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2005/07/10 (Sun) 変わらないもの

「俺、こんど田舎帰るんだ」
 週末、駅前でいつも歌っている3人組に告げた。ここ1年ほど彼らの歌を毎週聴きに来ていた。彼らも流石に覚えてくれていたようで、近々プロデビューするというのに俺なんかと話してくれた。ファンの女の子たちが帰った後、楽器を片付けながら、そうなのか、寂しいな、と言ってくれた。
 彼らのことは何も知らない。名前も本名は知らないし、番号もメアドも知らない。ファンの子たちはたぶんいっぱい知っているだろう。プライベートでも付き合いがあるのかもしれない。
「あんたはさ」
 リーダーがギターケースで俺の背中をどついて言った。
「俺の憧れでもあったんだ」
「は? …俺が」
「そう」
 それは逆だろう、と言いたかった。ドラムが「梅雨だな」と言った。雨は降っていない。
「土曜日でも夏でもスーツでさ。かっこいいんだもんなぁ。ファンの間でもあんたのことを噂する奴はいたんだぜ? メンバーが好きなんじゃないか、業界人じゃないかってさ」
「そんな…ただのリーマンだよ」
「うん。そうだとしても、俺は憧れてたんだ」
「どうして? どうして俺に。逆だろ、俺があんたらに憧れてたからいつも来てたんだろ?」
「…あんたの持つパワーに影響されて、新しい歌ができたこともあった」
 ドラムとアコギは2メートルほど横でじゃれていた。
「…俺さ」何か言わなきゃ、と思った。「俺が助けられてたんだ。あんたらの前向きな歌に」
「そう言ってもらえると助かるなぁ」
 リーダーはバラード担当のイケメンだ。裏声の使い方が路上の素人じゃない。その男がハハッと笑った。
「ときどきさ、曲作るのにも疲れるんだ。全部やめたいって思うんだよ」
「どういう意味で?」
「この年になっても路上アーティストでさ、でもそれってフリーターなわけじゃん? 昼間はバイトして、夜になったら駅前で歌ってファン作って曲作って。誰かに認めてもらいたくて」
「…そうだね」
「前にさ、もうホント全部やめてやる! いつまでもアマじゃやってらんねぇんだよ! つってケンカになったことがあるんだ」リーダーは2人に目をやり、すぐ戻す。「そんなときにも、ふと気付いたら曲を作ってた自分がいたんだ。…誰のための歌だろうって考えたよ。そのフレーズも、メロディも、物語も、現状に不満があっても生まれてくるんだ。諦めても…ずっと」
「それはわかるよ」
「そうだろ? あんたもそういうタイプの目ぇしてるもん。リーマンやってるけどただモンじゃないでしょ」
「公務員でもデザイナーがいるんだ。知ってる? 切手とか紙幣とか制服とかさ。そういうやつの卵だったんだ」
「へえー。面白そうじゃん」
「やってることはクリエイティブだけど、規制が厳しいんだ」
「うん」
「ああ」
「…でな? 曲作りでさ。どうしようもない自分に気付いたときにできた歌があるんだ。まだあの2人も覚えてない曲だよ」
 そう言うとリーダーはギターを出した。アコギにも種類があるのかは知らないが、ポロポロシャラランと鳴るいいギターだった。指先がボコボコのくせに涼しい顔をしたリーダーを見ていると、ちょっと悔しくなる。
「まだ最後の方ができてないんだけど、サビだけな」
 ヘラリと笑い、歌いはじめた。

 いろんな人がいるよ
 いろんな自分がいるよ


「…それだけ?」
「これだけ」
 ほんとにワンフレーズだけだった。
 けれど、無性に…温かい。

「ときどきさ、ヘコむとき」リーダーはうつむいたまま続けた。「なんか歌が聞こえてくるんだ。聞こえるっつーか、胸の中で鳴ってるっつーか。耳のすぐ裏で鳴ってるときもあるし。一緒に歌いだしたくなる自分がいることもあってさ」
「どんな歌が?」
「昔の歌だよ。昔、ヘコんだときに聞いてた歌」
「…そっか」
「あんたにもあるんだろ?」
「ああ、あるね」少し、笑えた。

「田舎に帰って何すんの?」
「さあねぇ…少し休むかな」
「休んでる暇なんてないさ。この年なら、まだまだね」
「俺はあんたらと違って頑張り屋じゃないんで」
「そっか」
 ギターをしまったリーダーは立ち上がり、すいっと手を差し出した。ぐい、と握手で答える。
「こういうとき、男でいいなって思うよ」
「はあ?」
「下手に連絡先教えなくてもさ、これで全部済むじゃん?」
 …それは俺の台詞だったか、リーダーの台詞だったか。
「じゃあな」
「ああ。じゃあ」
 綺麗な顔とは似つかない、ごつい手だった。
 あいつ…結局何が言いたかったんだろう? 俺は結局何を言えばよかっただろう?

 何でもいい。わかんないけど、心は”わかった”から。
 明日からも、頑張れるよ。

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