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2001/10/18 (Thu) garden

 あれは夢なのか幻なのか、それとも現実だったのか、不思議な体験をしました。当時僕は死んでもいいみたいな心境で、何日も何も食べることが出来ず、声を出すことすら出来ず、ただ涙を流すだけの日々を過ごしていました。
 小さな花が咲いた道を歩いていました。そのずっと先には大きな門があり、沢山の人が、入るか入らないかを、迷っていました。僕は1人のオッサンに声を掛けられました。
「なあ、あんた、この門をくぐるのかい」
穏やかで気持ちいいこの場所に、どうしてこんなオッサンがいるんだろうと思いました。でも僕はこの門のことを知らなかったので、オッサンに聞くことにしました。
「あの、この門をくぐったらどうなるんですか?」
 オッサンは驚いた顔で僕のことをまじまじと見ます。辺りを見ると、他の人も僕のことをチラチラ見ているようでした。まるで僕がよそ者であるかのように。すると、1人の若い女性が僕の肩を叩きました。
「この先へ行くとね、生まれ変わることが出来るって言われてるの」
女性は生気のない表情でそう言いました。
「生まれ変わる?じゃあ僕、死んだんですか?」
女性は小さく溜息をついて、やさしく微笑みながら頷きました。
「僕、死んだんですか…」
 僕が呆然としていると、オッサンが言いました。
「なあ兄ちゃん。なんでここにいる奴らがこんなに悩むかわかるかい」
女性はフラフラと歩いていってしまいました。オッサンは続けます。
「俺はな。会社のビルから飛び降りてやった。それこそ、次の人生を願いながらな。だからこの門の前に辿り着けたことは幸せだと思う。でもな。生まれ変わるってことは、そのまま幸せに繋がるわけじゃあねぇんだぜ」
「…どういうことですか?死んだんなら、生まれ変わった方がいいじゃないですか」
「違うな。どうやらアンタはまだ死に切れてないらしい。俺たちから見るとハッキリ見えるからな。あんたには俺たちが少しぼやけて見えるだろう?」
そういえば、確かにここの風景も人も花も、全てがぼやけて見えます。
「この門をくぐれば、確かに次の命を始められるだろうぜ。だがな。俺たちにそれは辛すぎるんだ。現世も辛かったが…その…」
オッサンは涙ぐみながら話を続けます。
「その…な…現世のな…思い出を全て忘れちまうんだぜ。魂をまっさらにされちまうんだ。当然だよな。現世の記憶を持ったまま次の人生を始めるなんて出来っこないからな。それがよう。悲しくてよう。だからみんな泣いてんだ。悩んでんだ」
 僕は門に近づきました。
「忘れる…。全て?」
「そう。全てだ」
「忘れたいですよ。苦しいことばかりだ。僕は生きてても意味がない。あの人は僕の全てだった。だけど僕は…」
「全て忘れる。苦しいことも、楽しいことも」
「楽しいことも」
「全てだ。だから辛いんだ。俺には現世への未練なんてありゃしないが、それでもそこそこ幸せだった。幸せな時もあった。アンタだってそうだろう」
 門をくぐるべきか、戻るべきか。でも僕はもう全てを捨ててもよかった。現世に戻ったとしても、忘れたいことばかりだ。その楽しかった思い出が僕を苦しめるんだから。
「あのね」
さっきの女性が僕の前に立ちました。
「生まれ変わるってことはね。次が…人間じゃなくなる可能性もあるのよ」
「え?」
「私は怖いの。自分が消えてしまうことが」
「………」
「現世に戻りたいなんて思わない、でもね…」
 僕らが黙り込んでいると、1人の老婆が門をくぐりました。そこにいる皆がそれを見ます。老婆は門を越えて歩いていきます。ずっとずっと遠くへ。そこは白い道。薄紫の空。変なもやがかかった風景。
 女性が僕の手を握って、言いました。
「あなたは戻った方がいい。まだ戻れるんだから、ね」
 オッサンが門の前に立って、言いました。
「いつかどっかでまた会おうな」
 ちょっと待ってくれ。あんたら、何を決心したかのような顔してんだ?待てよ。さんざん悩んでたじゃないか。自分が消えることを。自分の中の全てが消えることを。それを、なんだ?ババアが歩いてったのを見て決心したのか?馬鹿げてる!あんたの人生はあんた自身が決めなきゃ生きてる意味なんてないじゃないか。死んでまで流されるのか?周りに!自分の決意を人に委ねるのか?俺は違う。俺は違う。俺は違う!
「待ってくださいよ!二人とも、先へ行くんですか?どうして?悩んでたじゃないですかっ」
女性はにっこり微笑んで、何か呟いて、向こうへ歩いていきました。僕はそれをただ眺めているしかできなくて、いや、僕にはこの人たちを止めることなんてできなくて、そんな権利も資格も持ってなくて、でもどうしてこんなに胸が苦しくなるのか分からなくて。
「兄ちゃんよ。忘れられないから、生きてることに意味があるんじゃねぇかな」
「何を言ってんですか…」
 気が付くと他の人も次々と門をくぐり始めました。まるで向こうへ行くことが当然であるかのように。彼らを決心させたのは何なのだろう。このままここにいても仕方がないという諦観なのか、それとも現世への未練を全て捨て去ったからなのか。それとも来世への期待の方が強いのか。
「オッサンさあ。俺、そっち行けないわ。まだ、ここのみんなみたいな決心はできない」
「だろうな」
「忘れたいことばっかりだよね。戻っても」
「そうだろう。でも、忘れちゃあいけねぇコトもある」
「知ってるよ」
「俺なんてよぉ、自殺しちまったもんだから。きっと次は人間にゃなれねぇと思うんだ。残飯をあさって食らう畜生か何かになるんだろうな」
「………」
「でもよう。・・・・・・」
「え?ちょ、今、何て?」
「じゃあな」
 オッサンは何か呟いて、そのまま向こうへ行ってしまいました。
 もしかして、決心できない僕は、ただの臆病者なのでしょうか。でも、僕は。
 気付くと、そこは僕の部屋でした。2時間くらい眠っていたようです。異常に腹が減ってました。それこそ、お腹と背中がくっつくくらいに。僕は立ち上がり、カーテンを開けます。近くの国道はいつものように車が走り、少し形の悪い月はいつものように輝いて、忘れえぬ人を思って苦しむ僕はいつものように苦笑いで。
 ああ、早く全部ただの思い出になっちまえよ。天国も地獄も、全部この世界の中にあることなんだから、苦しいことがあれば悲しいこともある。当然じゃないか。ああ、変な夢を見た。
 朝かと思ったら、夜でした。昨日と今日は同じだけど、今日と明日は違ったものにしようと、なぜか、変な決意が起こりました。

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