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2004/08/24 (Tue) 覆面ライター

「それじゃあこれ、食事代っちゅうことで」
 とある高級料亭の一室。脂ぎった顔の初老の男は、懐から無造作に取り出した札束をテーブルに置き、指先ではじくように前に座る若者へ差し出した。若者はその金に動揺するでもなく、小さく頭を下げると見事な速さで札束を鞄にしまう。
「…来期はお願いします。オーナー」
「いやいや。ええんや。それより、わかっとるな?」
「はい。大丈夫です。テレビの会見にはちゃんとオーナーの云うとおりの言動を約束しますよ」
「そうか。それならええ。ささ、食べ食べ」
 テーブルいっぱいに並べられた料理。オーナーと呼ばれた男は鳥がつつくように少しずつ料理を食べると、「これが贅沢や」と言って笑った。若者は黙々と食べている。

「…待てい!」
 突如、静かな部屋に野太い男の声が響いた。すらり、とふすまが開けられて黒服たちが入ってくる。オーナーは彼らに合図し、警戒を強めるように促した。
「誰や!」オーナーは正面を向いたまま声を張り上げた。「大人しく出てこんかい!」
 ぐらぐら。がたん。
 天井が少し揺れたかと思うと、30センチほど一部がずれた。そこからするりと一人の男が降りてくる。黒服たちと同じような黒い背広に黒ネクタイ。少しのびた髪も真っ黒だ。目元だけを赤いバンダナで隠し、小さく開いた穴から目が覗いている。男は滑らかな動きで黒服たちに近づく。胸ポケットから銃を取り出させる暇も与えず、バンバンズバンと拳ひとつで全員をなぎ倒していった。
「…おまえ、何者や?」
 若者は鞄を抱えて部屋から出て行こうとしているのに対し、オーナーは微動だにしていない。まったく危機感を感じていない声で男に尋ねた。
「…お前たちのような悪を断罪する者」
 男もまた、落ち着いた表情と声で言った。
「ほうか…どこの新聞のモンや。雑誌か? ええか。いい加減なこと書いたら、明日にでもお前は魚の餌やぞ」
「貴様の罪、許されるものではない」
「…こしゃくな。小僧が…。わしを誰やと思っとるんや。泣く子も黙る狂人軍のオーナーやぞ」
「違うな」
「何やと?」
「今の貴様は、志(こころざし)を持つオーナーの一人ではない。ただの職権濫用…職権濫用(ショッカー)の一戦闘員に過ぎん! 俺は貴様らのような悪を、この手に持つペン1つでなぎ払う者…!」
「ほうか。貴様が業界で有名になっとるヤンチャもん、『覆面ライター』か?」
「自己紹介はいらんようだな。オーナーワダベン、覚悟しろ!」
 男がポーズを取ろうとした瞬間、背後から黒服が手足をがしと掴んだ。「…覚悟するのはお前の方やぞ。覆面ライター」
 にやりと笑ったオーナーはゆっくりと立ち上がり、じりじりと近づいた。男は両手足に力を入れるが、おそらくは力士上がりであろう巨体の黒服の力にはかなわない。
「…覆面、取らせてもらうぞ」
 オーナーの手がバンダナに近づく。
「最近、うちの新聞でも活躍しとるそうやないか。覆面とノーギャラで完成原稿を持ち込みに来る男がおるってなァ! その正体はどこの誰やろな?」
 ぎりぎりになってオーナーの手が止まる。
「どうや。わしの直下で働かんか。お前の云う職権濫用者、わしはよーくしっとるからなァ。新聞にも企業にも、スポーツにも政治屋にもぎょうさんおるで」
「…その全てが俺の敵だ。貴様のもとでなど誰が働くか!」
「くくく。ノーギャラじゃあ仕事もつまらんやろう? わし直属のライターになれば年に…ほうやなあ、億は稼げるで。お前の器量ならな」
「うるさい!」
 ライターは両腕を背後で掴まれた状態で思い切り前かがみになり、手を確保していた黒服ごとなぎ倒した。「その腐った性根、叩き直してくれる!」
 右手をぴんと伸ばし、左肩より少し上に突き出す。それをゆっくり回転させ、「へんしん!」の掛け声とともに左手に持っていた携帯電話の発信ボタンを押した。
「な、なんやそれは…?」
 思い切りジャンプしたライターはそのままとび蹴りをオーナーに食らわせ、また天井裏から逃げていった。へんしんとは「返信」であり、その瞬間オーナーの悪行、若手スポーツ選手青田刈りの賄賂シーンがメール送信されてしまったのだ!

 次の朝刊で、一面を飾ったのはワダベンオーナーの辞任表明だった。あるまじき行為を追及される前に自ら辞表を提出した、との報であった。その直前、マスコミ各社にこのスクープがメール送信されていたことは云うまでもない。

 その日の昼、少し髪の伸びた若者はバイク便で新聞社に写真原稿を届けに走っていた。彼の目は熱い光で漲っている。まだ、人は彼の本当の姿を知らない。暴力を一切使わず、人を傷つけることなく社会悪を断罪する記事を無償提供し続ける「21世紀最初のヒーロー」、覆面ライターのことを。

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