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2004/08/15 (Sun) 花

「花なんて育てたってさ、すぐにダメになるじゃん」
 僕はそう言い続けて来たけれど、本当は認めたかった。けれどわからなかったのだ。毎日世話をして種から育てていったとしても、花がついてほんの数週間後には萎れて枯れて腐ってしまう。美しいのは一時期だけで、臭いも見た目もすぐに褪せてしまう。それでも彼女は花を育て続けた。僕に見せつけるでもなく、教えるでもなく、黙々と水と栄養をあげていた。
「いいの。わたしは花が好きだから」
 好きなら花屋で買ってきて眺めればいいじゃないか。何度もそう言った。けれど、彼女が買ってくるのはいつも種か球根だった。そこからじっくり育てるのが好きなのだろうか。

 何度か季節が過ぎ、彼女の部屋のベランダにあった花の種類も変わった。ヒマワリもだんだん力を失ってきているように見えた。次は何の花を育てる気だろう。どうせ枯れるのだ、育てるなら食べられる実をつけるものや野菜にすればいい。その方がありがたみがあるというものだ。
「ねえ、時代と国境と人種と宗教を越えて愛されるものって何だと思う?」
 彼女はふいに僕に問いかけた。僕はアイスコーヒーを飲んでいるところだった。そういやコーヒーも植物なんだっけな、と思った。そんなことは関係なかった。
「…音楽か絵画か物語」
 僕は答える。彼女は優しく笑って、違うよと返した。
「じゃあ何だって云うんだい?」
「お花だよ」
 照れながら彼女は言った。花? 何を馬鹿な。
「音楽も絵画も物語も数学も物理も動物も、人の心が介入する余地があるものは全て戦争の理由になってきたんだよ。でもね、お花だけは違うの。平和の象徴、ていうか平和そのものかもしんない。鳩なんか目じゃないよ」
「…そうかなあ」
 いまいち、譜に落ちない。しかし鳩は最近じゃ汚れた町の象徴みたいになっちゃってるし。眉間に皺を寄せている僕の鼻をちょんと突付いた彼女は「水と空気と光があれば育つし」と言ってベランダへ出た。手にはまた種の袋が。今度は何の種だろう?
「次は何を育てるんだい?」
 心なしか、外が暑くない。クーラーはかかっているけれど、暑さのピークが過ぎたのだろうということがわかった。季節がまた、変わろうとしている。僕の問いに、彼女はえへへへと笑って誤魔化した。花が咲いてのお楽しみ、というわけだ。
 花が世界を変えるとしたら、と僕は考える。
 …長い長い戦いになる。たぶん、花はずっと変わらない。人が変わっていく必要があるのだ。全ての人を優しさと穏やかさに包むための戦い。けれど、人間同士の争いなんかよりずっとずっと単純で早いに違いない。
「この種、少し俺も貰っていいかな」
 彼女は何も言わずに微笑んで、植木鉢と土と栄養剤を少し分けてくれた。

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