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2004/09/23 (Thu) 忘れ物

 僕の生まれ育った町は、ずっと昔にダムに沈んだ。
 当時、それを悲しいとは思わなかった。市から補助金が出て、よその町で充分な生活ができるくらいのお金をもらえていたのは知っていた。子供だった僕は知らない町で暮らせることが楽しくて、早くこの小さい町を出て行きたいと思っていた。

「忘れ物を――…」
 ときどき、同じ夢を見る。小学生の僕は、学校に行くのに忘れ物をして、走って家まで取りに帰るのだが、いざ家についてみると何を忘れたのかを忘れていて、そのまま学校に戻ると先生に怒られるというオチも意味もない夢だ。ただ、その僕は、忘れてしまったものを必死になって探すのだ。泣きながら部屋中をひっくり返し、台所も探し回り、涙でくしゃくしゃになって「やっぱり見つからない」と諦める。何も探していないことは知っているし、僕は優等生だったから忘れ物などしたことがないからその夢自体が作り話であることはわかっているのに、それでも僕は必死になって泣きながら探すのだ。
 都会暮らしに慣れてしまってから僕が都会人だと気付いたのは、ここ数年のことだった。社会人になって仕事を続けていくうちに、田舎で暮らしたいなんて思うようになった。三十路手前にしてちょっと疲れているのかな、などと思ったけれど、電車の中吊り広告で見かける田舎暮らしの豊かそうな響きは僕を捉えて離さない。でも、田舎には便利な生活も何もないのだ。生きていけないだろう。子供ならいざ知らず、畑仕事なんかして食っていける自信もない。楽しみが必要なのだ。

 また、同じ夢を見て目が覚める。何かを思い出しかけて結局何も思い出せない夢。これを見るようになったのはいつからだろう? そもそも、どうしてそれを「夢」と呼ぶのだろう。僕の疑問はそこにある。子供が語る「将来サッカー選手になりたい」というイメージと、寝ているときに見る脳の情動。それを同じ言葉で括るなんて無茶なのだ。しかし、どこかに繋がっているものがあるのだろうか。あるとすればそれは…理想、か。

 田舎で暮らしたいと思うことも、忘れ物が気になって泣いていることも、もしかするとそれと同じようなものなのかもしれない。僕が大切にしていたもの、あるいは大切にしたいことがそれなのかもしれない。…そう気付いたのは、やっぱり夢を見て目が覚めた後だった。涙の跡があった。
 休日、海を見にいきたい。そう思った僕は、代わりにあのダムへ行こうと決めた。学生の頃に取得したダイビングの資格ももしかしたらその日のためにあるのかもしれない。
 次の休み、僕は故郷の水の下へ潜る。
 何かを忘れているのだ。大切なものを、きっと、沈めちゃったのだ。遠い昔に。

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