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2004/08/19 (Thu) スロウライフ

 僕がまだ夢を夢見る二十歳そこそこの若者だったとき、暇さえあれば旅に出ていた愛車のバイクが、僕の生きる意味だった。ように今は思う。
 これは現実逃避だと知りながら、かつて通った古い道をもう一度歩いてみた。その場所に来るのは何年ぶりだろう。思い出そうとすると古い恋も記憶に付き添ってくるので、あまり深くは考えないようにした。寝床代わりに使ったお寺や、食料を買いに行った駄菓子屋。飲み水を貰いに行ったお花屋さん。あの頃はエンジン音を響かせて走ったこの人通りの少ない道を、今は自分の足でゆっくりと歩きながら進んだ。1個20円のふがしを5個買っただけで食事を済ませた駄菓子屋のおばあさん。数年ぶりの僕を見て、兄ちゃんふがしいらんかえ、と声をかけてくれた。あのときはガソリン代にほとんどをあてていたけれど、今は電車代だ。少し奮発してラムネを買う。兄ちゃん暇だったらちょっと話してかんかえ。おばあさんはちょっと抜けた前歯を見せて笑った。いいですね、と僕も座り込む。客なんか来ない駄菓子屋。子供もいないこの町では、誰が来るのを待っているのだろう。
 何を話したかは、よく覚えていない。聞いていたようで、実際は僕が一方的に愚痴をこぼしていたのかもしれない。こんな田舎で暮らせたらいいな。そう言った気がする。子供がいなくても、結婚相手がいなくても、若い女の子がいなくても、犬と笑顔を絶やさない老人たちだけの町でも、それでもいいような気がした。明日からこの店をまかせた、とでも言ってくれれば、あるいはすぐに決心がついたかもしれない。
 生きるとか死ぬとか下らないことを考えすぎてあくせくしすぎていたな。ラムネを飲んで大きく息を吐く。愚痴も弱音も一気に吐いてやろう。一個10円とか20円のお菓子を売って生計を立てられるかというと、たぶん無理なのだ。このお婆さんはどうやって毎日を暮らしているのだろう。不思議に思った。もしかしてこの町自体が記憶の一部なのかもしれなくて、本当は廃墟を僕は一人で歩いているのかもしれなかった。
 ただ、暑かった。誰に会ったかも忘れた。無人駅で、誰にともなく頭を下げてから電車に乗り込む。電車の中にも人はいない。トトロでも出たかもしれない町が、まだこの国にあった…それが僕の心を、少し強くしてくれた気がする。というかそれは、諦めにも似ている気持ちだった。
 ダメならダメでいいや。何でもない僕でも、僕のままで行こう。東京で疲れたら、こんな小さい町で小さい駄菓子屋でもやればいい。氷を切ったり、紙芝居をしたり、麦藁帽子を編んだり。そういう人生を、ともすれば誰かの記憶にしかならないような、自分らしさなどどこにもないような人生を歩んだとしても、何かの意味はあると思えるようになった。何かをつなげる緩衝材のような生き方。緩くて自由で眠い生き方。そんなのが合っていると思う。ただ、スケッチブックに絵を描くだけなら東京じゃなくてもできる。どうでもいいや、っていう生き方。
 久しぶりに、誰にともなくても、お休みって言って眠れる気がした。いい夢が待っているような、暑くて寝苦しい夜に揺れる風鈴のような気休めにしかならない清涼みたいな気が。

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