--/--/-- (--) スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

スポンサー広告 |


2004/09/12 (Sun) ある少女の恋の一幕

「だめなの。私を見ないで」
「…見たいんだ。一目だけでも」

 その日、僕はついに約束を取り付けたメルトモの子に会うことができた。メールを始めてから約1年半。ほとんど毎日、下らない事から深刻な悩みまで、僕の持つあらゆる要素を語ってきた。電話もしてきたし、写真も交換してある。信じられないほど可愛いその子の名前はメグ。ようやく会えたというのに、メグはサングラスに帽子を深々とかぶっていて、その可愛い顔を隠していた。そのまましばらくは会話をしたり食事をしたりしたけれど、公園で一休みして話していると、やはり僕はメグの顔を見たくなってどうしようもなくなってきた。
「どうして見せてくれないの? 写真も見せてくれたのに。それとも僕が好みじゃなかったかい?」
「そうじゃないの。その…私ね、話が長くなるから最初から云うけど、まず私の本当の名前はメグじゃないの」
「そうか…。まあいいよ。メルトモだったし、ハンドルネームもありだよ」
「本当の名前はメデュって云うの。日本人の血筋じゃないの…」
「そんなこと関係ないよ。宗教が違ってても全然オッケーさ」
「そうじゃないの。私、親の名前を受け継いでるの。だからメデュ13世って云うの」
「メデュ・サーティーンか。そんなこと構わないよ」
 少し迷っていた様子のメグは、恐る恐る帽子を脱いだ。長くて艶やかな髪が僕の心臓をキュッと締め付けた。
 それから五分ほど、メグは照れながら、どうしていいか分からない様子でちょっと挙動不審だった。
「…眼鏡も、外すの?」
「できたら外して欲しい」
 もしかしたらメグとはもう会えないかもしれない。メルトモなんて、どれほどの期間続いていたとしても次の日「アドレス消します。連絡しないで。ばいばい」という一言のメールを送れば縁が切れる存在なのだ。そして代わりはいっぱいいる。僕は焦っていた。ダメでもいい、本当のメグを見たい…
「どうして見せてくれないんだ? なあメグ、そんなに僕が嫌いか?」
「…そんなことない! 私、あなたが好きよ。メールしてるときからそう思ってるの。でも、ダメなの。私を見ちゃダメなの」
「どうして!」
「私の本当の名前は、メデューサ。メデューサ13世っていうの。神話に出てきた怪物の血を受け継いでいるの。私のお父さんは生涯お母さんの顔を見なかったわ。お母さんもずっとサングラスとマスクをつけてた。私もお母さんの顔は見たことがないわ」
「そんなこと」
「そんなことがあるの! 聞いて。お父さんはある日、お母さんに懇願して顔を見せてもらったの。その次の瞬間、お父さんは石になった。だけど石のままじゃ魂が供養されないからって理由で、その石は砕かなきゃダメなの。だから私とお母さんは泣きながらお父さんの形をした石を砕いたわ。お父さんの欠片は今も持ってる。ほら、このネックレスのヘッドの石がお父さん」
「…そんな馬鹿な…」
「証拠、見せてあげようか?」
 そう云うとメグは後ろを向いて、そこらへんに居た野良猫を見た。野良猫と目が合った瞬間、猫はその形のまま石になった。メグはサングラスをかけ直して猫の石を砕いた。鞄の中にハンマーが入っていたことに驚いたが、その驚きは大したことなかった。
「…だからわかったでしょ。誰も私の顔を見ちゃダメなの。私の…ううん、メデューサの血を引く家系の女性は、みんな生理が始まった頃からこの能力を持っちゃうの。見た人を石に変えてしまう呪われた能力…。だからみんな顔を隠して生きていくしかないの。そうじゃなかったら、この顔を完全に火傷させて元の形が分からないようにするしかない」
「メグ」
「…ごめんなさい。でも、今日会いたいって思ったのは、このことを知って欲しかったからなの」
「……」
「助けて欲しかったの…」

 タスケテクダサイ。空に叫びたかった。けど、そんなことをしても何にもならないことは知っていた。しばらく静寂が僕らを包み、陽がくれた。公園は少し寒くなってきた。僕は上着を脱いで、うつむきながら腕をさすっているメグの肩にかけてあげた。
「ねえ、ひとつ決断して」
「何だい?」
 メグはすっくと立ち上がり、僕に背を向けてサングラスを外した。細い背中が愛しくてたまらなかった。思いは通じていたのだ。僕らの時間は無駄じゃなかった。けれど、僕は彼女を見た瞬間に死んでしまう。彼女はそして僕を殺したことで自責の念にかられるだろう。
「ねえ、私のことを好きだって言ってくれたじゃない?」
 以前、僕はメールで確かにそう言った。
「言ったよ」
「それがホントに本当なら、私の前に立って私を見て」
「僕に死ねって言ってるのか?」
「違う。できますかって訊いてるの。責めてるんじゃないよ。悪いのは私だから。ねえ、できないならこのまま立ち去って。そしてもう二度と連絡しないで」

