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2001/08/29 (Wed) 埼玉ラブストーリー(4)

 あの雨の日、少女が一人で立ち尽くしていた。少女は記憶喪失らしく、びしょ濡れの白いワンピースで、透き通るような肌で、信じられないような美しいブロンドで、立ち尽くしていた。
 どこの国の出身かは知らない(聞いても記憶喪失では答えられない)が、なぜか日本語が堪能だった。最初、僕は下心から彼女に声を掛けた。少女は仔犬のような目で僕をみつめ、しばらく話した後(何を話したか覚えてないけど)、僕の部屋へ行った。
 僕はしがない大学生で、いきなり部屋に女の子を連れ込んでしまって同棲を始めてしまって内心テンパっていた。僕が彼女を喜ばせようと思ったことは空回りだった。彼女は御飯をまったく食べなかった。それでも僕のいうことはハイハイとよくきき(というかほとんど言いなりみたいな感じで何でもきいてくれた)、僕らは動機こそ不純だったものの、気心の知れた、よいカップルになった。
 僕は彼女に“リリー”という名をつけてあげた。今にも折れそうな花のイメージ。不器用だった彼女も、次第に料理も上手くなり、掃除洗濯もしてくれた。でも、食事だけは採らなかった。

「どうして御飯を食べないんだよ?大丈夫なのか?」
「私は、大丈夫だから。あなたこそ、食べたいものはあるの?欲しいものはあるの?」
「僕は君を喜ばせたいんだ。君を大切にしたいんだ」
「私もあなたを喜ばせたい。何をすればいいの?」
 そして僕は気付いた。リリーは、何かズレている。人間としての感覚がどこかズレているのだ。相当不幸な家庭で育ったんだろうな…
 リリーが僕の部屋に来てから約一ヶ月、僕らは初めてセックスをした。そのときにはもう、僕はリリーのことをこの上なく好きになっていたから、大切にしたかったから、僕の気持ちなんてどうでもよくて、ただ喜ばせるためにしようとしたのに、しかし、彼女はメチャクチャ上手かった。僕はリリーに完全にハマってしまった。
 それから、僕も変わっていったのかもしれない。互いに思い合っていて、互いを喜ばせたくて、そのための手段がセックスなら、それはカップルとして正しいのかもしれない。
 ある夜、リリーは布団から抜け出していきなり服を着始めた。僕が何でだよ!と問い詰めると、小さく「思い出した」と言った。
「私はアンドロイドだから。だからあなたを喜ばせてあげたいけれど、私は、私自身を喜ばせてあげたい」
 意味不明なことを言って、リリーは部屋を出て行った。僕があわてて追いかけたときにはもうどこにも姿はなかった。

 あれから2ヶ月くらい経っただろうか。夏休み、僕は東京まで出てバイトをしていた。そんなある夜、僕は街角でリリーを見つけた。一人で歩いていた。しかし、僕といた頃のようにキョロキョロしながらではなく、しっかりと前を見ていて。その日、なぜか通りに人は少なくて、しかも細道に入っていくリリーを僕は、気付くと、追いかけていた。
「リリー!」
 呼び止められて、リリーは振り向いた。2ヶ月前と同じ感じだった。僕が近寄ろうとしたそのとき、リリーの頭が飛んだ。
 頭だけがコロコロと僕の方へ転がって、僕は口をあけたまま何も出来なかった。リリーの後ろには、このクソ暑いのに黒いスーツを着た男たちがいた。そして男たちをかきわけ、白衣の男が現れた。
「君がこの子を隠していたのか。見ての通り、この子は人間じゃない。アンドロイドだ。このことは誰にも言うな」
白衣の男は一万円札を数枚取り出して僕のポケットに入れ、リリーの体を変な箱に詰め始めた。
「リリーは…」
「ん?」
僕は混乱している自分に気付きながらも、リリーの頭を抱えて白衣の男に話しかけた。
「あ、頭は…僕に…く、くれません、か…」
「はっ。何を言っている。ダメだ。見てみろ。アンドロイドは頭だけでも数分は動く。もう記憶装置に繋がっていないから君を見てもわからないだろうがな」
僕は腕の中のリリーの目をみつめた。
「私は、あなたを、喜ばせたい。なにを、すれば、いいですか?」

 白衣の男はリリーの頭を僕の腕から奪い、黒服たちといっしょに行ってしまった。僕に残されたのは数本のブロンドの髪だけだった。

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