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2001/10/06 (Sat) 記憶商人(2)

 同僚のヨコシマ君の噂を聞いた。駅裏の公園、あのラブホテルが立ち並んでいる側にある公園で夜を明かしているところを何度も見かけたという。ヨコシマ君は仕事もちゃんとこなすし、あまり話したことはないけれど、話した感じでは悪い人という印象は持たなかった。そのヨコシマ君の噂というのは、あの公園の近くの“不思議通り”のお店に通っているということだった。男の人なんだから、そんな店に行くのも仕方ない部分もあるかもしれない、そう思っていたけど、 “不思議通り”のお店は、私が思っていたような風俗っぽい店ではなく、占い館みたいな、どちらかというと怪しい系のお店だった。
 そして今日の昼休み、ヨコシマ君から直接話を聞いた。彼は“不思議通り”のお店は全部行った事があるという。幸福屋、動物屋、神屋、人質屋、記憶屋、他にも色々…。でも私が興味を持ったのは、記憶屋という店だった。人の記憶を売り買いするお店らしいけど、にわかには信じられなかった。
 仕事が終わって、夜8時。“不思議通り”のお店は夜8時にならないと開かない。そして夜明けと共に閉まるという。ヨコシマ君に連れて来てもらったけど、彼は公園の猫に餌をやると言って行ってしまった。わけがわからない。
 店内に残ったのは私と店主だけ。店内は暗く、カウンターが一つだけ。店主側の壁には小瓶が並べられている。私は恐る恐るカウンターに向かった。
「いらっしゃいませ」
驚いたことに、黒っぽいヴェール、というかフード、を被った店主は若い女性のようだった。人気のない通りにある人気のないお店、しかも公園やホテル街は治安があまりよろしくないと聞いたこともある。私は一瞬、この色っぽい声の店主を心配してしまった、が、そんなことよりも私の話だ。
「主人…いえ、離婚した、元主人が、あの…記憶喪失というか、その…」
しどろもどろに説明した。先日、電車の中で偶然、元夫に会ったこと。彼は私のことをまるで赤の他人、いや、見ず知らずの異人のように見ていたこと。そして一つも顔色を変えずに去っていったこと。
 そんなことって、あるの?もしも彼がそこまでの人でなしだったら…あるいは、そうかもしれない。でも、離婚の原因となったのは私だった。彼はずっと私を愛してくれてたはず。離婚するときの彼の最後の言葉が今も残っている。

「その、元ご主人の…お名前は?」
 私は店主に元夫の名を告げる。かつて私も名乗っていた彼の苗字。少し、唇が震えた。
 店主は彼の名と写真とプロフィールが書かれた書類と小瓶を持ってきた。
「ここに、その元ご主人と同姓同名の方の記憶がございます」
「同姓同名?主人でしょ?」
「わかりかねます。この小瓶に入っている記憶は、この写真の方のものです。プライバシーの問題、とでも言いましょうか。人物を想定できても特定することはできません。プロフィール、名前、写真。これを見て、お客様は好きな人物の記憶を、つまりは体験を、自分のものとして体感することができるのです」
「買います。おいくらですか?」
 店主はフードからのぞくツヤツヤの赤い唇の端をニッと持ち上げて、当たり前のように300万円になります、と言い放つ。しかし、彼からもらった慰謝料は2000万円。それくらい、まだ余裕で残ってるはず。そう思った私は、即決した。

「お二人の幸せを…いえ、あなたの記憶の幸せを願って、特別に割引きいたしました」
 店主は色っぽい声でそう呟いた。乳酸菌飲料のようなサイズの小瓶に入っていた液体は、光を反射して変な色に輝いていた。

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