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2004/08/10 (Tue) Life is ...

 お盆を前にして、死にたいなんて言ってたら死んだ人に失礼かもしれない、などと考えながらもやっぱり彼は言った。死にたいと。理屈では分かっていた。死にたいなんて言っちゃダメなのだ。それは人を殺してはいけない、という理屈とほとんど同じで、説明はできないけどとにかくダメなのことなのだ。社会的・倫理的・経済的に説明はつくけれど納得はできないだろう。
「メンヘル者が云う『死にたい』って、死にたくないよ助けてくれよ誰か俺を認めてくれよ、の意味なんだってさ。笑っちゃうよな」
 そう言って彼は笑った。人と話すことはできるし、笑うこともできる。仕事はできないけれど、世間に対してごく普通に接することはできているように見えた。少なくとも、私には。
「本当は俺だって死にたいわけじゃないよ。たぶんね。全てを諦められるわけでもない。でもね、もう世間のことに興味がないんだよ。食欲もないし性欲もねえんだ。そのくせアホみたいに眠りつづけることだけはできてる。最低だよな。笑うしかない状況だよ。死にたいって言ってるんなら死んだつもりで生きることを頑張ってみろよとか云う奴がいるけど、それも違うと思うんだ。それができないから死にたいんだ。理由なんてないよ。なんだか最近、俺の中でちょっとずつ俺の構成要素が崩れていく感じがするんだ。アホで暗いことしか考えられなくなってる。風邪薬を混ぜて飲んだら死ねるかなとかさ。結局2,3日寝て過ごすだけなんだけどね」
 どう答えていいかわからなかった。たぶん彼には、私が云っても届かないのだ。私にはきみが必要なんだよ、そう言ってもわかってもらえないだろう。「あそう」くらいで終わるかもしれない。
 私にはどうすることもできない。かといって他の人に彼をどうにかできるわけではない。たぶん彼は、現状を生きる若者たちの代表みたいなものだろうと漠然と思う。死ぬことは安易に考えられるし、鬱にもはまっちゃう。けれど死のうとしても死に切れない。生活はできても仕事ができない。どうしてか。答えは単純だった。泣いている私に彼は言った。さも面倒くさそうに。
「今はさ、死ぬことには理由はないけど生きることに理由をもたなくちゃやってけない時代なんだよ。昔とは正反対なんだ」
 好きなことをやって、できることをして、生きるための仕事につく。仕事はつまり好きなことやしたいことの延長じゃなきゃ意味がない。好きな人といても、明日食っていくお金がなければ意味がないのと同じように。
「だって、俺が死んでも何も変わらないだろう? 世界は」
 そうかもしれない。けど、私には変わるんだよ。変わり過ぎるの。
「それはお前が決めることだよ。俺はたとえお前が死んだとしても、死ぬって言ったとしても何もしてやれない。その行動を俺のせいだって思ってまた鬱にはまるだけさ」
 彼がいなくても歴史は変わらない。けど、彼がいれば歴史は変わりうる。それを伝えても、無駄だった。と、思う。
「生きるための目標がないんだ。だから死んでるのと同じ。死にたいって言ってるのは、こんな無為な毎日から抜け出したいからだよ。ああ、子供のときは楽だった。生きてようが死んでようが明日は来たんだからな」
 彼の言っていることは正直よくわからなかったけれど、たぶん、すべてのことに「意味」を必要としていた、というところなんだろう。意味がなければ生きることは無為だ、と。
 私は彼がいてくれるだけで意味があると思えるのに。寝ているだけでも、食べてるだけでも、鬱々として泣いているだけでも、私は今日と明日くらいはせめて生きてやろうって思えるのに。
「俺は何も持ってないから。なあ、俺に構うのをやめろよ。そうしたら楽になる。おまえも泣かなくて済むんだ」
 たぶん、私が彼の前から消えれば彼はまた死を選ぶだろう。けれどたぶん死に切れない。だとしたら、じゃあどうすればいいのかな。
「ひとつだけ、思うことがあるんだ。それは俺や俺と同じような境遇の人全部を救える唯一の方法かもしれない。けど、ひどくリスキーなんだ」
 味が分からないと言っていた辛いコーヒーを何の抵抗もなく飲み、彼は続けた。
「高齢化社会では、50代以上の全人口が持つ貯蓄額がそれ以下の年齢の全ての人の貯蓄額の数倍あるという。だから老人が俺たちに投資をして、俺たちが意味を持てるようなシステムを作りたいと思ってる。あと一歩なのに、その完成形が浮かばないんだ」
 突然彼が口にしたのは、高齢化社会と若者が抱える問題を一発で解決する方法だった。私には想像もつかない。
「真の循環型社会をつくるための最後のポイント。それをさえつかめれば、俺は死なないですむのかもしれない。…おまえも傷つけずに」
 だけど私は知っていた。彼が壮大なプロジェクトを考えている間にも、明日は近づいてくるのだ。貯金が尽きれば彼は家も食も失う。それは近い。世界を変えることができる彼の案には、時間と資本が圧倒的に足りなさ過ぎるのだ。だから私は思う。彼がたとえそれを完成させたとしても、彼は死んでしまうのだろうと。
「誰に勝つために、人は、戦うんだろうな」
 ぽつりと彼が漏らした。人は誰に負けるのが怖いのだろう。別に他人に負けても自分は消えないことを知っているはずなのに。死にたくない、という言葉の裏返しなのだろうか。

 私は思う。自分が馬鹿でよかったと。彼と同じレベルでもしも私が話せたら、たぶん私も生きることに絶望してしまっていたことだろう。


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