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2004/09/06 (Mon) ヒトリズモウ

 気付くとそこは、ほとんど真っ暗で冷たく広い、南極みたいなところだった。いや、というよりはマイナス30度を体験するお化け屋敷アトラクションみたいな、そんな感じだった。しかし違和感がひとつ。
 道がない。
 そこは果てしなくだだっ広い場所で、360度の視界がばっちり見えているのにひたすら真っ暗でしかない、という極寒の地だった。どうやらその闇は、今が夜だからという時間に依存しないものらしいことを直感した。ここは、たぶんいつまでも暗くて冷たい場所なのだ。
「ここは、どこだ?」
 声を出してみた。辺りにしん、と染みて声は消えた。響くことすらなかった。

 寒いけれど、そこはなぜか僕にとっては居心地のよい場所だった。ひたすら歩いても疲れず、真っ暗でも怖くなく、寒くても涼しい程度のものに感じていた。おそらくこれは夢なのだ。そう思うことで不安を拭い去ることができそうな気がしていた。しょうがないので歩いてみる。進むうち、小さく光るものが落ちているのを見つけた。手に取ろうと思って触ると、それはビュミョンと変な音を出して消え去った。特に僕はそのことについて感想を抱かなかった。
 ――ああ、たぶんここは僕の心ん中だ。
 いつしか、直感した。夢の中かもしれないけれど、僕は自分の心の中に落ちてしまって、閉じ込められているのだ。だからここは心地よいし、僕の過去の痛みを少しずつ癒してくれているのだ。昔の恋も、今の職場も。

 この場所から出たいか、と自問した。
 否定できなかった。
 そうして立ち尽くすうちに、その場所に沢山の人が走ってきた。正確には僕のところに。

「ずっとここに居ようや」「ダメだ。出なきゃ」「出てどうする」「やることが残ってんだ。たくさん」「そんなの知るか」「やらなきゃ」「何を」「やるべきことを」「お前がやることなんて誰にだってできるさ。気にすんな。ここに居ろ」「ここに居てどうすんだ」「歌ったり踊ったり好きにすりゃいいさ」「誰もいないのに?」「俺はたくさんいるぞ」「僕が沢山いてもどうしようもない」「どうして。誰もお前を傷つけない」「だからってここにいちゃダメなんだって」「なんで」「なんででも」「知るか」「いい加減にしろ」「拳振り上げちゃって何する気だい」「壊すんだ。ここを」「ここを?」「そうさ」「ここはお前そのもの。壊れないし折れないよ」「出る」「だから何で! 外に出ても誰もいないのに!」
「…え?」
「お前を救ってくれる人も大事にしてくれる人も、大事にすべき人も好きな人も、優しい人も親しい人もいないんだぞ」「わかってる、けど、でも」「でも?」「でも。出なきゃダメだ」「どうして」「ここに居ちゃそれこそダメになるよ」「いいじゃねえか。ここでは全てが思い通りになる」「思い通り」「そうさ。空も飛べるし、世界を照らすこともできる。悪役を登場させてぶっ殺すこともできるよ」「思い通りになる世界なんてないよ」「…ん?」「ならないんだ。世界は」「そりゃそうだな」「人はこの場所以上に冷たいよ」「そりゃそうだ」「どうしていつも自分だけ、って思うんだ」「そうだね」「でも、そんなものかもしれない」「そんなもの?」「人は幸せにはなれないし、誰かを助けることもできない」「そうだね」
「ところでここから出たらどんな場所に行くと思う?」「知らない」「いつもの部屋だよ。お前は今、恋人と喧嘩してぶち切れて叫び出したんだ」「みっともないなあ」「それで?」「それでもこれでもないよ。だからこれは全部俺の独り言さ」「そうだね」「ところでここから出るにはどうすりゃいいの?」「土俵を探すんだ」「土俵?」「そう。この世界と外の世界の境界線になる一本の綱さ」「土俵か」「それを飛び越えるんだ。でも、今まで誰もそれを見つけたやつはいない。世界の果てなんてないから、たぶん境界線もどこにもないんだ。ひたすらこの世界は続く」「…見つけるよ」「無理だね」「あ?」「だってお前ヘナチョコだし」「知るか」「俺でも無理なんだよ」「おまえは僕だろう?」「違いねえ。だから無理なのさ」
「なあ」
「あん?」「どうした?」「いきなり上向いて」「何か見つけたか」
「いや…ちょっとさ」
 夏が終わる瞬間が近づくな、って思ったんだ。一人、心の中で呟いた。
 そこは見慣れた玄関で、脱ぎっぱなしのぶかぶかの革靴に片足を突っ込んだ僕がドアノブを掴んで突っ立っているところだった。
「…戻れたのか? でもどうやって」
 思わず、自分の手の感触を確かめた。ノブをガチャガチャやって、顔をぺしぺし叩いて、はっとして振り返った。
 泣きそうな顔で怒っている女の子が一人。ああ、この子は僕の――…

 壁は白く、ガス台は薄汚れていて、洗面所は水色。赤いタオルがかかっていてその隣にヘアワックスがいくつも積んである棚があって、トースターからは焦げたパンの匂いが漂い、レンジはぶいんと言いながら回っていて、隣の部屋のラジカセはいつものラジオを聞かせてくれて、何年も使っている机には銀色と黒のパソコン。そして、僕の目の前には僕が買ってあげた緑色のシャツを着た女の子。
 色がいっぱいありすぎて目がくらむ。頭が痛くなりそうだった。
 暑い暑い日々は、まだ続きそうだった。

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