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2004/09/11 (Sat) もりのくまさん

 ある日。
 僕は、
 熊に、
 出会った。


 学校から帰ってきたら、台所に一頭の熊がいた。体長は約1メートル。帰ってから冷蔵庫にダッシュして牛乳を飲むのが日課だった僕は、台所の入り口で固まってしまった。
 …熊? なんで? 山から下りてきたのか?
 家の裏は小高い丘で、その先には山がある。観光客が増えたせいで熊が人のお弁当の味を覚えてしまって村へ下りて来ることがあるから注意してくれという内容を先日、回覧板で読んだ気がする。しかし注意しろっつったってできるもんじゃない。さて、ここで重要なのは冷静になることだ。僕は鍵っ子だから僕が帰ってくるまでは家は鍵をちゃんと閉めてあったはずだ。まさか鍵や戸を壊して入ってくるとは考えにくい。だとすればこの熊は何だ? ぬいぐるみか?
 密室熊だ。
 そういえば昔、ディズーニのアニメで見たことがあった。密室熊という熊がいて、あらゆる密室状態となった部屋に入りえる能力を持っているらしいのだ。好物は蜂蜜。…っておいおい、ふざけんな。さっさと帰れ(僕に牛乳を飲ませれや)!

 1時間。2時間。僕の2畳先には熊。大きさから見るにまだ小熊だ。死んだフリをすると爪で突っつかれて逆に怪我をするらしいので、本来ならば熊は無視して距離を取るのが正しいやり方なのだが僕は正面きって対峙していた。小熊はどうやら人が怖いらしく、台所の林檎を何個か食べまわった形跡を残していたが僕がここに現れてからは大人しくしていた。ときどきキョロキョロしている。出口を探しているのか、食べ物を探しているのか。
 ぐるるるるる。
 それが熊が喉を鳴らした音だったのか僕のおなかがなった音だったのかは分からない。が、僕はそろそろ限界だった。もう別に熊がいてもいいや、と思って冷蔵庫まで歩き(熊の目の前!)牛乳をパックのまま、ぐいぐいと飲んだ。熊はここで改めてぐるるるると喉を鳴らした。しょうがないので鍋に牛乳を分けてやった。ぺろぺろと顔を突っ込んで熊はそれを舐めた。
「なあお前、いつもは何食ってるんだ?」
 大昔のアニメを思い出す。

 ――いいないいな、人間っていいな。美味しいおやつにぽちゃぽちゃお風呂。あったかい布団で眠るんだろな。…でんでんでんぐりがえってバイバイバイ? そんな歌があったような。

 山が工事中で行き場を失ったから、この熊はここに来たんだ。
 蜂蜜しゃぶってお腹一杯だよー、なんつって眠るような幸せな熊は、たぶんこの村の山にはいない。もう少ない木の実やキノコや魚をちょっとだけ食べて、空腹を誤魔化すように川の水を飲んで、そして観光客に餌を貰うんだ。本当はお腹いっぱい食べたいんだろう。
「なあお前、パン食うか?」
 冷蔵庫にあったのは食パンだけだった。あと卵。さすがに生卵はダメだと思い、僕はパンを与えてあげた。熊はふももも、とか言いながらそれを食べた。喜んでいるのが分かった。
「今日さあ、テストがあったんだよ。国語と算数。80点だったよ。すごいだろ?」
 熊の毛並みを触ってみた。意外と固い毛だった。熊はふももも、と言いながら僕を見て、頭の上で手を少し動かした。感謝のポーズだと僕は思った。
「食べたいものあったら食べてっていいよ。今日だけな」
 僕がまた冷蔵庫を開けようとしたとき、
 ギャーン!
 と熊は叫んで倒れた。

 はっとして入り口を見ると、同級生のケンちゃんがいた。その後ろには先生たちと、役場の人。手には、鉄砲。
「熊を撃ったの!?」
 目が真ん丸になった気がしていた僕は、熊をさすった。手にささりそうな固い毛。
「ケン坊が遊びに来たらおめえが熊と睨めっこしてるっていうさけ、麻酔銃持って来たんや。悪く思うなや。こいつら、可愛い顔して人のことを殺そうとか裏をかこうとか思っとるんやぞ」
「そんなことないわ!」
「ほうやから熊は森に返さないけんねや。ほら、腕持てや。外にトラック用意しとるさけ」
「返す森なんてもうこの村にはないやろうが!」
「何やと?」
「お前らが税金貰うために森切り開いたから熊が来たんやろうが!」
 僕は知らず、叫んでいた。
「子供が知ったようなこと云うでねえ」
「馬鹿にすんなや!」
「おいおいマルちゃん、やめとけや」
 ケンちゃんが止めにかかったが、僕は熊の前で両手を広げた。「熊に触んなや!」
「マル坊、無理や。熊は人とは一緒に暮らせんからな」
「そんなこと知るか!」
「知れや! ガキ!」
 大人が怒った。その勢いに僕はびくっとして、ひるんでしまった。足ががくがくと震え出す。僕が動けなくなったのを見て、大人たちは熊をエイサホイサと運んで行ってしまった。

 せめて最後まで見せてや、と僕は頼んだ。トラックの中で、役場の人は言った。
「熊はな、人に餌を貰ってもすぐにそんなこと忘れてしまうもんなんや。だから餌付けなんてでけん。明日になったらあの熊、今度はマル坊のこと食いにくるかもしれんねんやぞ」
「……」
「動物には思いは通じんねん。犬か猫か、それくらいや。云うこと聞いてくれるんはな」

 帰りのトラックの中、ふと思った。
 あの熊って、もしかして昔人間が飼っていたペットじゃなかっただろうか。だとしたら、僕らはひどく残酷なことを…
「なあマル坊。今は不景気やから、居場所がなくなった動物を見つけても保険所も動物園も引き取っちゃくれんねや。一番いい方法は、一緒に暮らすことやけどな。でもそれができんから、せめて安楽死させるしかないやろう? 麻酔で眠らして山に返したところで、明日にはまた村に下りてきて人様の家の物を食うからな」
 …人様。ひとさま。
 そんなに偉いのかな。僕は思う。たぶん、このトラックでタックルすれば大人の熊だって一発で殺すことが出来る。そんなパワーを操る人間は、果たして本当に強いのかと。
 だけど少しだけ救いになってくれていたものもあったように思う。
 役場のこのおじさんは、どうにかして熊を殺さず、山も切り開き、人も安心して暮らせる方法がないかとずっと考えていてくれたことだ。漠然と、僕も大人になったら役場に勤めようと思った。動物に優しい村を作るために。
 

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