカウンターに置く。
「今から24時間以内に、あなたに500円分の幸福が訪れます…」
 よくわからないままに店を出た僕は、とりあえず駅の表側(メイン通り)に出て、これからどうしようかと考えた。まあ、終電を逃した僕はいつも漫画喫茶で時間を潰すのだけれど。
 そして僕は漫画喫茶で熟睡して、会社に遅刻してしまった。しかし何故か上司も遅刻しているということで、お咎めはなかった。しかもタイムカード機が壊れていて、出社時間が記録できなかった。
 後で考えると、それが500円分の幸福だったのだろうか。それから数日、同僚と昼食(牛丼)を食べていると、同僚が言った。
「あのさあ、幸福屋って知ってるか?あの駅の裏にある変な店さぁ、金出した分だけ幸せになれるって意外と評判なんだぜ」
「へえー」
「そういう俺も、最初は怪しんでたんだけどよ、この前なんて1万払っちゃってさ。何が起こったと思う?」
「んー。宝くじにでも当たったか?」
「ちげえよ。ま、宝くじも買ったけど。そんときは3000円分の幸せだったんだけど、当たったのは1200円だった。俺にとって3000円の価値の幸せは1200円分しかねえんだ。けど、1万払ったら、この前電車の中で女子高生に手紙渡されてさ。メアドと番号書いてあんの」
「まじで!?」
「すげーよ。あの店は。お前も1回行ってみ」
 店の女性は言った。お金の価値と幸せの値段はイコールではないと。僕は思い切って3万円を支払った。
 次の日の夕方、警察から電話があった。盗難にあっていた僕の原付が見つかったと。取りに行くと、何故か新品同様にピカピカになっていた。
 金さえ払えば幸せが途切れることはない。給料日ごとに店に通い、だんだんと僕の求める幸せは高価になっていく。そして僕はサラ金に手を出し、50万を手に店へ行った。
「これで幸せを売ってください!」
女性は初めてフードを取った。めちゃめちゃ美人だった。そして、美人は小さく言った。
「本当の幸福はプライスレス。それはあなたも知っているはずです…」
「しかし!形ある幸せはこうしてあなたから買うことが出来る!さあ、僕は客ですよ!売って下さい!僕に幸せを!」
「価値観は人それぞれです。1万円で女性を抱ける人もいれば、ビルの谷間から夜空を見上げるだけの人もいる。テストに受かったり、懸賞に当たったり、その全てが本来はプライスレスなはずです。それが…」
「違う!僕がほしいのはっ」
「あなたが本当に欲しいものとは、何ですか?」
 その言葉に僕は息を呑んだ。そうだ。僕は何のために幸せを手にしたいと考えるんだろう。もしかして、それって必要なくないか?いや、それ以前に、僕は…。
 僕は既に幸せを持ってるんじゃないのか?
 美人は再びフードを被っていた。僕はペコリと頭を下げ、店を出ようとした。
「ありがとうございました。幸せについて、少し分かった気がします!」
「あの、ちょっと」
「はい?」
「今のあなたの心。澄んでいますね?」
「はい!ありがとうございました」
「幸せについて、他人に影響されずに考えることが出来ますね?」
「はい!あなたのお陰です」
 そして美人は言い放った。
「それがあなたの50万円分の幸せです」

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