 たっぷり、15分。僕らは無言で立ち尽くしていた。僕は少し震えるメグの背中に視線をやりながら、決断できずにいた。
「…もう、いいよ。わかった」
 僕が戸惑っていると、メグはサングラスをかけなおして鞄をひょいと取った。
「ごめんなさい。やっぱ、私なんて、ダメだよね」
 それだけ云うとすたすたと歩いていってしまう。その時、僕は思った。この恋が終わったと。
 だけど。
 僕が好きになったのは、メグの顔では決してないはずだった。
 メールの内容が、文章のリズムが、声色が、笑い声が、いや、メール着信だけでも。僕はメグからの着信をいつも待っている。待ちきれなくなるとこちらからかけるのだ。何故だ? そんなの簡単だ。僕が好きなのはメグの心であり、メグという人そのものなのだ。
 ダッシュで公園の入り口まで追いかけ、メグの前に立つ。肩をがしと掴んだ僕は、メグに真剣な視線を向けた。濃い色のサングラスは向こう側の瞳を透かすことはなく、マジ顔の僕だけを写していた。

「だめなの。私を見ないで」
「…見たいんだ。一目だけでも」
「見ないで…」
 震える肩を僕はしっかりと掴んで、言った。「死んでもいい。きみと一緒にいたい。きみのことが好きだ。一生グラサンでいいよ。ただ、写真ならきみの顔を見れるだろう? 昔とはきっと時代が違うんだよ。写真なら僕はきみを見られるんだ」
「そんなこと言ったって」
「じゃあ証拠を見せるよ。最期にきみを見られるんなら本望さ。さ、グラサンを外してくれ」
「…本当なの?」
「本当さ。じゃあ、そうだな…。きみも本気なら、石になった僕を砕いた後で鏡を見て自身を石にするんだ。そして、向こうの世界で一緒になろう」

 また、静寂。沈黙。時が流れる音さえ聞こえてきそうなほど、しんとした公園。数分後には1つの美しい石像がここに立っているのかもしれないし、砕けた僕の石だけが転がっているのかもしれない。

 目を閉じていた僕は、メグがサングラスを外す音を聞いて、覚悟を決めた。
「目を開けるよ」
「…うん」

 カッ、と僕が目を見開いた瞬間、飛び込んできたのは、メグの顔…の、アップだった。あまりにもそれがアップすぎたせいで僕はそれを顔だと認識できず、ただの闇だと思った。しかしその瞬間は、僕の唇が温かく柔らかいもう1つの唇に触れていたことを知った瞬間でもあった。
 僕はまた目を閉じる。
 少しの間、と云っても5秒ほどだが、キスをしていた。それがひどく長い幸せな時間に思えてしょうがなかった。
 キスの後の大きく吐いた息を吐ききる前に、僕は目を開けた。

 そして、写真で見た最高の美少女を僕の網膜は焼き付けた。

「ありが」
 僕の意識はそこで止まった。ありがとう、さえ云うことができないまま僕は石になったのだ。
 メグは美しい瞳から涙をこぼした。こぼしながら、鞄からハンマーを取り出す。石となった僕は砕かれてしまった。


 僕の意識は、それでもまだ続いていた。
 メグの両親や先祖は、皆どうやって生活していたのだろう。少し考えたが、方法は3つだった。1つは一生サングラスをかけ続けること。2つ目は顔に大火傷を負うこと。3つ目は僕の目を見えなくしてしまうことだ。
 それを、メグの前に次に現れる人に教えてあげなくちゃいけないような気がした。ねえメグ、知ってるかい? 石にもさ、心がまだあるんだよ。今の僕は石や木や花の心が聞こえるんだ。世間はさ、きみが思ってるほどきみを嫌っちゃいないよ。

 メグは僕の瞳の部分を手に取ると、粉々になったほかの部位には目もくれずに帰路についた。きっと僕もメグのネックレスかブレスレットの一部になるんだろう。

 帰った彼女は、鏡を見ながら泣いていた。彼女には自身の呪いは通じないのだ。
「最期に、素敵な恋ができてよかったよ」
 涙が足首のあたりまで溜まった部屋で、メグはいつまでも泣き続けた。涙のプールに携帯電話を投げ捨てて。

スポンサーサイト

読みきり | trackback(0) | comment(0) |


<<あいこちゃん | TOP | もりのくまさん>>

comment











管理人のみ閲覧OK


trackback

trackback_url
http://sweetstorylatte.blog35.fc2.com/tb.php/238-7c7e8e20

| TOP |

プロフィール

ryow

Author:ryow

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。