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2004/09/13 (Mon) あいこちゃん

 あいこちゃんはいつも、帰り道に荒川沿いをてくてく歩く。どこを見ているのか分からない虚ろな視線に弱弱しい足取り。そっと触れなければ折れてしまいそうな美しい彼女を、近所の男子は皆狙っていた。あらゆる方法でアプローチをとったが、誰もが相手にもされぬまま撃沈していった。
 今日も夕方になるとそんな馬鹿がひとり、現れる。
「…この花、摘んじゃうのが可哀想だと思わないかい」
 詰襟の男子高校生は歩いてくるあいこちゃんに話しかけた。あいこちゃんはちらりと視線を移したが、またすぐ手元の文庫本に落としてしまう。
「白くて小さい花だよ。この季節になると咲くんだろうな。この花の名前、知ってるかい?」
「知らないわ」
 興味もないわ、と言っているようにも聞こえた。しかし彼は笑顔で続ける。
「こんな小さい花だよ。摘んじゃったら死んじゃいそうで、可哀想じゃないか?」
「じゃあ摘まなきゃいいじゃない」
「美しい花なんだ。きみにあげたい」
「道草を摘んで渡してもらっても嬉しいと思う? あんた馬鹿じゃないの」
「…その本は何を読んでいるのかな?」
「ミシマ」
「ああ、ミシマね。知っているよ。俺もよく読むんだ」
 いつのまにか並んで歩いていた彼は、あいこちゃんの視線をどうにか獲得しようと身振り手振りを大きくして話題を探した。なるほど、噂通りのディフェンスだ。
「きみは花が嫌いなのかな?」
「嫌いではないわ」
「じゃあもらってくれ。僕の気持ちだよ。でもあの花を摘むのは可哀想とは思わないか?」
 しばらく無言で歩いていたあいこちゃんは、彼が視線をあいこちゃんから道に移したときにようやく本を閉じた。
「あんたね」
「え。何?」
「草花はね、花がメインじゃないの。花をいくら摘んだって死んだりなんかしないわ。根っこがあって茎も葉もあればいくらでも花を咲かせられるの。すぐに枯れる花なんて貰っても嬉しくないの。それで何? きれいな花を何に例えるつもりなの? そんなことしたらそれこそ花が可哀想じゃない。例えるんならあんたの汚い格好にでもしなさいよ。ドブネズミ以下よ」
「そうか…」
 普通の男ならばこの辺で負けているだろう。しかし彼はあいこちゃん対策は万全だった。
「そうだな。そういうのも人生かもな」
「あんたが人生の何を語るの? は? 馬鹿じゃないの? 詩人のつもり? それとも大人気取り? 何にも知らないクソガキのくせに恋愛はいっぱしだっていうの? 何かを知ってるつもりなの? 独り言なら川原で魚にでも言ってきなさいよ。そうじゃなかったら腹切って死んで」

 荒川の夕暮れはいつも穏やか。かんかんかんと時折聞こえる電車の音が、ヒグラシの切ない泣き声を深めるばかりだった。


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