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2005/10/06 (Thu) 笑顔

 その日、救急で2人の患者が運ばれてきた。
 一人は中年の男。もう一人は若い女。男はネクタイで首をくくって意識を失っていたところを発見され、運ばれたようだ。意識はなく心肺も停止している。運んでくる意味があるのか? で、女はハタチそこそこで、手首にいくつも傷跡が見えた。肘の内側を思い切り切っていて、出血多量で意識を失っていたようだ。
 ――最近増えている。自殺(未遂)者だ。
「やれやれ」
 そういう厄介な奴らの相手は俺に回される。
 俺はもう何度こういう奴らに諭してきただろう? ”どうして自殺しちゃダメなのか”。しょうがない。もう何度も何度も何度も同じことを言ってきた。また同じように言うだけだ。

 奇跡を起こす天才外科医の超絶オペによって2人ともどうにか意識を取り戻し、3日ほど入院させられ、そして俺のもとに回される。こういうパターンは何度もある。ただ、男と女では決定的に違う。男は生き延びたことを心底後悔し、俺たちを恨んでいるとまで言った。一方、女は助かってよかった、とまで言った。男の自殺(未遂)は秘密裏に計画され、ある日突然実行された。誰も何も真相を知らないまま、彼は逝こうとしていた。女は周囲に前々から死ぬこと(死にたいこと)を打ち明けていて、何度も手首を切って騒がせていた。
 二人とも一般的な思考回路のど真ん中を行くパターンだった。
 男に必要な治療はずばり、希望の回復。
 女に必要な治療はずばり、葛藤の解消。

 とりあえず話を聞いてやると、男はほとんど何も喋らない。女はべらべらとよく喋った。どちらにしても親身になって聞いてやることが必要だ。共通しているのは、”自分を裏切らない大切な人”が彼らに必要だということだ。俺じゃない誰かが聞いてやれるのが一番いい。

 一通りの治療・投薬・検査・診断が終わった後、俺は彼らに課題を出す。
 デジカメを手渡し俺は言う。
「100枚の写真を取りなさい。ピンボケはダメ。同じ被写体は3枚以上はダメ。それが出来たら私の元に持ってきなさい。そしたらキミらは自由だよ。また自殺(未遂)するのもいいし、違うことをするのもいい」
 彼らはいぶかしげな顔で俺を見て、珍しそうにデジカメを眺め、少しして「分かった」と言って出て行く。

 100枚の自分の世界。”彼ら”が撮る写真は、一般人の撮るそれとは大きく違う。精神状態をそのまま写した絵になる。俺が保管してあるだけでも、もう200人分…2万枚ある。それぞれの世界だ。虫だけを撮ったり、血だけを撮ったり、空だけを撮ったり、人だけを撮ったり、猫だけを撮ったり、道だけを撮ったり、電車だけを撮ったり、手や足だけを撮ったり、それぞれ自分の世界を構築する。
 彼らは嫌でも気付くだろう。100枚の”自己の内面”を見た後、その先もまた見たくなることに。
 生きることに疲れたなら、別に生きなくていい。ただ、100枚の世界を撮ってから死ぬことだ。

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