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2005/05/26 (Thu) 道

 ――どんくらい歩いたかな。もうそろそろゴールが見えてもいいはずなのに。
 ペンもクレヨンもチョークも白い石のかけらもなくなって、足も棒というより激痛の元になって、休みながら壁に手をつきながら歩き続けている。砂漠のようなトンネルだ。どうして入ったのか、そのときの気持ちは今となっては思い出せない。けれど後悔とは違う感情が今の僕を包んでいる。先も分からないのに、僕のこころが囁く。あとどのくらいで終わりだろう。もうすぐゴールに違いない、と。
 もうすぐだもうすぐだ。そう思うようになってから、また気が遠くなるほどの時間が過ぎた。
 ゴールは見えない。ずっとずっと先も、果てしなく長い直線が続くだけだ。遠近法ってなんだっけ、って言いたくなるくらい真っ直ぐに続いていくトンネルは、天井に等間隔に続くランプだけですべてを照らしている。見えるものがすべてだった。

 はっとして目が覚める。道の真ん中でまた気を失っていたらしい。どれくらい眠ったのかも分からない。どっち向きに歩いてきたかも分からない。目印のチョークを使い切ってしまったからだ。ただ、お腹は減らない。足の痛みは少しこうして座っていればよくなる。そうして続くのだろう。拷問のようなこの道と、僕の運命は。
 自殺するための場所も道具もチャンスもない。餓死もできない。続けるしかないのだ。
「ねえ、そろそろ終わりだと思うでしょ」
 ときどき、いきなり目の前に白く光る女神みたいなのが現れる。幻覚だろう。
「終わりにしたいの?」女神は優しく微笑む。顔は見えないけど、口調が微笑んでいるように思えるのだ。
「終わりか…それが何なのかも分からないよ」僕は言う。「この道が終わったところで、その先に何があろうと僕はそれに適応できるだろうか? ときどき考えるんだよ。…無理じゃないかなって思うんだ。今こうして歩くだけが僕のすべきことで、その先のことは僕にはできないことなんじゃないかって」
「そう」
「僕の話はいい。ところでキミは何だ? どうしてときどきこうして僕に話しかけるんだ。お化けか?」
「わたしのことを知りたいの? どうして」
「考えることが欲しいんだ。無限に道が続くなら、何かを考えてなきゃやってられない。何も考えずに歩くのは死んでるのと同じだ」
「それはひとつのゴールよ」
「え?」
「何も考えずに歩くことができれば、自殺したり事故死したりしたのと同じ。あなたがいなくなることと同じなの。それを望むの? チャンスがあればそうしたいの? そうなりたいの?」
「…分からないよ。こうして今、すごく落ち着いてキミと話していることが信じられないくらい分からないんだ」
「逆説的ね。まだ大丈夫ってことかしら」
「ところでキミは――」
「わたしに聞く前に、あなたはわたしを何だと思ってるの?」
「…女神か悪魔」
「そう」
「どっちだ? 僕にひとときの幸せをくれる女神か、それともその後で奈落に落とそうと考える悪魔か!」
「人間かも、って思わないの?」
「思わないね」
「どうして?」
「人間だったら悩むだろう? 僕と一緒に悩むはずだ。でもキミはそうしない。僕のことだけを考えて、僕に考える余裕さえくれるんだ。完全無欠の天使か悪魔かどっちかだろうさ」
「そこまで頭が回るんなら、大丈夫みたいね。また先行って待ってるから。必ず来てね」
「真っ直ぐ進んでりゃ会えるんだろう? 必ず会うさ。寄り道する場所もない」
「そう。じゃ、行くのよ」
「今はちょっと疲れてるんだ。もうちょい眠らせてくれ」
「だめ。行くの」
「どうして」
「それを考えながら行けばいいじゃない。眠るよりは救いになると思うわ」
「まるで奈落だよ。その考え方は」
 僕はなぜか嬉しくなってきた。
「なあ女神」顔を上げる。「女神じゃなくてもいい。聞いてくれ」
「なあに?」
「犬を殺したら叱られて、火星人を殺したら褒められる。女の子を監禁したら叱られて、うさぎ飼ったら褒められる。鳥を獲ったら叱られて、虫を採ったら褒められる。人を泣かせたら叱られて、笑わせたら褒められるんだ」
「……」
「叱られることは悪いことだからだろう」
「……」
「僕は行くよ。なんか、少し分かってきたんだ。道を歩いてるだけなのに、こんないらないことにまで考えは及ぶ。どうしようもなく暇になったら叱られて、どうしようもなく忙しくなっても叱られるんだ。だから行く。キミもそう思ってんだろう?」
「また逆説的なことを」
 女神が、ちょっと笑ったように見えた。
「僕は歩くの遅いけどいいかな」
「それは叱るとこじゃないわよ?」
「そうか。じゃあ、ちょっと先行って待っててくれ。必ず行く。必ずだ」
「うん。じゃあまたね」
 キッスもなしで、女神は消えた。急に辺りが少し暗くなって、僕はよいせと起き上がる。寝ていたのか? さっき目を覚ましたはずなのに。
「せめてチョークくらい置いていこうよ」
 右も左もわからないトンネルの中で、僕はまた行き先を勝手に決めて歩き出す。こっち側に向かっているのか向こう側に向かっているのかは、正直分からない。それでも、僕は行く。
 ゴールはもうちょっと先らしい。

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